■第十六夜:絹糸の庵(けんしのいおり)
※
カンタレッラの吊り橋谷。
そう呼称される渓谷には、なるほど無数の吊り橋が架けられている。
土蜘蛛の暮らす地下世界では木材はそう簡単に得ることのできぬ物資であり、主に宮殿と神殿を建築するための資材ないし軍需物資と見なされる。
したがってその吊り橋は、地下世界上層部の入り口付近に密生するイワバミ葛などのツタを編んで作られることが常であった。
シダラの大空洞内部に作られた修験道も多くはそういった資材を使って編まれたものであり、数年に一度掛け替えなければならぬはずのものである。
そして、エルマの知る限り、シダラの入り口は数十年前には封鎖されており、あらたな資材など得ようがない、そのはずだった。
吊り橋はそのすべてが落ちていて、当然だった。
だが、橋は落ちていなかった。
いや、正確には落ちたはずの橋が、再建されていたのである。
タランテラノの崖とカンタレッラの吊り橋谷が交わるそのエリアには、驚いたことに緑が、ごく一部だが地上世界の植物が繁茂していた。
イワバミ葛はその名の通り岩塊の亀裂に根を差し込み、わずかな養分や水分を糧に勢力を拡大するツタである。
吊り橋谷まで降れば上方より吹きつける風は弱まり、また崖の亀裂を流れる水が滝となっていたから生命力の強いイワバミ葛やその仲間が生育する土壌は、なくはない。
だが、最大の問題があった。
光の存在がそれだ。
土蜘蛛たちは地下世界の種族であるが、まったくの闇に暮らしているわけではない。
橄欖石や蛍石、アメジストに光の呪いを練りつけて、自分たちの地下宮殿を飾り付けるのが土蜘蛛の様式美であり、銀の籠にそれら光を放つ自然の結晶・貴石の類いを入れ吊り下げておくのが、彼らの灯のありようであった。
土蜘蛛の種族にとって太陽の注ぐ光はときに強過ぎ、個体差はあったが、あまりに長時間目にしていると失明することさえあった。
彼ら土蜘蛛にとって地上世界の光景とは、だから星空や月夜の晩のことだったのである。
陽の光に憧れながらも、強い嫉妬を抱く──それが土蜘蛛の精神の根底を形作っていたのだ。
同時に、それら呪いのもたらす灯の強度では、地上世界の植物はうまく育成しないことを彼らは知り尽くしていた。
そうであるにも関わらず、カンタレッラの吊り橋はイワバミ葛で編まれていた。
それも驚いたことにそのツタは切断加工されたものではなかった。
つまり、この渓谷に架けられた吊り橋の群れはすべて生きているイワバミ葛によって形作られたものだったのだ。
驚いたことに、この渓谷には光源があったのである。
吊り橋は筒状に繁茂するイワバミ葛によって形作られ、その内側が光を放っていた。
イズマたちは足元から木漏れ日を浴びるという不可思議な体験をすることになった。
渓谷に辿り着いた三人を導くように、銀糸で編まれたような不思議な籠に光を捉えた娘が先導した。
無言で一礼すると、招くように蔦の道を歩んでゆく。
足音から浮かび上がる淡い光と娘の手にした柄の先で揺れるランタンの光が、純白の背を幻想的に照らし出す。
見れば、娘の背には小さく未熟な羽根──蚕のもののようなそれが見て取れた。
また、その娘の結い上げた頭髪の奥から同じく白色の紐が長く垂れているのを、エルマとラッテガルトは見逃さなかった。
娘の背中を見ていたのはそう長い間ではなかった、三人は程なくイオの言う庵に辿り着いた。
イオは庵の外で三人を待ち受けていた。
そして、その庵はうすい紙をツルで編み作ったカゴのような建物に貼り付けた──すなわち、繭のごときものであった。
「エルマさま、イズマさま、そして──お客人、お名前は?」
「ラッテガルト・フィオレ・ダナーン」
