正義のヒーロー ジャスティオン見参!
13話です。
よろしくお願いします。
ラの国の首都にしてエレクシア聖王国屈指の大都会、自由交易都市セントラルシティ。
聖王国10の国の中で唯一民間統治が許され、輝かしい繁栄を象徴するこの都市で手に入らないものは無い。だが、人々の知らぬ闇の中で蠢く悪が存在していた。
こうしている間にも薄暗い路地裏には人の希望を喰らおうとする邪悪の影・・・
「・・・何でこんな目に」
男は後悔していた。
いつもは中央都市南区で商売しているのだが、今日は取引の為に中央区へと出張で来ていた。取引は想像以上にスムーズに進み、余った時間を国際大通りで催されている歩行者天国を物見遊山で過ごしていたはずなのに、気づくとガラの悪い男達に薄暗い路地裏へ連れ込まれ取り囲まれてしまっていたのだ。
「へっへっへ。良いよなイベントのある日ってのは活気があってよお。おっさんみてえな絶好のカモで溢れてなあ」
「な、なんなんだお前達は・・・ひぃ」
ニタニタと歪な笑みを浮かべながら悪漢の一人が懐からナイフを抜き男に迫る。
「痛い目に会いたく無きゃあ、あり金全部出しな。ひひッ」
男はカバンを胸に抱き後ずさるも壁に追い詰められる。
壁のすぐ向こう側では歩行者天国を楽しむ人々の歓声が上がっている。ほんの数分前まで自分もその中に居た筈なのに、そう思うと視界が滲んでくる。
「へへッてめえの不運を呪うんだな、おっさん」
悪漢が乱暴に男のカバンを奪い取ろうとした、その時!
「そこまでだ悪党ども!!」
突如天から響く声に狼狽した悪漢達は周りを見渡す。「あ、あそこだ」悪漢の一人が指差す先、ビルの屋上にはそそり立つ二つの影!。
「な、何者だ!」
悪漢の声に小柄の影がフッと笑う。
「悪党に名乗る名はない!」
ざわっとどよめき立つ悪漢達。
「ちょっ、まてまて。打ち合せとセリフが違うだろ」
「やだなあセンパイ。このセリフって一度は言ってみたくないですか?まさにTHE・ヒーローって感じでかっこいいじゃないですか」
フィル・・・小柄な影はテンション高めで答えるがラフィ・・・もう一人の影はため息を吐く。
「ほら、ナレーションも何て呼べばいいのか迷ってんじゃん。さっさと名乗ろうぜ」
・・・お願いします。
「やれやれ、臨機応変って言うかアドリブに対応する心のゆとりを持たなくちゃ」
「ゆとりって、お前が合わせろって言うからこんなお面まで買ってきたんだろうが」
二人はホコ天の屋台で買ったお面をかぶり直し、眼下の悪漢達に向き直りポーズをとる。
「それはともかく!そこまでだ悪党ども!」
「・・・」
小柄の影は呆然としている悪漢達にビシッと指を突きつける。
「ちょっと、「何者だ!」って聞いてくれなきゃ話が進まないじゃないですか!」
「え?あ、あぁすんません」
「もっと緊張感をもって、しっかりしてくださいよ。じゃあもう一度いきますよ。さんはいっ」
どこから出したのかハリセンでスパンッと叩かれる。
「いたいなあ。なにするんです?」
「お前さっき臨機応変っつったばかりだろ。何また一からやり直そうとしてんだよ」
「わかってないなあセンパイ。いいですか、こういうのはお約束が大事なんです。テンプレと言われようと様式美をなぞってこその正義のヒーローじゃないですか」
「わかったわかった、いいからほらつづきつづき」
面倒くさくなったのかラフィ・・・お面をかぶった謎の影はフィル・・・小柄の影を肘でつつき先を促す。
「ええっと、じゃあ「何者だ!」の続きからね」
コホンっと一つせき払いをして同じくポーズを取り直す。
「人の世にはびこる悪を許さない。天空よりの使者、正義の騎士ジャスティス・ナイト!」
「同じく、天空よりの使者、正義の光ジャスティス・ライト!」
二人は小さく「せえの」と呼吸を合わせ『天空仮面ジャスティオン!!』と名乗りを上げる。と同時にパンパンっと用意してあったクラッカーが鳴らされる。
呆気に取られている悪漢達の前で2人は屋上から「とうッ」と飛び降りる。
