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プロローグ

 2014年7月某日


「なんというか、久しぶりに帰ってきたって感じね。いや、実際そうなのかもしれないけれど」


 ほこりっぽい家の中でそんな声をあげた黒川(くろかわ)すみれがいるのは、とある離島にある彼女の実家だ。

 自分の夢を追いかけるために家を飛び出してから何年もの間、まったく帰っていなかった。


 そんなすみれが帰ってきたのは私を女手一つで育て上げた母が亡くなったという連絡を親戚から受けたためだ。

 やはり、何年ものときが流れた関係で物の配置は多少変わっているものの、それでもとても懐かしい気分に浸れる。


 たとえば、階段横の柱にあるいくつもの線はすみれの成長に合わせて入れたもので二階にある彼女の部屋に至っては家を出て行ったその日のままになっていた。


 すみれは、自分の部屋においてある勉強机の引き出しを開けた。


「そういえば、こんな物も持っていたんだっけ」


 引き出しの中から顔を出した様々なものを見て思わず苦笑いを浮かべてしまう。


 すみれがこの家を出たのは高校を卒業するとき。当時、あこがれていた先輩の背中を追って遠くの大学への入学を決意したのだ。家を出た後、一年間の受験勉強を経て大学に入学することができた。そんな風に過去をゆっくりと思い出しながら引き出しの中身を見ていく。

 なにか出てくる度にいちいち、感傷に浸りながら机を整理していると机の奥から銀色の箱が出てきた。


「これはなんだっけ?」


 机の奥にポツンと置かれていたその箱は周りのかわいい小物に比べればあまりにも違和感たっぷりだ。

 いうならば、子供が宝物と称して石ころなんか入れていそうな箱である。


 すみれは、興味本位でその箱に触れた。


 すると、それを合図にしたかのようにどこかからともなく一枚の紙が落ちてきた。


「なにこれ? 招待状?」


 その紙にはシンプルにも“招待状”と書かれているだけで他の文字は見当たらない。


「何の招待状かしら? っていうか、どこから落ちてきたの?」

『どこからって空からさ」

「そうか。空ね。まぁ納得」

『そうそう。ちなみにボクの名前は空音(そらね)。空の音って書いて空音だよ』


 そうかそうか。この招待状を私の頭上に落とした主の名前は空音というのか……

 すみれはしっかりと名前を記憶して周りを見回してみる。


『あれ? ボクの渾身のネタはスルーなの?』


 相変わらず、その声は空耳でもなんでもなくはっきりと聞こえてくる。

 すみれは傍らにあった本をつかむと、無言で立ち上がる。


「誰じゃ私の家に勝手に入ったのは!」


 そして、全力でそれを天井へ向かって投げる。


『痛っ』


 そんな声とともに目の前に小学生ぐらいの男の子が落ちてくる。いや、見方によっては女の子に見えなくもない。

 そんな彼(?)は本が当たったのであろう頭をさすりながら立ち上がる。


「まったく……いくら不法侵入をしたからっていきなり攻撃するなんてひどいじゃないか」

「うん。とりあえず、今あなたが自分で言ったことを深う考えてみようか」

「クスクスクス。あぁそういうことか。確かに人の家に勝手に上がるのはよくないよね」


 彼の行動がまったく理解できない。

 “招待状”という文字だけの招待状だったり、天井に張り付いていたりと何がしたいのかまったくもって理解できないのだ。

 彼はそんなすみれの様子を見て、楽しげに笑っていた。


「さて、そんなことはどうでもいいから本題に入らせてもらうよ」

「どうでもいいってどういうことよ」

「その招待状はとある箱庭(せかい)への招待状」

「話聞いてます?」

「まぁせいぜい死なないように頑張ってくれたまえ!」

「だから話を!」


 最後までマイペースな彼に対して言いたいことを言い切ることなく、すみれの言葉は最後まで紡がれることはなかった。

 その理由は単純明快だ。すみれの足元にぽっかりと穴が開き、そこに吸い込まれるように私の身体が落下を始めたためである。


「キャー!」

「そうそう! 言い忘れていたけれど、箱庭のどこに落ちるかはボクも知らないから運次第ってやつだよね! それと、君の身体年齢、精神年齢ともに少し引き下げておくからね! ついでに記憶の方も制限させてもらうから! まぁあれだよ! 君の運さえよければ向こうで会おうね!」


 彼が楽しげな口調で話すそんな言葉を最後にすみれは意識を手放した。

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