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■第十五夜:決意と握手と(2)

 

「ほんとは口出しするつもりじゃなかったんだけど、経験豊富と名指しされちゃあ黙っておくわけにもいかないし、僭越せんえつながらご意見させてもらいましょうかね?」


 言葉とは裏腹に、あきらかに口出ししたくてたまらなかったのだろう。

 急き込んでイズマが言った。


「正直言って、オーバーロード相手に小競り合いを仕掛けて誘い出そうとする案は、トゥー・バッドと一蹴せざるをえないねえ」

「お客人、それは!」

 歯に衣を着せぬイズマの物言いに、剛剣使いの女傑:コルカールが気色ばむ。

「コルカール、発言を求めたのはわたしだ。気持ちはわかるが、黙っていろ」

 静かにアスカが一喝し、イズマに発言権を返した。

 

 どもども、とわかっているのかいないのか、アスカにもコルカールにもぺこぺことコメツキムシのような礼をして、イズマは続けた。

 コルカールがイズマのあまりの厚顔無恥ぶりに、あきらめの溜息をつく。

 

「さっきナジフ老が言ってたけど、《閉鎖回廊》は運命を操作する──これは間違いないことだよ。ただ、厳密に言葉を選ぶなら、操ることのできるのはヒトやそれに類する意識の持ち主だけ、なんだけどね?」


 だが、イズマがいつもの軽薄な口調で卓上に切ったカードは、列席したオズマドラ帝国の将たちを戦慄させるものだった。


「ヒトを操る、と仰いましたか?」

 聞き返したのは優男のティムールだ。

「んだぁよ。あー、操るっつったって、あれよ? 面と向かって襲わせるとかいうのはよほどですよ? 《スピンドル能力者》に襲いかかるには、本能に生じる死の恐怖を組み伏せないといけないから……第一、そりゃあ“彼ら”自身の望みにゃほど遠いし。

 だからまあ、なんていうか、ほんのちょこっとずつ、縫い物の編み目をひとつとばしてしまった、みたいな程度のかけ違えがどんどん連鎖するんです」

 

 たとえば、そうだなあ。

 例を探し、イズマは首を捻る。

 

「宿を求めた農家で食卓に出されたパンの小麦粉が毒麦に汚染されてた、とかね? あ、こりゃ充分致命的か? 密告する気がなくても、ちょっとした噂話で秘密が露呈して、結果的に密告されたみたいになったり。あーそだなあ、腐ってた階段の修繕が後回しにされてたり?」


 ね? これって偶然ぽいけど、じつは全部ヒトの《意志》が介在してるでしょ?

 

「そういうところを“彼ら”は操作してくるんですよ」


 優男のティムールが引きつるような形に唇を歪ませて笑った。

 イズマの例えが現実のものとなったとき起こるであろう惨事をリアルに想像したからだ。

 ちなみに話題に上った毒麦とは麦角のことで、悪魔の黒い爪との異名を取る。

 

 毒物の取り扱いに長けた土蜘蛛の一族であるイズマにとっては常識であったが、この時代、西方諸国に比して医療・薬学において圧倒的に先んじていたアラム教圏でも、麦角こそ毒麦であると知るものは少ない。

 

 これは医療知識・薬学知識が秘術・秘伝とされていたことにも起因する。

 そして、麦角の悪用は凄まじい被害を生み出すことから、その知識は秘匿されたのである。

 権力者に対して医師たちは、この話題に触れることを戒め、禁忌とした。

 

 麦角はその文字のとおり、麦穂に寄生した病魔によって麦粒が角状に変形し、その内部に猛毒を生成することで生まれる。

 それと知らず麦角を含んだ麦を引いて粉にし、これで焼成されたパンを摂取すると、犠牲者は死んだほうがマシだと思えるような苦痛を味わうことになる。

 全身が火にかけられたように痛み、幻覚による錯乱の果てに、手足が先端から壊死していくのだ。

 これは西方諸国ではいまだ原因が特定されていない。

 黒死病と同列に扱われ、年間数万の単位で死者を出す業病として恐れられていた。

 