「と、飛んだああああ・・・ぁ?」
飛んだと見せかけて普通に非常階段を駆け下りてくるジャスティオン。
「・・・え?飛び降りねえのか?」
至極当然な悪漢の疑問に「当り前じゃないですか」とジャスティス・ナイトが答える。
「いくら何でもあの高さから落ちたら足をグキッと捻挫しちゃいますよ」
「あ、ああ、そうね・・・じゃねえ!何なんだお前らはッ」
正義のヒーロー、ジャスティオンの颯爽とした登場に唖然としていた悪漢達も我に返り改めて身構える。
「くそが、ジャスティンだかジャスミンだか知らねえがふざけやがってッ野郎ども!やっちまえ!!」
リーダーらしき男の怒号と同時に悪漢達がジャスティオン達へと襲いかかる。
「ひぃぃッ」
目の前で始まった乱闘に男はカバンを盾に目を逸らし震えあがる。だが、乱闘はものの数分で収まる。
「え・・・これは」
恐る恐る目を開けるとそこにはうずくまる悪漢達の姿。
「うぐ・・・つ、強ぇえ」
「ちきしょう・・・」
「なんなんだよ・・・てめえら」
呻く悪漢達にジャスティス・ナイトはどや顔でビシッとキメポーズを決める。
「空に正義の光ある限り悪の栄えたためし無し!すなわちジャスティオンに敵はない!」
・・・お面をかぶっているから見えないんだけどね。
「くっそ、わけわかんねえ。覚えていやがれ!」
お決まりの捨て台詞を吐き、はけようとする悪漢の一人の首根っこを捕まえてジャスティス・ナイトは問いかける。
「ちょっと待って、聞きたいことがあるんだけど・・・」
ゴニョゴニョと耳打ちをしながら何度か相づちを打つ二人。
「・・・はあ、そんな事くらいっすね」
「ふぅん・・・まあいいや、ありがと」
解放された悪漢は、「じゃあこれで」っと仲間たちの後を追っていく。その後ろ姿を恐る恐る見送りながら助けられた男はジャスティオンに頭を下げる。
「えっと・・・助かったよ、ありがとう」
「礼には及びません。ボク達は正義の導きに従っただけ」
「そ、そうなのか・・・あ、そうだこれ少ないけど感謝の気持ちって事で」
男はカバンから財布を取りだし数枚のお札を差し出す。
「いえお気持ちだけで結構です。ボク達は正義の使徒、正義に見返りなど求めてはいないのです」
「またそれかよ。せっかくだから貰っとけばいいのに」
男がカバンへと引っ込めたお金を見てジャスティス・ライトはもったいなさそうに呟く。
「そうか、よくわかんないけどとにかくお礼を言うよ。じゃあ、もう行くんで・・・どうもありがとう」
男はペコっと頭を下げるとそそくさと歩き去るのだった。ちなみにこの男、実はCCTのフォト―Pの旧友であり、今回の顛末を聞いたフォト―Pは後に都市伝説として語られる謎のヒーロー『天空仮面ジャスティオン』のスクープを取り損ねたと本気で悔しがったと言う。
「これにて一件落着。今回も正義大勝利!ですねセンパイ」
「ああそうだな。てか、中央都市って思ってたより治安が悪いんだな。これで何件目だよ、まだ2・3時間しか経ってないのに」
「世界はそれだけ正義を求めているって事ですよ。そう、ボク達の正義に終わりはないんです」
世界に悪のある限り、ジャスティオンの戦いは続く。
負けるなジャスティス・ナイト!
立ち上がれジャスティス・ライト!
戦え!僕らの天空仮面ジャスティオン!!
つづく
次回予告
中央都市の平和を守る為、今日も戦うジャスティオン。
だが!ジャスティオンはお互いの正義性の違いによってコンビを解消してしまうのだった。
己の正義を信じ、たった一人で戦い続けるジャスティス・ナイトだったが、それは大魔王ダイ・アクトゥに仕組まれた罠だったのだ。
絶体絶命のピンチに陥るジャスティス・ナイトのもとへ届けられた新たな力とは何か。
揺れ動く正義に苦悩するジャスティス・ライトは自分探しの旅の果てに自分自身の正義と向き合う。
次回、天空仮面ジャスティオン。
『甦れジャスティオン 空を舞うフェニックスのごとく!』
来週も君の心に、ジャスティース・オーン!!
