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キミドリちゃんの特技

ようやくラブの予感。

 先日、キミドリちゃんが友成さんのポロシャツを汚してしまったため、クリーニング代を払うと友成さんに申し出たのだけれども、そんなに気にしなくていいよー、と言われ、受け取ってもらえなかった。


 しかし、だ。

 あたしは知っているのだ。あの日、友成さんが来ていたポロシャツには某ワニのマークがついていた、と。


 ブランドにそれほど詳しくないあたしでも、あのワニのマークは知っている。何度か友人に連れられてショップに行ったこともあるし。その時の衝撃は今でも忘れられない。デザインはとってもかわいいのに、値段はまったくもって可愛くなかったのだ。これがブランドってやつかと社会格差に愕然としたものだ。

 そのとき見たのは、もちろんレディースだけだったけれど、メンズはレディースよりサイズが大きい分、布だってたくさん必要だろう。と、なれば、レディースのポロシャツ一枚より、メンズのポロシャツ一枚のほうが高いはず。それをソースまみれにしたうえ、なんのお詫びもしないなんて、とんだ礼儀知らずもいいところ。お金を直で渡すのがダメ、というのであれば、品物で!



「ほんっとキミドリちゃん、わかってる?友成さんが優しいからってねぇ、下僕か何かだと思ってたら大間違いよ!」


 あたしの言葉にキミドリちゃんは元気よく、ちー、と鳴く。

 本当にわかっているのだか、甚だあやしいところだが、致し方ない。


 バイトの休日を利用して、あたしとキミドリちゃんはとある八百屋さんに来ていた。本当はスーパーとかのほうがいいのかもしれないけれど、キミドリちゃん同伴だと、店内には入れないからだ。今回のお詫びはキミドリちゃんが原因なのだから、しっかり謝ってもらわないと困る。



「おう、いらっしゃい」

「こんにちわー」

「ちちー」


 八百屋のおじさんとはすでに顔見知りである。あたしの肩にのっているキミドリちゃんを見て、にこにこしているおじさんは、時々、キミドリちゃんに、とオマケをしてくれる。大変、ありがたい存在なのだ。


「今の時期、果物だとなにがあります?」

「そうだねぇ、そろそろ柿や梨、葡萄やなんかが出てるかな。おすすめはマスカットだね」


 ふむ、マスカットだとかはちょっと豪華に見えるし、お詫びの品としては妥当かもしれない。


「ちょっと見せてもらってもいいですか?」

「おうよ」


 あたしはおじさんにひとこと告げ、マスカットが並べてあるところに立った。どのマスカットを選ぶかはキミドリちゃんの仕事だ。




 キミドリちゃんは鳥だけに、ある特技がある。美味しい果物がわかるのだ。

 冬に蜜柑を買って、籠に盛っておくと、キミドリちゃんは美味しい部分だけを食べる。丸ごと一個ではなく、甘い蜜柑のうちでも、最も甘くて美味しい部分だけを的確につつくのだ。

 とはいえ、残った部分も、キミドリちゃんがまったくつついていない蜜柑と比べると、甘くておいしいのだけれども。


 別にこれは蜜柑に限ったことではない。

 どの果物でも、キミドリちゃんには美味しいかそうでないか判断できるらしいのだ。

 なので、あたしが果物を買うときは必ず、キミドリちゃんに選ばせるようにしている。そうすればはずれはない。でも、八百屋さんは食べ物を扱うところなので、キミドリちゃんを嫌がるお店もある。それは当然のことだし、むしろ別に構わないのだけれど、たまにものすごく申し訳なさそうに謝ってくれる人なんかもいて、いたたまれなくなる。



 キミドリちゃんが、ちゅるちゅるー、とご機嫌な声を出して、いくつか並べてあるマスカットのうちの一つの上でぱたぱたと羽を動かした。

「これ?」

 おそらくこれだろうな、というマスカットを取り上げて確認すれば、ちゅるー、とご満悦な声。











+ + +











「ふぅん、で、そのマスカットは受け取ってもらったわけ?」

「受け取ってもらったというか、正確にいうと、押し付けた、って感じかな。友成さんにあげてもたぶん、もらってくれないだろうから、友成さんのお母さんに渡してもらうよう頼んだの。そうすれば、断れないし」

「へー。つか、今日、キミドリは?」

「お留守番。飲み会に連れてくるわけないじゃん」

「そりゃそうだ」


 あたしは座敷の隅っこで、同級生である木村とちびちびお酒を飲んでいた。

 今日は、学科の飲み会。学科の、と言っても同級生だけだからそう多くもない。うちの学年は特に仲が良いらしく、時々、こうやって飲むことがある。


「飲み会に森脇が来るのって珍しいよな」

「あー、まあそうかも。実家だと帰りが面倒くさくって」

「最近、一人暮らし始めたんだっけ?」

「っそ。ようやく念願かなっての一人暮らしだよー。一人を満喫中。といってもキミドリちゃんいるから、あんまり一人って感じしないけど」

「お前、実家住んでたときにも、学校に連れてきてたもんなー」

「連れてきてたんじゃなくて、勝手についてきてたの」

「つか、メジロがペットでしかも放し飼いってのがまずねーよ」


 木村が心底おかしそうに笑う。いや、鳥を飼うときには籠とかにいれて飼うのが一般的だってこと、あたしだってわかってるけど、しょうがないじゃん、キミドリちゃんだもの、と反論しようとしたところで、にぎやかな一団が木村を後ろから抱きこんだ。


