第五話 世にも困った来客者(その一)
魔法のほうきにまたがって空を飛ぶ連取をしていた次の日。
すみれはウィットに店番を任され、店の中に置いてある椅子に座っていた。
なんでも町の方へと魔法薬を売るのだとかで朝早くに出て行ってしまったのだ。
もちろん、魔法に使う道具の使い方などよくわからないと抗議したのだが、彼女は商品の使い方を聞いてきた客には店主が後から来ると説明してくれと言って店を出て行ってしまったのだ。
どうせなら、一緒に町まで行きたかったが、家でのんびりできるというのならそれに甘えるのもいいかもしれない。
店の商品は昨日一通り見てしまったので今はウィットから貸してもらった本を読んでいる。
“完全解説! 誰でも簡単に空を飛ぶことができるはずのほうき 徹底攻略本”という題名のその本には誰でも簡単に空を飛ぶことのできるはずのほうきの仕組みから具体的な操縦方法まで詳しく載っている。
誰でも簡単に空を飛べると銘打っている割には攻略本が出ているあたり、意外と商品名詐欺だったりするのではないだろうか?
結局、昨日は自分がおもっていたほど空を飛べなかったのでなるべく早くモノにしたいという思いが強く出てきたのだ。
そんなとき、カランカランという鐘の音が鳴って、客の来店を告げる。
「はい。いらっしゃいませ……ってあなたですか」
「ちょっと、二日目にしてあなたですかはないんじゃないの? でも、そんなすねた態度がかわいい! とにかくかわいい! 超かわいい! すんごくかわいい! やっぱり、お持ち帰りしたい! そうしないと気がしまない! というわけでうちに来ない? 今ならいろいろな服が用意してあるから!」
ピンクの髪の少女は店の中に入るなり、いきなり抱き着いてくる。
「ウィットは隠しているつもりでしょうけれど、今日はあいつが町へ行く日ってわかっていたのよ! そして、あいつがあなたを店番にしてくのも計算済み! さぁしばらく帰ってこないでしょうし、かわいいかわいいあなたはうちに来ないの?」
「行きません。絶対に行きません」
「えぇ。なんで? なんでなの……ってそれは、誰でも簡単に空を飛ぶことができるはずのほうきの数ある解説本のうち一つ“完全解説! 誰でも簡単に空を飛ぶことができるはずのほうき 徹底攻略本”じゃないですか。実を言うと、私はですね。魔法のほうき職人をしておりまして、“誰でも簡単に空を飛べるはずのほうき”や“空を飛べるかもしれないほうき”という商品を世に出しているのですよ。ただ、前者については不思議なことに解説本がたくさん出てしまいまして、かくゆう私も“完全攻略 誰でも簡単に空を飛べるはずのほうきをちゃんと乗りこなせるようになる程度の実力が養えると思う本”という題名の本を出してまして、これもまた不思議と売れないのですよね。というわけでかわいい女の子の一人でもいてくれて売り子をやってくれれば売れると思うのですよ。どうですか? うちに来てくれませんか?」
これに関してはどちらかというと商品の名称が原因で売れないのではないかとすら思ってしまうが、それはあえて口にしない。
それのせいで余計面倒なことになったら叶わないからだ。
「あぁもう。そんなに来てくれないの? でもな。相手がウィットだと後が怖いし……よし。だったら、あなたに私の作ったほうきと各ほうきに関連した攻略本をつけちゃいますから説明を聞いてください」
「えっ?」
「こんなかわいい子に乗ってもらったら宣伝にもなりますし、何よりも私がうれしいです。というわけで、まずはどれからにしましょうか……あぁそうだ。“レインボーカラーで虹まで行けるような気がしてくる魔法のほうき”なんてどうでしょうか?」
彼女はそういいながら虹色のほうきを差し出した。
これから、この調子で商品の説明を聞き続けるのだろうかと思いながらもすみれは彼女の説明をおとなしく聞き始めた。