■第三話「聖なる改竄」:サブキャラクター紹介
□ダシュカ(ダシュカマリエ・ヤジャス)
カテル島大司教にして、イクス教・グレーテル派の中心的人物。
枢機卿位は得ていないが、これはグレーテル派の首長が代々纏う物々しい白銀の仮面:〈セラフィム・フィラメント〉に、その一因があるとされる。
強力な予言能力、それも法王庁の正式な認可を受けたそれを「法王選挙秘密会議=コンクラーベ」に用いられてはたまらない、という思いも当然ながら生じるというものだろう。
グレーテル派が、法王庁の動向に基本的に口出しすることはなく、これは相手も同様で、相互不干渉的な暗黙の了解が両陣営の間にはあるようだ。
距離をおいた協調路線、とでもいうのだろうか。
普段は立場ある身として鉄面皮を貫くダシュカだが、今回はかなり人間的な一面を見せる。
特にノーマンに対しては少女時代から好意を寄せ続けてきたらしいが、その原因には、かつてノーマンの妻であった実の姉:エフィメラルカの過去の行いがあるようだ。
なにしろ、エフィメラルカはかつて、病魔を信奉する狂信者たちのカルト集団:拝病騎士団の尖兵であったというのだから。
苦い過去の回想によって語られるエピソード群が、なぜ、ダシュカを仮面の大司教の座へ押し上げたものか、示してくれるだろう。
そして、彼女の求める理想が、なぜ、どこから来たのかも。
もうひとつ、忘れてはならないことがある。
彼女の纏う銀の仮面――その由来を。
□ジゼル(ジゼルテレジア・オーベルニュ)
エクストラム法王庁近隣の名門:オーベルニュ家の息女。
クセの強いウェーブを持つ、赤みがかった豪奢な金髪がトレードマーク。
代々《スピンドル》能力者を排出し続けてきた家系だったが、ジゼルの兄たちはいずれもが異能を発現できず、末娘のジゼルに特別、濃い血が顕現した。
聖騎士たちの指導教官である四騎士たちに迫るとまで言われる超強力な異能者で、装着者に水を媒介とする遠視能力を授けたり、水を建材とする分身を創り上げる能力を与える〈クォンタキシム〉、そして膨大な量の聖別された水を召喚し続け、これを自在に操ることを可能とする水瓶:〈ハールート〉の適合者。
ふだんは冷静沈着なクールビューティだが、激高すると性格が変わるようだ。
そう考えると、枢機卿にして聖遺物課のボスであるラーンが、今回のカテル島訪問使節団に推されたのは、単純に同じ課の部下であるアシュレの聖務未達、および職務放棄について監督不行き届きを指摘されたからだけでなく、ジゼルという超強力だが、激発すると何をしでかすかわからないところのある異能者の手綱が取れる上位者が、他にいなかったということもあるのではないか。
余談だが、アシュレの許嫁である。
アシュレは知らぬことだが、アシュレが聖遺物奪還の聖務達成のおりには、両家の間でふたりの正式な婚儀が進められる予定であったらしい。
もし、イグナーシュでのあの暗い夜を潜り抜ける前のアシュレだとしたら、戸惑いつつも、その流れを受け入れていたのではないかと思われる。
怖い話だ。
□ラーン(ラーンベルト・スカナベツキ)
エクストラム法王庁・聖遺物管理課を取り仕切る辣腕家。
通称:“教授”。
枢機卿にして異能者という変わり種で、主に聖遺物の鑑定や発見・発掘に、その《ちから》を用いる。
だが、その《フォーカス》:〈グラパルダ〉とそれが引き起こす異能:《メモライズ》は、対象の周囲の時間経過速度を極端にゆっくりにするもので、恐ろしく強力である。実際に一対一の対決になったら、これほど厄介な相手はいないのではないだろうか。もちろん本義的な使用法としては検体の確保や保存、時には重傷者の延命措置などに向けられる異能だが、使い方次第で剣呑極まりない手段となりうる、というわけだ。
現在の職務を天職と考えており、政治的野心などは皆無。このまま生涯、聖遺物の研究と一夜のアバンチュールを楽しみたいというのが本音の男だ。
そう――“たらし”なのである。
あれ、どこかで聞いた話だな?
