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■第二十三夜:献身の作法

         ※


「あの場で掃射しておくべきだったのかな」

 思いがぽつり、言葉になった。


 ここはカテル病院騎士団が管理する小型の宿営施設だ。

 異能者に率いられた少人数の戦闘集団が防衛戦闘時ゲリラ戦を仕掛けるための補給施設が、カテル島には無数に配されている。

 言うなれば、この島全体が巧妙に要塞化された城なのだ。


 その一棟にアシュレとシオン、そしてその愛馬であるヴィトライオンが潜り込んだのは明け方近くになってからだ。


 シオンの探知能を頼りに撤退したふたりの夜魔を追跡したが、休眠に入ったのだろう彼らの足取りは途端に辿りづらくなった。


 ふたりは人類側に分のある昼間に賭けることにした。

 ヴァイツはデイ・ウォーカーではないからだ。

 消耗を避け、体力の回復に努める決断をした。


 雪は降り続いていて気温は恐ろしいほど下がっている。


 この小屋に潜り込んだとき全身に浴びた雪が解け汗と混じって、アシュレは濡れ鼠のような状態になっていた。

 たまらず衣類を脱ぎ捨てた。

 冷えて濡れた衣類はたちまちのうちに体力を奪う。


 鋼鉄の甲冑を着て夜中じゅう馬を走らせたのだ。

 鞍から降りる直前に、身体の前面は凍りつき、震えが止まらなくなっていた。


 衣服は絞って水を抜き、広げて吊るす。

 積んであった麦わらと飼い葉の束を崩す。


 秋に刈り取られ備蓄された真新しいそれで、アシュレは裸のまま、ヴィトライオンの馬体を拭いてやる。


 生還したら、一番最初に馬を労ってやれ。

 戦場をともに潜り抜けた戦友を思いやってやれ。

 それは父であるグレスナウから文字通り教鞭によって叩き込まれ、すでにアシュレの骨身に染み込んだ習慣である。


挿絵(By みてみん)


『馬は戦場でオマエに献身してくれる。だから、馬から下りたならその感謝をすぐに示すんだ。そのことを馬は忘れない。ヒトも同じだ。信頼はそうやって育むものだ』


 アシュレの献身に、ヴィトライオンはうっとりと目を閉じる。

 馬身からは湯気が上がりはじめていた。

 たっぷりの水、飼い葉を与える。


 それを済ますと今度はようやく自分の番だった。


 麦わらの束を床に五、六個並べ、その上にさらにいくつか崩すと、堪らずそこへ潜り込んだ。

 火が欲しかったが、アシュレたちは法王庁からはお尋ね者扱いだ。

 人家から煙をあげれば居場所を報せるようなものだ。

 使用は最小限にしなくてはならない。

 寒くとも我慢するほかなかった。


 だが、よく乾いた麦わらは極上の断熱材だ。


「馴れたものだな」

 濡れた髪を搾っていたシオンが修道服を脱ぎ、当然のように隣りに潜り込んできた。

 その仕草の一部始終を見て、アシュレの肉体は全身震えているのに反応してしまった。


「だが見慣れる、ということはないようだな? 法王庁では、珍しくなかったのではないのか?」


 ははん? とシオンが意地悪な笑い方をした。


「いや、なるほど――そなた、けっこうよい趣味をしておるではないか?」

 アシュレに倣い、干し終えた借り物の修道服を見返りながらシオンが指摘する。

 あぅ、とアシュレの喉からおかしな声が出た。

 そのアシュレを追い詰める獣のようにシオンが覆いかぶさった。


 きゅうう、とアシュレは鳴いた。

 ヴィトライオンが怪訝な視線を投げてくる。


「聖騎士さま、どうぞこの端女めに、お命じになってください」

 王冠を脱いだシオンが、修道女の口調を真似て言った。

 なにをッ?、と思うがアシュレの口をついたのは自然な欲求だった。


「さ、寒い、です」

「はい」

「あ、温め……て、ください」

「ろ」

「は?」


 アシュレはまた間の抜けた顔をした。

 え? なんのことです?

