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キョーマ、故郷に錦を飾るの巻

16話です。よろしくお願いします。

 エレクシア聖王国、10の国の一つ、ラの国。

 その首都、自由交易都市セントラルシティはそれぞれが独立した5つの都市区による複合都市である。

 

 国政の中枢、中央区。


 ラの国最大の穀倉地帯の広がる、中央都市セントラルの台所北区。


 中央都市の心臓ともいうべき交易の要たる西区。


 工業施設が集中する、湖畔の都市南区。


 そして・・・「そうだ、アスノに行こう」のキャッチコピーでおなじみの、旧首都のある東区。


 午前10時丁度、中央区中央駅から東区古都アスノへ向かう魔導超特急マジカルエクスプレスが発車しようとしていた。

 

 ――トゥルルルルルル


 と、発車を告げる警笛が構内ホームに鳴り響く。列車のドアが閉められると、見送りに来ていた少年は窓越しに映る少女との別れを惜しみ、動き出した列車と共に走り出す。

 映画とかでよくある光景だ。だとするとこの先の展開オチは・・・あ、ほらやっぱりコケた。注)駅のホームで走る行為は大変危険です。良い子はマネしちゃダメだぞ。

 

 駆け付けた駅員に捕まって厳重注意を受ける少年を置き去りにして、列車は速度を上げていく。






 魔導超特急、一号車両。

 アズサとキョーマとタカラの三人はキョーマの家庭訪問の為、キョーマの実家のあるアスノ市へ向かっていた。

 アスノ市までの移動時間はおよそ一時間半、アズサ達の乗る一号車は当然のごとくアズサ達の貸し切りである。

「まったく、なにをやっとるのだあの男は」

 一号車両の座席に着き、タカラはあっという間に見えなくなったラフィートの事にため息を吐く。

「ラフィート、大丈夫でしょうか?」

「心配するだけ無駄ですぞ姫様。あやつめには帰ったらたっぷりと説教をしてやらねば」

「いっその事、線路にでも飛び込んで電車を止めてくれればよかったのに」

 アズサと向かい合わせの座席には物騒な事を呟くキョーマが座る。

「キョーマさん、ダメですよ冗談でもそんな事を言っては」

「・・・はい」

 アズサに窘められてシュンとするキョーマがこんなにもネガティブなのは、三人がこれから向かうアスノ市はキョーマの実家のある町だからである。



 キョーマはアズサに会いたい一心で家を飛び出してきた家出少年であり、機の勇者となった事でうやむやにするつもりでいたが、もろもろの契約を保護者に承諾してもらわなければならないという事で結局戻らざるを得なくなった。

 だがキョーマは家庭環境に問題を抱えており、家族仲は良くない。と言うか、一方的にキョーマが両親の事を避けているのだ。

 その為、アズサの家庭訪問が決まってから非常にテンションが低いのだった。



「ほ、本日は魔導超特急にご乗車いただき、誠にありがとうございます。わ、我々一同、安全かつ快適なご旅行をお届けする事をモットーとしておりまして、アスノ市に到着するまで、どうかごゆるりとおくつろぎ下さい。また何かありましたら早急に対応させていただきますのでななな何なりとお申し付けください」

 緊張しまくっている車掌がアズサに挨拶をしに来る。アズサが「よしなに」と微笑むと車掌は顔を真っ赤にして固まってしまう。見かねた車内販売の売り子が車掌と入れ替わる。

「えっと、お飲み物はいかがでしょうか。あ、はい、お紅茶ですね」

 手際よくアズサには紅茶を、タカラにはコーヒー、キョーマにはコーラを差し出して、いまだ固まっている車掌を引っ張って退散する。

 アズサはカップをひと口啜って一息入れる。

「ではタカラ、これからの事を説明してください」

「はっ、まずはアスノ市について。アスノ市のある中央都市東区は150年ほど前まではラの国の首都『アスノポリス』と呼ばれていました。中央区への行政機関の移行が終わった事で首都としての機能を失い、中央都市の一都市区として加わりました。以降は歴史的な建造物などを一般に開放し、観光の名所として人気を博しております。中でもセイリュウゴ遺跡は有名ですね」

