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9話、天界、そこは懐かしい世界。そしてエルフのお姉さんは美しかった。


 軌道エレベーターの旅は10分で終わった。


 成層圏に入った途端、透明だったチューブが黒色に代わり間もなく停止した。

 扉が開いたので出てみると、そこは地下鉄ホームような場所だった。

 ホームドアが各エレベーターの入口付近についており、見上げると行き先が表示されている。


 ホーム中ほどにある階段を上がると改札が見えてきた。

 駅員の姿も見える。


「ユビーさんは改札の人に許可証を見せてください」

「わかった」


 俺は言われた通りにすると「どうぞ」と素っ気なく言われ通された。

 シルは自動改札で何かをタッチし、通過していた。

 ICカードでも持っているのだろうか?


 改札を出た俺達は出口と書かれている方へ向かう。

 広告も人気も無い通路を少し進むと、見覚えのある駅構内に出た。

 日比谷線の秋葉原駅。

 ここは俺が昔いた世界で間違いない。

 

「シルちゃん、ここは俺の記憶にある一番古い世界だよ」

「ユビーさんは【異世界】テラ出身だったのですね」


 俺の住んでた世界は女神テラが司っていたのか。

 そういえば、なんで死んだんだ俺?思い出せないな…。


「でもそうだとしたら、なんで再び入れてるの?確か一度転生した世界は入れないルールだよな?」


「通常はそうです。ですがテラはいま天界として再利用されているので、別の世界って事です」 

「再利用?」


「はい」

 

 今から6年前、俺が昔いた世界は消滅した。

 女神テラ自ら命を絶った事が原因らしい。


 彼女が作った世界は少し特殊で、初期の頃は他の世界と同じだった。

 しかし、冒険者の人口が一定数を超えてから、テラへ転生する者は全て赤子から始める方式に変更。

 それからもテラは順調に発展を続け人口も増加した。


 しかし女神テラの悩みは尽きなかった。

 それは、冒険者同士の争いや殺し合いが絶えなかった事で、いろいろ対策を講じたが効果は一時的なものばかり。

 やがて女神は世界に悲観し命を絶った。


「【異世界】テラの最後は隕石の衝突で終わったそうです」


 確かにネット上では定期的に隕石による地球消滅説が流れてたけど、それが本当に起こったわけか。


「でも、それだと消滅するから再利用できないんじゃ?」

「そうです、実際に世界が消えたんじゃなくて、冒険者だけが強制終了されました。その直後の転生ルームは大混雑したと聞きます」

「確かにそうだろうな」


「再利用するのも大変だったようで、文明を解析するのに1年、引っ越しも1年かかってます」

 シルによると、以前の天界はギリシャ神話に出てくるような世界だったらしく、実際に引っ越しが終わっても最新の技術を理解するのに時間を要したらしい。


「だから女神学校の途中でタブレットが導入された?」

「その通りなんです。解析が終わった技術から順に天界に導入されていきました。そして私のように新しい物について行けない者も多いです」


 シルちゃんの場合はついていけないというより、学校の教え方が悪い。

 実際、今はタブレットを使いこなしているからね。


「転生ルームデジタル化もそれが原因だったんだな」


「はい」


 これで、俺がいた世界の技術や製品、サービスが天界に普及している原因がわかった。

 元の世界が消滅したのはショックだが…。


「俺って、テラでどうやって死んだか思い出せないんだけど。調べる方法とかあるの?」

「今から駅前の電気屋さんで冒険者さんのステータスを読み取る機器を買おうと思ってるんです」

「そんな便利物があるんだね」


 いろいろ話しているうちに地上に出ていた。

 目の前は例の電気屋がある。

 しかし人通りが少ない。


 ここはひっきりなしに電車の音が聞こえてくるはずなのに、その音もしない。

 事故で抑止されているのだろうか?


「ゴールドポイント結構貯まってるので、それで買い物します」


 俺達は店内に入った。中は見慣れた店舗の作りで、例の音楽も流れている。

 しかし人が少ない、店員も2人しか見えない。


「ありました。これですよ」

 

 商品名は、ステータススキャナー。

 これ一つでステータスや経歴が読み取れる優れモノ[キワモノ]とパッケージには書かれている。


 裏を見ると、迷ったらフォーラムに投稿すべし…。プロ志向シーズかコレ。

 単にUSB接続のスキャナーなのにキワモノって、どんな品物なんだ?