 小麦よりもライ麦を宿主として好む性格から、貴族や富裕層よりも貧困層を襲うという性格も合わせ持っていた。

 これは社会階級における主食の違いである。

 

「人間が死ぬのはなにも戦争でだけじゃない。そのへんで酔っぱらって転んでも、打ち所が悪けりゃ死ぬでしょ? 馬車に跳ねられたり、人狼病に感染した犬に噛まれたり、食べ物が腐ってたり。そういうこと」

「それでは《閉鎖回廊》内にいるすべての人間が、我らの敵だとイズマ殿は仰るわけか」


 コルカールが憮然とした調子でイズマに言った。

 あきらかに不満を感じている様子だ。


「そうとは限らないよ。“彼ら”の《ねがい》にそれはよる。あと、《スピンドル能力者》か、それに準ずるほどの強い《意志》の持ち主ならその限りではない。でもさ、ほら、《スピンドル》の発現確率って一万人にひとり、だったよね? 人類的には? それに賭ける? みたいな判断基準ということで」

「だが、ならばなおのこと《閉鎖回廊》内には進軍すべきではないのでは?」

 ティムールがコルカールの肩を持つように言った。


「それね」

 イズマはそのティムールを指さし、反論していく。

 口調はふざけているが、こういうときのイズマの指摘、論陣の展開は本当に見事だとアシュレは思う。


「じゃあ、仮に君らのプラン通りに相手を引きずり出すべく、挑発攻撃を繰り返したとしようか。

 たとえば、森を焼いたりする? あと、夜魔の騎士をひとりずつ各個撃破したりとか、する? 

 でもね、その挑発行動を見せつけるために踏み込むのはどこ? 端っこだっつても、そこは《閉鎖回廊》なんだよ? 誰が火をかけるの? 人間でしょ? 

 その森に暮らすのはだれ? 人間でしょ? うっかり罠山盛りの、しかも土地勘は向こうが持ってる場所に踏み込むの? 

 あとさ、《閉鎖回廊》はオーバーロードを中心に働く。これ基本な?」

「つまり、悪戯に戦力を消耗するだけにとどまらず、敵の版図拡大に手を貸すハメになるかもしれない、とイズマ殿は言うのだな。オーバーロードが動くことで、前線が押し出されるように動いてくる、と。そのとき、残雪にぬかるんだ山林で、二〇〇〇の兵力がどう動けるのか、という話だな?」


 イズマの張った論陣に押し込まれるティムールとコルカールを見かねたのだろう、アスカが口を挟んだ。

 イズマがすかさず、そちらを向く。

 

「そそそ、そなの。つか、アスカちゃん、ちょっと見ない間に、なんだか色気増した? こう、すごい美人度上がってるんですけど」


 イズマの混ぜっ返しに、老将:ナジフを除くオズマドラの忠臣たちは憤慨したが、当のアスカが苦笑しているのを見て毒気を抜かれた顔になった。


「あいかわらず、面白い男だな」

「だめだよ、惚れちゃ。ヤケドするぜ?」

「わかった。気をつけよう。続けてくれ」


 こんな風にアスカに対する男を、彼らは見たことがなかっただろう。

 また、それを苦笑ひとつで収めてしまうアスカに至っては完全に想定外だったろう。

 イズマを軽くあしらい、アスカは先を促した。

 そんなアスカに投げキッスを送ってから、イズマは話に戻る。

 

「聡明なアスカ皇子にはこれ以上は蛇足かもしれないけど、いちおう、もっとも経験豊富な男として、今後の参考のために付け加えておくね? 

 もうひとつ、《閉鎖回廊》の外で相手の出方を待つやり方が良くないのは、オーバーロードは時間経過とともにその戦力と勢力を増強・増大するからなんだよ。

 運命を操作する力も、徐々にだが確実に強まっていく。オーバーロードが挑発に乗らず、戦力増強に努め始めたら、どう手を打つの? 

