秘する森の娘
和久井です。
中途半端な作品が多く申し訳ないです。
これからもなんとかできたらなと思います。
中華風ファンタジーです。
ではよろしくお願いします。
森紫
序幕
「あなた本当に行かなければ、ならないの? あなたがいなくなったら…」
早朝、まだ日が昇る前。 やっとが明るくなってきた時、一組の夫婦が家の戸の前で話していた。
家は農村の一軒家らしく、隣近所がひしめいている街中とは違い、しん…と静まっている。
「すまない…。華鈴、後をよろしく頼む。 あの子はまだ十二歳…、でも聡い子だ。いずれ真実を見抜くだろう」
男が妻の名を呼んで、まだ眠っているであろう娘の身を案じた。 華鈴は夫にこう続けた。
「あんなに聡い子が私達の元に生まれたことが、あの子にとっては不幸かもしれないわね」
「これも神が与えた、試練なのかもしれない。とにかく私はこれから行ってくる。 私は裏切り者なのだ。
どんな罰が下ろうと耐えなければ…」
華鈴は悔しげに、悲しげに唇をかみ締め、顔を歪ませた。
「覚悟はしていたことだ。 …迷惑をかけてすまない」
その表情を察して、男、夫は謝り、まだ暗い道を歩き始める。
反射的に伸ばした手が、夫に届かなかった。
(それは何故だろう?)
華鈴はそう思って暗い中の自分の、伸ばしたはずの右手を引き寄せた。
(あなた…あなたは無事帰って、また家族の時間を過ごせますか? 神よ、どうか私達夫婦の罪をお許しください…)
華鈴は明け始めた夜の中、密かに祈った。