 隣にある同じブランドのキーボードもキワモノとある…。


「これも買いましょう」


 シルちゃんが手に取ったのは、ラマ絵柄のタブレットクリーナーだ。画面の指紋をきれいにするようだ。

 それから俺はなんとなくタブレットコーナーに足を運んだ。

 

「シルちゃんのタブレット4年前のモデルなんだな…」

「古いって事ですか?」

「少し古いかもね…」


 すると2人しかいない店員さんの1人が声を掛けてきた。


「いかがですか?こちら最新モデルですよ」


 店員さんはシルちゃんの持っているタブレットを見て更に売り込みをかけてきた。


「お客様お持ちの機種よりも、こちらのほうが処理速度も速いですし、より多くのアプリを入れることが出来ます」


 俺もタブレット欲しいんだけどな、アドバイザーじゃ設置できないしな。


「いま、データ通信とセットでご契約されますと3万値引きの9800ヘブンスドルで手に入りますよ」

「本当ですか!それはお得ですね」


 シルちゃんの心が揺れているぞ!


「俺もタブレット使いたいのですけど、冒険者なので全機能は使えませんよね?裏技とかないですよね?」

「それは無理です。でもお嬢さんがお持ちのタブレットとリンクする事は可能ですよ」


 どうやらシルちゃんの持っているタブレットを親機として、新しく買うのを子機にする事ができるようだ。

 俺のタブレットで町とかダンジョンとかを作って親機にWi-Fiで送信、シルちゃんが内容を確認すれば設置が出来るらしい。


「という事は、タブレットは俺も所持できるの?」

「規制が緩和されたので、現在はお持ちいただけます。全機能は使えませんけどね」

 

 シルちゃん最新情報を得てなかったんだな。

 それなら是非欲しい。


「私の情報が古かったようですね。ユビーさんも所持できるなら、今後の事もありますし1台買いますか…」

「ありがとうシルちゃん、頑張ってつくりまくるね」


 ちなみにあの値引きは新規契約が必要だったので、キャリアを白い犬から、アウに変更した。

 今までありがとう。

 

 お店を出ると昼どきだったので、この界隈に必ずあるはずのメイドカフェを探す事にした。

 電気街口へ抜けたかったので、自由通路へ向かう。


  ◇ ◇ ◇


 通路を抜けた先きも人通りは少なく、アニメショップの袋を持ったその筋の方々もいない。

 賑やかな外国人観光客もいないし、とても寂しい町だった。


 少しあるくと、可愛らしい妖精さんが見えてきた。

 彼女はメイド姿でチラシを配っているので、カフェの客引きだろう。


「いつでも空いて快適なカフェですよ。このチラシお持ち頂いたらドリンクサービスです」


 サービスという言葉にシルちゃんが反応した。


「ユビーさん、このお店にしましょう」

「う、うん、行こう。客引きの子がこの可愛らしさだ、店内はもっと…」


 俺達は妖精さんに連れられてカフェに入った。

 お店の名はエンジェル。


「お帰りなさいませ、お嬢様、ご主人様」


 中に入るとお馴染みの挨拶が聞こえてきた。


 店内はメイドカフェっぽくなく、どちらかと言うとレトロな雰囲気喫茶店のようだ。

 客は俺達以外に2組。頭に天使の輪をつけてる人もいた。

 針金はついてないのでコスプレではないようだ。


 窓際の席に案内されると、目のやり場に困るほど豊満な胸を持つエルフさんがやってきた。


「いらっしゃいませ、当店は初めてですか?」


 お店のシステムを簡単に紹介してくれた。

 混雑する事は無いけど最大2時間で入れ替わり、そして撮影とタッチは禁止らしい。


 向かいに座るシルちゃんは、すでに注文が決まっているようだ。

 

