美沙②
「春樹、何故に私を庇った!・・・私はそんな事を望んだ覚えはないわ!」
あの会議が終わり、美沙の両親は飛行場に預けて置いた荷物を取りに戻った。
慌てて来たらしく、自宅も片付けがまだらしく今日は美沙達の家に行く事に成った。
「私がアンタならば・・・ここぞと相手の悪行を皆にバラして、恨みや憎しみを晴らして、私を追い出せた筈!・・・どうして庇ったりしたんだ!」
終了後、やる事が残ってるからと、去っていこうとした春樹を、美沙は廊下で捕まえたのだ。
「お嬢・・・あの場で真実を私の口から言えば、どうなっていたと思います?」
深いため息の後、静かに振り返り、春樹は美沙に尋ねた。
「私は・・・社長を解任、そして会社と自宅から追い出されて・・・」
「それで済みますか?」
済む筈は無い・・・春樹への嫌がらせはともかくとして、会社の件は美沙の把握が出来ない所まで及んでいるのだろう・・・
おそらくは、ただ罰金とか支払えば済む話ではない・・・刑期が付くのは間違いないだろう。
そうなれば、一からの再起など困難だろう。
あの両親がまた美沙に手を差し伸ばしてくれるとは考えにくい為、惨めな貧困生活を送る事に成るかもしれない・・・
「・・・私が捕まった所で、アンタには何の不利益は無いわ!むしろ、家と会社が手にはいるのよ!万々歳じゃないの!」
何故に、何を美沙が仕出かしても、冷静にリカバリーして淡々と進めてしまうのだろう・・・
それが美沙には、腹ただしい事なのだ。
「アンタは、感情を表に出してよ!怒ってよ!恨みなよ!罵りなさいよ!」
そう言って美沙は、春樹に詰め寄った。
出会って10数年、結婚して5年・・・少し笑ったり悲しそうにするのは見たが、本気で怒ったり、相手を罵るところを見た事は無い。
携帯を笑いながら壊したり、卑下しながら彼を家から追い出した時も、春樹は平然とそれを受け入れてしまった・・・
その為、何か裏が有るんじゃないかと2人で疑ったくらいだ。
「・・・その《お嬢》呼びも気に入らないの!
夫婦なんだから、本来なら呼び捨てだって良い筈でしょ?
なのにアンタは何時までもしないし・・・まるで私を馬鹿にしてるとしか思えないわ!」
一時期は、《美沙さん》呼びだった頃も有ったが、今では会社では《社長》、家では《奥様》だった。
2人きりの時でさえ、今みたいに《お嬢》なのだ。
「・・・家での《奥様》は、お嬢・・・いや美沙さんが、自分でそう言えって私に言ったんでしょ?」
最初は春樹に隠れて竜斗と付き合って居たが、春樹が見て見ぬ振りをして動じないのでドンドンとエスカレートして行き、終には自宅にまで竜斗を連れ込み、これからは《奥様》と呼べと春樹に強要した筈だ。
「・・・美沙さん、何か有ったんですか?
今日の貴女は、《何か》いつもと違いますよ?」




