♯1
歩先輩は偏見の塊の様な人だ。
アメリカと日本の混血で、アメリカで生まれ育った。
日本人の父は元ロッカーで、マイナーだけれど僕みたいなオタクは名前を聞いた事があると思う。
その彼は、その奥さんと娘からすると大変おちゃめでチャーミングな人物らしい。
けれど、僕からすれば惑きわまりない糞野郎である。
なぜなら先輩の日本への憧れはともかく、大変偏った偏見は彼から来ている。
先輩を日本の高校に送り出してくれたのは感謝しているけれど、絶対一度は僕の前で謝罪させてやりたい。
例えばこんなことがあった。
初めて先輩と出会った日。
その日、僕はスタジオに向かう途中で、ギターケースを肩に掛けて歩いていた。
その僕を見掛けた先輩は、見る者を一瞬で恋に落ちさせるには充分な可愛らしい笑顔で走り寄ってきた。
もちろん僕は勘違いをした。どこかであったかな?ヤれるかな?と、無様にも両手を広げ先輩を待ち構えた。
気付くと、僕は顔面で先輩の拳を受け止めていた。
腰の入ったいい右ストレートだった。
その後、そんないい感じのパンチを何発か貰った僕は昏倒した。
消え行く意識の中、先輩の困った表情が見えた。なんで?
目が覚めた病院で先輩にそのまんまそう聞くとギタリストは拳で挨拶する人種でしょう、と真顔で言われた。
唖然とした。
僕は直ぐさま、日本に来たのが今日が初日なのと、楽器を持って歩いていた人間との接触は僕が最初な事を確認した。心の底から安堵した。
その後、僕は心配だからという初めての理由で女性からアドレスを聞いた。捕まっちゃう。この人捕まっちゃうと思った。
全治には一週間必要だった。