「ちょっと待てーッ勝手に続くなああ!!」
なんです?後はあとがき書いて投稿するだけなんですが・・・
「いつもはあとがきなんてろくに書いてねえだろうが」
んなッ失敬な・・・いつもたまたま特に書く事が無いだけで、今回こそはバッチリ書こうと思っていたのに。
「やかましいッいいから話を進めろ」
・・・へーい。ええっと、などとくだらない話をしているとお面を外したフィルムが満面の笑みでラフィートの肩を叩く。
「センパイセンパイ。ボク、センパイの事侮っていました。スゴイです。強いです。これにはさすがのボクもビックリです」
「・・・お前なあ、褒めてんだか貶してんだか」
ラフィートはこう見えても勇者として目覚めてからタカラの猛特訓に耐え、4体の悪鬼との戦いを、さらには3年後の世界での極限の戦いを経験してきたのだ。あの程度のゴロツキに後れを取るはずもなかった。
「もっちろん、褒め称えているんですよ。ボクは強い人が大好きです。正義をなすためには強くなくてはいけませんから」
「ははは・・・そりゃどうも」
強い、と言うならそれはフィルムの方こそだろう。
ラフィートは以前にもフィルムの身のこなしを見て只者ではないと感じていたが、一緒に戦ってみて改めてその強さを実感させられる。
驚くべきはやはり、その空間認識能力の高さだろう。フィルムは先程の悪漢達と比べて小柄だ。彼自身の体感では倍の大きさに感じられたはず。それでも怯まず、逆に小柄なのを逆手にとって軽やかに立ちまわる。そして背中に目が付いているかのように周囲の状況を把握し、場合によっては味方のラフィートすらも巻き込んで利用しながら常に一対一に持ち込むのだ。
フィルムの戦い方はラフィートにとって理想ともいえるものだった。だが今のラフィートに彼のようなまねはできない。
タカラにもよく言われている、「前だけを見るな。常に場の流れを感じ取れ」それをフィルムはいともたやすく実践しているのだった。
「騎士学園都市出身ってのは伊達じゃないって事か」
「えへへ、でもボクなんて教官に比べたらまだまだです。もっともっと強くならないと教官には追い付けません」
「マジか・・・上には上がいるんだな。俺も・・・」
追い付きたい、追い越したいと思う相手としてタカラの顔が浮かぶ。
「ん?なんだよ」
フィルムにじっと見つめられていた事に気付きポリポリと頬を掻く。
「にひひっがんばりましょうセンパイ。あの輝ける正義の星になる為に!」
ビシッと暁の空の一番星を指差すフィルム。
「と言う事で、今日のノルマは後2正義って事で」
「まだやんのかよ」
「もちろんです。もういっその事、中央都市にはびこる悪を一掃する勢いで」
「無理無理。って、そう言えばさっき何を話してたんだ?確か前の時も何か聞きだしてたよな」
ジャスティオンの正義執行の後、その都度フィルムが悪漢と何かゴニョゴニョ話をしていた事を思い出し、気になっていたのだ。
「ああ、あれですか。別に大した事じゃあありませんよ。ボクの本来の目的を果たしていただけです」
「本来の目的?」
「ボク達が中央都市に来たのはある事を調べるためなんですが、うーん・・・言っちゃってもいいのかなあ」
「ん?ああ、確かムラサトの事を調べてるっつってたな」
首を傾げていたフィルムが目を点にして固まる。
「え?え?何で知ってるんですか?まさかエスパー?」
「いやいや、前に会った時にそう言ってたろ」
「んー、そうだっけ、じゃあいいか。そうなんです。ボクはムラサトについて情報を集めているんです。けどね、どうもいまいちパッとしないんですよ。誰に聞いても『いい会社ですよ』か『よくわかんないけどいいんじゃない』とかばっかりで、有名すぎるからでしょうかね」
ムラサト・コーポレーション。ラの国が誇る世界有数の大企業であり、ハルカの実家である。
ラフィートもムラサト製品はよく利用する。今朝貰ったブレイブフォンもムラサト製だ。
「そうなのか、でも『いい会社』ってんなら問題ないって事でいいんじゃないのか?」
「そういう訳にはいきません。だって、あの方はムラサトの悪事を暴くって仰っていたんですから。なのでそれならばいっそ悪い事をしてる人から見たらどうなのかなあって思って聞いてみたんです。けどやっぱり『よくわからない』んだそうです」
「ふーん、結局気にしすぎって事なんじゃあないのか。悪事ったって、たかだか一企業のやる事なんだし」
「何言ってるんですか。今日いろいろ聞き取りしてボクは背筋がうすら寒くなりましたよ」
「へ?なんで?」
「・・・誰でも名前を知っている世界的大企業、それなのに誰もそこが何をやっているのか知らない、知ろうともしない。唯々『いい会社』と口をそろえて言うだけ。何か、怖くないですか?」
「うーん、そう言われると確かに怪しいけど。ムラサトにまつわる噂は色々聞くけど、良くも悪くも『いい会社』何だと思うけどな。実際よくボランティア活動とかもやってるっていうし」
「それが彼らの隠れ蓑だとしたら?」
疑い出したらキリがない。と、その時だった。
――キャーッ!!
