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■第九夜:予兆

 アシュレたち一行を乗せ東進するエポラール号は、エスペラルゴの艦艇を夜陰に乗じてかわし、その領海を抜け、ビブロンズの海上に差しかかろうとしたころだった。


 あのまま交戦状態にならずに済んだことは僥倖ぎょうこうだった。

 深夜、あの距離で船籍を暴かれるなどということは、相手に夜目の利く種族か、その方面に特化した能力者でもいない限りありえない。


 能力者がいれば、交戦状態になっていた可能性が極めて高かったが、異種族に関してはこれはないであろう、というのが大方の予想であった。

 またエスペラルゴ帝国は、同じイクス教徒の総本山:エクストラム法王庁が引け腰になるほど原理主義的な国家でもある。

 宗教を同じとする人間にさえ高圧的に臨検を強いる国家が、夜目の効く異種族に対しどのような態度を取るかは言わずもがな、ということだ。

 以上のことより、こちらの正体はあきらかになっていない、というのがカテル病院騎士団の判断だった。


 

 その後、数日、航海は順調だった。

 警戒のグレードが引き上げられ、厳重に行われるようになったが(食堂での馬鹿騒ぎが停止処分にされイズマがしょげたが)、エスペラルゴ船籍の船を発見するやいなや、太鼓での音頭すら必要とせず、ぴったりとあった呼吸で二段の櫂が動いて、あっという間に島影に潜り込んでしまう操船は見事のひとことに尽きた。


