■第十四夜:〈ログ・ソリタリ〉
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“秘密の庭園”への通路は隠し扉の向こうにあった。
アシュレが初めてユガを訪ったとき、階段の奥にあった隠し扉……その脇の壁がそうなのだった。
「隠し扉のすぐ隣りにもう一枚、隠し扉があるとは……さすがに考えにくいらしいね」
言いながら燭台を持ち、ユガはその通路に足を踏み入れた。
石造りの階段を降りて行く。どれほど下っただろう。突然、周囲がひらける。
水路の縁に出たようだった。小さく音がする。真っ暗で、かすかに水の匂いがした。
途端に驚くようなことが起きた。
通路に足を踏み入れた瞬間、まるで導くように通路全体がずっと向こう側から淡く光を灯したのである。
その区画はすべてが石材でも木材でもない建材で作られていた。
つるりとした継ぎ目のないそれを、アシュレは知っていた。
すでに過去、二度、この建材には遭遇し、その手で触れていた。
「これは……この建材は……イグナーシュ領の、グランの墓所:〈パラグラム〉や……カテル島の……奥の院の……《御方》」
アシュレのつぶやきに、ユガが視線を投げてきた。
そうか、キミは知っているのか。そういう目だった。
「ついてきたまえ」
燭台は無用と火を消し、床に置いて、ユガは先導を再開した。
「あ、あの、ユガ、ボクはエルシドにも……一緒に行くと約束したのですが」
「アシュレ、残念だがそれはできない。エルシドは天才で、芸術家で、わたしの友人だが……彼は野心がありすぎる。
道徳や規範よりも、国家の安全や安寧よりも、己の感性を大切にする男だ。
好奇心をコントロールできない。しようとも思わない。
それは美徳だが、危険な資質でもある。
彼には絶対にここを見せることはできない。
彼の前でこの話をしたのは、わたしの失敗だった。
だから、アシュレ、シオン、この先で見たもののことは決して他言無用だ。
この先に眠るものには──それだけの“魔”があるのだ」
だから、これは、いまからわたしが行うことは、騎士としてのキミ、公女殿下としてのシオンザフィルを信用してのことだと思ってくれ。珍しく強ばった口調でユガが釘を刺した。
仄明るい水路をずいぶんと歩く道程。
問わず語りにユガは話をした。
それは、自らと三人の妻の話だった。なぜ、そんな話をしたのか。ユガ本人にも本当のところはわからない様子でだったのが、印象的だった。
それはきっとこの通路がユガの古い、閉じこめた記憶に繋がっているからなのではないか、とシオンは思う。
外部記憶装置として建築物のことを、シオン自身がよく知っていたからだ。
ヒトにとっても、想い出の品や生家の食卓がそうである以上に、完全記憶を持つ夜魔にとっては、使い込まれた柱のくぼみや、小さな傷のひとつひとつがその記憶と結びついたスイッチなのだ。
この通路を歩むとき、ユガの脳裏では、失われた妻への愛が必ず甦るのだろう。
そして、それはこの頼りない灯の元でこそ、語られるのがふさわしい話だった。
絶えてしまった夢路の話であったから。
ユガは淡々として語った。
「ひとりめの妻は姫君にして騎士だった。
高潔で才気に溢れ──ちょうどいまのアシュレのように──強い正義感を持ち合わせていた。没落した王家を再興する《夢》に燃えていた。
最初、私たちは敵同士だった。無理もない。わたしは夜魔だったし、彼女は敬虔なイクス教徒だった。
行く先々で、事件のたびに顔を合わせる相手だったのだ。
わたしが、この国に身を置く発端──そうとも言う。
命を狙われているのは基本的にわたしだったが、多くの場合、わたしたちはけっきょく共闘することが多かった。
そして、背中を預けて共闘したにもかかわらず、彼女はなかなかわたしを信じようとはしなかった。
逆にそのかたくなさが──それは家臣を預かる君主として当然のことだ──わたしにとっては彼女を魅力的にみせていたのだが……。
わたしはすでにそのとき五百歳近かった。そして、疲れていた。
わたしにも、かつて《夢》があった。
それは人類と夜魔は共存できるのではないか、という《夢》だ。
だが、わたしの歩み寄りはいつも一方的な人類側からの攻撃で裏切られた。迷信や、宗教の扇動に抗うことは、人類には限りなく難しいのだ。それは群れの掟であり、従わないものには孤立という制裁が待っていたからだ。
だからこそ、長い放浪に痛めつけられながら家臣を叱咤激励し自らの国を再興しようとする姫君の《夢》が眩しかった。
思えばもう、このとき、わたしは彼女に恋をしていたのだろう。
まだバラクール統治下だったトラントリムに足を踏み入れた彼女は、当然というべきか、バラクールに戦いを挑んだ。そして、そんな彼女をわたしは見捨てられなかった。
つまり、わたしは彼女の戦いに巻き込まれて──望まずに英雄になってしまったのだ。
笑える話だろう?
