第四話 誰もでも簡単に空を飛ぶことができるはずのほうき
ウィットが薬草を置きに行っている間、すみれは再び店内を見て回っていた。
店内にあるモノを見ていると、店に戻ってきたウィットに声をかけられた。
「うん? やっぱり、魔法知らないやつからすると面白いのか?」
「えっはい。そうですね」
すみれが答えるとウィットは豪快に笑いながらすみれの頭に手を置く。
「敬語なんていいよ。さて、それじゃどれから説明しようかな。そうだ。一番わかりやすい奴がいいかもしれないな」
彼女はそういいながら店の壁に立てかけてあった“空を飛べるかもしれないほうき”……の横に置いてある棚から“誰もでも簡単に空を飛ぶことができるはずのほうき”という札がかかっているほうきを取り出した。
無駄に長すぎる上に結局、飛べることを保証していないその商品名に思わず笑いそうになりながらもすみれは彼女の方へと歩み寄る。
「それを使えば空が飛べたりするの?」
「えぇ。それはもちろん。ちょっとした努力と運さえあればね。まったく、製作者さんにはもう少し自信を持ってもらいたいところなんだけどね」
彼女は笑いながらそのほうきをすみれに渡す。
「もっと自信を持ってもらいたいって、知り合いなの?」
「そうさ。ほら、さっき変態が来ただろ? あいつの職業は魔法使い専用ほうきの製作でな。ちょこちょこ新商品の売り込みに来るんだよ。まぁ今回も最初はそのつもりだったんだろうな」
ウィットはどこか遠い目で彼女について説明する。
おそらく、これまでもいろいろとあったのだろう。すみれはそんな彼女に同情を込めて心の中で合掌する。
「それで? これを使ってどうやって空を飛ぶの?」
「そうだったな。こいつの説明をしよう。よし、早速店の外に出るか」
彼女に連れられてすみれは店の外に出る。
入ったときはちゃんと見ていなかったが、森の中にある割にはこの店が建っている場所だけやけに明るい。
上を見ても木々はしっかりと生い茂っているのでこの空間だけ明るいというのは少し不思議な気がする。
「ここで飛んだりしたら木にぶつからないの?」
「大丈夫だって、木がよけてくれるから」
それが少し不安になってウィットに尋ねてみるが、彼女は訳の分からないことを言いながらすみれの肩をたたくばかりだ。
もっとも、大丈夫だというからには何か秘策があるのだろうと踏んで、すみれは不安も感じながらもほうきにまたがってみる。
はっきり言って、普通の竹ぼうきにしか見えないそれからは特に何かしらの力を感じるということはない。
「何も起きないよ?」
「あぁそりゃそうさ。魔法のほうきも何もしなければただのほうきだ。とりあえず、ほうきを両手で持って、手元に自分の力を集めるようなイメージをするんだ」
「力を手元に?」
言われた意味がよくわからなかったが、とりあえず、両目を閉じてどこぞのアニメを思い出しながら力を両手に集めるイメージを懸命にする。
すると、何か暖かいものが手元に集まるのを感じた。
それを感じたのか、ウィットが続けて指示を出す。
「よし。次は空を飛ぶイメージだ。大丈夫だ。あまり遠くに行かなければ、落ちても助けてやる」
彼女の言葉を聞きながら、今度はほうきにまたがって空を飛ぶ自分の姿をイメージする。
そうしているうちにふわりと少しだけ浮遊感を感じた。
イメージをはっきりさせるために目を閉じていたすみれはゆっくりとまぶたを押し上げる。
「すごい! 浮かんでる!」
まぶたを開けたその先、自分の足が数センチほど浮遊しているのを見てすみれが喜びの声をあげる。
「んーまぁ初めてだったらこんなもんか。いや、浮かんだだけでも優秀だとみるべきだな」
そんな彼女の横でウィットが冷静に分析する。
そのあとも、陽が暮れるまですれみはほうきにまたがり、空を飛ぶ練習を続けていた。