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サイド 対見視点2


 サイド 対見視点2


「殴られた衝撃で気絶して、そのまま自分の舌で気道ふさいでる……」


 砦は、そう言いながら、男の頭を軽くのけぞらせて、顎を持ち上げた。

 男の気道を確保する体勢。


「……脈はある。呼吸だけが止まってる感じ……」


 数秒、様子を見る砦。

 男の胸は……上下していない。


「戻らないか……しゃーない」


 砦は、迷いなく、男の鼻をつまみ、


 ――人工呼吸を開始した。


 躊躇ちゅうちょなんて、一切なかった。

 ……すご……

 なんで、そんな迷いなくいけるの?


 ……ゆっくりと、息を吹き込む。

 男の胸が、かすかに膨らむ。


 口を離し、また息を吸って、もう一度。


 何度か繰り返したあとで、


「……ちっ。戻らないな。……山本の回復魔法なら秒なんだけどなぁ……近くにいねぇかな」


 そういいながら、砦はスマホで電話をかける。

 コハルが出たらしく、


「山本、今どこにいる? ……おお、マジか。ああ……じゃあ、いいや。いや、なんでもない。忘れてくれ」


 すぐに切った。

 どうやら近くにはいなかったっぽい。


「……めんど」


 もう一度、息を吹き込む。

 二回、三回。


「……っ」


 男の喉から、小さく音が漏れた。

 同時に、胸が自分の力で上下しはじめる。


「……お、案外楽に戻った。よかったぁ。こんなのに、ポーション使うわけにはいかないからなぁ」


 砦は、すぐに男の体を横向きにし、片膝と片腕を軽く曲げさせた。

 顎を軽く持ち上げたまま、気道が塞がらない姿勢に整える。


「……これで、また舌が落ちてくることはないはず」


 脈と呼吸を数回確認したあと、


「……肋骨、軽くってるっぽいけど、これぐらいなら、大丈夫だろ」


 そう言って、そのまま流れるように救急車を呼んだ。

 電話を切ったあと、もう一件、別のところに電話をかける。


「あ、どうも綾大路さん。ちょっと、頼みたいことがあって……実は、俺、絡んできた人を殴っちゃいまして……で、結構なケガを負わせちゃいましてね。あ、いや、死んではいません。はい……で、正当防衛とかの手続きもダルいんで、もみ消してくれません? あ、いけます? あざす」


 淡々と、必要な段取りだけを済ませていく。


 私は、ようやく、地面に座り込んだまま、口を開いた。


「あ、ありがとう……」


「別にお礼はいらない。対見なら、パニクってさえいなければ、この程度、余裕で対処できたでしょ?」


「……」


 バカかと思った。

 我慢できなくて、私は、砦に抱き着く。


「え、あの……ちょっと?」


「ごめん。わかってる……けど、今だけ……」


「なんで謝られたのかも、何がわかっているのかも、さっぱりわからないんだけど……」


 困ったような声で、砦がそう言う。


 あったかい。

 さっきまでの震えが、少しずつ、おさまっていく。


「あんた天才なのに……ほんとバカだね」


「……何が?」


 救急車のサイレンが近づいてくるまで、私は、しばらく、そのままでいた。


 ★


 殺人未遂のもろもろが終わって、

 寮に帰ると、エントランスにジュリアがいた。


「対見か。……トウシから話は聞いた。イカれたストーカーに狙われて大変だったらしいな」


「……まあね。あやうく、私、人殺しになるところだった」


「? トウシが殴ったんだろう? なぜ、あんたが人殺しに?」


「……ああ、あのバカ、あんたにも、そう説明したんだ……」


「どういうことだ?」


「本当は私が殴ったの。つい、うっかり……で、殺しかけたんだけど、砦が助けてくれたの。自分がやったってことにしてね」


「……あいつ、余計なことを……対見の問題など無視すればいいのに……」


「ははは……ジュリアって、砦以外の人に対しては、全然優しくないよね」


「宝石と石ころを同列に扱う人間はいないだろう。それだけのこと」


「あのさ……」


「なんだ」


「私が砦と付き合ったら、やっぱり怒る?」


「……」


「すっごい目」


 私は、宣戦布告するみたいに笑って、


「私は別に引く気ないから」


 そう言って、エレベーターに向かった。

 後ろから殺気を感じたけど、知ったことかと舌を出してみせた。



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― 新着の感想 ―
人工呼吸からの気道確保、救急車の手配に加えて綾大路への丸投げ工作まで完璧すぎて有能すぎる!
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