ムラサト驚異のエレクトロニクス
11話です。
ラフィートは特に目的もなく昼下がりの街並みを散策していた。
その手に誇らしげに握られた携帯型通話魔導器、まだ他の誰も持っていない最新モデルをニヤニヤしながら弄る。
待ち受け画面に写るのは少し恥ずかし気にはにかむアズサの笑顔。この写真が撮られたのは今朝の事・・・
「パンパカパーン♪みなさーんグッモーニン!!」
妙に高いテンションのハルカが待ち受けるリビングに入ろうとした少年達は無言でくるりと踵を返す。
「こらこら、人の顔見て逃げるって失礼でしょうが」
「いやだって・・・」
「嫌な予感しかしませんし」
「なにか悪だくみしてんだろ、どうせ」
ぷくーっと頬を膨らませるハルカの隣でクスクスっと笑いを堪えているアズサが少年達を席に誘う。
「うふふ、大丈夫ですよ。みなさんこちらへどうぞ」
互いに顔を見合せ、渋々席に着く少年達。
「厄介事なら勘弁してくれよ。今日のタカラのおっさんはやたらはりきってて、もうくたくたなんだからさ」
「何かいい事でもあったんでしょうかね、こっちにしてみればいい迷惑ですけど」
ぼやく少年達を、タカラを焚きつけた張本人であるアズサは澄ました顔で「おつかれさま」とねぎらうのだった。
「それでハルカ、何を企んでるんだ?」
レキアはテーブルにこれ見よがしに置かれている箱に手を伸ばそうとするが、ピシッとハルカにはたかれる。
「んっふっふっ。気になる?そうでしょうともそうでしょうとも。さあ3人とも受け取りなさい。そしてハルカお姉さんを称えるがいいわ」
だが!
「ちょっと、早く受け取んなさいよ」
少年達は誰もその箱に手を付けようとしなかった。先ほど手を伸ばしかけたレキアでさえ怪訝な表情でいる。
「あやしい・・・」
「ぜってー、なにかあんだろ?これ」
「開けたらビリビリッてくるとか?」
「・・・つべこべ言わないでとっとと開けろうね?」
ダンッ!っと、テーブルに拳を叩きつけるハルカの剣幕に押されて少年達は恐る恐る箱を開封する。
「・・・お?」
箱の中には一回り小さい箱。その箱を見たラフィートが顔をほころばせる。
「これってケータイ?あれ、でもこの型番見た事無いぞ」
「本当にケータイなんですかこれ?どこにもキーボタンがありませんよ」
早速取り出したキョーマが実機を見て首を傾げる。
「ふっふっふ、電源をつけてごらんなさい」
薄い板の様な本体の側面に付いている電源ボタンを押すと同時に画面が映りだされる。
「うわっなんだこれ。全体がディスプレイなのかよ」
「そう、そして」
ハルカがつつっと白魚のような細い指を画面に滑らせる。と、画面が映り替わる。
「動いた!どうなってんだ!?」
「ふっふっふ、業界初!タッチパネル搭載なのよ」
「タッチパネル?すげッ画面にキーが出てきた。おお、押せるッちゃんと反応するぞ」
「従来機通り通話はもちろん、メールやカメラ機能は標準搭載。フレンド間でのツイットチャットと使って便利な各種アプリ、もしもの時に使える電子マネーなどなどなど。これでもかってくらいに最新機能を搭載した特製ケータイよ」
「特製・・・え、それが人数分あるって事はもしかして・・・」
ラフィートは期待を込めてハルカに尋ねる。
「そう、これは今日から君たちのモノよ。大事に使いなさい」
おおっと歓声が上がる。
「マジか!やったぜ。丁度買わなきゃって思ってたところだったんだよ。ん?どうしたレキア」
「いや・・・何か裏があんじゃねえのかって思ってよ。法外なローン組まされるとか?」
「ありうる話ですね。ハルカ姉さんが善意でいい事する訳が・・・いひゃい」
ハルカにほっぺをつねられて悲鳴を上げるキョーマ。
