第2章:紫夜の攻防_01
なだらかな山地にある、鉱石採掘場付近の森を少し切り拓いた空間。
まるで堅牢な要塞のように、鉱山の事務所がそこに鎮座している。
鉄筋コンクリート製の古びた建造物のそれは、事務所として使われているにしては随分と大きな建物だった。
というのも、その建物の半分以上は採掘した蓄雷石の原石を純度が高く質の良いものにするための精錬工場や、商品にするための形状加工も行う研磨工場も兼ねているからだという。
事務所はその一角に併設されていた。
第三次世界大戦終結後に創業したこの鉱山は三角で七代目にあたり、見た目の古さに違わぬ長い歴史を持っていた。
まだ作業をしている職員がいるのだろう。
建物の壁面を彩るようにいくつかの窓から明かりがまばらに漏れていた。
「どうぞ、小汚い所だけどゆっくりして」
事務所内の応接間に案内された三人は、長方形の卓を囲むようにして置かれた黒い革張りのソファーにおずおずと腰掛ける。
香ばしい香りと共に盆に白い陶器のカップに淹れた人数分のコーヒーを持って、三角が備え付けの給湯室から出てきた。
インスタントではなく、自らコーヒーミルで挽いたのを抽出したものだろう。
一口飲むとほんのりとした苦味が舌を撫で、ナッツのようなカラメルのような、そんな香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。
「まぁ、なんだ、早速本題に入る訳なんだが」
三角は響達の反対側にあるソファーに座り、棚から持ってきた地図を卓に広げる。
「これを見て欲しい」
それはここからREDまでの運搬経路と、その周辺を記した地図のコピーだった。
Blue鉱山の駅から伸びる路線を示す二本の青い線と一本の赤い線。
その線の先は、全て収束するようにRed国区域内の終点まで続いている。
その途中、国境のラインとそれぞれの路線が重なる位置に三つほど赤い円が並んで点在しており、上から順にA、B、Cと書かれていた。
これらはそれぞれの輸送線を意味し、二つの青い線は輸送用、赤の線は蓮見達が使ってきた移動用の路線だ。
そのうちのBの円には黒のペンで×が付けられている。
三角はその×が付けられた箇所を指差した。
三人はそれが何なのかすぐに理解する。
「これは…」
雅が思わず呟いた。
「そう、この赤丸は君たちの国が管理しているはずの『関所』だ」
三角は地図を指差すと、ぐるりと円を描く動作をする。
「つい先日、この近辺で大きな爆発があった」
「爆発…?!」
蓮見達は驚きに目を剥く。
三角は続けて、×がつけられた、ちょうどB路線とC路線との中間にあたる部分に印された青い点を指差す。
「偶発的なものか人為的なものかは現在こちらで調査しているところだ。
しかし運悪く爆発したのがこのBの変電所らしくてな。
規模はそこまでデカくなかったし怪我人がいなかったのが幸いだったが、爆発のせいで変電所がイカれちまったのが原因でB門を開閉するシステムサーバーがダウンして門が開けられなくなったんだ」
「えーと…?」
「要するに、この変電所が壊れたから自動で関所を開けられんくなったっちゅーこっちゃ」
「ああ!」
訳が分からないといった顔をする草太に、蓮見は地図を指差しながら簡潔に説明する。
関所を示すポイントには、後から書き加えられたと思しきメモが点の周囲に散りばめられている。
三角自身も原因を探っていたのだろう。
ダイナマイト、磁場による変電所の暴発、土中にあった蓄雷石の自然発火などなど、枝分かれするように様々な要因が記入されていた。
しかしどれもピンと来なかったらしい。
メモはほとんど二重線で消されている。
三角から説明を聞きながら地図を眺めていた蓮見は、ある疑問を口にした。
「爆破箇所が二つ…?」
三角が爆破があったと言った場所以外にもう一つ。
さほど遠くないポイントにバツがつけられていた。
隣に事件があったとされる日付も書かれている。
今から一週間ほど前だ。
蓮見は以前新聞の記事でBlue鉱山の施設の一部が爆発したという事件があったのを思い出す。
確か記事では加工処理中で発熱していた蓄雷石に作業員が誤って冷却水をかけた事による熱暴走が原因だと書かれていたが…。




