キョーマ、故郷に担がれるの巻
17話です。よろしくお願いします。
『あなたは機の勇者キョーマ君を知っていますか?』
「キョーマ君?ええもちろん知っていますわよ。いつもニコニコしていてとてもいい子ですわ。あたくし、あの子がこんな小さかった頃から知っていますのよ、おほほ。それが今や勇者様だなんてねえ」(40代女性)
「キョーマ君は登校するときなんかはいつも元気に「おはようございます」って挨拶してくれてねえ。あの子はいつか大物になるって何時もあたしらの間じゃあ話していてね。ええホント。驚きましたけど、ああやっぱりなあって」(30代女性)
「キョーマ君超かわいい!!」(高校生)
「ゆうしゃ様カッコイイ」(園児)
『・・・と、現在東区のアスノ市ではまさに空前の勇者フィーバーが起こっています。ここアスノ市は機の勇者キョーマ君が育った街なのです。ご覧ください、町のいたるところに勇者キョーマ君のポスターが張られています。街行く人々も口々に、「勇者万歳」。「彼は我が街の誉れだ」と勇者を称えております。あそこの店ではキョーマ君の人気にあやかった勇者饅頭が店頭に並ぶやいなや即完売になるほどの人気っぷりです。他にも扇子やタンブラー、ジグソーパズルなんてものも売られていました。私もさっそくいくつか買ってきましたよ、えへへ。コホン、えー、そんな賑わいを見せるアスノ市ですが今日は更に露天などが開かれております。それもそのはず、話題の勇者キョーマ君が凱旋するというのです。それだけではありませんよ。なんと、キョーマ君はアズサ姫様をエスコートしてアスノ市を回られるとか。アスノ市に聖王家が訪れるのは60年ぶりとなるのです。もう街は一目姫様を見ようとものすごい熱気にあふれている次第です。あー、もう間もなく姫様達を乗せた魔導超特急が到着するはずです。私も緊張してきました。あ、この中継は王室広報から特別に許可を頂いておりますのでバッチリ姫様のお姿を放送できますのでテレビをご覧のみな様、お見逃しなく!あッああーッ!!あれ!あの列車!!姫様がお乗りになられている列車が見えてきましたよ!!キャー姫さまーッ』
『ちょっハナちゃん急に走り出してどこ行くの!?ハナちゃーん』
『カメラ止めて!カメラ!ああもう、CMいって。CM!』
『この番組は、皆さんの夢と未来をリクリエイトするムラサトグループ各社の提供でお送りいたします』
女子アナの突然の暴走に右往左往しているCBN中継クルー達。(中央都市のテレビ局の一つ。フォト―達CCTのライバル局である)
そんな彼らを遠巻きに傍観していたCCTのプロデューサー、フォト―が何本目かのタバコに火をつけながらぼやく。
「ちっ、こっちは密着取材の準備をしていたとはいえこんな美味しいネタを取り逃がしちまうなんてな。ミッコ、勝手に撮んじゃねえぞ。また編集室に引き籠る事になっからな」
CCTのカメラマン、ミツコは「わかってまーす」とカメラを覗き込みながら答える。
「んー、CBNのみなさんなんかわちゃわちゃしてますよ~。いいですねえ放送権を持ってる人は。あーあ、あたしも姫さま撮りたいなあ」
「ダメだっつってんだろうが」
アズサ達王族の肖像権は王室広報が取り締まっている。個人的に写真を撮って飾る分には問題ないが、それを売買したりネット等にアップロードする事はもちろん、テレビで放送する事は全面的に禁止されている。
以前フォト―は、『中央都市の戦い』の一部始終をアズサの了承を得たとはいえ王室広報を通さずにテレビ放送してしまった為に上司から大目玉を喰らったのだ。
今日のアズサのアスノ市視察を知って慌てて王室広報に撮影許可を求めたのだが却下された。どうやら要注意人物として目を付けられていたらしい。
「どっちみち俺達の本番は明後日だ。今日は勇者の画を適当に2,3枚撮ってとっとと帰るぞ」
「あ~い。あー、でもどうせ撮るならレキア様がよかったなあ」
「またそれかよ」女子アナ達のレキア推しはもう耳にタコができるほどに聞かされてきたため、フォト―はウンザリといった表情で頭を掻く。
「ああ、レキア様は今頃何をなさっているのかしら。なーんてね、うえっへへへ」
「知るかよ、ったく」
・・・そのレキア様は今、ゲーセンで遊んでいますよ。
『クククッ拳は剣よりも強し、なんてな』
拳闘士ハド―の決め台詞と共にラフィートの画面には YOU LOSE の文字が浮かぶ。
「くはあ、また負けた。もうちょいだったのに」
「はっはっは、んじゃあポテトパイ追加な」
中央区の『セントランド』でのゲーム勝負は既に三勝二敗でレキアの勝利が確定し、ラフィートが昼飯を奢る事が決まったが、レキアが勝ったらメニューを追加するというルールで二人は引き続き人気武器格闘ゲーム『ナイツスピリチュアル』で対戦を続けていた。
こんな平日の真昼間から噂の勇者達がゲームで遊んでいるなどとは思いもしない客達が二人の熱い対戦に興味津々で集まり、勝手にゲームの感想戦を語っているが二人は気にせず、コインを投入し対戦を再開する。
「次だ次。今度は負けねえぞ」
「おうよ。かかってこいや・・・そういやよ、お前姫さんとはどうなんだ?ちっとは進展したか」
「む・・・それな。どうなんだろうな、アズサは中央都市に来てからやたらと忙しそうにしてるしさ。最近あんまり話すらしてないんだよな」
「それ、避けられてんじゃね?」
