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月光ランデブー ②

38話 月光ランデブー その2です。

よろしくお願いします。


 ラの国の首都、自由交易都市セントラルシティ。

 五つの都市区の一つ、南区にあるラの国最大の遊園地オウラクエンLでは、ムラサト・コーポレーションが主催する『セントラルの戦い 戦勝記念パーティ』が開かれようとしていた。その主賓はもちろん、セントラルを襲わんとした悪鬼‟トレイン”を見事討伐した勇者の少年達である。

 そんなオウラクエン内にある、多目的ホールの本会場エントランスホールに、アズサ姫率いる達勇者隊一行が到着する少し前の事。

 招待客たちでにぎわう中、立派な口ひげを蓄えた紳士と、それに連れ添う金髪の美女が、ラウンジに飾られた魔導機兵像の前へとやってくる。

「さて、約束の時間よりも前につけたか。よし。アズサ達も、奴(・)もまだ居ないな」

「ご主人様。いくら団体行動では五分前行動が基本とはいえ、早く来すぎたのではありませんか?」

 口ひげ紳士に変装している男、聖王国第二王子のクオルスは連れの女性、セラに問われ、複雑な表情(かお)を見せる。

「ああそうだな。だが、今日は許せ。俺はまだ顔を合わせるわけにはいかないからな」

「・・・はあ。ご主人様はいいかげん、素直になられて妹様にお会いになればいいのに」

「フッ、まだ早いさ。それに主目的(メイン)はあいつ、ムラサト・カナタだ。今日は何としても奴の腹の内を聞き出さなきゃならん」

「うふふ。お久しぶりのご学友との再会。さぞかし思い出話に花を咲かせる事でしょうね」

「いや違うぞ。同窓会のノリで会いに来たって訳じゃないぞ。そもそも奴との思い出なんて碌なもんじゃないぞ」

 などと、立ち話をしていると、通りすがる人(主に紳士)がチラチラと視線を送ってくる。クオルスが睨み返すと、そそくさと退散するが。

「ふん。やはりお前は目立つか」

 纏めた金色の髪からのぞく白いうなじ。華奢な(スレンダー)ボディに紅いドレスを纏う美女、ともなれば注目されるのも当然の事。目立つな、という方が無理である。

「俺はひとまず身を隠すが、お前をこのまま一人で待たせる訳にはいかないか」

「あら、そういえばフィルムはどこに行ったのかしら?」

「う、ああ、フィルムなら先に会場に行くって飛び出して行ったじゃないか」

「あらあら?そうでしたっけ。もうあの子ったら」

「ともかくだ、セラ!」

 ガッ、とセラの肩をつかみ互いの顔を近づけると、クオルスはセラの耳元で囁く。

「いいかい、お前はここを動かず待機しているんだ。アズサか、件の勇者の少年に声をかけられるまで。できるね?」

「・・・はい。ご主人様のご命令とあらば」

 セラがそう答えると、彼女の存在感が薄れていくのを感じる。すると今までチラチラ目線を置くていた者達が、彼女に目もくれず、何事もなかったように通り過ぎていく。

「これでいい」


 クオルスの固有能力、『壁の花(リーディングオブプレゼンス)』はその場に留まる事及び、クオルスの命令に同意する意思を持つ者の【存在感】が他者から認識されなくなる能力である。今回の場合、セラがその場から移動するか、アズサ達に声をかけられるまで間、彼女の存在を周囲の人間は認識できないのだ。なお、クオルスの命令が『アズサ達、件の勇者の少年に声をかけられるまで』であるため、勇者の少年達にはセラを認識することが出来るのだ。


「俺の『壁の花』もアズサの『神眼』の前には意味がない。かと言って適当なところに隠れても見つかってしまう。アズサが幼かったころのかくれんぼは毎回瞬殺されたからな」

 と言う事で、自分は離れた所でガチ隠れして待つこと数十分。

「セラ!」

 と呼ぶ少年の声。

「来たか」

 クオルスは物陰から様子を窺う。その先はもちろん。

「アズサ・・・」

 パーティ用におめかししたアズサの姿に思わず声が漏れる。

「我が妹はやはり誰よりも可愛らしいな」

 第二王子クオルス。彼は兄バカだった。

「・・・いや、いつまでも子ども扱いもないか。美しい。そう、まるでミズキ妃の生き写しの様だ。ミズキ妃、ミズキ妃・・・か」

 幼い頃、宮殿で会った聖王妃を思い出す。


「こんにちは、クオルス殿下。初めまして、かしら?」

 初めて会う聖妃ミズキは幼心に見惚れてしまうほどに美しかった。星空を思わせる艶のある黒髪と雪の如く白い肌。その外見だけでなく、鈴の音の様に澄んだ声、ゆったりとした口調と優しい微笑み。聖王を愛し、王子達を愛し、国民を愛した慈愛の王妃。それ故、老若男女誰からも愛された。特に第三王子イツキの母への執着は強かった。だからだろう、母を奪ったアズサを許さなかった。無論アズサには何の罪はない。それでも事ある毎にアズサに暴力をふるい、それを誰も咎めなかった。それどころか他の兄姉達も揃ってアズサをいじめる様になる。