 しかし、その航路上で奇妙なことに気がついたのは、ノーマンもヘクターもほとんど同時だった。

 船長であるヘクターが、それを口にした。

 ハーヴェイ卿、とノーマンに呼びかける。


「妙ではありませんか」

「同じことを考えておりました」

 ふたりの男が後部艦橋に張られた天幕の下で話しあう。

「西方へ向かう船と、遭遇そうぐうしませんな」

「いったいどこから法王庁へ情報がれるかわかりませんから、最大限の注意は払っているつもりですが……一隻とも、となるとおかしい。

 私掠船は同じ海域をウロウロしているだけだとしても」


 いかに穏やかな内海とはいえ、ある程度の大型船がとりうる航路は、そう多くあるものではない。

 海は広く自由であるように思われるが、実際には水深や海流、風向きの問題で内海の大型船の航路は限定的なものだ。

 風向きのころころ変わるファルーシュ海では、風向きという要素は少なかったが、大型船は大きく分けて北回り航路と、南回りの航路を通ることが多い。


 最短距離を走破すべくエポラール号は北回り航路のなかでも、やや南寄り、という寄港回数を最小限に留めるための航路を使っていた。

 この時期は冬の到来の前に最後のひと稼ぎをしようという商船が使うことの多い航路である。

 特に東方から西方へと帰る船の多いことは、より北側・内陸に存在する黒曜海の北側が十一月の前半には凍りはじめることからも、当然だった。

 商魂たくましい一部の例外はともかく、家族のもとで、聖誕祭や年末年始を過ごそうとする商人たちの。いわば帰省ラッシュの時期なのである。

 海での軍事行動は冬の間は行わない、というのが常識であった時代であるから海軍も帰投をはじめる。

 つまり、一年でもっとも行き交う船の多い時期のはずだった。


「エスペラルゴの私掠船が跳梁跋扈ちょうりょうばっこしているせいでしょうか?」

「いかに厳重に網を張っても、一隻も、となるとできる話ではない。海に鎖でも渡さぬかぎり不可能なことです。

 だいたい、東西貿易の要を封鎖してしまったら、困るのはエスペラルゴも同じ。強大な軍隊を喰わせるには、資金が必要ですからな」

 なにより、そんなことをすれば西方諸国すべてを敵に回す。法王庁からも突き上げがあるでしょう。

 艦長の指摘に、ふうむ、とノーマンは顎に薄く生やした髭を撫でた。

「たしかに妙な話ですな」

 そんな会話を交わしたのが二日前のことだ。


 一方でアシュレは天を仰いでいた。


 脳裏を占めていたことがあった。

 “悪”についてだった。

 “悪”とはなにか、という問いだった。

 “悪”とはどういうことか、という定義の問題である。


 たとえば、グランだ。


 許しがたい仇、敵だった。

 三人の聖堂騎士とその従者を含めた十五名以上の命を奪った怨敵。

 アルマが法王庁を裏切って〈デクストラス〉を奪い、そのもとに走った元凶だ。そのせいで、ユーニスは命を失った。

 自らの祖国を焦土に変えた男。

 国民全員が被害者なのだとすれば、奪った命は数万を下らない。

 大罪人であり、弁明の余地のない“悪”である。


 だが、グランの《ねがい》を、そのすべてを指して“悪”と断ずることが、アシュレにはできなかった。


 だれよりも国を愛した。

 民を、妻を、息子たちを、なにより、国土、郷土を。

 そのために、すべてを救わんと欲し、救い主を欲し、たがために“悪”を引き受けようとした。

 聖なるものを輝かすために、自ら人々の暗部、終わらぬ影の従僕になろうとした。


 あるいは、ナハトヴェルグ。


 弟を殺し、血塗れの玉座に座したガシュイン公の時代に生きた。

 密告と裏切りが人心を乱し、圧政を強いられた人々の蜂起に加わった。

 人民の手に政治を委ねることができれば、明日は開けると信じて戦った。

 それが正しい結果に繋がったかどうかは、歴史が判断することだろうが、世界の革命を夢見た。


 そして、夢に裏切られた。


 それでも諦め切れず〈デクストラス〉と〈パラグラム〉、そして、亡国の姫であるアルマに辿り着いた。


 けっきょくナハトを突き動かしていたものは飽くことない己の野心であったが、それは程度の差こそあれ、世の王すべてに共通することだ。


 じっさいにナハトはアシュレに公言した。

「王になる」と。

「責任を引き受けてやる」と。

 傲岸不遜だが、その覚悟は見事だった。

 アシュレは、ナハトのその部分をなじれない。


 たしかに“悪”ではあったかもしれない。

 アルマを喰いものにし、たぶらかし、道具として扱ったのだから。


 けれどもそこには一種、貫かれた信念があった。

 もし、ナハトに非があるのなら、共犯者であったアルマに、そのことを告げなかったことだ。

 己が“悪”であることを告げなかったことだ。


 それがアシュレが唯一、許せなかったことだ。

 グランにはあり、ナハトになかった唯一のこと。

 アシュレの心証を大きく変えた、たったひとつのことが、それだった。

 グランに抱く共感と憐憫れんびんが、ナハトに対して生じない理由だった。


 では——ひるがえって、自分はどうであるのか。


 イリスに“悪”になると宣言した。

 そうすることでしか減じることのできない罪の意識を、引き受けると決めた。

 だが、それなのに“悪”になりきれない自分がいた。


挿絵(By みてみん)


