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アズサはわがまま?

9話です。よろしくお願いします。


 ラの国の首都『自由交易都市セントラルシティ』

 中央都市セントラル5つの都区の一つ、中央区にある国立中央情報管理センター(通称情報局)に今日もアズサはタカラと共に訪れていた。

 目的はもちろん悪鬼に関する情報を集めるためだ。

 情報局内に急遽作られたアズサ専用のスペースにアズサが手当たり次第に選んだ資料が山積みになっている。

 資料の山に埋もれているアズサにタカラが「そろそろ一休みしましょう」と声をかけると、「もう少しだけ・・・」と、か細い声で答えるのでタカラは力ずくでアズサを抱き上げ、資料から引き離す。

「もう・・・強引なんだから」

 抗議するアズサにタカラは毅然として動じず、「このままお抱えしてお連れしましょうか」と茶目っ気にウインクしてみせる。

「うう、恥ずかしいから早くおろして」

 タカラは言われるままアズサをそっと下ろす。

「それで、何か収穫はありましたか?」

「いえ、残念ながら・・・そういえば、一つだけ気になったものがあったのですが」

 アズサは机の上に分けられた資料の中から一枚の新聞記事をタカラに見せる。

「これは・・・10年前の記事ですか。ふむ、爆発事故?」



 記事によると、聖歴S40年10月25日未明。ノウスバレー近くの町で爆発事故が発生したのだという。その町は大渓谷の鉄橋建設作業者達が暮らす仮設居住区だった。

 建設作業は難航しており、作業環境の過酷さから待遇改善を求めた労働者側と出資者側とで対立していた最中に起きたこの事故は死傷者、行方不明者含め40名以上の犠牲者を出してしまった。

 原因は作業に使っていた火薬類に誤って引火してしまった為とされているが、真偽のほどは明らかになっていない。

 この事故を受け、多くの投資企業が鉄橋建設から手を引く中、最後まで残って投資し続けたのはムラサトコーポレーションだけだった。

 

 聖歴S43年、ムラサトグループの総力を挙げた技術提供によって遂に鉄橋は完成する。その頃には多くの人々の記憶からこの事故の事は忘れ去られていた。



「ハルカさんがあれほどまで頑なに鉄橋を守ろうとしたのはこういった経緯があったからだったのですね」

 ふと、記事に見入っているタカラに気付き顔を覗き込む。

「姫様、私は己の思慮の至らなさが情けのうございます。騎士として守るべき人々の思いを踏みにじろうとしていたのですから・・・自分は隊長失格であります」

 中央都市へと迫る悪鬼“トレイン”に対し勇者隊は決断を迫られた。トレインの足止めをするべく大渓谷に架けられた鉄橋を落とすか否か、だ。

 その時タカラが提案したトレインもろとも鉄橋を落としてしまおうという作戦をただ一人ハルカが否定したのだった。

 結局、ラフィートとアズサを説得したハルカに軍配が上がり、タカラの案は却下された。

「タカラ、そんなに自分を卑下しないで。あなたの判断はけっして間違っていませんでしたよ。あの時点の私たちの戦力では悪鬼は止められませんでした。それはラフィートが見て来た未来の世界が証明しています」

 ラフィートが未来から“力”を持ち帰ってこなければ中央都市の壊滅は免れなかっただろう。

「私とて常に正しい判断が出来るわけではありません。タカラが、みんなが支えてくれるからこうしていられるのです。ありがとう、タカラ」

「そんな・・・もったいないお言葉、恐れ入ります」

 ペコペコと頭を下げるタカラに微笑みながらアズサは資料を戻し、「そうだわ」とポンッと手を合わせる。

「タカラ、これから買い物に行きましょう」

「は・・・?買い物ですか」

「ええ、私と二人で。ダメかしら?」

 アズサはイタズラっぽく目を細めて囁く。

「そんな事は・・・え、ふ、二人で、ですか?いえ光栄であります」

 二人で、と言う言葉に年甲斐も無く鼓動が高鳴るのが分かる。

「うふふ、いつものお礼も兼ねて私が見立ててあげますわ。タカラにはどんなのが似合うかしら」

(ひ、姫様と二人で買い物だと・・・こ、これはデートなのでわッ)

 アズサに腕を組まれ、思わず頬が緩むもフルフルと首を振って引き締め直す。

(いやいや、今朝仰っていたではないか。これはその準備のためなのだ)