「ユビーさん、何にします?私はお子様ランチとサービスのメロンソーダをお願いします」


 お子様ランチかー、渋いものを注文するなシルちゃん。

 子供の頃食べたことあったな、新幹線のような入れ物にピラフとか入ってて旗が立ってた。

 俺は…ん? パイオムレツ。


 決定。


「じゃ俺は、エルフおすすめパイオムレツとコーヒーをお願いします」

「かしこまりました」といってエルフのお姉さんは戻って行った。


「ユビーさんって大きな胸が好きなのですか?そのオムレツもろ胸の形をしていますが」

「別に大きな胸が大好きっていうわけじゃないんだ、ハハハ」


「そういうのがお好みでしたら、家でも頑張って作ってみますね」

「そこまでしなくても大丈夫ですから!」


 シルちゃんは少し不満げな表情だった。

 しかし天界にもいくつか種族があるようだ。

 妖精、エルフ、人間、天使、今のところ見たのは4種族。ちょっと聞いてみよう。


「はい、天界に住んでるのは天族一種のみです。あとユビーさんのようなアドバイザイーの方が女神と一緒にいるくらいです」

「じゃさっきのエルフとか妖精は?」

「あれは自由に変身してるだけなんですよ、天族って特定の姿を持たないのです。だから私だってエルフになれますよ」


 シルちゃんのエルフ姿も見てみたいな。

 可愛いさに磨きがかかるのかな。


「でもユビーさんが期待されているほど、容姿は変わりませんよ。耳や顔立ちが多少代わるくらいで、背も髪も同じ、残念でしょうけど胸も大きくなりません」


 まだ胸の事を気にしてるのか…すまん。

 あと気になるのは、この人の少なさだな。


「お待たせしました。お子様ランチとパイオムレツです」


 おぉ、このお姉さんに負けないくらい大きいぞ!

 玉子もぷるんぷるんしてる。

 

「ケチャップをかけますね」というと乳首のあたりにかけてくれた。


「ユビーさん鼻の下のびてますよ」 

「そんな事ないでしょう、へへへ」


 シルちゃんの冷たい視線が痛い。

 ケチャップをかけ終わるとお姉さんが胸を揺らしながら戻って行った。


「いただきます」


 シルちゃんは予定通り野菜からスタート。俺は真剣に悩んだ。

 ケチャップを全体的に広げたとして、パイのどこから崩していくべきか…。


 するとシルちゃんがパイの真ん中をスプーンでえぐり取って行った。


「なんかイラッとするから、ひと口頂きます」

「俺のパイが…」

「おいしい、もうひと口食べてあげます」


 となりのパイも持って行かれた

 なんと無残なパイオムレツ。すでに原型をとどめていない。

 もう魅力を感じなくなったので、適当に崩しながら食べた。


「これは美味しいな、シルちゃんのオムレツとは違った味だな」

「確かにそうですね」


「こんどパイも含めてチャレンジしてみますね」


 楽しみにしておこう。

 

 ◇ ◇ ◇


 食べ終わった俺達は、スタンプカードをもらい店をあとにする。

 天界での用事は全て終わったのでエレベーターの駅に戻る事にした。

 電気街口の改札も閑散としており、時刻表の看板があったので見てみると、山手線が1時間に2本しか走ってない…。

 終電も22時台。大丈夫か天界。


「シルちゃん、なんで電車の本数少ないの?」


「単純に人口が少ないからです」

「そうなの?」

「この世界に引っ越したのはいいのですけど、私達にとっては広すぎたんです」


 そんなに少なかったのか天族。

 

「この日本というエリアも、住む人がいなので地方都市は全て閉鎖されてます。今考えられているのが、世界に散らばてる天族をこのエリアに集約して、他は冒険者に開放するという案ですね」

「現世のシルちゃんの家みたいに、囲って隠す感じに?」

「おらくそうなると思います」


 俺達は再び自由通路を通り中央改札へ抜ける。

 ふと改札横を見ると駅弁を売っている屋台を見つけた。

 シルもそれを発見したようで、お互いの顔を見ると彼女が口を開いた。


「ユビーさん、今晩ですけど弁当を買って帰りませんか?」

「賛成!」


 俺達は弁当を選ぶためにワゴンを覗いた。

 そこにはイカ飯、マス寿司、牛肉弁当、鶏そぼろなど見慣れた物がならんでいた。

 俺はそぼろが好物だったので即決め。シルちゃんはタコ飯を選んでいた。渋いチョイスだ。


 それから地下鉄の駅に入り、軌道エレベータ―で現世へ戻った。

 扉が開き外にでると、アランデールが走ってきてシルを舐めまわした。


 家に戻った俺達は夕飯までの間に、シルは掃除、俺は新しいタブレットの設定をする事にした。

 割られたガラスは留守の間に業者が直してくれていたようで、請求書が置いてあった。

 