 そう言いかけて、歯の根が合わぬほどアゴが震える頭にも、ようやくシオンの言っていることが理解できた。


 命令しろ、とシオンは言っているのだ。


「で、で、で、できませーん!」

 震えているせいで呂律が回らず情けない声になる。


「そなた、これはお芝居ぞ? 訓練と思うがよい」

 いや、あの、シオン、なんで、とアシュレの頭のなかをいいわけじみた単語が渦を巻くのだが、シオンの瞳に見つめられるとなにも言い返せなくなった。


「ボ、ごほんっ、オ、オレを、あ――温めろ、シオン」

 尻すぼみにしどろもどろにアシュレはなりつつも、言った。


 んー、とシオンが生ぬるい笑みを浮かべた。

 まあ、最初はこんなものか、というカンジの笑み。

 それから、愛を得た女の顔になった。


「はい、我が殿」

 そうして、シオンは己の体温をアシュレに分け与えてくれた。

 アシュレが先の言葉を口に出したのはその後、短い微睡みから醒めてからだ。


 やけに鮮明な夢を見た。


 昨晩の、豪商の屋根で行われたカテル病院騎士団団長:ザベルと月下騎士:ヴァイツの激闘だった。

 アシュレとシオンはレモンの木の茂みから、あの息詰まる攻防を見下ろしていたのだ。


「凄まじい」

 ザベルの絶技にシオンが感嘆の声をあげた。

 舞い躍るような剣技を見せるシオンをしてそう言わしめるほど、ザベルの戦いぶりは極まっていた。


 短命ゆえ、切り飛ばされた器官を再生などできぬがゆえ。

 それどころか一太刀でも浴びれば致命傷となるゆえ。

 それゆえに極限まで練り上げられ、削ぎ落とされ、研ぎ澄まされた武術がそこにはあった。


 そして、運命の一瞬。


 一見、双方痛み分けに見えながらも、その実、夜魔であるヴァイツに勝負の軍配が上がりかけたあの瞬間。

 直後に訪れた逃走直前の女夜魔=アーネストにジゼルが肉迫した一瞬。


 ――アシュレは同胞もろとも夜魔を打ち抜くべきか、との思いに捕われてしまった。


 二匹の獰悪な魔物――恐るべき再生能力を有し、吸血によってまたたく間に自らの手勢を構築してしまう市街地においては最悪の敵を仕留めるために、一見非情な決断が必要な場合すらある。


 人類の敵対者――特に夜魔との闘争において一千年に渡る歴史を有するエクストラム法王庁、その最精鋭である聖騎士たちは、候補生にあたる聖堂騎士時代から、徹底的に戦闘教義を叩き込まれる。


 すなわち――味方が堕ちそうなとき、あるいは確実に夜魔を屠れそうな勝機に、躊躇するな、と。


 夜魔との戦いはまさしく瞬間的な判断力がものをいう世界だ。

 たとえば人間は腕一本落されただけで行動不能に陥ることが、ほとんどだ。

 ものの数十秒もあれば死が訪れる。


 だが夜魔はそうではない。


 驚異的な再生能力でまたたく間にその肉体を復元し、躊躇する間に犠牲者を《影渡り》で連れ去ってしまう。

 連れ去られた同胞に再会したとき、彼や彼女はすでに夜魔の眷族――吸血鬼に成り果てている。


 だから、味方を巻き添えにしてでも仕留めなければならない瞬間がある。


 だが、これまでアシュレは聖騎士として、ただの一度も、まだ生きている同胞を巻き添えにしてまで勝利を得ようとしたことがなかった。

 そういう戦場を経験したことがなく、また自分にそのような判断ができるものか、確信がなかった。


 まさしく、訓練と実戦は違う。

 叩き込まれた戦闘教義と、アシュレ自身の道徳観念は大きく違う。


 アシュレにとって仲間は、また同胞はとは――救うべき、そして護るべき対象だった。


 だが、今夜、その認識に変化があった。


 それはグツグツと怒りに煮え立つ脳の中心に、霜がつくほど冷えた刃がすっと差し込まれるような、鋭利な感覚だった。

 いまだ両家が取り交わした約定の上では自らの許嫁であり、幼なじみであるジゼルが射線上にいるというのに、アシュレは異能を発動させるべく〈シヴニール〉に《スピンドル》を通しかけた。