仲違いしながらも互いの背を守りあい、ふたりでバラクールを打ち倒したとき、わたしは彼女に空位となったこの国を治めてはどうか、と持ちかけた。放浪で疲れ果てた家臣たちには、やはり安住の地が必要に思えたのだ。
すると彼女は答えた。
この国をもぎ取ったのはわたしの《夢》だけではない。すくなくとも、半分くらいはお前のものだろう、と。
言いながら彼女は玉座についていた。
わたしは──疲労と混乱からくる頭痛で最初、気がつかずに──王妃の座についていた。
いつか言ったな、と彼女は言った。お前の《夢》を実現してみたらどうだ、と。
そのとき気がついたのだ。やっとわたしは、自分の気持ちに。
この娘を愛してしまったのだ、と」
「ふたりめは尼僧だった。
教化のためのミッションを帯び、この地を訪れたイクス教の司祭であった。
その当時のトラントリムは周辺国家との連合を取り付け、議会制に移行したばかりで、人間で言うならようやく立ち上がって歩きはじめた幼子のごとき状態だった。
いまは辺境にある孤立主義者の残党たち=バラクール王統治下の貴族たちの拠点が国内外にいまだ無数にあり、わたしが組織した白魔騎士団もその討伐に明け暮れていた。
そこに西方世界からの教化ミッションを帯びて、鼻息の荒い小娘が乗り込んでくる。
正直、厄介な問題だとわかっていた。
わたしは最初、この司祭を受け入れることを拒否したかった。
最初の妻がわたしを受け入れてくれるまでに要した時間を考えれば、夜魔を人類の仇敵と見なすイクス教の司祭がわたしを敵対視することは目に見えていたからだ。
その背後には……十字軍の姿が見えるようだった。
当時──それまでの歴史のなかですでに七〇〇年以上の長きに渡って、夜魔と法王庁は争ってきたのだ。
もし、わたしのことが露見すれば、そして十字軍が派遣されたなら──いま、ようやっと歩みはじめたこの国はひともみで消し飛ばされてしまう。
それだけは許すわけにはいかなかった。
迷った末、わたしは国境の山荘で会見に臨んだ。
もちろん夜魔であることを隠して。
そして、会見の途中で、それを告白した。もし、彼女たちがわたしを敵と見なすなら、その場で鏖殺し証拠を隠滅する覚悟を決めていた。
彼女は驚きはした。だが、騒がなかった。それから言った。
わたくしたちは異端者なのです──と逆に告白された。
いまでこそグレーテル派では認められているが、彼女たちは僧職の結婚を認める運動をした一派なのだと名乗った。無論、法王庁はそれを認めず、姦淫の疑いありとして彼女たちを罰した。
彼女たちはそこから逃れてきたのだ。
布教のための教会ではなく孤児院を建てさせてください、と彼女は会の活動方針を伝えてきた。
わたしは悩んだが、けっきょく彼女を信じてみることにした。
実際に、バラクール王統治下の余波と孤立主義者たちとの争いによって戦争孤児が国内には溢れていた。
それは単に親を戦争で失ったからだけではなく、バラクールは初夜権の行使を貴族たちに認めていたし、孤立主義者たちは多くの戦争の例に漏れず、略奪と強姦を繰り返していたからだ。
だから、彼女たちの活動は諸手とはいかなくとも歓迎されて各地に拠点を増やしていった。
もちろん、国も援助した。わたしと先妻の間に子供はなかったが、いつしかわたしはその孤児たちすべてが、我が子であるかのように思えてきたのだ。
だが、事件が起った。
孤立主義者たちが孤児院を襲った。多くの子供が虐殺されインクルード・ビーストの餌食になった。