突如、表通りから聞こえた悲鳴。
「えッ悲鳴!?」
「悲鳴?てか歓声のようにも聞こえるけど」
「センパイ!ジャスティオン緊急出動です!」
お面をかぶり直すフィルムにラフィートは「またか」と、渋々ながらそれにつき合う。
「行きましょう!ジャスティス・GO!!」
「なにやってんですか、あなたは」
キョーマの冷ややかな視線にラフィートは言葉を失う。
よりにもよって一番見られたくない相手に見られてしまった。しかもお面をつけていたにもかかわらず一目で正体ばれてるし。
「うふふ、なんだか楽しそうな事をしていらしたのですね」
「うう・・・これには色々事情があって」
そう、先程の悲鳴は歩行者天国の見物に訪れたアズサ達に気付いた市民達の上げた歓声だったのだ。
「やれやれ、いい年してヒーローごっことは。同じ勇者として情けないにもほどがありますよ」
ぐうの音も出ないでいると、フィルムが目を輝かせて身を乗り出してくる。
「勇者!ああーッもしかして機の勇者キョーマくんですか!?わあ本物だあ」
「え、ええっと・・・ラフィート君、誰ですかこの人」
フィルムの穢れのない眼で迫られてはさすがのキョーマも身じろいでしまう。
「それにあなたはセンパイの彼女さんですね!写真で見るよりもずっとかわいいなあ・・・あれ?」
「はあ!?何を言ってるんだッ彼女?誰の彼女だって?ラ・フィ・ー・ト・君?」
「ちがッ違うんだ。これはほんの出来心で・・・やめろ、そんな目で見んな」
鬼の形相のキョーマを何とかなだめようと平謝りするしかないラフィート。
「えっと、残念ながら私とラフィートはそういう関係ではありません・・・まだ」
「まだ」の部分は小声だったため誰にも聞き取れなかったがはっきりと否定され、それはそれで「ガーン」っとショックを受けるラフィートだった。
「はあ、で、アズサ達はどうしてここに?二人だけなのか?タカラのおっさんは?」
いつもなら常にアズサの傍らに居るはずのタカラの姿がない。少し離れた所には私服の兵士がこっそり見守っているのだが。
「タカラには別件でお使いを頼んであります。レキアさん達の事は分かりませんが今は私達だけで明日の準備をしていました」
「明日の?明日ってなんかあったっけ?」
「そうでした。ラフィートは朝居ませんでしたからまだ話していませんでしたね」
「朝はタカラのおっさんにしごき倒されてたよ」
「ぷぷ、ざまあ」
キョーマは後でぶっ飛ばすとして。
「えっと、三件ほどお知らせがあります。まず一件目、明日から二日間ほどキョーマさんのご両親にお会いしに行く事が決まりました」
「ああ、キョーマの家庭訪問の日取り決まったのか」
「うー、やだなあ・・・やだなあ・・・」
里帰りを心底嫌がっている家出少年キョーマを見て、今の状況を理解するラフィート。
「なるほど、それでアズサと二人にして機嫌を取ろうって作戦か、考えたなタカラのおっさん」
「私とキョーマさんとタカラは暫く留守にしますがその間、あまり羽目を外し過ぎないようにしていて下さいね」
「アハハ、自重します」
で、二件目。
「次の土曜日、テレビ局の取材を受ける事になりました。リビングの引き出しに先方からのアンケートがありますので、戻ったら確認しておいて下さいね」
「へえ取材か。正式な取材って初めてじゃない?」
アズサがラの国を訪れてから今日までに取材依頼は多々来ていたが、そのことごとくをシャットアウトしていたのは王室広報である。
アズサの姿を映した画像をネットワークに流す事は基本NGである。その為、現地のマスコミはアズサの事に触れながらも報道の多くを自ら取材した勇者達の話題で占めていた。
「先日の悪鬼との戦いの時に協力していただいたセントラル中央テレビのフォト―プロデューサーから直接申請を受けまして、彼とは口頭でありましたが約束をしていまして、こちらとしても悪鬼に関する注意喚起は促すべきと考えていましたから今回の取材を受ける事としました」
「OK。それで三つ目は?」