 目覚めたとき、寝汗もかいていなかった。

 ただ、醒めた興奮だけがそこにはあった。


「撃つべきだったのか」

 もう一度つぶやき、アシュレは右手を虚空にかざした。


 室内に明かりは、ない。

 今夜は雪雲に閉ざされ月どころか星もない。

 暖炉の炎さえ、ここにはない。

 閉じられた建屋の中はだから漆黒の闇。

 眼前にかざした手を見ることもできぬはずだった。


 それなのにアシュレは室内を、そして自らのかざした腕をなに不自由なく見渡せる不思議に、いまさら気がついた。


「これって……」

「さまざまな夜魔の特性が、そなたのヒトとして父母から与えられた肉体に取って代わろうとしているのだ」

 左手にシオンの温もりがあった。

 目覚めていたのだ。


「そうか……この心臓は、シオンのものだものね」

 アシュレは外気で冷えた右手を自らの左胸に当てた。

 とくとく、とそれは規則正しく拍動している。


 そのアシュレの右手にシオンが縋るように身を寄せてきた。


「夢を視たのであろう?」

「ああ。すごいね、シオン。なんでもお見通しだ」

 うん、とアシュレは応じシオンに正対するように姿勢を変えた。

「さっきの戦闘の夢さ。びっくりするほど鮮やかだった」

「同じだな。わたしもだ」

 夜魔はそうやって何度も終えた戦闘の分析を行い、後の対応策を検討するのだとシオンはレクチャした。


「手強いわけだよ。ボクらが集団で、それも文字や図像を駆使しなければできないことをキミたち夜魔は個人で、もっとずっと高度なレベルで可能にしてしまっている。でも……それを、ボクはできるようになりつつある、ってことか」

