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■第六六夜:レジスタンスのメモワール

         ※

         

「それにしても気前よくくれてやったものだ。そなた、アシュレダウ、これは聞き分けのない子供に極上のワインをたらふく呑ませたのとあまり変わらんのだぞ? みろ、すっかり蕩けてしまっておる」

「にゃにゃう、そ、そんなことはないっ! ぜ、ぜんぜんだいじょぶなんだからっ!」          


 とても大丈夫とは思えない感じでベッドに腰かけ、枕をかかえてスノウメルテは言った。

 いっぽうのアシュレは椅子の背を抱いて、スノウと正対していた。

 傷だらけ、剥き出しの背中に、シオンが軟膏を塗り込んでゆく。

 ずいぶん傷が増えたな、とシオンは思う。

 

 それは柔和な面立ちのこの男が潜り抜けてきた修羅場の証明、そのものだ。

 

 夜魔の一族はその永遠生、不死性ゆえに、治癒系の異能をほとんど習得しない。

 人類にとっては致命傷としか思えないほどの傷を負っても、無意識のうちに高速で治癒していく肉体もつ一族が、あるカテゴリーのそれを軽んじたとしても、それはむしろ当然であっただろう。


 シオンも例外ではなかったが、このテレピン油と卵黄、ハーブオイルとバラの香油を混ぜた軟膏は、人間であるアシュレの身体をおもんばかって、持参したものだ。

 化膿を食い止め、火傷や傷の治りを促進するそれは父:スカルベリの所有する書物から、シオンが見つけ出したものだ。

 なるほど、こういう手段で人類は傷を癒すのだな、と。

 それをイズマに調合させたのだ。


 そのあとで、小分けにする際、こっそりとシオンの血が混ぜてある。

 

 アシュレに用いるのだとすれば、シオンの血に溶けている《夢》が良いほうに作用するのではないか、という考えからだ。

 なるほど、血の授受によって命を受け渡しする夜魔らしい発想であった。


 そしてそれは、正しい。

 アシュレの傷口にそれは素早く浸透して、馴染み、傷を癒していく。

  

 だが、それを雪のように白くやわらかい指先で優しく塗り込みながら、シオンはアシュレの肉体が、この軟膏の助けとは別に、人間の常識では考えられない驚くべき速度で回復していっていることを、まざまざと思い知らされた。

 なにしろ、あれほど深く噛まれたにも関わらず、肩口の傷からの出血は、もう完全に止まっていのだ。

 さらに甲冑の下、広範囲に受けた火傷が、目に見えて再生している。 

 耳をそばだてれば、組織の再生する音が、ぷちりぷちり、と聞こえた。

 

 傷の治りが早まるのはよいことだが。

 シオンは思う。

 それは、アシュレの肉体が、どんどんと人類の規矩から外れていっている証左だ。

 アシュレの肉体が変異して──陽の当たらぬ場所へと、後戻りのできぬ道へと、踏み込みつつあるのだ。

 ずきり、とシオンの胸は痛んでしまう。

 

 かつて、フラーマの漂流寺院にあって、集中しすぎた《スピンドルエネルギー》の開放弁となったアシュレは、心臓を爆ぜさせ、死んだ。

 そのとき消え行くアシュレの命の灯火を、シオンは己の臓腑ぞうふを注いで、つないだのだ。

 決して許されぬ外法:《アルジェント・フラッド》によって。

 この罪悪感から逃れることは一生できないだろう、とシオンは思う。

 やはり、わたしは、わたしの一生を賭して、アシュレに尽くさなければならないと思う。

 本当は英雄として死ぬことのできた男を、こうして、ヒトならざる存在として甦らせてしまったのだから。


 だから、本当なら、すぐにでも──償いとして、愛を捧げたいのに──なぜ、このスノウを助けてしまったのか。


 無意識にも恨みがましい視線をスノウに送ってしまう。

 いっぽうで、そんな視線を送られたスノウのほうも、むむむ、にらみ返す。

 

