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雪景色

作者: 夜空tomori

純白の世界――


辺りは一面雪景色。


教室の窓から校庭を見つめる。


私の席は窓際。


授業中だが

先生の話は全く聞いていない。


それどころか雪に見とれていた。


真っ白でフワフワとした雪が、もう5時間近く降り続いている。


この街に雪が降るなんて、とても珍しいことであった。


他県に旅行に行ったときに雪は何度か見たことがあるが、この街で雪を見たのは生まれて初めてだ。


私の名前は矢沢 杏。


ふと、幼い頃の記憶が蘇る。


それは、小学校に入学する前の幼稚園のときの冬の事であった。


――ねぇ知ってた?


今は、亡き母親の声。


脳裏に鮮明に蘇る。


――雪なんて降ったことのないこの街に、珍しく雪が降ったとき、山の頂上の展望台で告白すると恋が叶うんだよ。


――杏ちゃんも大きくなって、素敵な男の子を見つけたら、そこで告白してみたら?


――ママは、そこでパパに告白したんだよ。


幼い頃の冬の寒い日。

幼稚園に母が迎えに来た帰り道。

コンビニで買った温かい肉まんを母と半分こして、口にほおばりながら母が私に言ったのを、今でも鮮明に覚えてる。


雪が降る中、山の頂上に行けって?


そんなの無理に決まってるじゃん。


それに、そんなの迷信じゃないの?


ママとパパが付き合ったのは、ここで告白したからじゃなくて、想いが通じあっていたからであって、そんなの単なる偶然でしょ?


そんなの信じられないよ。


でも、この街に雪が降るなんて、次にいつ降るか分かんないし、もう降らないかもしれない。


それに、この冬が終わったら、翔は他県に転校してしまう。


翔は、私の好きな人。

幼馴染みで、とても仲がいい。

でも、翔の両親の都合で、この冬が終われば他県に転校してしまうらしい。



もう、この冬に雪なんて降る機会無いかも知れない。


きっとこんなチャンス、もう二度と無いよね。


ママが言ってたことは、ホントかウソか知らないけど、この機会に実験してみよう。


天国に行ったママに、「この私が実証済み」って伝えなきゃね。



キーンコーンカーンコーン


授業が終わるとともに、翔の席へと向かう。


「翔ーっ♪」


「なんだよ急に。ってか、なんでニヤニヤしてるんだよ」



「翔、私と一緒に展望台行かない?♪」

私は翔に向かって軽くウインクをした。



「行かない。第一、こんな雪の中、山なんて登れるわけねぇだろ。」


翔は少し呆れ気味。


「えぇー!!なんでよっ!!行こうよ!!…じゃないと、私ひとりで山登って、山の頂上から飛び降りて自殺するからねっ!!」


翔の目がテンになる。

そして翔は、ポカーンと口を大きく開けている。


「えぇぇぇっ!!分かった!!分かったから俺一緒に行くから!!死ぬなよ!!」


翔は来てくれるようだ。


「やったぁ!!ありがと♪」


「言っとくけど、お前のために行くんじゃないからな!!お前が自殺するとか言うから、仕方なく行くだけだからな!!」


翔は、素直じゃないなぁ…


「は〜い♪じゃあ放課後、山のふもとで集合ね〜♪」


ルンルン気分で家に帰った。

家に着くと制服を脱ぎ捨てて、

真新しい可愛い服を来て、上からダウンジャケットを羽織った。


首には赤いのマフラーを巻いた。


このマフラーは、亡くなったママが編んでくれたもの。


そして山のふもとに向かった。


家から山のふもとまでのコンクリートの道は、一面真っ白な雪の道に変わっていた。


山のふもとに着くと、翔はすでに来ていた。

「遅ぇよ。」



「ごめんごめん。さぁ行こっか♪」


翔と歩く山道。


雪が降ってて遠くまで見えない。


急な坂は、翔が私の手をひっぱってくれた。

凄く寒いけど

雪は冷たいけど


ひっぱってくれた翔の手は温かい。


人って、こんなに温かかったんだね。


私は、山道を歩きながら、雪を丸めて、翔に向かって放り投げた。


「イテッ!!おぃこら!!杏!!」


「キャァァァ!!あははっ♪」


「“あははっ♪”じゃねーよ!!」


翔と登った山道は、凄く凄く楽しかった。


そして約2時間、冬の雪山を登り続け

なんとか頂上に着いた。


「疲れたね…」


「だな…」



長い長い沈黙が続く。


言わなきゃ。


伝えなきゃ。


でも言えない。


フラれるのが怖くて。


もう“友達”のままでいいじゃん。


無理に告白してフラれるなら


“幼馴染み”のままでいいじゃん。


でも――


翔にとっての“特別な存在”になりたいな。


「翔…」


私の一声で沈黙は打ち消された。



「何?」

雪景色を眺めていた翔が此方を向いた。

と同時に、私は頬を赤らめていることに気づきマフラーで顔を覆う。


「翔のことが好き」


そしてそっと口を開いた。


また長い沈黙が続く。


もう後戻りはできない。


もう元には戻れない。


「翔…返事は?」


やっぱり翔は無言のまま。


言わないほうが良かった?


私が想いを告げたこと、翔にとっては迷惑だった?


「答えてよ!!ねぇ!!」


私は翔の腕をしっかりと掴んで、その腕をブンブン激しく揺らした。


翔が私の顔を見つめる。


無言のまま。


そして私の肩をそっと抱き寄せた。


「翔に…期待していいの?」


「もちろん。俺も…杏がずっと前から好きだった。」


そう言った翔はニコッと笑っていた。



「翔…」



ママ――


ママは天国で

幸せに暮らしていますか?――


ママが言ってたこと、迷信じゃなくて、ホントだったね――


ママが教えてくれなかったら

翔に告白できてなかったかも知れない――


教えてくれてありがとう――


最初は、ママが言ったこと信じてなかったけど…


ママが言ったことホントだったね――


この私が実証済み♪


私は、ママが居なくて寂しいけど

頑張って毎日を過ごしています。


ママは大切なことをいっぱい教えてくれました。


ありがとう――


こんな私だけど


私は、世界で一番、幸福者(しあわせもの)です。


ママ――


そして


翔――


ありがとう――



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― 新着の感想 ―
[良い点] 幸福者というので しあわせものと呼ばせるのがよかったぞよ (*´∀`) [気になる点] うーむ・・・ 無いなぁ・・・ [一言] がんばれ(´∀`*)
2011/08/31 20:05 ◆◇ゆーさん◇◆
[一言] いい話だ!! 人によっては「ベタだ」って言うかもしれないけど、俺にとっちゃ心に残る逸品だ!! ところで、翔は何で黙ってたの?
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