 人間の城相手に考えちゃだめなんだ。兵糧攻めとか、交易路を押さえるとか、心理的揺さぶりをかけるとか、ぜんっぜん効かないから。

 やつらヒトをやめちゃってるんだって。そんな駆け引き通じると思っちゃダメ。相手に運命の使い方を習熟させ、《ちから》の引き出し方に熟練する時間を与えちゃならんのです」

 

 普通はそんなオーバーロードに出会う機会はまず無いはずなんだけどサ。

 イズマがぽりぽりと眼帯を掻く。

 

「だって今回は──そのユガディールって男は、まだオーバーロードに堕ちたばかりなんでしょ?」


 そこまで言いきり、オズマドラ側の反論を封殺すると、イズマはアシュレに視線を投げた。 

 オズマドラ側に重い空気が垂れ込める。

 それでは自滅覚悟の正面突撃をしろ、と促しているようなものだからだ。

 以前のアシュレなら、そこでボクに振る? みたいなリアクションを取っただろう。

 だが、いまのは完全にわかった。

 イズマは最初からアシュレに話を締めさせるつもりだったのだ。

 

「つまり、《スピンドル能力者》を主軸とした少数精鋭による装甲突撃戦法──圧倒的不利な敵地にあえて飛び込み、ふところから食い破る対オーバーロード用戦術は、それらについて回る諸問題、障害を可能な限り排除した結果なのです」


 アシュレの、静かだが厳とした言葉が卓上に垂れ込めた空気を切り裂いた。

 イズマは口の端で笑い、眼帯を掻きながら席に戻る。

 主役交替というわけで、という合図にアシュレには見えた。

 

 なるほど、とアシュレはイズマとアスカの側近たちとのやりとりを見ていて思った。

 オズマドラ側、少なくとも〈砂獅子旅団〉には、オーバーロードと相対した経験を持つ者はきわめて少ないのだ。

 

 それは勢力範囲を人類圏に限定し、向こう側から仕掛けられない間は極力こちらからも手を出さない政策及び軍略思想を、オズマドラという帝国が、ひいてはアラム教圏が取り続けてきた結果だ。

 オーバーロードたちの所領を禁忌の領域と見なし、教義と治世という聖俗の両面から臣民に教育を施してきた。

 それはひとつの成果だろう。

 人類に残された土地だけを支配可能地域と見なすその考え方は、たしかにたいへん洗練された交戦規定だ。

 

 人類を相手取っている間は、どれほど強大な敵であっても《スピンドル能力者》。

 交渉も条約締結も効く。

 当然、そこは人類の生活してきた土地で、税収もあれば資源、なにより労働力としての人口を確保できる。

 

 掲げるための御旗として“大義”という概念が戦争には必要かもしれないが、蓋を開ければ本当に必要とされるのは見返りとしての土地やヒト、資源なのである。

 それを確保せぬまま戦争を始めたら、たとえ勝利を収めたとして、いったい何が手元に残るのか。

 当然だが戦費は、ただではない。

 民衆の血税でそれは賄われるし、かさんだ戦費は確実に税率に跳ね返る。

 

 オズマドラ帝国はそのことを知り抜いた統治者を生み出してきた。

 つまり、戦争は「可能な限りその相手を人類に限る」という思想の国家なのだ。

 そして、そうでなければこれほどの人口を賄えない。

 意識化し、言葉にしてみれば、これほどわかりやすい例はない。

 

 対するイクス教が、魔の十一氏族やオーバーロードを神敵とみなし、その封土を人類圏に奪い返すべく戦い続けてきたのとは対照的だ。

 そのあたりにもこのふたつの宗教の対立は、根があるのかもしれない。

 

 戦略・戦術の基本を《スピンドル能力者》ではなく、十万を超える一般兵たちによる人海作戦をオズマドラが展開してきた理由を、アシュレはこの短いやりとりで見抜いていた。

 

