表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:Episode 3・「不浄の帝国」
550/782

■第七〇夜:苦痛に手を伸ばす者


「みんな、伏せていろッ!」


 戦隊全員にアシュレは指示を飛ばした。

 アスカが、レーヴが、即座に助け出した少女ふたりに覆いかぶさる。

 光の翼を展開して護りの異能に替える。


「行くぞ、不浄王ッ!」

「オオオオオオオオオオッ!」


 あらゆる制約を捨て、アシュレは勝負に出た。


 竜槍:シヴニールの穂先が、愛馬:ヴィトライオンが、そしてアシュレの全身が光に包まれる。

 刹那、疾風迅雷ライトニング・ストリームの加護によって一瞬で最高速度に達した馬体が、閃光とともに不浄王:キュアザベイン目がけて叩き込まれた。


 屠龍十字衝クロスベイン・ファイアドレイクズ──。


 光条によって進路を切り開き、その直後を衝撃波を伴う馬上突撃が輝きとなって駆け抜ける。

 いまアシュレが放てる最大最強の突撃技。

 この技を持ってしか不浄王:キュアザベインを下すことはできないと、そうアシュレは判断したのだ。


 凄まじいまでの熱量と衝撃波を発生させる技だ。


 これまで戦隊の安全に配慮して使ってこなかったのだが、もはやそんなことは言っていられない。

 

 開放空間でも相当な被害を周囲に引き起こすが、ここはいかに広大とはいえ地下世界。

 どれほどの被害が出るのか、正直アシュレにも予測し切れない。


 真騎士の乙女たちにあらかじめ声を掛けたのは、だからだ。


 だが、それでも、この技でなければオーバーロードに匹敵するキュアザベインの首級を上げることはできないのだ。


 世界が白黒に染まり、遅れて轟音が──衝撃波となって世界を蹂躙した。

 アシュレはその瞬間を、ひどくゆっくりになった視界のなかで見ていた。


 露払いというにはあまりに強力過ぎる超高熱超高速の粒子帯が、キュアザベインを直撃する。

 間違いなく達した。


 そう思った瞬間だった。

 グンッ、とまっすぐに進む粒子の輝きが進路をねじ曲げられた。


 驚愕、混乱、戦慄──自分のなかで突発的な感情がゆっくりと変化していくのをアシュレは感じた。


 不浄王:キュアザベインの振るう槍の穂先、そのが竜槍:シヴニールの放った光条を掴んで・・・いた。


 高速粒子という現象・・を掴む。


 そんなことができるのか?

 いや、現実に不浄王:キュアザベインとその手にある無銘なる異神の手ネームレス・ゴッドハンドはそれを可能にしている。

 

 これは夢ではない。

 現実だ。


「そうこのあらゆるもの・・・・・・掴む・・ことができるのだ」


 そんな囁きを、どこかで聞いた気がした。


 そして次の瞬間には、そのは強い輝きをまとったままの竜槍:シヴニール本体を掴んできた。

 床面に穂先を押しつけて、動きを封じるつもりだ。

 事実、アシュレはこれで右手の自由を奪われた。


 一拍遅れて、無銘なる異神の手ネームレス・ゴッドハンドによって進路変更を余儀なくされたシヴニールの高速粒子帯が、地下大空洞の天井を直撃し、穴を空ける。


 決着はそのがれきが降ってくるよりも、早く決する。



「ぐっ」


 竜槍:シヴニールが掴まれた瞬間、アシュレは覚悟を決めた。

 死の覚悟、ではない。


 やるしかない、と。


 すでに不浄王は跳躍に入っている。


 キュアザベインの乗馬は、屠龍十字衝クロスベイン・ファイアドレイクズの余波で消し飛んだ。

 いかに方向を変えようとも、すべての威力を完全に減衰遮断できるわけではない。

 たとえ余波でも全身に浴びればほとんどの生物は死滅するしかない威力を、この技は与えられている。


 だが、その余波をキュアザベインは跳び越えた。

 アシュレの上空に不浄王が再び、占位せんいする。


 必殺の間合い。

 間違いなく死んでいたはずだ。


 アシュレが竜槍:シヴニールを放棄さえ、しなかったら。

 

「な、に?」


 一瞬、アシュレは不浄王:キュアザベインの眼が、ヘルムの奥で驚愕に見開かれるのを見た気がした。

 いまここで無手になる意味がわからない。

 そういう顔だった。


「驚愕と戦慄に敵を震え上がらせるのは、貴方だけの特権じゃ、ない」


 アシュレは床面に押しつけられていく竜槍:シヴニールの力を逆に利用した。

 上方から押さえ込まれ地面を抉る穂先から右手に返ってくる《ちから》を利用して、勢いよく頭上に跳ぶ。 


 その瞬間には槍からはもう手を離している。


 不浄王は先ほどと同じくスカート状に広がる脚部を利用して、武器を展開したところだった。

 自分が攻め手である、と確信していたはずだ。

 ついさきほど、一瞬前まで。


 高速粒子による攻撃を掴み・・、続く重突撃すら押さえ込んで見せたのだ。

 もうヒトの騎士に対処する方策はない。


 己の持つ最大の技を正面から破られた驚愕と戦慄、つまり恐怖に支配され、冷静さを失っただろうと、思っていたハズだ。


 だからこそ。

 だからこそ今度は自分が予想外の、そしてあまりに劇的な間合いの変化に、対応できない。


 しかし、まだだ。

 まだだった。


 本当の予想外とは続いたアシュレの行動だった。


 ヒトの騎士はここに来て、なにをしたか?

 わかるか?

 わかるまい。


 掴んだのである。

 

 不浄王が冠せられた苦痛の冠。

 伝承のなかで語られた、彼を束縛する《フォーカス》。


 彼らの苦しみの根源そのものに、アシュレは手を伸ばしたのだ。





第七話:Episode 3・「不浄の帝国」は明日、2021年5月7日完結予定です。


次話:第七話:Episode 4・「迷図虜囚の姫君たち(仮称)」はいまから書くので、しばしおまちくだちい(えー)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