表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:Episode 4・「迷図虜囚の姫君たち」
594/782

■第一一四夜:めくるめく可能性世界(あるいは真の地獄とは)

         ※


 アシュレはシオンに伴われ、いくつもの可能性世界を経巡へめぐった。

 

 たとえばそのひとつ、“人類の敵”世界のエクセリオスアシュレダウは、魔の十一氏族のために、全人類を相手取って戦う魔王だった。


 この世界が産み落とした魔の十一氏族とそれに連なる眷属たちは、それ以外の人間つまり人類が「無辜むこ」であるためにを練りつけられ堕とされた者どもだった。


 人類の敵となったエクセリオスアシュレダウは彼ら、彼女らのために戦った。

 土蜘蛛の氏族を率い、各国の主導者たちを暗殺し、混乱を醸成してから戦争を仕掛けた。

 領民を捕らえては専用の巨大な《フォーカス》を使い、魔の十一氏族へと転成アセンションさせた。

 どんな氏族に生まれ変わるかは本人の資質次第だとうそぶいて。


 この世界にはシオンがいなかった。

 レーヴも。


 かわりに彼の隣りには土蜘蛛の姫巫女たちがはべり、蛇の姫が国を支えた。

 美食のオーバーロード:ゴウルドベルドは盟友であった。

 真騎士の妹たちは皆、アシュレが己を高めるための道具として使われた。

 愛玩奴隷として扱われることを悦びとして調教された彼女たちの列に、新たに転成アセンションを果たした乙女が加わるたびエクセリオスアシュレダウの《ちから》はいや増すのだ。


 スノウは休むことなく酷使されていた。

 過去を暴く魔導書グリモア:ビブロ・ヴァレリの《ちから》は、人類世界を破滅させるには欠かさざる能力だったし、スノウ自身もすでにエクセリオスアシュレダウの手によって秘密を暴き抜かれ、完全に道具に堕ちていた。


 そして土蜘蛛王:イズマはもうこの世のヒトではなかった。

  

         ※


 “修羅の庭”世界のエクセリオスアシュレダウは、幾人もいた。

 個性の違う彼にそれぞれひとりずつ、愛するひとが寄り添い、それぞれのアシュレを最高の英雄に押し上げるため争った。


 レーヴが妹たちと槍を交えた。

 エステルもキルシュも自分の仕えるエクセリオスアシュレダウこそが、最高だと信じていた。

 共闘を試みたのだろうキルシュとエステルの幼い妹たちが、戦士の顔つきで姉に襲いかかった。

 己が奉じるエクセリオスアシュレダウを押し上げるためなら、姉妹の契りなど紙屑同然とばかりに、猛然と。


 勝者となった者は《ちから》を得るためにそれぞれの自分を支えていたパートナーを、所有物とした。

 エクセリオスアシュレダウたちはそうやって得たパートナーを使い捨てにしたし、ときには乗り換えることすらしてみせた。


 同じくシオンとスノウが激突した。

 ただ不思議なことにこの世界のシオンにも聖剣:ローズ・アブソリュートと宝冠:アステラスだけは授けられていなかった。

 おかげでスノウの異能、魔導書グリモア:ビブロ・ヴァレリの放つ追体験の迷路に夜魔の姫は堕とされた。

 もっとも内側にシオンを抱えてしまったスノウは恋の呪いに犯され、エクセリオスアシュレダウなしでは生きていけないカラダになるのだが。


 アテルイが主であるはずのアスカと争った。

 戦闘能力では天と地ほども差がある両者だったが、本気になった霊媒メディアほど恐ろしいものはなかった。

 憑依や念話を駆使すればどれほどのことができるのか。

 祟り殺すとはどういうことか。


 そのありさまを垣間見たアシュレは、可能性世界の恐ろしさを思い知った。 


 そしてこの“修羅の庭”世界では最後のふたりになったエクセリオスアシュレダウは必ず相打ちになるのだ。

 何度繰り返しても、組み合わせが変わるだけで結末は変わらない。


 世界もヒロインたちも寄る辺を失って不幸になる。 


         ※


 “愛欲の檻”世界は淫靡で爛れた時空だった。


 この世界は居城の一室だけで閉じている。

 アシュレが関係した女性とエクセリオスアシュレダウしか、ヒトと呼べるものはいない。

 食事はすべて豚鬼オークのオーバーロードであるゴウルドベルドが差し入れる。

 味付けは激烈を極める媚薬で為されており、正気を保てるのはエクセリオスアシュレダウだけだ。

 全身の感覚を鋭敏にし、官能を長引かせ、懐胎を確実なものとするよう肉体そのものを改変していく魔性の食事。


 女たちに自由はない。

 手枷足枷で自由を奪われ、着衣は許されず、一柱にひとりずつ囚われている。

 城内にはインクルード・ビーストやマンティコラ、さらにはヒトのカタチを失った汚泥ウーズの騎士たち、さらに口にできぬ忌まわしき存在が何匹も何人もうろついており、それらはエクセリオスアシュレダウにだけ従順で、あとは己の欲望のすべてを女たちにぶつける。

 

 女たちにできるのはエクセリオスアシュレダウ本人による蹂躙を懇願することだけで、果たせなければ獣どもの慰み者になる。

 真騎士の乙女:レーヴもその妹たちも、蛇の姫:マーヤもアテルイも例外なく。

 アスカリヤの告死の鋏:アズライールは奪い取られ、スノウは半ば魔導書グリモアの姿のまま秘すべき頁を閉じられないように固定されていた。

 貪り読まれ、ときには音読され、狂い泣く。

 シオンは幾本もの槍で手足を縫い止められ、装身具を直接その肌にピンで固定され花束のように飾られた。


 この世界でエクセリオスアシュレダウは、だれがどんな種を産み落とすかを試している。

 次世代を託すに足る、本当の人類、真の人間、《魂》を産まれたときから備えている種族は「どの掛け合わせで産まれるのか」試している。

 繰り返し繰り返し。

 答えが出るまで世界はより陰惨に淫靡に先鋭化を繰り返して、囚われた美姫たちを責め抜いていく。


 もちろん、そんな場面を見ながら倦んだ目で酒杯をあおれるは狂っている。


         ※


 大丈夫か、とシオンが訊いた。

 なんとかね、とアシュレは嘔吐感を飲み下しながら答えた。

 ひどい顔色をしていると自分でもわかった。

 立て続けに可能性世界を覗いたからだ。

 ありえるかもしれない自分自身の未来の姿を、次々と突きつけられるのは想像以上に堪えた。

 

「思ってたより、かなりキツいね」

「言わんことではない。今日はもうよしておくか?」

「冗談じゃない。できる限りいこう」


 それにだんだんわかってきたんだ。

 案じてくれるシオンにアシュレは微笑んだ。

 座り込んで舞台裏バックヤードの壁面に背中を預ける。

 革袋から水を含んで飲み下す。

 シオンが立ててくれた茶を行為の合間にも、地獄巡りの間にもいくども飲んだハズなのに、ひどく喉が渇いた。

 

「たぶん、切り崩せると思う」


 アシュレのその呟きを夜魔の姫は、不思議そうな表情で聞いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