「かわいいこの子の事、お願いね」

 ミズキは生前、アズサを身ごもっていた時、クオルスにそう託していた。生まれる前から溺愛してるな、と子供心ながらに不思議に感じたものだが、ミズキは生まれた娘(アズサ)を一度も抱く事が出来なかった。だから、クオルスは約束通りアズサの事を見守ってきた。いつも一人で怯えていたアズサも、クオルスには懐き、笑顔を見せてくれた。


「アズサ・・・いい表情をするようになった。良い縁に恵まれたな。やはりあの城を出たのは正解だったと言う事か」

 アズサが仲間たちと笑っているのを見てクオルスはどこか肩の荷が下りる気がした。ミズキとの約束であっても、アズサの置かれた状況が自分のそれとかぶって見えたから、というのがアズサを気に掛ける理由だった。今はもう自分が見守る必要はない。そう思うと安心と同時にどこか寂しさもある。

「この像は魔導機兵『ガーディアン』さ」

 感傷に慕っていると、聞き覚えのある声が聞こえる。

「来たか、ムラサト・カナタ!」

 身を乗り出しそうになるのを堪え、一層身を潜め、聞き耳を立てる。

「それにしても魔導機兵像か。確かにラの国の好事家が落札したと聞いていたが、それが奴の事だったとはな」

 少年達に得意満面で魔導機兵の説明をするカナタに、学生時代の記憶がよみがえる。

「・・・ああ、こういう奴だったな。下手に話を振ると延々うんちくを語りだすんだった」

 したり顔で語るカナタにシユウがブチ切れる。その後、我関せず然としていたクオルスが何故か二人に絡まれる、なんて事は日常茶飯事だった。

「よろしければ私と一曲、踊っていただけますでしょうか?」

 少し目を離した隙にアズサがカナタに口説かれていた。

「失礼だがご遠慮いただこうか」

 即座に間に入るタカラに「ナイスだ騎士(ナイト)タカラ!」と親指を立てる。

「しかし・・・騎士タカラか。彼がもっと気をつけていればセラは・・・」

 言いかけてかぶりを振る。

「いや、彼はよくやっている。彼を責めるのはお門違いか」

 アズサ達がカナタと別れるのを見届けて、カナタと接触するすきを窺っていると、少年を連れた女性が現れる。

「・・・ん?あの女性は」

 黒いドレスを纏う女性に見覚えがあった。

「確か・・・シエルフィ、だったか。ビルジット女史の友人の。まさかこんなところで会うとはな」

 学生時代の後輩。あんな事件(・・・・・)があった後、友人二人は退学したが、彼女は一人学園に残った。そうなると当然、他の生徒達からは好奇な目で見られる。

「壮健そうで何よりだ。いや、まあ、うん」

 シエルフィの義眼に気付き言葉を濁す。当時も彼女の眼を生徒達はある事ない事で揶揄していた。それもあってクオルスはそれとなく彼女を気にかけていたが、彼女はまるで気にしていない様子だった。

「ビルジット女史といい、世間は狭いものだな。この分だともう一人の友人はシユウの所にいたりしてな」

 栓なき想像をして一人苦笑する。

「・・・いかんな。何を浮かれている。セラの言葉じゃないが、まるで同窓会気分じゃないか。今は仕切りなおすか」

 場を離れようとした時、カナタたちの会話が聞こえる。

「チーム・トワイライト?ドクター?何の話だ?しかし、まさか奴の口から『魔王エクシリウス』の名が出るとはな。魔導機兵もそうだが、やはり魔法戦争とファーニア計画には人知れぬ因縁があるのだな。こうなると、是が非でもファーニア計画に隠された裏の計画、暴かねばならないな」

 クオルスはそのまま身をひるがえしその場から離れる。しかし彼は気付かなかった。その姿をカナタは目で追い、フッとほくそ笑んでいた事を。

 カナタはここまでの会話を、わざとクオルスに聞こえるように仕向けていたのだった。




                        つづく

月光ランデブー その3へ続きます。

ありがとうございました。次回もお楽しみに!

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