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燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:Episode 4・「迷図虜囚の姫君たち」
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■第一三一夜:突破



「防護壁?! いや、まさか、この城門……いや城壁そのものがブランヴェルのような《フォーカス》なのか?!」


 見れば城壁を成す石材に《スピンドル伝導》を示す光帯が走り、アシュレからの攻撃を受けた箇所には力場の発生が認められた。

 これが可能性世界の荒唐無稽さ、そして世界に絶望し疑心暗鬼に駆られた王の発想と、帝国の巨大な財力が成し遂げた結果かとアシュレは思った。


 それにしてもいかに可能性世界での出来事だとはいえ、これほどの荒唐無稽を実現させるために、エクセリオスがどれほどの重税と苛烈な労働を民草に強いたのか、想像に難くない。

 これらの装置はすべていずこかのアガンティリス期……いや旧世界の遺跡から掘り出してきた装置に違いないからだ。

 すくなくとも処刑通りに面した城壁の表面と門扉は《フォーカス》化されており、簡単には破壊できない。

 完成までに何百人もの人夫が《フォーカス》の護りに身を焼かれたことだろう。


「なんという技術の蕩尽、そして許しがたい愚行だ」


 アシュレの叫びに応じるように王城からの攻撃が激しくなった。

 あちらもアシュレを許す気はないといことだ。


 ブランヴェルに飛び乗り、機動力で攻撃を躱していく。

 足を止めて降り注ぐやじりを受け止めるわけにはいかない。

 圧倒的物量を誇る帝国軍相手に、守りに入ったらこの作戦はお終いなのだ。

 

 心得ているシオンが、本当にアシュレに命中する矢だけを的確に選り抜いて撃墜する。

 掠め過ぎる矢羽根の唸りに耳を傾けながらも、それにしても危ないところだったとアシュレは内心、冷や汗をかいた。

 

 射掛けられる驟雨しゅううがごときやじりのことではない。


 城門に竜槍:シヴニールで射かけず、城壁の方を疾風迅雷ライトニング・ストリームで駆け登ったり、聖盾:ブランヴェルの力場操作で壁面を駆け登ろうと試みていたら、異能を相殺されるか、最悪の場合、力場操作能力による攻撃で寸断されていたかもしれなかったのだ。


 つまるところ、あの城門を破壊することで突破したり、正面からよじ登って乗り越えるのはアシュレたちには不可能ということになる。

 もちろん浪費していい時間などなかった。

 いまこのときも、背後では解放軍のメンバーたちがアシュレの作戦を信じて奮戦しているのだ。

 時間はすべて彼ら彼女らの血肉と命で贖われている。


「ならば──これはどうだッ?!」


 アシュレは城壁に向かって進路を取ると、ありったけの《スピンドル》をブランヴェルに叩き込んだ。

 凄まじいトルクがブランヴェルと街路の石畳の間に生じる。

 石畳が砕け弾け跳ぶ。

 聖盾:ブランヴェルとアシュレ、シオンの肉体が高速で回転し、そして放たれた矢のように跳ね上がった。


 広場に据えられているアガンティリス期の作品を模した彫像を踏み台に、これを破壊しながらもう一度、跳躍。


 アシュレとシオンを乗せたまま、聖盾:ブランヴェルは高々と宙を舞う。

 それはいつかイグナーシュの王墓の底でアシュレが見せた、跳躍の技とその応用。


 もちろんあの頃と比べてアシュレの《スピンドル能力者》としての能力は格段の進歩を遂げている。


 優に二十メテルはあろう城壁の遥か上空に、アシュレはたった一秒で到達した。

 垂直方向に生じた強烈な重力加速度が、四肢を引きちぎらんばかりに掴みかかってくる。

 ブラックアウトしかけた視界を《スピンドル》を用いて必死に維持する。


 一瞬、眼下にすべてが見えた。


 遠方では監獄島に火の手が上がっていた。

 そのなかに青い煙が混じる。

 合図の狼煙。

 抵抗を偽装しながらの撤退が、順調に進行しているしるしだ。


 一方で、住居橋の上からも狼煙のろしのごとく、こちらは毒々しい黄色の煙が。

 これはおそらく帝国軍に配された土蜘蛛の密偵たちの仕業。

 解放軍に秘策あり、注意されたし──煙に込められた真意はアシュレには分からないが、そういう合図であろうと受け取れた。


 さきほどのアシュレが広場に現れる絶妙のタイミングを見計らった攻撃は、あるいは、この伝達を基に行われたのかもしれない。

 事前にこちらの動きを察知して身構えていなければ、到底不可能な待ち伏せだったからだ。


 ぐるりぐるり、と世界は回る。


 直後、眼下に王城に配された兵力が見えた。

 城門の背後でアシュレたちを待ちかまえる親衛隊残存部隊。

 あるいは無謀な突撃に一撃を浴びせるべく伏せていたのか。


 アシュレは目まぐるしく変わっていく景色のなかで、彼らの姿をハッキリと捉まえた。

 互いの視線が、刹那の時間、絡まり合う。 


 それは、一瞬の好機。

 騎士は敵軍を竜槍:シヴニールの射軸に捉える。

 射出。

 

 眼下、約四十メテル。


 雷轟らいごうに一拍遅れて起きた爆発が生み出した衝撃波は、上空のアシュレたちにまで余裕で届いた。

 親衛隊残存兵力を舐めるようにほぼ時間差なしに着弾した高速粒子、それによって生じた衝撃波が、連続で下から襲いかかってくる。

 それを盾で受け、まるで波乗りでもするかのように、アシュレは王城のテラスを目指した。

 ギャリギヒイイイイ、と力場がぶつかってくる小岩塊や甲冑の破片、その他を噛み砕く胸の悪くなる音がした。

 風に踊る木の葉のように暴れるブランヴェルを乗りこなす。

 回転を逆向きのトルクで相殺する。


 着地タッチダウン


 すかさずテラスの端にとって返し、内側から城門を狙い撃つ。

 さすがに内側は《フォーカス》化されていなかった城門は、周囲の石材とともに爆散する。


 アシュレたちは当初の目的通り、監獄島に続く城門を打ち破ったのだ。




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