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箱庭の世界 ~白色の魔法使い~  作者: 白波
第一章 魔法の森
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第二話 ウィットの家

 ウィットの抱えられて移動すること約十分。

 森の中にひっそりとたたずんでいる家に到着した。


 入り口の扉横に「ウィット魔法店」と書かれていることから彼女の家で間違いないだろう。

 しかし、家を見る限りその看板以外に店のような要素は見当たらない。


 おそらく、彼女が自宅をそのまま店舗として利用しているのだろう。


 ウィットが扉を開けると、カランカランカランという軽快な鈴の音がなる。


 そのまま店の中に入ると、店内にはいくつかの棚があり、そこにはビンに詰められた青や赤の液体、何かしらの薬草、蛙の脱皮した皮、大きな鍋等々魔女と聞いて真っ先に思いつきそうなものがたくさん並んでいる。

 もしかしたら、店内にさりげなく置いてあるほうきも空飛ぶほうきなのかもしれない。


 童心に帰るような形でそんなことを考えている間にウィットはすみれを店の奥にある長椅子に寝かせる。


「それで? どうしてあんな森の中で? こんな風に森の中で店を構えている人間が言うことではないとは思うけれど、この森は普通の人間が来るような場所じゃない」

「そうなの?」

「そうだよ。それすらも知らないで寝ていたわけ? 下手をすれば今頃永遠の眠りについているところだったはずよ」


 そんなに恐ろしいところだったのか……すみれとしては気付いたらあそこにいたぐらいの意識しかなかったので命の危機が迫っていたという事実がどうしても現実味を帯びない。

 まぁいずれにいても、ウィットに見つけてもらえたというのはかなりの幸運だったということだったのだろう。


「ありがとう。でも、私は気付いたらあそこにいたっていうだけで本当に何もわからないのよ」

「気付いたらあそこにね……それ以前の記憶は?」


 すみれは静かに首を振る。

 実際、ところどころ記憶は抜け落ちているし、正直にすべて話しても子供の戯言程度にしか聞こえないだろう。

 こうしている間にも少しずつ記憶がなくなっているような気がして、背筋が少し寒くなるが、改めて首を振ることでそれを吹き飛ばす。


「そうか……森の中で行き倒れたうえで記憶喪失か。確か、ニホンっていうところの出身だって言ってたけれど、それ以外に何か……例えば、名前かなんかは憶えているのか?」

「えっはい。黒川すみれって言います」


 すみれの名前を聞いたウィットはふーんと鼻を鳴らす。


「クロカワスミレね。その名前だと、東部の島国の出身か? 残念ながら私はそのあたりには詳しくないんだが、そこになら確かにニホンとかいう妙な名前の村があってもおかしくないかもしれないな」

「えぇまぁそうなんでしょうか?」


 先ほどは情報を整理できていなかったためにほとんど何も伝えられていないのだが、それが逆に効果を発揮しているようだ。

 ウィットはぶつぶつと何かをつぶやきながら近くにあった台帳を開く。


「うーん。まぁそうなると、近くの村に放っておくのも気が引けるな……まぁ迷子情報だけ出してしばらく置いておくっていうのもありかもしれないな……」


 少し聞き耳を立ててみれば、そんな声が聞こえてきたのでどうやら今後のすみれの処遇について考えているようだ。

 そのまま三十分ぐらいそれを続けていたウィットは小さくため息をついてからすみれの方を向く。


「スミレだったよな? まぁあれだ。記憶喪失なら帰れといったところですぐには帰れんだろうから、しばらくうちにいたらどうだ? もちろん、いやなら構わないし、ここにいるからには多少なりとも店を手伝ってもらうことになるが……」


 そうしてはじき出されたウィットからの提案は家なし子になっていたすみれからすれば、最高のモノだった。


「えぇかまわないわ。これからお世話になります」

「おう。それじゃ、今日はとりあえずそこでしばらく休んでろ。私は少し森に薬草を取りに行くからな」


 ウィットはそう言い残すと、リュックを背負って店の外へと出ていった。

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