「ダナーン息女殿下、とお呼びすべきでしょうか?」
「ラッテガルトとだけ。ダナーンは我ら真騎士の血筋の総称ゆえ。家名はフィオレとなるが、真騎士の礼儀ではファーストネームだけで呼びあう。戦場でのいらぬ混乱をさけるためだ」
「失礼をいたしました。では、ラッテガルトさまも、ようこそおいでくださいました」
深々とイオは頭を下げ三人を出迎えた。
「一服差しあげる前に、まずは湯浴みをご用意させていただいております。疲れとともに戦塵を落してくださいませ」
「そうさせてもらおう」
こともなげにエルマが受諾し、ラッテガルトはまごつきつつも従った。
土蜘蛛の作法がよくわからないうえに、警戒をといてよいものかどうか判断がつきかねたのだ。
「甲冑を着けたまま上がり込むわけにもいかないでしょう?」
エルマはそう言ってラッテガルトを促した。
「あれ? 混浴でもボクちんはかまわないのに」
湯船は男女が別れていた。
イズマの発言は、それは相手を完全に信用してはいないという警戒心の発露であったにも関わらず、不謹慎なものとしてラッテガルトからの鉄拳が飛んだ。
「覗かれてしまうのも、乙女的には魅かれるシチュエーションですの」
「そのついたてから顔をのぞかせた瞬間、頭部が吹き飛ぶぞ、わかったか」
別れているとは言え、ふたつの湯船の間には例の薄い紙を貼り付けたようなついたてがあるだけで、声やもしかしたら互いのシルエットは丸見えなのかもしれなかった。
「それにしても、ラッテ、そのスタイルでそのボリュームは反則じゃありませんの?」
「はっわっ、ななな、なにっ、ちょっまっ、エルマっ、だめだっ、やんっ、あっ、顔を埋めるなっ、挟まるなっ、揉むなっ、吸うなあっ」
「あー、助けが必要なら仰ってくださいねー。いつでも参上しますからねー」
周囲に外壁というものがなく、ついたての後ろで侍従が待っているのだと思うとラッテガルトの動転は当然と言えた。
「やめんかあッ」
ごしり、とついにエルマの頭部に鉄拳が振り降ろされ、事態は収束する。
「無邪気なスキンシップですのに」
エルマの涙声な訴えに、ラッテが耳を貸すはずがない。
「しかし……不思議な湯船だな外装はツタで編まれていて、内側は紙のようだが──これほどの水と重量に耐えるのだ、紙ではあるまいな」
「糸ですわ、きっと。蜘蛛か、蚕か」
「糸? 蟲のか、だってこんなに頑丈だぞ? 水漏れもない」
「あなたもお召しの絹の衣、その蟲の繭が原材料だってご存知でした?」
「なん……だと……?」
「シルクって、お蚕さんの糸なんですの。その養殖法から糸の抽出法をアガンティリス統一王朝から受け継いだのは、わたしたち土蜘蛛だって、お話、知りませんの?」
「蟲の糸……だって、あんなに軽くてしなやかで──うっとりするような光沢だぞ?」
「そうですわね。でもホントのことですわ。たとえば……蜘蛛の糸の強度が同じ太さの鋼線の数倍に匹敵するってご存知でした?」
エルマの知識にラッテガルトは閉口するほかなかった。
「こんなつるつるとした手触り、それなのに滑るようなこともない」
同じく乳白色の湯に満たされた湯船をしきりに撫でながらラッテガルトが言った。
「快適、ですの?」
「くやしいが、泉質もすばらしいな。肌がつややかになる感じだ」
「たぶん白乳茸の粉といくつかの薬草を合わせた薬湯ですの。わたくしの好みを憶えていてくれたんですのね」
エルマがつぶやき、浴槽のふちに両肘を横にして載せ、そのうえに顔をもたれかけて階下を覗きながら言った。
光の帯を纏う吊り橋が眼前に、眼下に連なって星の河を見るようだ。
女ふたりがそんな話に興じている間に、イズマは湯船から上がっていた。
混浴はおろか覗くこともままならぬ蛇の生殺し状態に早々に根を上げ、単身、イオの待つ庵に戻ったのだ。