「セイリュウゴ遺跡とは東大陸で数カ所発見されたおよそ千年前の遺跡ですね。でも遺跡は全て聖王家が管理しているはずではありませんか?」

「はい、おっしゃる通りセイリュウゴ遺跡の管理は聖王家の管轄です。が、ここの遺跡はあらかた発掘が終了しており、特区ラの国という土地ゆえ管理を譲渡されたのです」

 正確にはラの国に買い取られたのだが、そこは一般には伏せられている。

「ではここのセイリュウゴ遺跡は誰でも見学ができるのですね。かくいう私もセイリュウゴ遺跡には行った事がありません」

 パァっと顔を明るくするアズサにタカラは申し訳なさそうに頬をかく。

「あー、すみません。今回は遺跡の視察は予定に入っておりませんので」

「そう・・・残念です」

 しゅんとなるアズサをフォローしようとタカラは話を続ける。

「ま、まあ遺跡以外にも見どころはありますので・・・そう、例えばアスノの町並みなどはとても古くて趣があり、聖王都に勝るとも劣らないとか」

「ただ古いだけの何も無い町ですよ」

 窓の外を見ているふりをしながらアズサの事をチラチラ見ていたキョーマがボソッと口を開く。

「キョーマさん・・・ん、そういえばあれからは視られますか?」

「夢?・・・あ、いえあれからは視ていません」



 キョーマの視る夢、それは未来の出来事を必ず当たる夢という形で予見する固有能力である。

 固有能力“未来視ビジョン”は必ず当たると言ってもそれは夢であり、キョーマが望むものとは限らない。そしてそれは常に結果であり、その過程までは分からない。

 例えば、学校のテストの解答用紙を視たとしてそれをどのようにして手に入れたのか、悪友たちにそそのかされて職員室から盗み出したものかもしれない。

 例えば、消えたクラスの給食費の場所を視たとして、その場所を担任に教えれば自分が疑われてしまうかも知れない。

 必ず当たるが故にその未来を避ける事は出来ない。だからか、未来を知るキョーマは他人との距離を開けるようになった。

 そんな未来視に変化が起きた。

 キョーマの心に巣くった謎の男“ナイトメア”の影。その影響により必ず当たる未来、それをキョーマの思い通りに書き換える力“未来視の書き換えリライト”が発現したのだ。

 それは固有能力の枠を超えた固有能力、すなわち上位能力だ。

 だが、リライトには問題があった。

 ほんの些細な書き換えであっても積もり積もって取返しのつかない結末を迎える。

 キョーマのリライトによって3年後の未来に跳ばされたラフィートが見たものは勇者隊の全滅という絶望の世界だった。自分勝手に未来を書き換える事で、その先の未来が大きく変わってしまうのだ。

 リライトの危険性を感じた自称?占い師のケインによってリライトを含めキョーマの固有能力は封印され、今に至る。



「その、ボクの固有能力はどうなってしまうのでしょうか?」

「そうですね・・・今は封印されていますので発動できませんが、いずれ使えるようになると思いますよ」

「まあ自業自得と言うやつだな。しばらくは我慢しているのだな」

「はーい」

 タカラに諭されガクリと肩を落とすキョーマ。それもそのはず、エレクシア聖王国民にとって固有能力は誰しもが使う事が出来る。だが、その力の覚醒には個人差がある。生まれた時から使う事が出来る者と何らかのきっかけで使えるようになる者だ。固有能力は魔法と同じく使えて当たり前である。それが使えないという事は何とも言い難い不便さを感じるのだ。

「さて、話を戻しますが本日はアスノにつき次第市庁舎に向かいます。その後市内を一回りしてからキョーマの通う学校を視察致します」

「ぅえっ!!学校!?なんで!??」

「うふふ、私学校に通った事がありませんのでエスコートお願いしますね」

「あ、はい。それはお任せ下さい。じゃなくてッ僕の家に行くだけじゃなかったんですか?」

 抗議の声を上げるキョーマにタカラはふうっと息を吐きかぶりを振る。

「いいかキョーマ、姫様が何よりも優先されるべき事は公務である。姫様が公務につかれている限り何人もそれを妨げる事は許されぬのだ」

「はあ、それはわかりましたけど・・・」

「急に予定を変えてしまってごめんなさい」

「いえ、全然構いませんです。なんだったら家庭訪問も中止にしてもらってもいいくらいです」

「それでだ。学校の視察が終わった後、キョーマの両親に会う事になっている。今日はそれで宿をとり、明日は引き続き市内の視察、正午の便で中央区に戻る。で、よろしいですね」