「ボクは甘かった」

 痛悔つうかいの念が言葉になった。

 つう、と涙がこぼれた。

 おまけに出血が止まらなかった。鼻から。


「ちょっと、ちょっと、アシュレ、マジ大丈夫? 鼻に詰めた布、血が染みちゃってるよ。壊血かいけつ病? 船乗りさんたちが言うには、果物が効くって。食べなよ」

 テーブルの対面でイズマが心底心配そうな顔をしてくれている。

 よく熟れた柑橘かんきつ類を手ずからいてくれている。

 アシュレは申し訳なさに涙が止められない。


「これじゃあ、ボクは、悪人じゃなくて、ただのダメな大人です——」

「なんだよー、どうしたんだよー、元気出してくれよー、イズマ、心配だよー」

 オロオロとイズマが霊薬エリキシルを探した。


「せめて理由を言いなよ。ボクちんたち友だちだろ? 相談しなよ。そんなキミを見てるのつらいんだよ。なんか目の下、クマできてるし。ねえ、アシュレ、アシュレってば」

 この世でもっとも相談してはならぬ男が、涙目でアシュレの身を案じていた。

 こんな修羅場が世の中には存在するのだと知り、アシュレは背筋が寒くなった。


「聖騎士さま、大丈夫ですか?」

 声がして、視界に女のコが入ってきた。

 従軍兵のペルラだった。

 たしか、アシュレを好みだと言っていたような。


「いえ……ボクは、ダメです。ダメダメです」

「騎士さま、おつらそう」

 純真そうな彼女に頭をハグされアシュレは硬直した。


「そーなんだよ。ペルラちゃん、優しくしてあげて」

 イズマが茶化しもせずそう言った。

 アシュレは戦慄を覚える。

 なにかよくないことの前触れだった。

 ペルラがまっすぐにアシュレの瞳を覗き込んで言った。


「わたしなんかでよければ、いつだってお慰めしますから」

 四歳年下の子供に頬を染めてそんなことを言われ、アシュレは込み上げるものを感じた。

 温かく、塩辛く、鉄臭い。

 鼻から喉に逆流した血である。


 ごぼり、とアシュレは血を吐いた。

 わわー、とふたりが悲鳴し、イズマが立ち上がった。


 すべてはアレが発端だった。

 アシュレは回想する。


 エスペラルゴの軍船と遭遇した晩、アシュレはけっきょく明け方まで哨戒しょうかいに従事した。

 賓客ひんきゃくであるアシュレにそのような義務はなかったが、いざとなれば圧倒的な長射程で先制できる〈シヴニール〉を持つ自分が、非常時に安眠を貪ることなどできないと自発的に行動を起こしたのだ。