 俺はシルちゃんに買ってもらったタブレットを開封し、初期設定を始めた。

 メーカーはもちろんビルさんのところだ。


 Wi-Fi設定が終わったところで、女神Wikiにリンクし、各種アプリをダウンロード。

 新機種と言うだけあって、今まで使っていた物より処理速度が速くて快適だった。


「よし、これで線設定OKだな。シルちゃんこっちの設定終わったよ」

「はーい、それじゃ何か保存したデータを送ってみてください」


 シルちゃんは掃除を終え、夕食のお弁当用にお味噌汁を作っていたが、手を止めてタブレットを見てくれた。


「データ来てます、設定成功ですね。それとお味噌汁出来たので食べましょう」

「はいよー」

 

 今日で同棲生活5日目か新婚の夫婦みたいだ。

 食べ終わったら、NPCの再設定でもするかな。

 俺はタブレットをスリープにしてから席に着いた。


「いただきます」してから俺は鶏そぼろを食べた。

 めちゃ旨い。

 これ食べるのいつ振りだろうか、たまらない。もう一つ買っておけば良かったと後悔した。

 一方、シルちゃんはタコ飯のタコと格闘中だった。なかなか噛み切れない様子。


「シルちゃん、明日なんだけどさ、午前中は家で王都の居住区の設定をするから、お城はまかせていいかな?」

「お城任せてもらってもいいのですか?」

「もちろん」

「それは嬉しいです。頑張りますよ!」


 シルちゃんはやる気満々と言った感じだ。おそらくアノ城になるんだろうな。

 

「ごちそうさま」した後は、買ってきたスキャナをシルちゃんのタブレットに接続してみた。

 指定されたリンクから専用のアプリを入れて起動、そして俺をスキャン。


 Waitのあとステータスが表示された。


――― ユビキタス ―――

転生数:100   ▲

種 族:人間(雄)

職 業:アドバイザー    

レベル:1    

STR:60

DEX:50

INT:15

幸 運:-100

知 性:A

速 さ:C

防 御:C

魔 術:C

ユニークスキル:

キーピングメモリー ▼

――――――――――――

 なるほど、転生後戦闘してないからレベル1のままか、他も初期値のままだな。

 知性:Aは嬉しいが、あえて飛ばした幸 運:-100。なんだこれ? マイナス?それとも横棒?


「シルちゃん、この幸運-100ってマイナスなのかね?」

「これは......機械の故障とか?試しに私自身をスキャンしてみます」


――― シダーミル ―――

転生数:**     ▲

種 族:天族    

職 業:女神    

ランク:F    

STR:**

DEX:**

INT:**

幸 運:100

知 性:B

速 さ:F

防 御:F

魔 術:C

ユニークスキル:** ▼

――――――――――――


「このスキャナー壊れてますね、私ランクFで知性B…。私って運だけで生きてるのですね」

「シルちゃん、勉強すればきっとランクも上がるよ、ドンマイ!」

 

「まぁそれは置いといて、幸運100の前に-はついてないので、ユビーさんの幸運はマイナスですね」


 一体何が原因なのだろうか。 

 今まで俺に不幸が続いたのはこいつが原因なのか?

 もしそうなのだとしたら、今までの事は全て説明がつく。


「ユニークスキルについて調べてみたのですが、スキルによっては代償が必要な物もあるようです」


 俺のユニークスキルには代償が必要って事か?

 幸 運-100ね。シルちゃんと一緒にいたらちょうど0か。


「それと、ユビーさんの死因でしたよね」 

「うん、見れそう?」


「はい、派手に死にまくってますね、ありましたよ」

「どこどこ」


「え?ユビーさんこれって……」

 

――― ユビキタス ―――

【異世界】ティムナ:就寝中、刺客によって暗殺   (キーピングメモリー継続/転3) ▲

【異世界】クラマス:飢えた末、毒キノコを食べて死亡(キーピングメモリー継続/転2) 

【異世界】カッパーマイン:王都で馬車にはねられ死亡(キーピングメモリー継続/転1)

【異世界】テラ:就寝中、女神テラによって殺害   (キーピングメモリー新規/転0) ▼

――――――――――――


最後までお読みくださいましてあるがとうございます。

3/29 タブレット所持のところで5話と整合性がとれていなかったので修正致しました。

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