「お金なんて取らないわよ。通信料は取るけど(ボソッ)」
「え、なんて?」
「んんっなんでもないなんでもない。ともかく!これはこれから悪鬼との激しい戦いに身を投じる君達の為に用意したものなんだから。姫ちゃんにアドバイスしてもらったのよね」
「ふふふっ私は少しお口添えしただけです」
「よくお聞きなさい!エレクトロニック・ムラサトが総力を挙げて開発した超新世代型ケータイ。その名も『ブレイブフォン』!!」
「「ブレイブフォン!?」」
キレイに声をハモらせる少年達。
「強大な悪鬼と戦っている最中、「そう言えばガスの元栓閉めたかしら?」っと気になってしまって転んでしまって悪鬼に踏みつぶされちゃったよぅって時があるかもしれない」
「ねえよ。てかなんで女言葉だよ」(レキア)
「そんな時でも心配ご無用!ケータイ本体には新開発されたどんな衝撃にも耐える特殊素材を使用!!なんと成層圏から落下しても決して壊れない!!」
「成層圏って・・・」(キョーマ)
「戦闘中、急な用事があるのに電波が弱くてメールも出来ないよぅって時も安心!」
「なんでさっきから戦闘中限定なんだよ」(ラフィート)
「超貴重なレアメタルを独自の技術で加工しました。これによりなんと!深海2万メートルからでも通話が可能なのです!」
「んなとこから誰が電話すんだよ」(レキア)
「せっかく優しくて美人なハルカお姉さんにケータイを貰ったのにどこかに落としちゃったよぅ。そんな時悪鬼が「勇者くん落としましたよ」って拾って届けてくれたのはありがたいけどセキュリティは大丈夫?」
「親切な悪鬼だな、おい」(ラフィート)
「安心してください。人それぞれに違う微弱な魔力を認知する個人認証システムを搭載しております。あなた以外の人では決して動かせません!!」
「今ハルカ姉さん動かしませんでした?」(キョーマ)
「ぶぅ、何よさっきから文句ばっかり言って。いいわよいいわよ、いらないんなら返しなさーい」
ほっぺを膨らませてそっぽを向いてしまったハルカに少年達は「すみませんでした」と素直に謝るのだった。
「でもほんとにタダでいいのか?」
「まだ発売されていない最新型なんでしょう?」
「本人がいいってんだからいいんだろ。大方、俺らにテスターやれって事なんじゃねえの。どうせすぐに量産型を出してして稼ぐ気なんだろうさ」
「む・・・レキアのくせにするどい」
「な」っとレキアは得意げな顔をする。と、即座にハルカのチョップが炸裂する。
「まあそれでも悪い話じゃあないでしょ。さっきも言った通りこれは君達専用にカスタマイズされているのは本当よ。ね、姫ちゃん」
「そっか、アズサも関わっているんだったね」
「はい。みなさんには必要な物ですし、それでしたらみなさんの助けになるような物になればとアドバイスさせていただきました。以前、ラフィートが勇者のオーブを誤って紛失した事がありまして、勇者のオーブを安全に常時手元における物はないかと思案しておりましたところにハルカさんから相談を持ち掛けられたのです」
「んー、ラフィート君がケータイ失くして困っていたから大至急でって言ってなかった?」
「はわわっ違いますッみなさんのためです!本当ですよ!」
慌ててハルカの腕を引っ張るアズサに自然と場が和む。
「もう、ハルカさんはッ。コホン・・・えっと、それではみなさん勇者のオーブを本体にあるくぼみにセットしてみてください」
「勇者のオーブを?」
言われてブレイブフォンにある丸いくぼみにオーブをセットしてみる。