 おかげでカテル病院騎士団からの評価はさらに高まった。

 聖務を果たした勇者であり、ノーマンが頼むほどの男であるのだと、自然に周知されたのだ。


 問題はそのあとである。

 一晩中潮風に当たった身体を湯船とは言わずとも、よく絞ったタオルで拭いていたときのことだ。

 カーテンの隙間から曙光しょこうが差していた。


 ドアがノックされ、アシュレは無防備に応じた。上半身裸のまま。


 イリスがいた。わ、とアシュレは驚いた。

 だが、そんなものは序の口だった。

 その背後にシオンがいた。え、と戸惑った。


 それからなにがどうなったのか、アシュレの頭脳は思い出そうとするたびに、鼻から血を噴き出させる。

 夢だ、と逃げることもできない。

 ふたりの姫は本気だった。はっきりと愛を断言された。

 選ぶ必要も答える必要もない、と告げられた。


 なんだ、これはなんだ、とアシュレは混乱の極みに達した。

 先頃のアシュレの決意など風の前の塵芥じんかいに等しかった。

 ふたりの姫たちはもっと超越的、超法規的行動を起こしたのだ。


 圧倒的な決断力と団結に、アシュレは完全に押し切られてしまった。

 あろうことかふたりの愛を、互いの前で受け入れてしまった。

 あるいは同時に……いや、これ以上は記述に残せない。


 ダメ人間の刻印を、どうしようもなくはっきりと受けてしまった。

 世間にではない。

 自分自身によって、だ。


 あれ以来、毎晩連れ立って、あるいは時間差で訪うふたりの姫をアシュレは拒めないのだ。

 嵐のように胸を掻きむしる愛しさに抗えないのだ。


「マジ・ダメ男」

 たぶん、イズマの言葉を借りるならそうなるであろう徒名を、アシュレは甘んじて受けるつもりだった。


 ただ、ただ、もうしわけなかった。


 父に、母に、法王猊下に、幼なじみのレダマリア枢機卿に。

 想像であるのに、冷たい視線が刺さるようだった。

 ぐふう、と嗚咽がれた。


「だ、だいじょうぶだよ、アシュレ。ダメだって、ダメ人間だって生きていける。生きているんだ人間なんだ」

 真性ダメ人間であるイズマが言うと凄まじい説得力を言葉が帯びる。

 しかし、人間的なことを基準にするならアシュレは自分はイズマのさらに下位に属するのでは、という恐ろしい結論に震えが来た。


「大丈夫か」

 涙で曇った視界に、突然、苦味走った男の顔が飛び込んできて、アシュレはなぜかほっとした。

 ノーマンである。

 自分をこのケシカラン領域から、まっとうな男の世界に連れ帰ってくれる頼もしい兄貴のように、アシュレにはノーマンが感じられた。

 行った先がまっとうな世界かどうか、という考えはこのときのアシュレにはない。

 溺れるものは藁をもすがる。

 藁にしては、ずいぶんとノーマンはごつかったが。


「大丈夫なわけないッしょ! 見てわかんないのかねッ、アシュレがたいへんなんだよ!」

「とりあえず鼻を押さえよう。それから、煎じ薬だ」

 ノーマンはペルラに命じて手際よく処方を与えてゆく。

 出血は鼻を押さえるとほどなく止まった。


 さあ、これを、と煎じ薬を差し出され、アシュレは強い香りのそれをゆっくりと小口にわけて飲み下した。


「んー、イグナーシュでの戦のあと、完調でないのに激しい運動をしたような症状だ? だいぶアルコールも入っていたし、この間の完徹も一因だったかもしれん。ずいぶんと疲れが出ている。粘膜も弱り気味か。カタツムリのスープ——ギョッタがいいだろう。ペルラ、厨房に頼んで欲しい」


 は、はいっ、とペルラがなぜか頬を赤らめて厨房に向かった。


「? なんでペルラちゃんが赤面してるの?」

「ああ、ギョッタは盛夏からその疲れの出やすい秋口に主に食べる南方の食事で……いわゆる滋養強壮……もう少し端的に言うと、男性機能的な……」

「ボクもッ、ボクちんもッ、いただきまっす」

「疲労困ぱいでもないのに、あまり多量に摂取すると……どうなってもしらんぞ?」

 効果のほどを聞き、いったいどんな食事が出てくるのか恐ろしくなったが、出てきたのは淡泊な野菜と貝のスープだった。


「うまいじゃん。ちょっと苦味があるんだね、カタツムリ。こんなんで効くの?」

「まあ……効果のほどは試してみるといい。どうだ、アシュレ?」

「うまい、です」

「だろうな。カテル島のカタツムリは食べ物が違う。自生する高品質な香草・薬草の類いだ。効くぞ」


 身体が必要としていたのだろう。アシュレは二杯もおかわりした。

 その途中でふたりの姫が食堂に現れた。


挿絵(By みてみん)


「うまそうなものを喰っているな」

「巻き貝のスープ? 珍しい。二枚貝ならよく聞くけど」


 イリスはアシュレの隣り、シオンはイズマの隣り、アシュレの対面に腰かけた。相次いでカタツムリのスープを注文するふたりの姫に、だれもその効能を説明できなかった。恐ろしくて。


「ふーん、繊細な味付けではないか。うまい」

「ほんとだ。これ、カタツムリなんだ。サザエのもっと柔らかくて上品な感じ。おいし」


 ノーマンなど肝の据わったもので、自身も食べると言いはじめた。あるいはこれが朴念仁というものなのか。


「どれ、わたしも、もらうか。ペルラ、すまん、もう一皿追加してくれ。キミも食べるか? そうか、いらんか。残念だな」


 こうして、卓を囲んだ男女全員が滋養強壮食を摂るという、相当に奇怪な絵づらができ上がってしまった。

 黙々とカタツムリの殻をくその音だけが、ガラ入れに積み上がっていくという不思議な光景が展開した。


「はて……わたしはなにを言いに来たんだっけかな? カタツムリを喰いに来たわけではなかったはずだが」

 ノーマンが首を捻った。

「そーいや、ファルーシュって内海なのにヒマな海なんだねぇ。もうちょっと他のお船が見れると思ったのに」


 イズマが言い、それだ、とノーマンが反応した。

 お船? とイズマが小首を傾げた。


「どうも奇妙だ。エスペラルゴの軍船以降、西行きの貿易船に一隻も遭遇しない。この時期だ、大小合わせれば少なくとも日に十隻はすれ違うはずなのに、一隻もだ。そして、先ほどこれが流れ着いた」

「板? あ、色塗ってあるじゃん。白塗りに緑か、アラムっぽいね。まだ新しい。船の外壁? 名前が入ってる——ああ、アラム語だ……イブン・ふぁ??? 切れてて読めないや」