 アズサは「はい」と頷き、キョーマも「ですよね」と仕方なく頷く。

 実はこの時アズサは重要な決断を迫られていたのだが、それはまだ勇者達には話せる事ではなかった。

「しかし・・・セイリュウゴ遺跡ですか。気になりますね」

「視察は行きませんよ」

「・・・わかってます。気になっただけですぅ」

 唇を尖がらせて拗ねて見せるアズサが、どことなくハルカに似てきたな~と思わざるを得ない二人だった。





 一方その頃。

 中央区、国際大通り。

 アズサ達を見送ったラフィートはレキアと合流し、アミューズメントセンター『セントランド』に来ていた。

「さあて今日はタカラのおっさんもいないし、目いっぱい遊べるぞお!」

「にしてもでけえな。広えし、派手だし、田舎ユノハナとは大違いだな」

 店内を見渡すと、大型小型、体感型といった様々な筐体が所狭しと並んでいる。レキアの故郷ユノハナの町にもゲームセンターはあるが、どちらかと言うと輪投げや射的といったレトロな遊戯場だ。

 ラフィートはポキポキと指を鳴らしレキアの鼻先に一刺し指を突きつける。

「やるぜレキア。対戦ゲームで勝負だ!当然負けたら罰ゲームな」

「へっ、おもしれえ。返り討ちにしてやんよ」


 これが、史上初の勇者同士のゲーム対決 セントランドの熱闘 と呼ばれ・・・る訳ないですよね。




「この台は何やるんだ?」

「ああそれはカードゲームだよ。自分で組んだデッキを使うんだ」

 今は平日の昼前なので人はいないが休日ともなれば小学生で賑わうのだ。だがレキアもラフィートもカードを持っていないのでここはスルー。



 第1戦

「お、これは知ってる。エアホッケーだな。ユノハナの旅館にもあったからな」

「懐かしいな。学生ん時以来か。んじゃやるか第一戦」

 ギャラリーがいたならしばらくは語り草になるだろう世紀の凡戦どろじあいの末、レキアが勝利する。



 第2戦

「どうしたどうした、もうへばったか?」

 リズムに乗って華麗なステップを決めるレキアとは対照的にワンテンポ遅れでのたまうラフィート。

「ま、まだまだへばってねえよ」

 強がって見せるもダブルスコアの差を埋められないまま、ダンスゲーム対決はレキアに軍配があがる。



 第3戦

「こいつとこいつをつなげて・・・」

 パズルゲーム『ぱろぱろ』。レキアは落ちてくる『ぱろ』を即消ししていき一見優勢に見える。だがこのゲームの神髄は連鎖にある。

「いくぜ!一連鎖!2連鎖!3連鎖!」

「な!?ちょっ、ま」

 ラフィートはためにためた『ぱろ』を次々と消していく。

「まだまだいくぜ!4連鎖!5連鎖!」

 ラフィートの連鎖によってレキアのフィールドに『おせっかいぱろ』の大群が降り注ぐ。瞬く間にレキアのフィールドは埋め尽くされ、ゲームオーバー。



 第4戦

「右・・・もうちょい、よし!ドンピシャ」

 ラフィートの巧みなボタン操作により降下したアームは寸分たがわず目標を掴み上げる。

「げ、マジで取りやがった」

 プライズキャッチャーではラフィートが圧勝する。

「ヌフフ。これは後でアズサにあげよう」

 自分とおそろいのキーチェーンマスコットをつけるアズサを想像し、にやけるラフィートなのだった。



 第5戦

「お、おいラフィート。あれ見て見ろよ」

「ん?どれ・・・ッ!あれは・・・まさか!!」

 二人が駆け寄った筐体、それは!

「ナイスピ!それも最新作だと!!もう既に稼働していたのか!!」

 騎士道魂ナイツスピリチュアル、略してナイスピ。大人気武器格闘ゲームだ。

「前に中央都市セントラルでロケテやるって聞いてたけど、辺境タリアにゃあ縁のない話だったからなあ」

「んじゃあ勝負やるか。言っとくが俺はナイスピじゃあ負けた事はねえからな。なんせ田舎にゃあ他にろくな筐体が回ってこねえからな」

 自信満々のレキアだがそこはラフィートも譲らない。

「上等!俺が学校を卒業してから暇な時間にどんだけやり込んだか見せてやんぜ!」

 

 勇者ニート達の戦いが始まる!!