イラスト担当のまほそが「誰かさんのif未来」として描いたと言っていたけれど……誰だったか忘れてしまった。
もしかしたら、あったかもしれない未来として描かれた男。
ああ――このたらしぶりは、なるほど。
しかし、本人が毛嫌いしているわりに政治的能力と観察力、判断力はずば抜けており、カテル島に滞在するアシュレたちをその推理能力で追いつめていく。
本当に恐い男の見本。
片眼鏡的な装備は〈スペクタクルズ〉である=イリスのそれとほぼ同スペック。
オータム・リーブス(枯葉)の名を持つ。
かつて、相当量作られたモノのようだ。
□ヴァイツ(ヴァイデルナッハ・ハイネヴェイル)
夜魔の国、ガイゼルロン公国が擁する精鋭騎士団:月下騎士団のなかで、実験部隊的な運用をさだめられた「残月大隊」、その隊長を担う男。
能力偏重主義だが、同時に保守的で古典的な考えの支配するガイゼルロン宮廷にあって(これは年長者ほど《ちから》も知識も蓄えることの可能な純血の高位夜魔であることが多いため)、軍事方面的な部分に限ってだが非常に革新的な考えを持つ野心家。
旧態然とした騎士団の運用法ではなく、師団編成からはじまる柔軟な戦力運用を提唱する。
周囲の古老たちからは鼻で笑われ、軽んじられてきたようだが、シオンの父、つまり大公:スカルベリの考えは違ったようだ。
残月大隊はその構想の試験運用的な部隊である。
貴族的で、多種族に対しては高圧的、高慢ともとれるような態度に出る男だが、それは多くの夜魔の特徴であり、むしろ同志やたとえ多種族でも高潔な戦士と認めた相手には礼を尽くす騎士である。
残月大隊内でも部下たちからの人望は篤い。
武人気質。
スカルベリから恐ろしい切り札を下賜され、それを今時侵攻作戦に持ち込んでいるらしい。
□エレ(エレヒメラ・ウィリ・ベッサリオン)
魑魅魍魎の跳梁跋扈する荒野=ハダリの野に屹立するテーブルマウンテン=シダラ山に居を構える土蜘蛛の暗殺教団:シビリ・シュメリの凶手。そのなかでも屈指の手練れ、エレヒメラは、それもそのはず、かつて教団の姫巫女であった。
さらには教団の棟梁であるカルカサスの妹であり、本来なら、教団を率い崇め奉られるべき立場の人物なのだ。
それがなぜ、まるで捨て駒のように、危険極まりない敵地=カテル島に赴いてくるのか。
もちろんそれには理由がある。
奪われた彼女たちの“神”=〈イビサス〉を取り戻すためだ。
かつて教団の本尊であったこの邪神:〈イビサス〉、その御神体を大胆不敵にも盗み取った男がいる。
その男を探し出し、くびり殺し、〈イビサス〉を再び、その信仰の総本山であるシダラに取り戻す。
それがエレとその妹:エルマに課せられた使命なのだ。
残忍極まりない性情を剥き出しにして襲いかかってくるが、かつては一族を導く姫巫女として慈悲深さと強い責任感、そして一途さを持ち合わせた女性だったという。
なにが、彼女を変えたのか。
□エルマ(エルマメイム・ウィリ・ベッサリオン)
凶手にして、元姫巫女であったエレの妹。
柔軟な肉体を駆使した戦闘技術を得意とするエレに対し、呪術系・占術系異能に長じる。
色素が薄い土蜘蛛の種族的特徴からは珍しいことだが、灰褐色の肌を持って生まれた。
これは、土蜘蛛の一族では大変な瑞兆と見なされる。大地からの加護が強い徴なのだという。(注・瑞兆=よい兆し。吉兆のこと)
そのため“黒水晶の姫巫女”と呼ばれ、蝶よ花よと育てられた。
だが、そんな彼女がどうして、凶手となり、こんな場所に出向いてくるのか――その理由はエレの項でも説明した。ただそれだけであるのなら、精鋭の戦闘能力者とはいえ、危険極まりない任務である凶手に姫巫女を投じてくるはずはない。
これはある種の制裁なのではないか。
つまり、〈イビサス〉を盗み出した男に加担した――そんな罪への。
もっとも、その一部始終が明らかになるのは、第三話の次の次のエピソード「第四話sideB:不帰王の帰還」でのこととなる(執筆はすでに終了しています→掲載用最終推敲とイラスト待ち)。
異性に話しかけるだけで赤面するような少女だったエルマだが、姉であるエレの言葉を借りれば「壊れてしまった」のだという。
なるほど――本編では、そういうキャラクターとして現れる。