「先ほどのハルカさんの説明の補足となりますが、ブレイブフォンの主電源は勇者のオーブから発せられるエネルギーを利用しています。それゆえ他の通話魔導器のように魔力の影響により通信制限がかかる事はありません。セキュリティに関しても同様に勇者のオーブはその持ち主である皆さんにしか扱えませんので、万が一第三者の手に渡ったとしても起動させる事は出来なくなります」
「お、カチッとはまった。・・・ん、画面に新しいアイコンが出てきたけど」
「はい、ではそのアイコンをタップしてください」
言われるままに操作すると画面が切り替わりステータス画面が現れる。
光の勇者 ラフィート
悪鬼封印数 02
年齢 16歳
身長 171㎝
体重 62㎏
固有能力 物体を引き寄せる力
勇者能力 距離無効
距離無効の眼
光速移動
勇者技能
衝撃波 Lv1
連結 Lv0
・・・・・・
獣の勇者 レキア
悪鬼封印数 02
年齢 16歳
身長 175㎝
体重 63㎏
固有能力 幻覚
勇者能力 群体制御
群体指令
勇者技能
対魔力 Lv0
鈍化付与 Lv1
・・・・・・
機の勇者 キョーマ
悪鬼封印数 00
年齢 13歳
身長 155㎝
体重 49㎏
固有能力 未来視(封印中)
勇者能力 物体の再生成
勇者技能
・・・・・・
画面に映し出されたステータス、その中でもラフィートが気になったのは悪鬼封印数の項目である。
「アズサ、この悪鬼封印数って」
アズサに尋ねようと顔を向けると、アズサは人差し指を唇に当て沈黙を促す。
勇者のオーブには悪鬼を封印する力がある。勇者は悪鬼をより多く封印する事で力を得る事が出来る。だがその数には限度があり、それは勇者の命にかかわってくる。
ラフィートが未来で知ったこの秘密はアズサに口止めされていた。アズサには何か考えがあるのだろうと、ラフィートは言われる通りにするしかなかった。
「僕のステータス真っ白ですね・・・むう」
悔しそうにステータスを見比べるキョーマはビシッとラフィートを指差す。
「いい気にならないで下さいよ。次の悪鬼は僕が倒しますからね。ぜぇーったいに負けませんから!!」
「あ、ああそうだな。でもそんなに焦らなくてもいいんじゃないか・・・なんて」
「なんですかそれ、そんな事言ってまたぬけがけする気ですね。その手には乗りませんよ。次は絶対僕が悪鬼を倒しますから!」
鼻息を荒くするキョーマに押され、ラフィートはついアズサに目を向けるがアズサは素知らぬ顔で「がんばってくださいね」と、キョーマを応援する。
「ラフィートも」
そう言ってもう一度人差し指を唇に当てて見せる。
「あ、ああ・・・わかってる(黙ってろって事ね)」
と、レキアの様子がおかしい事に気付き「どうかしたのか」と声をかける。
「お前ら・・・よく見て見ろ。下の方の端っこ」
「端っこ?・・・ん、なんか書いてあるな。ええっと・・・」
インスタントパワー利用枚数 48枚
「なッなんかカウントされてるうう!!」
「ゲームによくあるカルマ値みたいですね」
ステータス画面の思わず見落としがちになりそうな下の端っこに表示されているのはそれぞれが使ったインスタントパワーの数だった。
ちなみにレキアは89枚、キョーマは0枚である。
「うふふ、そこに気付くとはさすがねレキア。そう!支払いを忘れがちなあなたもここを見れば一目瞭然。気兼ねなく使ってちょうだい。ただし、ご利用は計画的にね」
「うるせえよ、守銭奴が」
「そうそうインスタントパワーのお札を100枚使ってくれた先着一名様には粗品(ムラサト社のロゴ入りてぬぐい)をプレゼントしちゃうからジャンジャン使ちゃおう」
「せこい!」
「・・・これって使った回数じゃなくて使った枚数なんですね。どうしてなんですか?」