「そろそろ参られる頃だと思っておりました」
イズマが庵の入り口にかけられたタペストリーを潜ると、すでにイオは座し水で出した茶をイズマに振る舞った。
茶はあまやかで、口に含んで初めて薫りが立つものだった。
「やあ、あいかわらず、イオの茶はうまいねえ」
「あの日も、同じく褒めていただきました」
イズマのほうを見ようともせず、イオが言った。
「あの日、あそこでキミが見逃してくれてなかったら、いまこうしてボクちんはここにいられなかっただろうからねー」
「わたくしたちが“神”を失い離散流浪することも、エレさま、エルマさま──そして、侍従一同が生き地獄を見ることも」
「恨んでる?」
「そう思った頃もありました。貴方さまこそ、すべての元凶だと」
「返す言葉がないなー。そう思った頃もあったってことは……いまは?」
「愛しい、と感じております」
表情ひとつ変えず、イオが言った。
「あの日、貴方はわたくしにこう訴えられました。姫巫女にだって感情はあるんだぞ、と。恋をする権利、違う生き方を望む権利があるのだと。それなのに、彼女たちは生まれついたときから、“神”の生贄として定められて生きなければならなかった。オマエたちの自由の代償に。本当は個人個人が支払わなければならないはずの、その代償をふたりの女のコに押し付けていいのか、と」
あの言葉、わたくしの胸の奥の女のコの部分に突き立ちました。
「だから、あのとき貴方さまに協力してしまったのです。おかしいでしょう?」
「まいったなー、カッコいいこと言っちゃったなー」
イズマはばりばりと頭を掻く。
「お変わりありませんのね、イズマガルム。この地に戻られたのは、その言葉を証立てるためでしょうに。貴方の口と行動は別物ですもの」
「ちぇー、お姉さんにはかなわないなー」
イオがイズマを呼び捨てにした。
かつて、そうであったように。
イズマはそれまでかいていた胡坐を解き、子供のように脚を投げ出した。
「そのお身体──〈イビサス〉さまのもの」
「あー、さすが“神”だよ。ちっともいうことききやしない」
「馴染まぬ肉体を押さえ込むため、絶え間ない苦痛に、心が、いまもさいなまれているはず」
イオはイズマに向き直り言った。
「馴れちゃったよ。ボクちんが自分で選んだ道だしね」
「貴方はなにと戦うの?」
「言えない」
「貴方を楽にしてあげたい」
「そりゃ、ちょっと無理だよ」
「どうかしら。わたくしは、もう、むかしのイオではないのよ?」
「姫君たちが、戻ってくるのじゃないかなー」
イズマのやんわりとした拒絶に、イオは静かに笑った。
そして、イズマの指摘通り、ふたりの姫君たちは程なく入室した。
「なんだ、イズマ、貴様、もうあがっていたのか、早いな。てっきり仕掛けてくるものと思ったが」
「のぼせちゃいそうになってねー。ふたりの姫の艶ヴォイスを聴いてると」
そんで、こっちで別のお痛を働いてたってわけ。めずらしくおどけてイズマが言った。
普段が普段なので、こういうときややこしい。
「ね?」
「口先だけ。お変わりありませんのね」
イズマとイオの間に流れる空気に、ふたりの姫は当然気づいたようだ。
「喉が渇かれたでしょう? まずは冷たいお茶をどうぞ」
ささやかな宴の始まりだった。
前菜は二種類の貝の湯引きだった。
カラバッキとツンガリ──名前を聞いてもラッテガルトにはさっぱりだ。
だが、カラバッキのほうは甘味が強く、辛味の強い薬味を呆れるほど載せて食べても、中和してしまうほど。逆にツンガリはスッキリとした味わいで、ふわりと耳朶を噛むような身質が特徴的だ。
いずれも蟹醤という小さな蟹を叩いて砕き、塩と混ぜて作る発酵調味料につけて食べると溜息の出るような味わいだった。
