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銀河時代の発明家

作者: 小塚 貴志

 「なあ、テレポートできる装置はないか?」

 ケビンが気安い調子で聞いてきた。


 数多の宇宙船が星々の間を駆け、通信ネットワークが銀河共同体の端から端をつなぐ時代だ。

 テレポート装置の1つや2つ、うちの店でなくとも探せばすぐに買えるだろう。

 「他で買えばいいんじゃないか?」

 シラトは気のない返事をした。

 発明家であるシラトは、先進的な物を作ることが好きだ。

 既に量産品が出回っているテレポート装置など、面白くもない。


 「いやいや、ただのテレポート装置じゃねぇ」

 ちっちっ、と指を振るケビン。

 「オレが欲しいってのは、短い距離をテレポートする装置だよ」

 「短い距離?」

 「そう。この部屋から隣の部屋へ!この階から上の階へ!そういうヤツさ!」

 ケビンはいちいち指さし身振りを加えて表現してきた。

 「オレはアパートに住んでんだが、エレベータがよく壊れてよ。その度に階段を使うハメになる。これがまた疲れんだ。ならいっそ、階段もエレベータも使わずに、テレポートできりゃいい。ドでかい船が星から星までワープする時代なんだから、人間がチョイと上の階に移動するくらいできるはずだ。そうだろ?でもネットワークで検索しても意外に見つからねぇんで、オマエに聞いたのよ」


 初めは話がつかめなかったが、これでシラトは理解した。

 つまりケビンは数mレベルで、しかも人体を瞬間移動させたいらしい。

 「確かに、そんなに小さな物体をピンポイントで短距離移動させる装置は僕も知らない」

 「だろ?でもオマエなら、どうよ?」

 なるほど。これは面白いかもしれない。発明家としての腕が鳴る。

 シラトは話に乗ることにした。

 「よし、じゃあ作ってみよう。気長に待ちなよ」

 「そうこなくっちゃ!」

 ケビンはニカリと笑い、シラトの店を後にした。


/*/


 「で、これがそのテレポート装置かい」

 ケビンは連絡を受けてシラトの店に行ってみると、ごついブレスレットのような装置を渡された。


 「そう。ここで距離を入力して、行きたい方向に矢印が向いているボタンを押す。すると、矢印が向いている方向にテレポートする。実際にやってもらった方が分かりやすいだろう」


 シラトの言う通りに装置を腕にはめ、カチカチと値を入力する。試しだから、3mくらいでいいだろう。

 「それでいいよ、ケビン。後はこのボタンを押すだけだ」

 「よし分かった」

 カチリ、と向かって左に矢印が向いたボタンを押すと、目の前に立っていたシラトが消えた。見回してみると、右手3mくらい先にシラトがいる。どうやら成功らしい。

 「こりゃぁいいや!ありがとよ、シラト!さっそく試してくらぁ!」

 「え?ちょっと――」

 カチカチと数字を入力、ボタンを押すとそこはもう店の外。

 繰り返せば家に帰るのはあっという間だ。今日からは通勤が楽になる。

 ケビンはニヤニヤしながらテレポートを繰り返し、帰宅を急ぐ。


/*/


 あっという間にケビンがいなくなり、シラトは1人取り残された。

 「まだ説明が終わっていなかったのに……」

 思わずつぶやく。


 実際、あのテレポート装置はなかなかよくできた品だ。軍や国家機密レベルの話は知らないが、民生用であれほど短距離の人体テレポートを実現したのは、おそらく初だろう。しかも値段もケビンが払える(だろう)くらいのもので、あの携帯性。スマッシュヒット間違いなしなのだが――


 「まだそれほどテストしたわけじゃないから、慎重に使ってほしいんだけどな。原理的に他の物体にめりこむことはないから、まあ大丈夫だと思うけど……」

 今頃、どうしているだろうか?

 シラトはケビンに思いを馳せつつ、次の発明のためのアイデアを練り始めた。


/*/


 ケビンはシラトの店からテレポートを繰り返し、アパートに戻った。

 「アイツはすげぇヤツだぜ」

 感嘆するケビン。

 人通りの多い街中では危険だし、安全のため超空間ブロックされている所では使用できないが、それ以外なら驚くべき使い勝手の良さである。

 しかし、ケビンが本当にやりたかったのはここからだ。


 「さて、1階から2階へ……このくらいか?」

 アパート1階の通路に立って、値を目分量でセットし、テレポート。

 「――おおっ!」

 ほとんど着地に気付かないほど、ぴったり移動できたようだ。

 通路の端まで行って案内板を見てみると、そこには2階と記されている。

 なら連打すれば――

 「おっ!おおっ!!うおぉおお!!」

 コマ送りのように目まぐるしく案内板が変わり、変化が収まるとそこは50階。

 「本当にすげぇもんだ。チョいと行き過ぎたが、使えるのはよぉく分かった。そいじゃ、家に帰るとするかぁ」

 一通り満足したケビンは、今度は下方向にボタンを連打。

 カチカチと押すたびに案内板が子気味よく切り替わる。

 そして、そろそろ目的の階になるかと思った矢先、

 「お?」

 目の前が真っ暗になった。


/*/


 結局、ケビンが発見されたのは2日後だった。


 あの時、アパート下層に向かってテレポートを繰り返していたケビンは、装置のバグにより突如それまでの10数倍の距離を移動した。その結果、使われなくなって久しい、アパート地下10階の工事用仮通路に出現してしまったのである。

 それまで連続使用し過ぎたせいで、ちょうど装置はバッテリー切れ。携帯端末の通信も通じず、ケビンは2日もの間、出口を求めて暗い通路をさまよい続けたらしい。


 そのうちケビンが出勤してこないことを勤務先が不審に思ったのが発端となり、警察が捜索をしてまわり、シラトの店を訪ねてテレポートの話に行き着いて、ようやく発見となった。

 見つかったとき、いつも陽気なケビンもだいぶ弱っており、「テレポートはコリゴリだ」、と呟いたという。

 シラトも警察から厳重注意を受けた。当然、テレポート装置は販売禁止。発明品の安全性について、繰り返し言い聞かされることになった。


/*/


 そして、その1週間後。

 「テレポートはもうこりごりなんだろ?」

 少し呆れ気味にシラトは話しかけた。

 「もちろん、テレポートはもういいぜ」

 お馴染みの軽い調子でケビンが返す。

 シラトはふっ、と息を漏らし、問う。

 「じゃあ今度は何なんだ?」

 「実はよぉ――」

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[一言] ケビンが笑える(  ̄▽ ̄)
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