 たしかに、そう教育され、実際に戦場といえば「人類同士」か「侵略者である魔の氏族」に限定されてきた兵士たちである。

 その代表であるアスカの臣下たちにとって、イズマの言葉は「土蜘蛛という邪教・異文明の、さらに道を外れた無頼の輩が放つ世迷言」に聴こえたろう。

 そして、その男に言いくるめられる自分たちを決して「良し」とはしなかっただろう。


 だからイズマはアシュレに話題を振った。

 

 同じ人間の、自分たちよりはるかに年下の、場合によっては美少女に見えてしまうほどの──要するに頼りなげに見えがちな青年騎士が、その実、自分たちでは比べ物にならぬほどに修羅場を知り抜いた男だということを思い知らせてやれ、というわけだ。

 

 アシュレはイズマの話術のうまさ、皮肉というスパイスの効かせ具合に内心、舌を巻いていた。

 

 アスカの側近たちは気づいているだろうか? 

 オーバーロードを引きずり出す作戦の話をしていたはずなのに、イズマによって感情を煽られ突出してしまったのは自分たちなのだと。

 舌先三寸、舌鋒ひとつで、まんまと自分たちが装甲騎兵の待ちかまえる逃げ場のない、論陣という名の戦場に誘導されてしまったのだということを。

 そして、アシュレこそ、彼らの側面を突き襲いかかる伏兵の騎士だ。

 

「《閉鎖回廊》は、もはや人類の領土ではありません。オーバーロードという、あるひとつの理想の顕現者が、その極めすぎた理想実現のため──たいていはそれは極まりすぎて“悪”に転じるのですが──生死を問わず人々の人生を建材として組み上げた城塞です。

 こう言い換えてもよろしいか? それは“理想という《夢》の側から、《ねがい》によって召喚されたひとつの理想郷”だと」

 

 ──もちろん主たるオーバーロードにとっての。

 

 感情を逆撫でするような、いや、感情を逆撫でるよう綿密に計算されたイズマの論調の後だからこそ、アシュレの経験に裏打ちされた冷静な言葉遣いが効いた。

 アスカは側近を務める忠臣たちの胸を、アシュレの言葉が的確に貫いていくのを感じ取っていた。

 

「“理想郷”とは大きく出たな。それはイクス教が掲げるところの“天の國”と同義だと捉えてもよいものかね。聖騎士殿」


 たまりかねたのだろう。ナジフ老が反撃してきた。

 質問に込められた皮肉の刃をアシュレは敏感に察知する。

 相手の信教に言及するようになったら、それはもう他にやり返す方法がないと言っているのも同義だ。

 

「あるいは、もしかしたら。ボクたちはもう一度、互いの信教の根源を見つめ直す必要があるかもしれません」


 アシュレはあっさりと認めた。

 そして、鮮やかな返し突きを放つ。

 

「それは、オズマドラの英雄:オズマヒムと肩を並べ、三度もオーバーロードと相対したナジフ老なら、おわかりのことではありませんか?」


 むう、と急所を踏まれたようにナジフが押し黙った。

 

 眼前の青年──ナジフの三分の一ほどしか人生を経験していない男は、しかし、ことオーバーロードと《閉鎖回廊》に関する限りナジフと同等か、それ以上の修羅場を潜り抜けてきた本物の騎士だ。

 そう認めざるをえなかった。

 

「あなた方、オズマドラ帝国はヒト対ヒト、あるいは侵略者としての魔の氏族との戦いに関してのノウハウをこれまでずっと培ってこられたことでしょう。

 相対してきた我々西方諸国、エクストラム法王庁にゆかりあるものとして、純粋にその蓄積と、それを研ぎ、伝承し続けてきた伝統に敬意を表します」

 

 しかし、とアシュレは言った。

 

「オーバーロードと《閉鎖回廊》に相対するとき、これまで人間と意で人間界を舞台にした魔物との戦いで蓄積されたノウハウについては、すべて捨て去ってください。決してこれまでと同じ感覚で挑んではいけない相手、いけない環境──それが奴らです」


 まず、結論から言いましょう。

 