「うまいな、これは。上等の鶏肉より、ずっと繊細だ」
「地底湖に住む貝類ですの。雪のように美しい身の色でしょう?」
「うん。採れたての岩ガキ以外に、こんな美味い貝があるなど、知らなかった」
美味しい食事はヒトの心を和やかにする力があるのだろう。どこからか、金色の酒まで湧いた。
「これは──ミツアリの……暗密の酒──もう二度と飲むことは出来ぬと思うておった」
「はい。じつは、蔵付きの酵母を──密かに、わたくしめが持ち出し、醸しました」
喜色を隠せないエルマに、イオがタネを明かした。
「これは──すごいな。認めざるをえない。英雄たちの宴で振る舞われる金色の蜂蜜種に、匹敵する」
ラッテガルトも素直な称賛を口にした。
「元は〈イビサス〉さまへの献上酒。わたくしたちは大祭の日にしか、口にすることを許されぬ神酒でした」
話を弾ませる女たちをイズマは見守るように静かに杯を進めていた。
「お口に合いませんか?」
「そんなことないよー。食事もお酒も、どれも素晴らしいよ?」
「いまひとつ、乗り気ではないご様子」
イズマの空になった杯に──ヒノキ材から削り出された朱の漆塗りの杯は金銀財宝より土蜘蛛世界では尊ばれる品だ──やはり木製の片口を使って酒を注ぎながらイオが言った。
「ボクちんには珍しく、ちょいと急いでいてね」
「──エレヒメラさまのこと?」
「そのついでに、優等生が行き過ぎてテンパちゃった身内にお灸を据えようと思ってさ」
「では、カルカサスさまのもとに、エレヒメラさまはいまだ捕らわれていらっしゃる、というのですね」
「あるいは“狂える老博士”どもの手に落ちている、とも言えるんだけど」
やんわりとだが、イズマがイオを牽制した。
「まあ、そんなわけで、このシビリ・シュメリの内部が、いまどんな状況で、そこに住まうキミたちが、どういう存在なのかは、ボクちんも承知なわけだ」
イオ、キミが、どうしてその姿になったのか──“狂える老博士”どもの計画:蟲毒の壺のことを、ボクちんは知っている。
イズマはそう言ったのだ。
イオが少し寂しげに微笑んだ。
「そんな女の酌は受けられませんわね」
「そういえば、初手でずいぶん危ない対応をしたねえ」
ふんわりと軽い口調でイズマが訊いた。注がれた酒を愛でるように目を眇めて飲む。
「《カラーレス・サイコアシッド》。下手すりゃ相手を廃人にしちまう異能だ。個人を絞らなきゃ効果が減衰する呪術系の異能が、波頭に見えるほど広範囲に増幅して放たれてた。ブチキレ全開のエルマでも、威力はともかくあれほど広範な呪詛は放てない。どういうことなのか、事情を聞かせてくれる?」
問いかけるイズマにイオは頷いた。
「タランテラノの崖を下り、ここ、カンタレッラの吊り橋谷へ辿り着かれたということは──あの〈ハウル・キャンサー〉が陣取る回廊を抜けてこられたということ。わたくしたちは、あの蟹めが、ついに狂い、この地を侵そうとしているのではないかと考えたのでございます」
「セルテのことだね」
「やはり、お気づきでございましたか。幾度も使者を送り、恭順を促したにも関わらず、セルテはそのたびに使者を喰らい──端的に言って心まで〈グリード・ゲート〉に、“狂える老博士”どもの陥穽に落ちたのでございます。それどころか、その狂った欲望のままに、我らの住むこの谷を、自らの狩猟場としようと狙っておりました」
イオの言葉に、エルマが言葉を飲んだのがわかった。
イオの口から語られるセルテはバケモノとして断定されており、エルマの垣間見た、相食む苦しみから同胞を巣くおうとした少年の優しさ、心を責め苛んだ葛藤がごっそりと抜け落ちていた。