「やっぱりそう思う?俺もそうなんじゃあないかなあって」
「お前なあ、そんなんじゃあキョーマに先越されちまうぞ」
「・・・あいつ、なんであんなにアズサにこだわってるんだろうな。前に一度会った事があるって言ってたけどそれだけであんなになるか?」
恋敵として敵意を抜けられ、挙句あわやこの世界から消されかかったラフィートとしてはどうにも腑に落ちないのだった。
「さあね。それだけ本気って事だろ。姫さんもまんざらって訳じゃあなさそうだしな」
「え?マジで」
「あんだけはっきりと好意を向けられりゃあ悪い気はしねえだろうさ」
「むう・・・ところでレキアこそどうなんだ?ハルカとはうまくいってんのか?」
「お、それを聞いちゃう?ふふん」
やたら自信たっぷりのレキアの態度に「進展したのか」と、ラフィートが聞くとレキアは一瞬無言になる。
「・・・家族に挨拶には行った」
「まさか親公認!?」
「うん、まあ、公認っちゃあ公認かな・・・公認の弟扱い」
「あー・・・そうなんだ。まあそうだよなそんな急には変わんねえよなあ」
公認も何もレキアは元々カナタとも面識がある。そしてカナタからも弟扱いされてきたのだ。
「いっその事ちゃんと告白とかしたらどうだ」
「・・・したよ、ずっと前に」
「ま、まじ?でどうなった?」
「・・・鼻で笑われた」
『あっはっは、ないないない。てか、うんうんアンタにしてはまあまあのナイスジョークだわ。え?冗談じゃない?はいはい、じゃあアンタがナイスなダンディになったら考えたげる。今はとりあえず気持ちだけは受け取っておくわ。ありがと』
レキアは、ダンッと拳をコンパネに叩きつける。
「くっ、思えばこの時にあいつが中年好きでヒゲフェチな事に気付くべきだった!」
「は?ヒゲ?」
レキアはハルカとは十年来の付き合いでありながらハルカがヒゲフェチだと昨日初めて知ってしまったのだ。
「俺だっていつかはヒゲの一つや二つ!そうさ、ヒゲの似合うダンディに俺はなる!!」
「そうかいがんばれよ」
苦笑しつつラフィートはレキアの横顔を見る。
「そういや未来のタカラのおっさんヒゲ生やしてたけど、あれってハルカの趣味だったのかなあ」
(未来か・・・あの事、やっぱりレキアにも話しておくべきなんじゃあないかな)
あの事とは勇者のオーブの悪鬼封印限界数の事である。
ラフィートは既に未来で得てきた記憶のほとんどを忘却している。それでも印象深かった事はまだかろうじて記憶に留めていた。その中でも勇者のオーブに関する記憶はアズサとのやり取りもあって覚えていたのだ。だがそのアズサからオーブに封印限界に関する事は口外しないように言われていた。
(アズサにはアズサの考えがあって秘密にしてるんだろうけど、16体しか封印できないなんて、ましてやそれ以上を封印したら死ね、なんて言われてなきゃわかんない事だし)
未来のキョーマの言葉通りなら最初に限界に達するのはレキアだ。レキアの性格、戦闘スタイルを考えるとどうしても心配になる。
「なあレキア」
躊躇いつつレキアに声をかけようとした時、二人のブレイブフォンが同時にヴヴッと震える。
「ん?なんだ・・・緊急メッセージ?」
プレイを中断しブレイブフォンのチャットアプリ『ブレイブルーム』を開くとキョーマからの書き込みがあった。
キ<『誰か・・・たす、けて』
「ッ!?これは・・・キョーマからのSOS!!」
「どういう事だ?あいつは今アスノ市にいるんだろ?何が・・・」
「まさか悪鬼か!?」
人類の天敵である101体の悪鬼は何故かアズサに執着するきらいがある。
「中央都市に着いてすっかり油断していたな」
二人はすっくと立ちあがるとアズサ達と別行動をとってしまった迂闊さに舌打ちしつつ店外へと飛び出す。
国際大通りには道行く人々が街頭ビジョンを見上げていた。周囲を見渡しつつ二人もそれにならって街頭ビジョンに目を向ける。そこに映し出されていたのは・・・
『テレビをご覧のみな様、中継のハナです。ここアスノ市ではたった今、勇者キョーマ君の凱旋パレードが始まりました。えっと・・・先程はお見苦しい所を見せてしまい申し訳ありませんでした。CM中、裏でプロデューサーさんに怒られちゃいましたよ、えへへ。え?は、はいすみません。ともかくご覧ください勇者キョーマ君とアズサ姫様を称えようと続々と人が集まって来ています。ざっと見ただけでももう五万人は来ているんじゃあないでしょうか。あ、あのおみこしにキョーマ君が乗っています。元気に手を振ってくれていますねえ。そしてその後に続くオープンカーには我らが姫様が乗っておられます。あ!見ました!?今、姫様が私達に手を振って下さいましたよ!!きゃー姫さまーっ』
『ちょっ、ハナちゃん落ち着いて、また怒られちゃうから、ね』
『姫さまーッ姫さまー』
「・・・」
「・・・」
街頭ビジョンを見上げたまま言葉もない二人に、再びブレイブフォンがヴヴッと震える。『ブレイブルーム』にはキョーマからの新しいメッセージが書き込まれていた。
キ<『何と言う公開処刑・・・誰か助けて下さーい』
ピッとブレイブフォンの電源を切り、もと来た道を戻る二人。
「・・・んー、そういや腹減ったな」
「あー、そうだな。昼飯にすっか」
二人はそのままセントランドの隣のヨッテキナバーガー国際大通り本店へと入っていくのであった。
つづく
ありがとうございました。次回もお楽しみに。