 なにか、また、ややこしい関係性に発展しそうで、前後に挟まれたカタチのアシュレは、あはあは、と笑うのが精一杯だ。

 

「えーと、落ち着いたところで、とりあえず、自己紹介をしようか。ボクはアシュレ。アシュレダウ・バラージェ。むかしはエクストラム法王庁の聖騎士パラディンだった。いまは、遊歴の身、ということになるのかな、もしかすると」

「……さっきもしたが。わたしは、シオン。シオンザフィル・イオテ・ベリオーニ。そなたたちの言葉を借りるならば、“叛逆のいばら姫”となるのか。あまり名誉な呼び名ではないが」


 ふたりの名乗りにスノウは抱いていた枕をいっそう強く抱きしめ、それから、決意したように言った。

 

「スノウ。スノウメルテ・ファルウ……え、と、カラクル村の……スノウだ」


 簡潔な自己紹介にアシュレは思わず口を半開きにしてしまった。

 え、という声が漏れる。

 

「それ……だけ? というか、村の、娘、さん?」


 失礼だとは思いながらも、アシュレは指さし確認を止められない。

 ということは、アレですか、もしかして、いわゆる無辜むこの民?

 だとすれば──彼女の行いがどれほど無謀なものか、アシュレはいま一度、思い知った。

 

「ちがうっ! 今年の春から従者として登城するハズだった! だが、そのまえに、どうしても問いたださなければならぬことがあった! だからだな!」


 だから、わたしは、今日、ここに来たんだ。

 さらにアシュレには、よくわからない理屈でスノウは結論する。


「えーと」 

 

 意味、わかる? とアシュレは首を捻り、シオンを見る。

 はー、とシオンはふたたび呆れた様子でため息をつくと、指についた軟膏を丁寧に拭い、アシュレの横に立った。

 

「スノウ、そなたの話は、前提がないとかなり、わかりにくい。さきほど、夜明け前、夜魔の騎士たちと口論していたな? そして、それは彼らが孤立主義者たちと結んだことに関係がある、とそなた自身が教えてくれた。だが、なぜ、従者になる予定だったそなたが、故郷であるカラクル村を離れ、ここに出向いたのか。そこがわたしたちには、さっぱり理解できんのだ。従者になるというのであれば、城に出向くのが筋。そのあたりの理由と経緯を、話してくれ、とわたしたちは言っているのだ」


 わかってくれたか、とシオンが腕組みした。

 あー、とスノウは視線を彷徨わせる。

 子供のような仕草。

 

 いや、実際そうなのだろう。

 従者として登城する、ということは将来の騎士候補生なのかもしれない。

 だとすれば、未成年である可能性が高い。

 たしか、カテル病院騎士団には十二歳のときから従者経験を積んでいる若者たちがいたはずだ。

 だとすれば、もしかして、彼らとそう違わぬ年ごろなのではないか。

 小柄だが、触れることをはばかられるような美貌と結い上げた髪、それから、時代掛かった言葉づかい。

 取り押さえるときやむなく抱きしめたときの感触から、成人は済ませているとは思ったのだが。

   

 そんなアシュレの推察など、どこ吹く風。

 スノウは、しょうがないわね、と漏らすと説明を始めた。

 すなわち、これまでの経緯を、である。

 

 なぜ、まっすぐに登城しなかったのか。

 どうして、わざわざ、この拠点へと詰問に来たのか。

 

「決まっているだろう。戦うためだ」

「戦う、とは?」

「敵に決まっている」

「敵、って?」

「ちょっとは考えろ。オマエたちだ、アシュレダウ、シオンザフィル──アラムのオズマドラと通じて、ユガディールさまの信頼を裏切り、くにを乱した裏切り者め!」

「なるほど、そういう風に解釈されるわけか。……たしかに、トラントリム側の視点からでは、そうなるな」


 舌鋒鋭く突きかかったはずのスノウは、その槍がアシュレのかざした盾に、からめ捕られ、受け流されるのを幻視した。

 

