■SideA「騎士の戴冠」:メインキャラクター紹介(+簡単なあらすじ)
注・このキャラクター紹介は、これまで語られてきた「燦然のソウルスピナ」の内容、ネタバレを含んでおります。
それゆえ、これまでの道程を簡単に理解していただくための「あらすじ」としても機能いたしますが、第一話から第三話までの決定的な事実、物語のコアブロックが明らかになっている箇所が、いくつも存在します。
ご覧になられる前に、あらかじめ以上のことをご確認、ご了承のこと、よろしくお願いいたします。
□アシュレ(アシュレダウ・バラージェ)
史上最年少にしてエクストラム法王庁の聖騎士へと任ぜられた天才は、しかし、過去と決別した。
追いすがる法王庁・聖遺物管理課、そして同じく聖騎士であるジゼルに対してハッキリと離反を告げた以上、すでにアシュレはエクストラムの聖騎士ではない。
それは夜魔の姫:シオンとともに暗く果てのない夜行の道を選び取ったということでもある。
心の臓をシオンと共有するアシュレは、ついに決定的な選択肢を選んだ。
二度と、ヒトの側には戻れないかもしれない──そういう道を、だ。
だが、それはアシュレの心が人外のなにかに堕ちた、ということではない。
闇に堕ちた英雄王との戦い、漂流寺院での廃神との邂逅──その果て。
カテル病院騎士団の本拠=カテル島を襲った夜魔と土蜘蛛の刺客、そして、エクストラム法王庁・聖遺物管理課の精鋭との激戦を通じて、アシュレの精神は大きく成長を果たした。
自分はいったい何者にならねばならないのか──その問いを心に宿す者となった。
こう言ってもいいだろう──本物の英雄への道を歩みはじめたのだ、と。
そして、今回も本編において、アシュレはその片鱗を示していく。
けれども、現時点でアシュレの置かれた状況は非常に厳しい。
西方世界においてエクストラム法王庁に楯突くということは、社会的抹殺を受けたに等しい、という事実だけではない。
いま、まさに、アシュレの肉体は危機に瀕している。
それは死に至るほどの衰弱。
夜魔の姫:シオンが振った異能:《アルジェント・フラッド》により、心臓を共有するアシュレとシオン。その副作用により驚異的な回復能力を持つに至ったはずのアシュレが、なぜ、いまそんな状況に陥っているのか。
前回の舞台・カテル島から遠く離れた異境の地。
物語はそこからはじまる。
□シオン(シンザフィル・イオテ・ベリオーニ・ガイゼルロン)
北方の大国にして夜魔の国:ガイゼルロンの第一王女。
強大無比の聖剣:〈ローズ・アブソリュート〉を佩き、“反逆のいばら姫”のふたつ名を持つ。
ヒトの子であるアシュレとは互いがすでに分かちがたい関係であることを、確認しあった。
シオンに言わせれば「わたしはすでにそなたの所有物であるのだから」だというところだろう。
相思相愛という言葉ですら、十二分にはその関係を説明できないほど、深い繋がりをふたりは得てしまったのだ。
だが、シオンの悩みは深い。
合わせ鏡のように同じくアシュレに愛を誓い、誓われたはずのイリスは──シオンが認めたアシュレのもうひとりの伴侶は──あの運命の夜を持って変貌した。
運命に改竄され“再誕の聖母”となった。
そのことをシオンは知っている。
それをいかにアシュレに伝えるべきか。あるいは、伝えずにおくべきか──。
今回の舞台となる場所──深い森と草原、そして雪に覆われたトラントリムで、シオンはいくつもの問いを突きつけられる。
それは夜魔としての道を外れ、ヒトの子とともに生きようと決断したシオンの心を強く揺さぶる。
永劫の軛、永遠生の呪い、夜魔としての性。
そのすべてが、シオンに問いかける。
そう。
またしても、問いなのだ。
そして、その問いかけを鮮やかにする存在が、今回も登場する。
□アスカ(アスカリア・イムラベートル・オズマドラ)
アラムの大国:オズマドラの第一皇子。
その両脚を供犠に捧げ、恐るべき死の力を司る《フォーカス》:〈アズライール〉と差し替えた英傑。
太陽のように明るく、活動的で、歯に衣を着せない彼女だが──いったいどうして今回、こんな場所に現れるのか。
その背景には、やはり軍事大国としてのオズマドラの動きがある。
オズマドラの軍団のなかでも非常に特殊な位置付けにある子飼いの部隊:砂獅子旅団の作戦行動が関わっているのだ。
といっても、そこはアスカのことであるから、自分の流儀と解釈でまかり通ることだろう。
登場は物語中盤となるようだが、まあ、巻き起こる混乱と状況を楽しんでもらいたい。
ちなみに、アシュレへの想いは──大きく育っているらしい。
イリスとの関係については、驚くくらい寛容な態度を見せたシオンだが、アスカに対してはそうではないらしく、いやいったいどうなるんだろうか、この話わ。
迫られるアシュレも、シオンも大混乱するらしいが、それはしかたないだろう。
ただ、彼女の運んできてくれる乾いているが熱い風は、きっとふたりに届くはずだ。
□ユガ(ユガディール・アルカディス・マズナブ)
小国:トラントリムの領主にして夜魔の侯爵。
人間と夜魔の共存・共栄を目指す〈血の貨幣〉共栄圏の提唱者。
すでに八百年近くを生きる高位夜魔。その能力は、夜魔の大公:ガイゼルロンのスカルベリに匹敵するほどとも。
強烈に夜魔の血を意識させる男でありながら、その人生のほとんどを人類との平和共存、そして共栄のために費やしてきた本物の英傑。
だが、その心は癒しようのない疲れと渇きに枯れかけていた。
けれども、その渇きを──アシュレ、そしてシオンとの邂逅が変える。
同じく、人類と夜魔とがともに手を携えあって生きていける未来を模索するふたりの姿に──そして、シオンに──ユガは魅かれる。
アシュレを真の友人として、いや、まるで自分の弟のように可愛がり、自らの知るこの世界の秘密について惜しみなく教授する。
アシュレのほうも、この英傑を尊敬し、また胸襟を開いて語り合える存在と認めるようだ。
政治だけでなく、芸術、そして軍事にも通じるユガは、現在、このゾディアック大陸で起きようとしている巨大な戦乱の予兆に憂慮しているようだ。
特にいま、トラントリムはアラム勢力と非常に微妙な関係にある。
いや「第三話:聖なる改竄」のエピローグでも語られたように、エクストラム法王庁の新法王:レダマリアは、十字軍を発動させた。
もはや、運命の歯車は巨大な軋みを上げて動き始めているのだ。
そのなかで、小国に過ぎないトラントリムの実質的君主として、ユガはいかに理想を貫こうというのか。
そこが今回の物語のひとつの焦点であり──主人公たちとの出会いが散らす火花でもあるのだ。