「少数精鋭の、それも《スピンドル能力者》に限定した部隊を二隊編成し、白魔騎士団とユガ=オーバーロードの撃破を可能な限り素早く行う電撃作戦を提案します。その場合〈砂獅子旅団〉本隊は、国境近辺で待機。必要であれば撤退の手助けをしてもらうことになります」


 ちょっとまってくれ、とティムールが優男の振舞いをかなぐり捨て、噛みついた。

 

「うかがったところでは騎士:アシュレダウは聖騎士叙任後・初任務でオーバーロードと相対されたという。そのとき、オーバーロード:グランの撃破にはアシュレ殿と、イズマ殿、そして──シオン殿が同伴されたそうだな?」


 作った握りこぶしから指を突き出しながらティムールが数えてみせた。

 ひとり、ふたり、さんにん。

 

「そのうちふたりは数百年に渡りオーバーロード級の怪物と死闘を繰り広げてきた伝説級の存在だ。そして、アシュレ殿はエクストラム法王庁の俊英。この天才三人で挑んだグラン戦はどうだったのか?」


 ティムールの言わんとしていることがアシュレにはよく判った。

 こう言っているのだ。


「オマエの言いたいことはよく判るが、やるのはオレたちだ」と。

「経験不足の上、寡兵をさらにふたつにわけようとオマエは提案しているのだぞ」と。

 そして「オレはまだオマエを信用しきっていない。なんなら、この話は罠だと疑っている」と。

 さらに付け加えるなら「オレたちのアスカ殿下をたぶらかして酷い目に遭わせようというなら、容赦はしないぞ」と。

 すべてを了解し、アシュレの口元に浮かんだのは柔らかい微笑みだった。

 

「おっしゃりたいことはわかります。ティムールさんは絵空事を聞きたいわけではない、とそう言われるのですね? 前線から遠い場所で、我関せずとばかりに垂れ流されるきれい事も、同じだと」


 年若いアシュレがつむぐやわらかな言葉の旋律が、己の放った皮肉交じりの指摘を、飛来する矢に対してかざされた強固な盾のようにガッチリと受け止めるのを、ティムールは見た気がした。

 

「ボクはオーバーロード:グランとの初対決で、ボクの命以外のあらゆるものを失いました。部下であった聖堂騎士団の精鋭と従者たち、合わせて十名以上を死なせた。そのなかには幼なじみであり、愛を捧げた女性ひともいた。イズマとシオンの協力を得てさえ、グランは凄まじい敵だった。グラン自身が望んだように。すべての“悪”を引き受ける。その《ねがい》を実現するかのように、強大で、限りなく邪悪で、哀しい存在でした」


 だけど、とアシュレは言った。

 けれども、と言い直した。

 

「ボクは生きて帰ってきた。そして、まだ生きている。死んでしまったヒトたちの後を追うように、無謀な突撃にすべてを賭けて死んでしまうこともできたかもしれない。

 だけど、ボクはそうしなかった。最期まで戦う、と決めたから。この運命と、だれかをそうしてしまうモノ──オーバーロードを生み出すもの──そうする《ちから》、つまり《ねがい》と相対する。正対して、これと対決すると約束したから」

 

 アシュレの言葉は静かだった。

 

 だが、静かであるがゆえにその場の全員が気圧されたように押し黙った。

 もっともイズマの口元には笑みが、シオンとアスカとアテルイの頬には紅が、それぞれ浮かんだり、さしていたりしたいたのだが。

 

「だから、ボクはボクの《意志》で、アスカに協力する。少なくとも、今回のトラントリム攻略戦を終えるまで、ボクは〈砂獅子旅団〉とともに戦う──いいかな?」


 最後の問いかけは、もちろん総司令官たるアスカに向けたものだった。

 一同の注視を受けるなか、アスカの唇がほころぶように笑みのカタチになった。

 

 この出会いに感謝する。

 アスカが短く、彼女の神:アラム・ラーに祈りを捧げ、あぐらを解いて立ち上がると、握手を求めてきた。

 アシュレも立ち上がって応じ、その熱い掌を握り返す。


 こうして、トラントリム攻略戦の火蓋は切って落とされたのである。





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