 

 ラフィートが選んだキャラはシリーズの主人公『ナイトバロン』。剣と短剣の二刀流の騎士だ。

 対してレキアが選んだキャラは『ハド―』。武器格闘でありながら武器を捨て素手になった時に真価を発揮するトリッキーキャラだ。

 言うだけあってお互いに引けを取らない一進一退の攻防が続く。そんな白熱した対戦に自然とギャラリーが集まってくる。その誰もが対戦ゲームで遊んでいるのが今話題の勇者隊の二人だとは気づかない様だ。

「そういや何となく疑問だったんだけど、素手で剣をガードって無理だよな普通」

「バカが。ゲームにツッコむなよ。まああれだろ、オーラ的な何かを出してんだろ」

「オーラバリアかー。いいなそれ。今度キョーマに作ってもらうか」

「あー、あいつの勇者能力ちからなら何でも作れるんだっけか。なるほどな、何でもって事は別に実在するもんじゃなくてもいいって事か。要はあいつのイメージ力次第って訳だ」

「あいつ、アズサの前じゃ大人ぶってるけどゼッテーこういうの好きだぜ。この前もおもちゃのロボット作ってたしな」

「あったなーって、まだ根に持ってんのか」

「キョーマにゃあ振り回されっぱなしだからな。あいつどっかひねくれてんだよな。もうちょっと素直になればいいのに」

「あいつくらいの歳ならそんなもんだろ。ウッ鎮まれ俺の邪眼ッ・・・みたいな」

「ハハハッあるある。俺もやったなあ。人型メカに乗ってる体で、ビームソード!からのメガビーム発射!!って」

「・・・そんな事してんか?引くわ」

「えッウソやんない?こう、コンソールを弄るみたいな空想」

 ラフィートがコンパネから手を離し、手で空に何かを弾く仕草をするその隙に『ハド―』のラッシュコンボが決まる。

「あッしまった!!」

「バカが、油断してんなよ」

 ROUND1はレキアが決める。

「くっそー。まんまと誘導されちまったぜ」

「はっはー。これに勝てば3勝2敗で俺の勝ちだな。罰ゲームは・・・そうだな、昼飯おごりでいいか。ヨテキのキングヨッテバーガ―セットな」

「よりによってキングヨッテかよ。てか負けねえよ。こっから逆転してやるさ」

 ラフィートの言うとうりROUND2はラフィートが巻き返す。

「へっへー、油断してんのはレキアさんじゃあないっすかねえ」

 レキアはチッと舌打ちすると、ふと昔の事を思い出す。

『リーダーはROUD2はあそぶから』

 ユノハナの町のユノハナレジスタンスの仲間達の声。

「ああ、そういやあいつら今頃何してんのかな。リーダーが居なくなってもちゃんとやってんのか」


 その頃、ユノハナレジスタンスの面々はふらりっと現れたふしぎな少女と共に町で起こった怪事件の究明に奔走していたのだが、それはまた別のお話。


 と、その時時計が正午を告げる。

「12時・・・アズサ達はもうアスノ市に着いた頃か」

 遠く離れた最愛の少女に思いを馳せているとモニターにでかでかと You lose の文字が浮かぶ。

「んああッ今のなし!今のなし!!」

「くくくッゴチになりまーす」

「くぅ~、もう一戦だ!」

「OK。何度でもかかって来いよ」


 勇者達の戦いは続く。(続きません)





 「これは・・・何事・・・?」

 定刻通りに魔導超特急はアスノ駅に到着する。荷物をまとめアズサ達と共にアスノ駅を降りたキョーマはそのあまりの光景に絶句する。

 

 『歓迎! アズノ姫様 ようこそ 我が街の誉れ 機の勇者キョーマ君を育てた千年の古都アスノ市へ』


 紙吹雪が舞い踊り、街頭には横断幕や懸垂幕、聖王国旗を振る人々や口々にアズサやキョーマの名を叫ぶ人々で溢れかえる。

 マーチングバンドが賑々しく演奏し、閑静だった街はアズサの来訪に歓迎ムード一色だった。

「あの・・・これは一体?」

「うむ。姫様がアスノに来られることは事前に通達されていただろうからな。まあよくある事だ」

「よくあるんだ・・・あッ」

「キョーマさん?どうかされました?」

「いえ・・・あそこ。字が間違ってます」

 キョーマが指差す先を目で追う。

「あらあら、本当ですね」

「何たる不敬な」


 『歓迎! アズ姫様 ようこそ 我が街の誉れ 機の勇者キョーマ君を育てた千年の古都アスノ市へ』


 突貫作業で作られたであろうその横断幕は即座に撤去されたという。




                                           つづく

ありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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