キョーマはハルカに素朴な疑問を問いかける。
「ああ、それはね。前にいたのよ、お札を10枚寄こせって持っていっておいて、お仲間で分けたから自分が使った分しか代金を払わねえって支払いを踏み倒そうとしたどっかのバカがね!」
ハルカはジト目でレキアを見る。
「レキア・・・お前・・・」
レキアがこれまでにしてきたであろうささやかな抵抗の数々、それを思うと目頭が熱くなる少年達であった。
「えっと、話を戻しますけどブレイブフォンのカメラでスキャンする事で対象のステータスを見る事が出来ます。これで悪鬼がどの様な技能を所持しているかが分かります。ご自身が今必要な技能を持った悪鬼を狙う、といった作戦も取れますのでいろいろ試してみてくださいね」
「へえスキャンか・・・」
アズサの説明を聞いてラフィートはカメラをアズサに向ける。
「アズサ、笑って」
「え?あ、はい」
パシャリッ
ラフィートのブレイブフォンの画面に少し恥ずかし気にはにかむアズサの笑顔が写しだされる。やや遅れてピピッとステータスが表示される。が・・・
「お、来た来た。スリーサイズまでバッチし・・・あれ、文字化け?」
「んだよ、もう壊れたのか?ムラサトタイマー発動すんの早すぎだろ、いてッ」
ハルカの無言のチョップがレキアに炸裂する。
「ちょっ、なにしてんですか。君はまたそうやってぬけがけをして・・・僕にも見せて下さい」
ラフィートが写したアズサのステータス画面を覗きこむと突然ブレイブフォンからブザーが鳴りだす。
「わわっなにごと!?」
「ああ、言い忘れてたけどそれで女の子を盗撮しようものなら即座に隊長さんに通報されるようになってるから」
「は?」
ハルカの言葉の意図は次の瞬間に理解される。
バンッ
と、勢いよく扉が開かれ、鬼の形相をしたタカラが現れたからだ。
「悪い子はいねが~」
「ひぃッ」
「悪い子はお仕置きだ。たーっぷりしごいてやるから覚悟するんだな」
「ひ~ん、ごめんなさーい」
哀れラフィートはタカラに引きずられていくのだった。
「まったく、ひどい目に遭ったぜ。けどまあ、新しいケータイも手に入ったし、なにより可愛いアズサの写真も撮れたしツイてっちゃツイてるのかな」
タカラの地獄のお仕置きトレーニングから解放されてやっと自由になれたラフィートは遅いランチを取る為にぶらぶらと街の散策を続ける。
「何食おうかな・・・ん?」
何やら路地裏が騒がしい。
何気なしに路地裏を覗き込むと影から猛スピードで突進してくる少年が見えた。
「わあ!どいてどいて!!」
「えッえ?」
なんだかすごく既視感を感じる。
ドッカーンッ
結局ラフィートは避ける事が出来ず少年のタックルをまともに食らう。二人は折り重なるように転倒する。
「いっててて、なんだあ?なんか前にも同じような事があった気がするぞ」
「いったあ・・・もう、どいてって言ったのにひどいよう」
仰向けに倒れるラフィートに覆いかぶさっていた少年が非難の声を上げる。ここでお互いの顔を見合わせて、同時に驚きの声を出す。
「ああッお前は・・・」
「あー、君は確か・・・ラフォーレくん?」
「ラフィートだ!えっと、フィルムだっけ?何してんだよ一体」
「何って・・・あ」
「あ?」
すると路地裏から、これも聞き覚えのある野太い声が聞こえてくる。
「待ちやがれ坊主!何度も何度も逃げんじゃねえ」
「げげ、ヤバい。ほらラフォ―トくん、逃げるよ!」
「ラフィートだってって・・・ぅえッ何で俺まで!?」
フィルムはラフィートを引っ張りあげて一目散に駆け出す。袖を掴まれたラフィートも否応なしに走らざるを得なかった。
つづく
つづきます。お楽しみに。