ラフィートに促されてアズサはこくりと頷き、話を続ける。
「三件目についてですが、同じ次の土曜日になります。ムラサト・コーポレーションの総帥ムラサト・カナタ様からパーティの招待状を頂きました」
「ムラサト?カナタって確かハルカのお兄さんだっけ」
「はい。私的な催しであるならお断りしようかとも思ったのですが、なんでも先の悪鬼討伐の戦勝会との事で、中央都市の危機を救ってくれた勇者の方々を労いたいのだそうです」
アズサ個人にではなく勇者隊に出席してもらいたいと言われれば無下にも出来ず、勇者達を出席させるとなればアズサも同席せざるを得ない。
タカラ曰く、「ムラサト・カナタは油断ならない男だ。決して気を許さぬよう」である。
「ムラサト!今ムラサトって言いましたよね。はいはーい、ボクも一緒に行きたいです!!」
耳ざとく、話を聞いていたフィルムがピョンピョンと右手を上げて飛び跳ねるのをキョーマがため息交じりに落ち着かせる。
「君ね、部外者は黙っててくれるかな」
「えー、ボクだって勇者の一人ですよ。ね、センパイ」
勇者と名乗ったフィルムにアズサは興味を引かれる。
「失礼ですがあなたは?」
フィルムは慌てて姿勢を正し、ビシッと敬礼してみせる。
「はいッ初めましてアズサ姫さま。ボクは正義の騎士の勇者フィルムです!お会いできて光栄です。どこかで見た事あるなあって思ってましたがやっぱりお姫さまでしたね」
「はい・・・初めまして?はて、前にどこかでお会いしたことがありませんか?」
「ないです。えへへ」
人差し指を頬に当て首を傾げるアズサだが「そうですか」と頷く。
「それで、どういう事でしょうかラフィート?」
アズサはラフィートに目配せをして説明を求める。
「ほら、以前に話したろ?自称勇者のフィルム。こいつがそうさ」
「なるほど、そういう事でしたか。ではフィルムさん、よろしければ例の物をお見せいただけますか?」
例の物とはもちろん勇者のオーブの事である。
「はいッこれですね」
フィルムはごそごそと懐を探り小さなガラス玉を取り出してアズサに差し出す。
「これは・・・失礼ですがこれをどちらで?」
「姉さまからいただきました。大切なものだから肌身離さず持っていなさいって」
「・・・そうですか。ではこれからも大切にして下さいね」
フィルムに勇者のオーブ?を返すアズサにラフィートは「どうだった?」と、そっと耳打ちする。
「残念ながら、あの玉からは何の力も感じ取れませんでした。おそらく偽物でしょう」
「そうか、やっぱりか・・・」
フィルムに聞かれないように顔を近づける二人の間にキョーマが割って入る。
「離れて下さい。まったく君は直ぐぬけがけをする。油断も隙もありゃしない」
「あのー、それでボクも連れて行ってくれますか?」
勇者のオーブ(偽物)を懐にしまいながら恐る恐る尋ねるフィルムをキョーマはキッと睨む。
「ダメに決まっているでしょう。なんなんですか君は」
「キョーマさん。構いませんよ、人数の指定はありませんですしこれも何かの縁でしょう。ご一緒しましょう」
キョーマを手で制しながらアズサはフィルムに微笑んで見せる。
「やった!だったらあの方や姉さま達も一緒でも構いませんか?」
「ええ、是非」
「そういえば、あの方って誰なんだ?さっきからずっと気になってたんだけど」
「誰って、クオルスさまですよ。アズサさまの兄上の」
「ぶふックオルスって!!」
「うえぇッ第2王子のクオルス殿下ですか!?」
予想だにしないビッグネームに吹き出す少年達。当のアズサは顔色を変えずニッコリ微笑む。
「まあそうでしたか。クオルスお兄様のお知り合いの方でしたとは大変失礼いたしました」
・・・
やや間をおいて。
「クオルスお兄様ぁああーッ!!?」
アズサのノリツッコミが歩行者天国終了を告げる鐘の音のように夕焼けに染まる中央都市に木霊するのだった。
つづく
都合によりあとがきはありません。
ラフィート「やっぱり書かないじゃないかッ」
次回もお楽しみに。