「やほー。飲んでる?つかお前らさぁ、もっと騒ごうよ。なにしんみりしちゃって~」

沢菜さわな

「野沢菜くん、いつ日本帰ってきたのー?」


 木村に後ろから抱き着いたのは、学科一のフリーダム男、沢菜圭一だった。沢菜、という苗字なので、あたしは野沢菜くんと呼んでいる。

 この野沢菜くん、いきなり気が向いた、とか言ってふらっと放浪をし始めることがある。ついこの間、メキシコ行って来るね、という書置きを研究室に残し、旅立っていたのだが、帰国していたらしい。


「うん?昨日?」


 なぜ疑問形、と思わないでもないが、相手は酔っ払い。というか、よく昨日帰国してすぐこんな飲み会に来る気になったものだと、そっちに驚く。


「きゃっほーい、あたしもまっぜろ~」


 ビール瓶片手に突撃してきたのは、同じ研究室に所属している浅岡松子あさおかまつこ。こっちも完全によっぱらいだ。


「おー、まっつーん飲みすぎだろー。帰れんのかー?」

「だいじょうぶっい。俺と帰るし~」


 木村の質問に答えたのは、野沢菜くん。野沢菜くんの言葉に体をくねくねさせて照れているまっつん。相変わらずのバカップルっぷりにうんざりする。


「ねぇねぇ、それよりさぁ、めーこと一緒にお祭り行ったって人と、めーこは付き合ってないの?」

「またその話?だから付き合ってないってば」

「なになに、面白そうなことになってんじゃん。めいちゃんてば彼氏できたのー?」


 まっつんの言葉を耳ざとく聞きつけた野沢菜くんが、目をきらっきらさせているのがわかる。てか、まっつんにはその話、もうしたのに、酔っ払いというのはそういうのお構いなしらしい。


「俺、その話詳しく聞きたいな」


 語尾にハートマークでもつきそうな勢いでそんなこと言う野沢菜くん。酔っ払いに何を言っても無駄だとわかっているけれど、イラッとするのはやめられない。

 黙秘権行使します、と言おうとしたところで、意外なとこから声が。


「その話、俺も聞きたいな」

「えー、なんで木村が聞きたいのよ?てか、単なるバイト先の知り合いでたまたま二人で行くことになったってだけ。まっつんにもそう教えたでしょ?」

「それ以外になぁんにもなかったの?」

「ない」

「ラブが生まれたりは?」

「断じてない」

「なぁんだ、つまんないの~」

「まっつん楽しませてどうすんのよ」

「まぁまぁ、学生が話すことなんて所詮そんなもんでしょ~。各国共通だよ~。仲良くなれる秘訣だね」

 野沢菜くんののんきな声と、松子ののどかな笑い声が重なる。似た者同士のカップルとしか言いようがない。


「つか、沢菜、この飲み会、お前の帰国報告も兼ねてんだろ?池田とかんとこにも行ってきてやれよ。あいつ、お前が急にいなくなったせいで大変だったらしいぞ」

「うげー、そりゃぁ申し訳ないことをしたなぁ。おっし、じゃあまっつんいこっか」

「そうね。じゃーねー」


 にぎやかカップルが去るのを、遠い目で見ながら梅酒を飲んだ。うん、美味しい。

 居酒屋は相変わらずにぎやかだけれど、あたしと木村がいるところは静かだ。お酒は落ち着いて飲んだ方がおいしいと思う。

 しかし、梅酒を堪能しているあたしの耳に入ってきたのは、居酒屋の喧噪すらぶっ飛ばす威力があった。


「なぁ、付き合わね?」

「は?」

「ま、とりあえずはオタメシって感じで。嫌なら嫌でも、よくはないな。ここで言うのもどうかと思うけど、ゆっくりしてたら誰かにとられるってわかったし、芽衣子も別に俺のこと嫌いじゃないだろ?だから」


 木村がゆっくりとこっちを見る。

 ああ、木村ってまつ毛長いんだなぁとか、髪の毛さらさらで羨ましいとか、そんなことを考えていたら、とびっきりのエロ声でささやかれました。


「付き合え」


 どこの俺様だよ、と突っ込みばよかったと後悔したのは、飲み会が終わった次の日の朝。

 勢いに気圧されて、うっかり気づけば首を縦に振っていました。


 どうやら、彼氏ができたようです。






ようやく主人公の下の名前が出ました。芽衣子です。

後半はあまりキミドリちゃん関係なかったような気もしますが、次回はキミドリちゃんも活躍?します。たぶん。

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