「な、なにが、解釈だ。実際そうだろうが! オズマドラの密偵として、我が国に潜り込み、国家転覆を目論んでいるだろうが! さっきも、さっきも言ったぞ、敵対するなら──容赦しない、と!」

「……たしかに、そうかもしれない。ボクはいま、オズマドラ第一皇子:アスカリヤと共闘している。それに今回の侵攻作戦はオズマドラ主導であることも間違いない。ボクたちが戦いに勝利すれば、国家転覆どころか──このくにと、ユガディールが提唱した“血の貨幣共栄圏”は消滅する」


 事実を認め、それどころか、恐るべき未来予想図を淡々と告げるアシュレに、スノウは息を呑み目をみはることしかできない。

 スノウの舌鋒を受け止めた盾、その陰から突き返された穂先は、あまりに鋭かった。

 

「たしかに、ボクはいま、キミの敵だ」

「な、なにをいけしゃあしゃあと。そ、それでは、どこに話しあう余地がある。オマエは、侵略者、完全な侵略者ではないか!」

「そうだね」

「そうだね……だとッ?」


 なにをいっているんだ、コイツは。

 あまりにもあっさりとアシュレが認めるせいで、逆に言葉を失ってスノウが指を宙に彷徨さまよわせた。

 そんなスノウに、ただ、とアシュレは付け加えた。 

 

「ただ──ボクがこの地に還ってきたのは、滅ぼすためじゃない。取り戻すためだ」

「取り戻す、だと?」

「そうだ」

「なにを」


 釣り込まれて訊くスノウに、アシュレは一度、目を閉じ、それからゆっくりと開いて誓いを確認するように言った。

 

「ユガディール・アルカディス・マズナブを。高潔な夜魔の騎士だった男を。人類と夜魔との共存を本気で願い、現実と戦い続けた男を。その《意志》を。《魂》を」


 おそらくそれは、狂気に聞こえたはずだ。

 いまから戦争をしようという国家の、その玉座に座る男の《魂》を取り戻す、という宣言を聞いて、正気だと思う人間などふつうはいない。

 

 たったひとつの例外。

 トラントリムが抱える暗部──自作自演の楽園について、気づいてしまった人間以外は。

 そして、スノウの反応は、その例外に属していた。

 

「ユガディールさまを……とり、もどす?」


 ペパーミントの瞳が見据えるべき現実を見失って、せわしなく動く。

 

「なにか、知っているんじゃないか……キミは。だから、こんなところにいるんじゃないのか。このくにの秘密を。いま、このくにで起きていることを。隠された矛盾を」


 アシュレの声はあくまで静かだった。

 だが、だからこそ、それはスノウが抱えていた疑問、うしろめたさの部分を、確実に貫いた。

 

「ボクは、ボクの《意志》を話した。こんどはキミの番だ。どうして、こんな場所に来たのか。それを聞かせてくれ」

「そ、それは……」


 見たのだ。

 ぽつり、とうめくように、スノウは言葉にした。

 

「孤立主義者たちと夜魔の騎士さまたちが……話あっているのを」


 たぶん、ひと月もまえのことではなかったと思う。

 森のなかの遺跡群で。

 月のない晩のことだ。

 絞り出すように言うスノウの声には、苦痛があった。

 

「月のない晩に? ひとりで? 遺跡群に?」


 なぜ、そんなことを。

 女のコひとりじゃ危険だ、という意味で、アシュレは問うた。

 