「正確には、いまのは、わたしの夢と同期したのだろう。隣りで、肌を合わせて眠ったから――」

「恐いくらい、冷静だった。冷酷で非情な――でも、どうしても必要な決断を、ボクは下そうとしていた。考え、実際に射線に捕らえて……でも、思いとどまった」

 そこまで言ってから、アシュレは、ハッとなった。


 わたしの夢に同期した――とシオンは言った。

 だとしたら、あの判断は――。


 そう思いいたり、シオンに視線を向けなおしたとき、アシュレはすべてを悟った。

 あの感覚、あの判断能力は――シオンから流入したものだったのだと。


 シオンの深い紫色の瞳が濡れて、揺れていた。

 それだけでアシュレには充分だった。

 先ほどまでの、場違いなほどはしゃいで見せたシオンの態度は、恐れと申し訳なさと改悛の現れだったのだ。


「そうか――あれは、キミの意識が流れ込んできていたんだね」

 アシュレは言い、シオンが口を開く前に抱きしめた。

 すまなかった――アシュレの腕のなかで、それでもシオンは謝罪した。

 いいんだ、とアシュレは微笑んだ。


「あんなに厳しい判断を、何百年もキミは繰り返しして、そして、それを何千、何万回も繰り返し夢に見て……ずっと戦い続けてきたんだね」

 アシュレは優しくシオンの髪を撫でた。


「つらかったろうに」

「わたしは――その、その業苦を……そなたに押しつけた」


 責められて当然だと思っていたのだろう。

 恨み言のひとつもあってしかるべきだと考えていただろう。

 そのアシュレに逆に気づかわれ労られて、普段気丈なシオンが子供のように泣いていた。

 アシュレは無言でシオンを撫でさすった。

 なんども、なんども。


「押しつけられたなんて思っていない。わかち合えたんだ」

「バカ。わたしは、そなたを……人外のものにしようとしているのだぞ? それも、最低のやり方で……肉体だけではない。わたしの考えを、そなたに流し込んだのだ」

「キミはボクを助けようとしてくれた。だから、ボクはまだ生きていられる」


 アシュレの言葉に、そうしていないと自身の誇りが許さないからだろう、まなじりをきつく固めてシオンが言った。


「はじめて出会ったとき――そなたは言ったな? 不名誉な生よりも、名誉ある死を選ぶと。そして、あのとき、フラーマの漂流寺院が炎上し、海中に没しつつあったあのとき、もし、わたしが私のエゴを捨てて、そなたの選択を尊重していたら、そなたは間違いなく英霊の列に加われただろう」

 それなのに、わたしは、こわくて、ひとりになってしまうと感じて……。

 そなたに外道の法を施した――そなたの尊厳を踏みにじった。


「胸を断ち割り、私の臓腑ぞうふと命を――《アルジェント・フラッド》を――流し込んだ」

 シオンが叫ぶように言った。


「徐々に己がヒトではなくなる恐怖をそなたに味合わせることになると、考えられもしなかった! ヒトが夜魔のように記憶を完全に保ち続け、うなされ続けることになる未来にどれほどの苦痛が待ち受けているのか、考えもしなかった!」

 どうやって償っていいのか、わからない。


「そなたは、これから、半人半魔の生を歩むことになる。はじめは耐えられるであろう。けれども、だんだんとわかるはずだ。永劫に続く生と、その繰り返しが生み出す苦痛――“地獄”のことが。記憶の牢獄、血の渇き、そして、自分がもう人々のなかに混じれぬと知る――ぜんぶ、ぜんぶ、わたしの汚らしい独占欲のせいだ」


 こんなに取り乱したシオンをアシュレは初めて見た。


 だが、アシュレの声はますます優しい。

「いま“地獄”と言ったね、シオン? キミはいままで耐えながらそこを歩いてきた」

 優しく言われ、シオンがちいさく喉を鳴らした。

「そんな場所に、キミをひとりで置いておけると思うの? それを知っていながら? ボクがそれで平気な男だと、キミは思うの?」

 もし、いまボクの身に起こっていることが可能なのだと知っていたら……ボクのほうから言い出したかも、だよ?


 わけ合えて、よかった。

 屈託なく笑った。

 それは心の底から湧出た、笑みだった。


 それがアシュレの芯――本当に深いところから現れたものだと、肌を合わせるシオンには手に取るようにわかる。

 シオンにはもう、言葉がない。 

 そのとき、アシュレの唇がなぜかすこしだけ意地悪なカタチになった。


「ははーん」とアシュレがひとり合点した。

「え?」

 泣き濡れて、アシュレの器に触れて感動に打たれるシオンにはその意味が、まったくわからなかった。


「それで“命令”しろって言うんだね? ボクに奉仕して許されてる実感が欲しいんでしょ? “ひどい命令”をしてもらって、すこしでも罪を贖いたいって思ったんだ?」

「な、な、な、な、なあああああっっ!」

 ななあああああああっ、とシオンが身を起しながら言った。


挿絵(By みてみん)


「ちっ、ちがっ、あれは、こう、帝王学の、教育的なっ」

「的な?」

 にやにやと精一杯イズマを真似てゲスな笑いを作ったアシュレの顔に、シオンは麦わらの固まりを投げつけた。


「ち、ちがうわい!」

「シオンって、動揺したり焦ったりすると、言葉遣いがおかしくなるんだね」

 図星だったかな? 