そして、彼女は連れ去られ──どうなったかは、言わずともわかるだろう。
わたしたちが探し出したその拠点に乗り込んだとき、彼女は生きていたが、孤立主義者の子を孕んでいた。
堕胎する法もなくはなかった──だが、彼女は気丈にも笑って言ったのだ。
もし、自分がこの子を否定してしまったら、いまわたしたちの元にいるすべての子供たちを否定してしまうことになる──だから、生みます、と。
強がりであっただろう。詭弁であっただろう。なぜなら、そう言う彼女の声は嗚咽に震え、歯の根はガチガチと音を立てていた。
だが、それでも、彼女は己の信ずるところを成そうとした。
わたしは彼女に申し出ていた。
わたしを父親にしてもらえまいか、と」
「そして、最後のひとりは、孤立主義者の娘だった。
当時、最大派閥だった孤立主義者の指導者の本拠を制圧した際、降伏の貢ぎ物として差し出された娘だった。
バラクールの直系だとうそぶいた。こういった事態を想定して、せいぜい高く売りつけるつもりで、父親に吹き込まれてきたのだろう。
その目に敵意と不屈の《意志》をぎらぎらと宿らせながら、それでも膝を屈して、配下の者たちの、旗下の者たちの助命を願い出た。責は我ら“戦に破れた”王族にあるのだから、と。そして戦の勝敗は時の運だとのたまった。
なるほど将器は父にはなく娘に受け継がれていたのだ。
そして、大胆不敵な提案をしてきた。
わたしを貢ぎ物としてではなく、妻として遇してはどうか、と。
“救国の英雄”がいつまでも独り身というのでは格好がつくまい、そう挑発してきた。
そしてその提案は、政治的には悪くない取引だった。
孤立主義者たちとの融和政策には両者の婚姻がいちばんだ。
もし、提案を受け入れるなら、オマエの知らないこの国の秘密を教えてやろう、と娘は言った。
もちろん、わたしと褥(しとね=寝具)をともにする勇気がオマエあればだが。
わたしは娘のこざかしさが気に入った。なにしろ、その気丈なセリフを吐く娘の膝はがくがくと震え、両の手は皮に爪が食い入り血が滲むほど握りしめられていたからだ。
夜魔の男が、敗残の王女をどう扱うか、教えてやろうと応じたとき──その瞳に宿った恐怖の色をわたしは忘れない。
怖かっただろう──娘はまだ成人したばかりだった。
もちろん、自ら持ちかけた約定の責任は取ってもらった。
寝所で、わたしは、しかし、娘の肉体の秘密を知った。異形だった。白化した器官──それは、まるでインクルード・ビーストと同質の……人類には異質の器官を娘は備えていた。
どうだ、醜かろう、と嘲るように言った。
これが、わたしたちバラクールの血統がその身を持ってこの国を守り抜いてきた証だ、と娘は言った。
抱けるか? と問い詰められた。伝染するやもしれぬぞ、と脅しをかけてきた娘のほうが、壊れてしまいそうな顔をしていた。
わたしはバラクールを思い出していた。すでにそのとき一〇〇年以上の年月が経っていたが……忘れたことはなかった。
たしかに、わたしと最初の妻によって討伐されたバラクールは……なかば異形の獣じみた姿に成り果てていた。
娘はそれに連なる血統と、特徴をたしかに受け継いでいたのだ。
だが、わたしは臆さなかった。勇敢だった、というのではない。国家の安寧を願ったから、ということも正しくはないだろう。
わたしはもはやそのとき、心の中にある空虚を誤魔化すことができなくなっていた。
ふたりの妻とともに生きた時間の輝かしさが、心に穿たれた穴を、その深さと暗さを浮かび上がらせてしまっていたのだ。