「決まっている! 村の安全を守るためだ! わたしは、誇り高き夜魔の騎士の血を継いでいるのだぞ!」


 いわく、この自警行為は、齢十二を境に、スノウが自主的に始めたものだという。

 オズマドラの軍靴の音が高鳴り始めていた時勢のことだ。

 外部からの脅威に呼応するように、孤立主義者たちの活動も活発化していた。

 アスカたち“砂獅子旅団”が戦術指導教官として、トラントリムに送り込まれていた時期ともこれは一致する。

 だが、相手は《フォーカス》なしではアシュレですら苦戦するインクルード・ビーストを引き連れたテロリストたちだ。

 もし、不期遭遇戦になど陥ったら、ただではすまない。

 死か、それよりもおぞましい運命が待ち受けるのは必至。

 とんでもないお転婆娘がいたものだ、とあきれ返るアシュレとシオンをよそに、数々の武勇伝を交えながら、スノウはいかにして自分がカラクル村を守ってきたのかを語った。

 怪しげな動きがあれば、すぐにも、週一度か二度は巡回してくる巡回吏や夜魔の騎士たちに報告していたのだという。

 

「どうだ、すごいだろう」

「うん、すごいね。鳥肌が立ったよ」


 よくこの娘さんは無事だったな、という意味でアシュレは鳥肌を立てていた。

 

「当然だ。わたしは騎士になるのだからな」

「それわすごいなあ」


 棒読みにアシュレは言った。

 それで、と続きを促す。

 それでだ、とスノウは語りを再開した。

 

「問題の現場に遭遇したのは、巡回を兼ねた訓練のために、孤立主義者たちのテリトリーへ出向いたときだ」

「スノウ、キミは……」

「そうとも。勇敢だ」


 アシュレは頭痛がしてきた。

 この娘さんはもしかしたらだが、首に輪と鎖をつながなければダメな感じのコなのではないのか。

 

「最初は《夢》でも見たのではないか、と思ったよ。だが、わたしに流れる夜魔の血が、それは夢幻の類いではない、とはっきり教えてくれていた。完全記憶ほどではないが、わたしは記憶力に自信があったからな」


 そして、その騎士さまには、わたしは面識があったのだ。

 

「いつも、わたしの報告を受けてくれていた方だ。リンツベルトさま」


 信じられなかった。

 スノウは枕をいっそう強く抱きしめた。

 その日の光景が脳裏に鮮やかに甦るのだろう。

 特徴的な夜魔の追憶能力にそれはたしかによく似ているようにアシュレには思えた。

 

「スノウ、キミはそれを」

「もちろん、誰にも言わなかったさ。民心を悪戯に乱すのは、騎士の務めではない」


 うん、そうだね、賢明だ、という感じでアシュレはうなずく。

 実際は背筋に冷たい汗をかいていたのだ。

 シオンが、気づかって拭きとってくれたくらいだ。

 だが、アシュレのその様子を、自分の行動への共感と勘違いしたのか、スノウは勢いを増して言った。

 

「だから、その後もわたしは監視を続けた。次の晩も、その次の晩も。疑惑を解くためだ。なにか、理由があるはずだ、とな」

「そなた、血はいずれから受け継いだ。父か、母か」

「父からだが、なにか」

「では、母上に感謝するがよい。夜魔は互いの血の振動を察知する。そなたが、そのリンツベルドとかいう男に見つからなかったのは地の利と単純に偶然、そして、そなたのなかの夜魔の血が弱められていたおかげだ。強大な存在同士は数万メテル先からでも、相手を察知するのだぞ」


 英雄譚に憧れ、血気に逸って盲目になり、己の武勇伝を声高に叫ぶスノウをシオンがたしなめた。

 むっ、とそんなシオンをスノウが睨みつける。

 

「ともかく……キミが無事でよかった。それで、その……密会は続いたのかい」

「ああ……物資の受け渡しも行われていた。そして、」

「そして?」

「インクルード・ビーストも、そこにはいたんだ」


 ふー、と天を仰いでアシュレは深呼吸した。

 

「それで、真実を問いただすために、キミはここへ、来たってわけかい?」

「話を聞かなければならない、と思ったんだ」


 アシュレはかぶりを振った。

 もしかすると、ホンの四半刻でも攻撃開始のタイミングがズレていたら、スノウは飛んでもない目に遭っていたのではないか、という想像にめまいがしたのだ。

 

