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燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:エピローグ・「星の通い路」
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■第二一三夜:運命の扉を開けて


         ※


 はじめよう、とアシュレは切り出した。


 ここは竜の聖域の奥深く、《御方》の遺骸が眠るあのジグラッドの頂上だ。

 その一角に魔導書グリモアの娘:スノウメルテはあり、いまや己自身が変じた書架にかけられている。

 その裸身を覆い隠すものはなく、アシュレの指が触れようとしただけでその肌はほころび、書籍の頁へと変じていく。


 しかし、その顔にあるのは羞恥ではなく、むしろ恐れ。


 なぜならばこれから執り行われるのは男女の愛の営みなどでは断じてない、戦闘的な索敵行為であるからだ。

 

 そもそもアシュレたちは、なぜ魔導書グリモア:ビブロ・ヴァレリを求めたのか?

 それ以外にも数多ある超常的捜査手段のすべてを否定して、この悪名高き故人の過去を掘り返す、恥知らずな墓暴きの書を手に入れねばならなかったのか。

 またアシュレに求められていると知ったスノウが、その書と一体となることを《ねがって》しまったのか?


 そのすべてが、ここに帰結する。

 そう──“再誕の聖母”:イリスベルダの居場所と動向を探り当てるための儀式が、これより執り行われるのだ。


 茹で上げられたむき身の卵のように、艶やかですべやかなスノウの肌が頁に反感されていくという超常現象を目の当たりにしても、アシュレの表情は硬い。

 これまでの経験上、魔導書グリモアを用いた超常的捜査は、スノウとその情報を見る者に多大な負担をかける。

 相手が強大な存在であればあるほど、それは指数関数的に増大するのだ。


 事実、イズマと《御方》に乗っ取られたスマウガルドの居場所を突き止める際、スノウは足腰が立たなくなるほど消耗を来した。


 ましてや相手が“再誕の聖母”となれば、その情報と引き換えにどれほどの代償を求められるものか、わからない。


 これに対しアシュレは自分たちだけでなく、戦隊の全員に協力を要請した。


 イズマを始めとした土蜘蛛三名と蛇の姫:マーヤは、空中庭園のそこここに簡易的な社をいくつも建立し、呪術的な防御を固めた。

 これは以前、占術でカテル島の様子を探ろうとした際、報復に現れた英霊から身を守るのに役立った備えだ。

 これを今回は五倍に増やして備える。


 またいまこの仮の寝所を覆うかすかに翠色を帯びた白布は土蜘蛛の姫巫女たちの手織りの品。

 土蜘蛛の王族の姫君たちが初夜を迎えるねやの建材。

 極めて希少な種の天蚕ヤママユガの糸を使い織り上げられたそれは、極めて高い呪術的防御能力を秘める。

 加えてそこにちりばめられたる青緑色の鱗は、これもやはり強力な退術能力を持つ蛇の姫のものだ。


 一方、霊媒であるアテルイはアシュレとの間に強い霊的結束を撚り、もしアシュレの精神が圧倒され意識が飛ばされそうになっても、引き戻すことのできるよう、万一の事態に備える。


 もちろん真騎士の乙女:レーヴとその血を受け継ぐアスカリヤは、進んでその加護を垂れてくれた。

 頼むから《魂》を使うことのないように、と釘を刺されたが、ふたりはアシュレがどうやって《御方》:ヒューペリオンに打ち勝ったのか知らない。


 不浄王:キュアザベインはアシュレが儀式に入っている間の空中庭園の防衛を約束してくれたし、豚鬼王オークキング:ゴウルドベルドは心身の在り方を高めるという東方に起源を持つという薬膳料理をこしらえ、また無事の帰還時には最高の宴を催すと約束してくれた。


 ノーマンとバートンはアシュレが新たに生み出したファッジたちとともに農作業にいそしんでいる。

 カテル病院騎士団筆頭は「我らでオマエが帰るべき場所を守るぞ」とアシュレを送り出してくれた。


 そして、いまアシュレが身につけるお守りは真騎士の乙女:キルシュとエステルを始めとする真騎士の妹たちのお手製だ。

 なんだか最近、みんな揃ってアテルイに頼み込んで家事や裁縫を習っているらしい。

 アシュレだけに留まらず、ノーマンやバートンといった人間の男たちが見せるサバイバル能力や生活能力、そして礼儀作法への精通具合を見て、これはいかんと危機感を覚えたらしい。

 魅了するたらしこむ前に魅了されてたらしこまれては乙女の名折れ、というところか。


 そのほほ笑ましさが、恐懼の前に頑なになりそうな心をほぐしてくれた。


 護衛には夜魔の姫:シオンが控えていてくれる。

 これは魔導書グリモアの娘:スノウのたっての願いでもあった。


 シオン姉になら、全部を見られても構わない。

 だから、もしものとき騎士さまを守って欲しい、という。

 

 そのいじらしさが、アシュレは愛おしくてたまらない。

 

 ただ……本来であれば同席するはずであった竜の皇女:ウルドだけはこの場にいない。

 

 イリスベルダ・ラクメゾン。

 “再誕の聖母”。

 その名をアシュレが口にした途端、呼吸を乱し、胸を押さえてうずくまってしまった。


 顔色は蒼白で、とてもではないが同席できる様子ではなかった。

 いまは土蜘蛛の姫巫女たちがこしらえた薬湯を飲んで、別室で安静にしている。


 なにか因縁があるのか。

 しかしアシュレにはその因果関係を探る余裕も、時間もなかった。

 占術の類いは月や星の運行にも大きく左右される。

 イズマが割り出した最高のタイミングは、まさに一瞬だったからだ。


「行くよ」


 もう一度告げ、アシュレはスノウの肌に手をつける。

 こくり、と瞳を閉じ完全に観念した様子で、スノウは己を開く。

 開陳する。


 そうして、彼らは迫るのだ。


 この世界のどこか──人類のあらゆる悪行を記すという世界最古のオーバーロード=魔導書グリモアの《ちから》を持ってせねば見通せぬ分厚いヴェールの先に潜む、“再誕の聖母”の居場所へ。


 そして、その満ちゆく腹のうちがわで、胎動するものの正体に。


 


 ────ミシリ、と世界の軋む音がした。








さてここまで燦然のソウルスピナをお読みくださり、本当にありがとうございます。

今夜の更新を持ちまして第七話:蒼穹の果て、竜の棲む島は完結しました。

ありがとうございます。


もちろんこの後もソウルスピナは続きます。

ただ、お話のストックが完全に尽きてしまいましたので、しばらく製作お時間を頂き、その後の再開とさせて頂きます。


んー、早ければ二ヶ月くらい? 十月頭くらいになるでしょうか。

新しいエピソードをお届けできれば、と思っています。


ただ、ちょっとこの辺で語りの順番をどうしようかな、と考えておりまして。


カテル島の話を挟むか、ガイゼルロンとシオンの話にするか、はたまた別の展開か、と思案しております。

なんか読んでみたいエピソードをメッセージで流すと、反映されるかもです?


ともかく最新話はこれから鋭意製作中となりますので、しばらくお待ちください。


あと……そうだ……こう……なんか? ちょっとしたご報告が……今月中にはできるかなあ、みたいな?

ソウルスピナ関係ではないんですが、こう、なんというかちょっと面白い? みたいな?


まあ今月中になんか活動報告なかったら、そんなもんか、で流してもらえたらっていうか?

(なんだろう?)

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