わたしは、わたしのすべてをこの娘に与えてもよいかもしれない、と思っていた。
だから、徹底的に愛を教え込んだ。
愛されるとは思いもよらなかったのだろう、娘の反応は──可愛らしかったよ。
自分の心の動きに戸惑い、煩悶するさまは、本当に。
それから、彼女は凄まじい悋気の持ち主だった。
わたしの死んだ妻ふたりに嫉妬したのだ。ただ、発露が変わっていた。
彫像や肖像画を見、彼女らが残した事業、料理のレシピを調べ上げた。決して、彼女の誇りにかけて──壊そうとはしなかった。
それから……彼女らの上を行こうと努力しはじめた。負けたままなど、許されることではない、と言って。
戦士だったのだ。
わたしはいつのまにか、この小さな女戦士から目を離せなくなっている自分に気がついた」
どうしてなのだろう。
三人の妻のことを語るユガの口調は淡々として、ときに楽しげでさえあるのに、いや、そうであればこそ、ユガディールという男が孤独であることの意味が──伝わるようにシオンには思えた。そして、あの日、なぜ、ユガに求愛され、求婚されたのか──わかった気がした。
そして、ユガが語り終える頃──ついに長く伸びた水路の終点に三人は到達する。
異様な景観がそこには広がっていた。
ごくり、とアシュレがつばを飲み込んだ。
通路の先は、またもや、どこか見覚えのあるホールになっていた。
「これは……まさか……イグナーシュのねがいの器:〈パラグラム〉いや、カテル島の……〈コンストラクス〉?」
アシュレはいつかイグナーシュの王家の墓所で見た巨大な《フォーカス》と、カテル島:奥の院に鎮座していた白化した遺骸のふたつを、それに重ね合わせていた。
そこに座していたものは、やはりいつか見た女神の像を頭頂にいただく──《御方》の尊顔を有していた。
生きているものか、死んでいるものか、それはわからない。
ただ、美しいミイラのように、あるいは石像のように、それはただ静かにアシュレたちを見下ろしているのだった。
「《ポータル》の系譜……なのか、これも」
我知らず、アシュレはつぶやいていた。
たしかに、《御方》とそれに連なる一連の装置をして、カテル島大司教位であるダシュカマリエはそう呼んだ。
運命すら改変する装置にして、どこかと、どこかを繋ぐ巨大な門──すなわち、《ポータル》と。
そして、アシュレたちの携える《フォーカス》さえ、そのオプション──備品にすぎないのだ、と。
アシュレたちの眼前にあるそれは、ちょうど宝玉を上下から掌で包んだような構造をしており、蛇のような胴体に支えられた女神がその宝玉──それは卵なのであろう──を慈しむかのように頬寄せる像だった。
卵は大きく、ヒトひとりがその内側で揺籃の《夢》に浸れるほどもあった。
そして、これまでの例に漏れず──波に洗われた骨のように白かった。
「《ポータル》:〈ログ・ソリタリ〉──これが、わたしの“秘密の庭園”だよ」
ユガがそう告げるとどこか遠い場所で、ごくん、と精密な機械群が合わさるような音が響いた。
「よく、見ておいてくれたまえ」
ユガはそう言い放つと、壁面を形作る彫像たちの手から、一本の矛槍を抜き取った。
一瞬、アシュレは全身に緊張が走るのを禁じえなかった。それは騎士としてのアシュレの肉体に刻み込まれた本能だ。
そんなアシュレの反応に、ユガは笑った。頼もしい、とでも言わんばかりに。
ユガの向かった先は卵に対してだった。
しゅっ、かしゅっ、と空気の抜けるような音が幾重にも響いた。
するり、と女神像が卵から身を離す。