「スノウ、キミの行動はひとこと、無謀と評されるべきものだ。騎士としての行いと、それを同列に語ってはいけない」

「おまえがそれを言うな! 信頼を寄せてくれたユガディールさまを裏切り、あろうことかアラム教の、オズマドラの手先として、我が国を侵略しようという男が!」

「騎士の誇りにかけて、ボクは恥じなければならないような振舞いはしていない。ユガディールと袂を別つときも、正々堂々、名乗りをあげての一騎打ちだった。そして……スノウ、そこまで見たならわかるはずだ。このくにが隠し続けてきた矛盾が。ボクの言ったことの意味が」


 それを確かめに、キミはここへきたのだろう?

 

「このくにを維持するために駆使されてきた巨大な欺瞞ぎまんを暴くために」


 氷の矢を心臓に撃ち込まれたような顔をスノウはした。

 けっきょく、夜魔の騎士たちと、どのような会話を交わしたのかをスノウは話してはくれなかった。

 生まれてからこのかた、ずっと信じ続けてきたものが目の前で崩落していくのを見るとき、ヒトの反応はどちらかだ。

 激しくそれを罵倒し、一気に真逆にふれるか。

 絶望しながらも、現実を認められずに、呆然となるか。


 スノウは後者の側だった。


 アシュレとシオンに対して、攻撃的な態度に出たのは、ふたりの存在が認められない現実のなかに現われた、唯一の手触りある的だったからにすぎない。

 

「でもっ、だって」

「いいや、キミだってもうわかっているハズだ。いま、このくにでなにが起きているのかについて。これまでの数百年という歴史のなかで、どれほどの欺瞞ぎまんが積み重ねられてきたのかについて」

「だって、だって……わたしの母さまは、やつらに……インクルード・ビーストに……殺されたんだぞ。そいつらを駆逐して、平和なくににするために、わたしたちは戦ってきたんだぞ」


 ぼろり、ぼろり、と大粒の涙がスノウの瞳からこぼれ落ちた。

 たぶん、そんなことだろうと、アシュレは思っていた。

 現実の脅威に相対してなお無謀であれる人間は、本当には少ないものだ。

 もし、それでもなお、無謀を成し遂げる者がいたとしたら、それは胸のうちに巨大な飢えを抱える者だけだろう。

 ここではないどこか。

 いまではないいつか。

 じぶんではない、なにものか。

 そういうものを激しく求める渇き。

 あるいは、欠損、とそれを言い換えてもいいかもしれない。

 それは、巨大な穴であり、喪失感である。

 この一見、無謀にしか見えない少女の行いの根底には、それがあったのだ。

 

 スノウという娘は、ヒトと夜魔の騎士との間に生まれ落ちた境遇と母親の死を、これまで騎士と国家への理想で埋め合わせてきた。

 だから、それが瓦解していくのを見たとき、とっぴもない行動に出た。

 どうしても、確かめずにはおられなかったのだ。

 それを若さ、と笑うこともできるだろう。

 

 だが、アシュレにはスノウを嘲笑することは、できなかった。

 

 たぶん、自分も同じなのだ、と気づいていたからだ。

 ユガディールという男に対して自分が向ける気持ちと、スノウのそれは、よく似ているのだと。

 

 そして、だからこそ、決定的な証拠を彼女には見せなければならないと、わかった。

 

 アシュレが所在を尋ねようとシオンを振り返るのと、すでにそれを携えたシオンが手渡してくれるのは同時だった。

 アシュレは微笑みだけで礼を表し、スノウに向かって、それを差し出した。


 このくにを支えてきた欺瞞ぎまんの正体。

 それについて詳細に記された唯一の書物。

 他ならぬユガディール本人が書き記したメモワール。

 

 ボロボロになった、あの手帳を。

 

 



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