 口に入った麦わらを吐き出し、なおも投げつけられるそれを手で庇いながらアシュレは言い募る。


 シオンの顔は耳まで真っ赤だ。


「そなたっ、イズマの悪い部分ばかり学びよってッ!!」

「悪党になるって決めたからね。練習しているのさ。ところで、シオン、“命令”なんだけど?」

「わー、もう、しるかー! あれはお芝居のなかだけの話だ! 武装を整えるぞ! そなた、食事を用意せよ!」


 わら屑をまき散らしながらシオンは立ち上がった。

 こらえ切れずアシュレは笑う。

 そのせいで飛びかかってきたシオンをガードできない。


         ※


 周囲を海に囲まれたカテル島の夜明けは早い。


 小屋を出ればすでに朝日が昇ってきていた。

 横薙ぎの光は赤く、血のようだ。

 奇妙な空だった。


 遠くは完全に晴れ渡っているのに、カテルとその周辺の島々に限って雪雲に覆われている。

 局地的な天候操作を疑うべき状況だった。

 時刻とともに太陽は雪雲に隠れてしまうだろう。


 アシュレはシオンを振り返り、夜魔たちの動向について質問した。

 だが、シオンは首を振るだけだ。あの異常な雪雲を降らせているあいだは、いることは間違いない。


「どこか、それほど遠くない洋上に全体を偏光空間でカモフラージュした軍船がおるのだろう。島の周囲に、かならず」

 とシオンは言った。

 

 だが、昨夜、棺桶をかたどった強襲揚陸艇を使用したことからみても、夜魔たちの《影渡り》では船には帰還できない。

 距離がありすぎる。


 そして、その《ちから》に実力相応に慢心するのは夜魔の特徴でもある。

 必ずシオンを仕留め、凱旋する。

 そういう考えしかないのだろう。


「活動を再開しさえすれば、捉えてみせるのだが……息を潜められると、これは、よほど近くにおらねば捉えきれん」

「その探知能力も万能、というわけではないんだね」

「なにごともそうだ。近くに強い存在がいると、それに紛れて遠くのものは知覚できなくなってしまうし。大きな波に小さなそれが呑まれてしまうようなものだな」


 技術ではなく、感覚だからな、これはあくまで。

 そうシオンが言った。

 いずれアシュレにもそのような能力が備わる日があるかもしれない。

 その時のために、レクチャしてくれたようだった。


「こういうときにこそ、イズマがおれば、あやつの占術でポイントを絞り込めるのに」

 口惜しげにシオンが言う。


 尼僧の服とアシュレの衣類が、どこからともなく湧いて出た。

 いや、どこからともなくというのは語弊がある。

 シオンの異能:《シャドウ・クローク》だ。


 これもまた夜魔に特徴的な異能で、位相をずらして括った自分だけの密閉空間を作り出す能力だ。

 衣装持ちの高位夜魔は必ず、こうやって多数の衣類を持ち歩いている。


「なんで、昨夜のうちに出してくれなかったの?」


 パンを煮崩しペコリーノチーズとオリーブオイルで味付けした粥を食べながらアシュレは言った。


 薪ではなく備蓄されていた炭を使う。

 薪に比べ煙が少なくて済む。焚きつけは藁とこれも蓄えてあった松の小枝だ。

 そして、この料理は煮込む必要がない。


 簡単にできるので火気の使用が最低限で済むこと。

 食べやすく、すぐにエネルギーに変換されることから、じつは古代アガンティリスの軍勢もよく食していたメニューだった。


 訊いた途端、アシュレはシオンの手刀で頭を叩かれた。

 けっこう強く。

 おかげでむせてしまった。シオンは真っ赤になり、顔を逸らしてしまった。

 むせている間に、話題を逸らされた。

 いまの会話の流れの、どこがイケないのか、アシュレにはわからない。


 ともかく、だ。アシュレも思考を切り替えた。

「それでも至近まで近寄れば、いることがわかるだけでも、たいへんなアドバンテージなんだ。こうなったら、とにかく、考えられる場所をシラミ潰しにするしかない。夜が来るより早く、相手を見出さなくちゃ、だ」


 アシュレはヴィトライオンに跨がり、シオンの騎乗を助けた。

 ふたりを乗せたヴィトライオンは夜明けのカテル島を疾駆する。


 朝焼けの赤に染め上げられた雪が巻き上げられ、血の河を渡る神話の英雄たちのようにふたりの姿を見せるのだった。




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