上下に位置していた腕が瓶の蓋を開けるように捻られ、卵が上下に分かれる。
空気の抜ける音に続いて、それまで継ぎ目などどこにも見いだせなかった卵が、蓮の花びらを思わせて上下に展開したのだ。
そして、その中心には──ヒトではない何者かがいた。
それをアシュレは知っていたし、同時に知らなかった。
美しかった。
醜かった。
それはヒトであり、獣であり、鳥であり、蟲であった。聖であり、同時に、魔であった。
超越者としての表情と、拭っても拭っても拭いきれぬ汚濁を混ぜあわせたまま──その身に住まわせていた。
矛盾──その単語がアシュレの脳裏には飛来する。
清と濁。そのアマルガムこそ人間だ。
だが、それをアシュレが一見にして「ヒトではない」と判断できたのは、その者が帯びた矛盾するふたつの要素が、あまりに極まりすぎていたからだ。
もし、ヒトのなかに眠る貴いものと醜いものを限りなく純化して分化させながら、しかし、切り離さず同じ存在のなかに閉じこめたなら──このような姿にそれはなったであろう。
すなわちそれは、怪物である。美しくも呪われしものである。
刹那、その美しすぎるまぶたが震え、瞳があらわになった。
金色のそれが、きろり、とうごめき、アシュレを見、そして口元がほころんで──。
「ロシュカメイア……なのか?」
アシュレのうめきにも似たささやきと、そのなにものかが口をひらきかけたのは同時だった。
それはあの夜、ユガとエルシドに導かれ邂逅した女神のうちの一柱=ロシュカメイアに酷似していたのである。
だが、次の瞬間、ロシュカメイアによく似た女神は──胸元を絶白の刃に貫かれ、息絶える。
ユガが構えた矛槍を横薙ぎに振るったのだ。それが女神の肉体を刺し貫いたのである。
その矛槍──〈ロサ・インビエルノ〉もまた、《フォーカス》であった。
ぼぎり、とその杭のごとき刃が折れる音がした。壊れたのではない。
それが、己の佩刀:〈ローズ・アブソリュート〉と同様の性質を持ち合わせていることを、シオンは一目で見抜いていた。
先端に向かいながら花弁を広げるその矛槍は、まさしく、〈ローズ・アブソリュート〉と同等の──敵に刃を残す機構を備えていたのである。
けれども、それがもたらすのは破滅ではなかった。
「この矛槍:〈ロサ・インビエルノ〉がもたらすものは──時間停止。時の流れから、その存在だけを切り離し、留め置く《ちから》」
もっとも──《意志》ある存在を永久に縛ることは難しいのだが」
言いながらユガは刃の折れた矛槍を無造作に床に放り、自らは生ける彫像と化した獲物:ロシュカメイア(?)を抱きかかえる。そのまま、水路に突き出した桟橋へ向かう。
まさか、とアシュレは思い、シオンとともにその後を追った。
ユガはそんなふたりを一度だけ振り返ると、桟橋の先端まで歩み、ひざまずき、それから、慈しむようにその時間から切り取られた女神の像を──手の切れるほど冷たい水の中へ、沈めた。
ゆうらり、と淡い光のなかを純白の魚の死骸のようなそれが漂って離れていくのを見たとき、そして、その白さが光を乱反射させ、周囲を照らし出すのを見たとき──アシュレとシオンは気がついた。
その水底に沈められた、いくつもの──それぞれがすべて少しずつ違う意匠の──女神たちの姿に。
「これが、トラントリムの秘密──狂王:バラクールの時代よりずっと以前から受け継がれてきた“秘密の庭園”──この国の病根、さ」
そう言うユガの表情からは、その心中を推し量ることはできなかった。