だが同時に、被害者として、そして、地獄と化したこのシダラの大空洞にあって、わずかに再建された民の営みを守護するものとしてのイオの立場からすれば、当然すぎる見解なのだともわかっていた。
「そんなおり、皆さまが上層階から降りてこられたのです」
「それでボクちんたちを、セルテか、その前衛──操り人形と勘違いしたんだねー」
なるほどなー、まあ、話を聞けば当然の成り行きなんだよなー。イズマは杯をあおり、空の杯をイオにさし出した。
意図を組み、黙って杯を酒で満たそうとしたイオの片口をイズマはそっと受け取り、逆にイオに酒を勧めた。
「ごめんねー。なんかさ、疑ったりして」
「いいえ、当然ですわ」
ままま、それじゃ誤解のおわびってことで。イズマの勧める酒をイオは艶やかに微笑んで受けた。
「いい飲みっぷりだね」
「恐れ入ります」
「もう一杯」
「あらあら、イズマさまを労うための席で、わたくしを酔わせてどうなさるおつもりですの?」
「むかしは気づかなかったけど、イオってそういう顔もできたんだねー。美人♡」
「変わらぬものなどございません」
「変えられてしまった、じゃなくて?」
その言葉に、ひやり、としたのはエルマとラッテガルトだったろう。イズマの口調はあいかわらずの軽さだったが、その切り返しは剣呑な鋭さを持っていた。
「たしかに、おっしゃられる通りです。侍従としてだけではございません、女として、いえ、土蜘蛛としての矜持も尊厳も踏み折られてしまいました。それで、このような姿に成り果てたのですから」
「ごめんね。つらかったね。たいへんだったね。ボクちんのせいだね」
イズマがイオを慮る言葉を並べた。
それは心の底から出ている言葉であるはずなのに、エルマはぞくぞくとした悪寒を感じた。
底知れぬ恐怖を、なぜかイズマの言葉から感じるのだ。
薄っぺらい同情心に嫌悪感を覚えたのではない。
それよりも、もっとずっと深奥にある核心めいたものに、イズマの言葉は触れている気がした。
「いいえ、いいえ。イズマさまは戻ってきてくださいました」
「そうだね。エレを助けるため、ボクちんの不始末の決着をつけるためにね」
なんのために自分が戻ってきたのか。それはエレを救うためであり、カルカサスとそして“狂える老博士”どもとケリをつけるためであり──つまり、キミたちを救いに来たわけではないんだよ、とイズマは、ほのめかした。
キミたち、ベッサリオンの民が担ぎ上げ、寄辺としてすがるための“神”として帰ってきたのじゃないんだ。そうイズマは言ったのだ。
イオの端正な顔から一瞬、感情が抜け落ちるように消えるのをイズマは見た。
虚ろな絶望の色だ。
だが、それはほんの一瞬であり、すぐにあの美しい微笑みが戻ってきた。
「すぐにも行かれてしまうのですね」
「待たせてるヒトがいるからね。ボクちんたちが楽しんでいる時間を、そのコは苦痛と屈辱のなかで過ごしている」
「急いでいらっしゃいますのね」
「焦ってるんだ」
そっとイオが目元を拭った。
「では、主菜をお出ししましょう──せめて、お腹を満たしてください。まだ、シダラの大空洞は続きます。いざ、大事というときになって力が出せずでは本末転倒ですもの。イズマさまも本調子ではないご様子。ラッテガルトさまも、憔悴が感じられます。食べて、飲んで、わずかなりとでも眠られてください。それから、やつらの、“狂える老博士”どもの手管、手の内をご覧にいれますれば」
イオが言い終わるか終わらぬかのうちに、庵のなかに塩ゆでされた紅色ムカゴと兜イワナの串焼きが運ばれてきた。
「われら、このカンタレッラの吊り橋谷を終の住み処と決めた侍従一同の心尽くしでございます。どうかたんとお召し上がりになってくださいませ」




