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箱庭の世界 ~白色の魔法使い~  作者: 白波
第一章 魔法の森
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第七話 世にも困った来客者(その三)

 魔法のほうき職であるピンクの髪の少女が来店してから約三時間。

 すみれはいまだに彼女の説明を聞き続けていた。


 彼女自身は見る限りは手ぶらなのだが、某青タヌキ型……もとい。ネコ型ロボットのポケットのように次から次へと服のポケットに手を突っ込んでほうきを出す。魔法のほうきよりもそちらの仕組みの方が気になってきた。


「……それでこのほうきはね」

「……何堂々と営業妨害しているの?」


 ピンク髪の少女が次の商品について説明を始めようとしたとき、彼女の背後からそんな声が聞こえてきた。


 すみれが顔をあげて彼女の背後を見てみれば、いつもに比べて視線が厳しいウィットの姿があった。

 その視線を直接当てられているわけではないすみれですらその視線で萎縮してしまっているのだから、それを直接当てられている目の前の少女は背筋が凍りついてしまっているのではないだろうか?

 それでもピンク髪の少女はギギギッと効果音が付きそうなぐらいゆっくりと動かして、その視線の主を視界に入れる。


「こっこんにちわ。ウィット。今日もいい天気ね」

「えぇ。とってもいい天気ね。というわけでさっさと消えてくれないかしら? 目障りだから」

「あらあら、出会っていきなり目障りなんてい失礼ね。私だって、ちゃんと商売のためにここにきているのよ」


 言葉だけ聞いていれば仲良く見えなくもないが、その言葉を発する二人の様子はまさに正反対である。

 片や冷たい表情ときびしい視線で相手を見下し、片やその視線に当てられて大量の冷や汗をかきながら目をあちらこちらへと泳がせている。


 まさに相手を狩ろうとする捕食者と天敵の気をそらそうとしている被捕食者のような光景だ。


「……あなた、まさかとは思うけれどこの子に手を出したりしてないわよね?」

「うん。大丈夫。それだけは本当に大丈夫だから! 気にしなくてもいいよ!」

「そう。ならいいけれど……とりあえず、帰って頂戴」

「はい! わかりました!」


 ウィットの帰れという一言でようやく自宅へ帰ることを許されたピンク髪の少女はきれいに立ち上がって、そのまま自身のほうきにまたがって逃げるように飛び去って行く。

 ウィットはその背中を見つめながら小さく息を吐いた。


「やっと行ったわね。まったく、あいつの営業妨害も困ったものね」

「えっと、うん。まぁそうだね」


 どうせ客などいなかったのだから営業妨害も何もないような気がするが、余計なことを言って彼女を怒らせたりしたくなかったのでその言葉は心の底へとしまっておく。何よりもこちらとしてもあまりにも話し続けるので困っていたことに関しては否定できない面もあったからというのも大きいかもしれない。

 そもそも、冷静に考えてみればあの間に別の客が来ていたら立派な営業妨害だ。もっとも、彼女がいなくてもすみれ一人では対応できた可能性などみじんもないような気がするが……


 とにかく、ようやく長々とした商品の説明も終わったのですれみは大きく伸びをする。

 長い間座っていたので少し腰が痛かった。


「まったく、あいつも困ったものね。情熱があるのはいいことだけど、もう少し人のことを考えられないのかしら」

「まぁそうだけど、ほうきのことが大好きだってことはわかったよ」

「そう。まぁあなたがいいならいいわ」


 ウィットは店の外に置いてあったとみられる荷物を抱えて店の奥へと入っていく。

 かごから少し顔を出したものを見る限り、その中に詰まっているのはほとんどが食料かもしれない。


 森である程度は採っているのだろうが、それでは限界がある。


 いくら豊富な森でも森には存在しないものというのはいくつか存在しているからだ。


 すみれはその背中を見送った後に再び店の入り口に視線を送る。


「結局、だれも来ないな……」


 この場所がどれだけ森の奥かは知らないが、町から遠いゆえに今日も客が訪れる気配はない。

 窓から差し込む光が心地いいので少し眠くなって、すみれは小さく欠伸をした。

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