「たぶん、イブン・ファーイズ。勝利者の嫡子号。オズマドラ先遣艦隊の旗艦。記録情報がある。第一皇子:アスカリヤ・イムラベートルの乗船艦。情報が正しければ、だが」

「! まさか、海戦が行われた?」

「たしかかどうかは、わからない。だが、それと同じ程度の危険が、さらに東側で起きている可能性がとても高くなった。皆には備えておいてもらいたい」


 質問! とイズマがまじめな顔で手を上げた。

 どうぞ、とノーマンが指す。


「グレーテル派の首長、カテル島の大司教、ダシュカマリエさん? その予言にはなかったの、今回の事態は?」

 鋭い問いだった。

 ノーマンがつらそうに顔をしかめる。

「ダシュカマリエの予言はほぼ的中、外したことはない。ただ、今回の事態は予言にはなかった。予言も実現までの期間が長期に渡れば渡るほど、突発的な事件が差し挟まりやすくなる。半年先を見通す、というのは精度的には限界のはずだ」

「だれかの動かす、どの駒が運命のキーストーンかは、本当の意味では読み切れない、ってことか。なるほどなあ、納得だよ。もしかするとこの動き、ボクらが引き起こしたことかもしれないんだね」

 占術を得意とするイズマが、船の破片を掴んで言った。


「ましてや相手が《スピンドル》能力者やオーバーロードであった場合は……」

「文字通り、航路から飛び出すスピンアウトというわけか。いや、わかる。ボクちんの占術と理屈は一緒だ。なるほど、なるほど」


 意外な理解者の出現にノーマンはほっとした顔をした。

 このとき、アシュレは意外な思いがしたものだ。

 ほとんど教義的なことを押しつけたりしないノーマンが、大司教のことは気にかけているのだとわかって。


「それこそ、イズマ、オマエが占ってみよ。船の断片まであるのだ。精度は高かろう」

「あ、イズマさんの占い、見てみたいです。行方不明だったわたしを……見つけてくれた能力なんですよね」

 ふたりの姫からの催促さいそくをイズマは両の掌をこちらに向けて押しとどめる。

 まあまあ、という表情。

「ふたりの美しきご婦人からのリクエストとあっては、このイズマ、やぶさかではありませんけどねえ」

 でも、できません。

 しれっと言い放った。姫たちからブーイングが飛ぶ。


「できねーものはできねーんですって。あのね、ボクちんの種族考えて! 

 土蜘蛛ッスよ。地面繋がりの事象なら、ほんでもって最近のことなら、かなり正確に当てられる! でもね、ここ、水で区切られてるっしょ。

 海。交渉外なんだって。で・き・な・い・の! 

 占いの布が触れてる地面と占う事象が繋がってなけりゃ、ダメなんだって! 

 そういうルール、キマリなんだよ」


 イズマは専門家として門外漢たちに説明した。

 聞いてしまえば納得の内容だった。姫たちは膨れっ面だったが。


「どちらから流れてきたのかはわかるのか」

 シオンがノーマンを見て言った。

 かたわらではイリスが〈スペクタクルズ〉に破片の特徴と船名を記録させている。

「かなり詳細に。海図も海流図もある」

斥候せっこうを出してみてはいかんか」

「小舟を先行させる、というわけか。危険だが、たしかに価値はある」

「いや、先ほどまでの話を総合すると、関わっておるのは《スピンドル》能力者かオーバーロードか、はたまた、それを凌駕りょうがする能力の持ち主か、ということになる。

 そうなると、常人ではいかに精強な兵といえど勝ち目はない。

 なにしろ《閉鎖回廊》は常識の通じぬ領域だ。

 あたら貴重な命を散らすこともなかろう。こやつが行く」


 もそっ、と卓上に一匹のコウモリが現れた。ヒラリだった。

 昼間であるから動きが鈍い。眠いのだ。


 可愛いっ、とイリスが黄色い悲鳴をあげた。

 アシュレはノーマンの顔が一瞬、緩んだのを見た気がした。

 瞬きするほどの時間だったが。


「こやつとわたしはリンク関係にある。ヘタな斥候より得られるものは大きかろうよ」



 こうして、ヒラリが飛び立っていった。





 

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