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燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:Episode 5・「竜玉の姫・屍竜の王」
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■第一八三夜:竜の精髄を喰らう者

         ※




「成就の日を迎えた竜がどうなると思う?」

「じょうじゅのひ?」


 唐突に問われスノウはおうむ返しに訊いた。

 なぜ、どうして、いまここにいるのかわからなかったのだ。


「王さま……王さまじゃん。どこに、いままでどこにいたの?!」

「どこにも。我はずっとここにいた」


 なんだかひどくこわいおもいをしていたように、スノウには思えた。

 だからなのか王さまのひどくおちついた態度が、すごく勘にさわった。

 まっしろなすごくおおきな壁のまえに、じっと立っているだけの王さまの態度が、小憎らしかった。

 わたしはずっと王さまをさがしていたのに!


「王さま、王さま、しんぱいしたんだよっ! いきなりいなくなって、どっかいっちゃって、わたしわたしすごくこわかったんだから!」


 スノウの訴えは、ひとことでいうと理不尽だった。

 こどもっぽい、駄々。

 だけど王さまはそんなスノウにやさしく、すまなさそうにほほえむのだ。


「それは悪いことをした。我は囚われの身ゆえ、ときにどうにもならないことがある。しかし、そなたに怖い思いをさせたこと、済まなく思うぞ」


 このとおりだ、と頭を下げる。

 そんな王さまの姿にスノウはもうおこれなくなってしまうのだ。


「ずるい」

「狡さも王の特権である」


 ほほをふくらましていうスノウに、王さまはいたずらげに笑ってみせた。

 その笑みのカタチにきゅん、とむねのおくがせまくなるようないたみをかんじて、スノウは目をそらしてしまった。

 どこかアシュレににてるのも、ずるい。


 とくにまなざしが。


「それでここはどこなの?」

「ここか? ここは竜の聖域の深奥。その最深部。本来であれば格納されているべき……生命の樹のその足下だ」

「いのちのき?」


 うながされてスノウは頭上を見上げた。

 まっしろな城壁だと思いこんでいたものは、なんと巨大な樹の幹、それが集まってできたものだったのだ!


「う、わ」


 なにこれ、とおもわずこえがもれた。


「これが生命の樹? もしかして……さっきまで登っていたあの丘のうえにずっとみえてたやつ?」

「ああそうか、そなたここが初めてではないのだな。丘の下から見たのか、この樹を」

「うん。でも影だけ。影だけしかみえなかったよ。ひかりがつよくて」

「うんそう、そうだ。この樹は強い光を常に伴っているから、普通は影しか見えないのだ。ここまで来なければ、この本当の姿は見えないのだ」

「じゃあわたしはいま、そのほんとうのすがたをみる権利をえたんだね」


 率直なスノウの言葉に、王さまは口を閉ざし曖昧に首を傾げた。

 どう答えるべきか迷うような仕草だった。


「どうしたの?」

「うむ、いや……この樹は見られることはない。視ることはあっても」

「見られることはない? 視ることはあっても?」


 ねえそれって、


「どういういみ?」


 そうスノウがくちにしたしゅんかんだった。


 ざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっざわっ。


 とおおきなおとがした。


 ひっ、とスノウは喉を鳴らして身をすくめ、それからおそるおそるみあげた。

 ふりあおいだ。


 そこには樹があった。

 樹が、せまっていた。


 そのふしくれだったこずえは、枝ではなかったのだ。

 すべてが、うで・・


 こもれびをつくっていた、はっぱは葉ではなかった。

 すべてが、


 てのひら・・・・


 そのうちのひとつが、杭を。

 くさりをもって。


 それ以外すべてが求めるようにのばされて。


 そしてまるでつなみのようにおしよせる、まっしろな手の群れの奥で、縦に並んだ十二対の目が、スノウを視ていた。


「成就の日を迎えた竜がどうなると思う?」


 こんなたいへんなときに、なにをいっているの王さま。

 おもわずスノウは、かれをにらみつけてしまいました。


 でも、おこることはできませんでした。

 なぜってもうすでに王さまは囚われてしまっていたのです。


 なぜって彼のむねにはすでにあの杭と鎖とがあって。

 そのからだを貪るように手が、てのやつがつかみとっていくのです。


「成就の日を迎えた竜がどうなると思う?」


 うつろなこえで、またきいて。

 だからスノウはりかいしてしまうしかないのです。


「どうなるって──もしかしてとらわれる? 囚われるの?」

「そうだスノウ。囚われる。奪われて」

「う、奪う? 奪うってナニ? ナニを?!」


 スノウがそう問うと、まるでこたえを思い知らすためのようにてのやつが、うしろからうえからしたから、スノウのひだりのむなちを掴むのです。


 そして王さまの胸からは、いつのまに潜り込んだのか、のやつがとびだして──それは掴んでいます、王さまの。

 真っ白なあばらぼねを花びらみたいにはぜさせて、カラダを反り返させて、王さまは。


 のやつは、王さまのまだあたたかい肉体から目がはなせなくなってしまったスノウに、見せつけるようにそれをさしだします。


 かーばんくる、と王さまの唇が動いて、血が糸のようにそのこうこうからあふれだして。


 さしだされた、まだみゃくうつ、とてもとてもうつくしいかーばんくるをスノウはぎょうしするしかできなくて。


『これは無辜なることを望みし者たちへのささげもの』


 そのこえをたしかに、きいてしまうのでした。




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