 というのも今朝の事。

「突然ですがキョーマさん。よろしいでしょうか」

 朝食の席でアズサは唐突にキョーマに問いかけた。

「はい?何の事でしょうか。もちろん姫さまの仰られる事ならYES以外の言葉なんて持ち合わせていませんが。あはは」

 冗談だと分かっていてもラフィート達は引かざるを得ない。居たたまれない空気もアズサの鈴の音のような声が和ませてくれる。

「ではキョーマさん、ご両親にお伝えしてもらえますか。ご挨拶に伺いたいので都合の合う日時をお教えしてくださるように、と」

「・・・え?」

カランッと、キョーマの手からフォークが零れ落ちる。

「よろしくお願いしますね」

 ニコッと微笑むアズサを前にキョーマは慌てて首を振る。

「いやいやいやいやいやッムリですダメです出来ませんよッ」

「あらぁ、姫ちゃんの言葉にはYESしか無いんじゃなかったの?」

 クックッとにやつきながらツッコミを入れるハルカにキョーマはがっくしと肩を落とす。

「キョーマは勇者だとはいえ、本来なら義務教育を受けねばならない立場である以上保護者の承諾が必要なのだ。家出中だというのならなおさらな」

 キョーマはアズサに会いたい一心で家を飛び出してきた家出少年なのだ。

「で、でも・・・それを言ったら姫さまだってまだ14才じゃないですか」

 何とか食い下がろうとするも「バカ者」っとタカラに一蹴される。

「貴様と姫様を一緒にするな。姫様は既に高等教育まで終えられているし、聖王陛下の許可も得ているのだからな」

「すみませんでした・・・」

 まさにぐうの音も出ないキョーマだった。

 キョーマが家庭の事で問題を抱えている事を分かっているアズサだったが、それでも避けていく訳にもいかない。

「心配しないでキョーマさん。悪いようにはしませんから」

「姫さま・・・わかりました。後で電話してみます」

 含みを持たせたアズサの言葉にキョーマも渋々頷くしかなかった。

「そういえば俺ん時も親に合わせてって言われたっけ」

 タリアシティでの悪鬼との戦いの後でラフィートもアズサにそう言われたのだった。

「ま、あいさつとか色々話をするだけだから安心しろよ」

 心底嫌そうに気落ちしているキョーマの肩をポンポンと叩く。

「何を言っておる。話だけで済む訳なかろう」

「え?」

「ラフィートは義務教育は終えられていましたが定職にも就かず、かつ未成年でもありましたから、きちんと保護者の方に手続きをしていただかなければなりませんでしたからね」

「え?え?手続きって?」

「契約金や年俸等の必要手続きだ。お前の身柄を預かるものから、万が一の場合に責任の有無。そして生命保険の受取人等々、多岐にわたる契約書類に捺印してもらわなければならなかったからな」

「え・・・そんな事してたの?いつの間に」

 その時のラフィートは悪鬼との戦いの疲労とアズサが隣にいるという事で舞い上がっており、アズサの言葉もうわの空で頷いていただけだったのだ。

「ふっ、まあ俺には関係なかったな。なにせ親なんていねえし」

 皮肉っぽくニヒルに振る舞うレキアだが「え?」っとアズサが首を傾げる。

「え?って、何。なにかあんのか?」

「え、だって・・・」

 アズサはチラッとハルカを見る。

「レキアの場合はハルカ殿とユノハナレジスタンスの面々に手続きしてもらったが、聞いていないのか?」

「ハルカさんは既に成人されていましたし、レキアさんの保護者みたいなものだって言われて・・・」

「おまっ、それってまさか」

 そう、レキアの契約金の受取人はハルカがとユノハナレジスタンスの少年達という事になっているのだ。

「くそっどうりであいつら、妙に気前よく送り出してくれたと思ったよ」

「だってッあたし達は家族のようなものじゃない!レッキュンの事が心配だったのよ」

「レッキュンはやめれって」

金づるレキアのいない生活なんて・・・あたし耐えられない!!」

「ハルカ・・・お前今、金づると書いてレキアって言ったろ?」

 レキアは「テヘ☆」っと頭を小突くハルカを恨めしそうに睨む。

 微笑みながらアズサはコホンっと咳をつき、話を戻す。

「とは言え、大勢で押し掛けるわけにもいきませんから、キョーマさんと私とタカラの3人でお伺いさせていただきますね」

「じゃあその間俺らは何してればいい?」

 ラフィートの問いにはタカラが答える。

「心配する必要は無い。このホテルのトレーニングジムは自由に使っていいと許可はとってある。思う存分自主トレに励むが良いぞ」

「うへぇやぶへびだったか」

 そこへ勢いよくドアが開くと荷物を抱えたソフィラが入ってくる。

「あら、ソフィラちゃんお出かけですか?」

「うん。この前教えてもらった月影山げつえいざんのお姉ちゃんのお家に行ってみようと思って」

 姉であるケインを探しているソフィラは広い中央都市での探索を諦め、アズサ達から聞いたケインの山小屋へ向かうつもりなのだと言う。

「お一人で大丈夫ですか?なんだったらラフィートについて行ってもらいましょうか?タリアシティも近い事ですし」

 そう言うとラフィートも「別に構わないけど」と同意する。

「んー、でもお・・・ラフィートくんエッチだからヤ」

「ちょっ、何言ってんの」

「・・・へぇ、今度は一体どんな粗相をしたのかしら?」

 アズサからの凍えるプレッシャーに「ひぃ」っと悲鳴を上げる。

「違っ、何もしてないから。ホントに!」

「もう、知りません。タカラッご挨拶に行くための準備をしておいて下さいね」

「はっ」

 そう言ってアズサはソフィラを見送る為に一緒に部屋を出て行くその間際にラフィートへあっかんべーっと舌をだすのだった。




「ふふふ、それにしてもあの姫様がやきもちを妬かれるとはな。この旅に出て姫様も成長されているのだな。相手があの男だというのは少々複雑だが、悪い事ではない」

 アズサの年齢を考えればごく自然な事だと思う。むしろ今までがアズサを抑圧しすぎていたのだと。

「姫様はもっとわがままを仰られてもいい。私は、いや彼らの誰もがそれを咎めはしないだろう」

 ふと気づくとアズサの姿が見えない。

「姫様ッ」

 タカラが物思いにふけっている隙にアズサは再び資料の山の中に戻っていた。

「もう少しだけ・・・」

 と、か細い声で答えるので力ずくで引き離す。

「わがまま言わんでください!」




                                          つづく

次回10話もお楽しみに。

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