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勇者ですが、魔王討伐の前に町内会に加入させられました

作者: 延々Redo
掲載日:2026/03/12

サックリ読めます

「勇者よ、よくぞ参った! 魔王を倒し、この世界に光を取り戻してくれ!」


 (まばゆ)い光が収まると同時に、玉座の上の国王が両手を広げた。

 兵士たちが一斉(いっせい)(やり)を鳴らす。テンプレ通りの異世界召喚。

 俺の役目は、聖剣を手に魔王城へ向かうこと――のはずだった。


「…分かりました。お引き受けしましょう」


 頷いた瞬間、隣に立っていた宰相が「おっと」と手を差し出した。


「勇者様。出発の前に、こちらの手続きを」


「聖剣の登録ですか?」


「いえ。城下町第三支部町内会への加入届です」


 差し出されたのは、羊皮紙ではなく、見覚えのあるわら半紙だった。


「…町内会?」


「我が国では全住民加入が義務でして。今月はドブさらい強化月間ですので、出発は来週以降で」


「……魔王討伐は?」


「清掃終了後に」


 俺の手には、聖剣ではなく回覧板が握らされていた。




 召喚から一週間。

 俺はまだ城下町にいた。


 やっていることは、ドブさらい、防災訓練、祭り準備。

 純白だったマントは灰色になり、(いそ)の香りがする。


「よし…これで出発できる」


 そう思った矢先。


「勇者様、来週の予定です」


 宰相が差し出した紙には『全国一斉・防災訓練(異世界版)』と書かれていた。


「魔王軍の飛竜対策で、バケツリレーを。勇者様は先頭で」


「俺、魔王を倒す役目なんですが」


「皆、勇者様のお手本を楽しみにしていますよ」


 穏やかな善意に、逆らえなかった。


 さらに数日後。


「勇者様! 出発ですか!」


「ああ、ようやくな」


「その前に、こちらにサインを」


 渡されたのは『秋祭り屋台設営(せつえい)名簿』。


「……祭り?」


「全種族休戦期間ですから大丈夫です!」


 俺は聖剣を抜いた。

 その初陣(ういじん)は、祭り用の(まき)割りだった。


 パコーン、という乾いた音に、子どもたちが拍手する。


「勇者様すごーい!」


 魔王城は、相変わらず遠かった。





 その頃、魔王城。


「報告しろ。勇者はどうしている」


「はっ……城下町で、住民と共に行動しております」


「共に?」


「ドブをさらい、訓練を行い、祭りを主導しています」


 軍師が回覧板の写しを机に置いた。


「これは……住民を直接結束させる通信手段。

 勇者は武力ではなく、生活に入り込んでいます」


「……厄介だな」


 さらに伝令。


「ゴブリン部隊が、資源ゴミ分別を手伝わされました」


「なに?」


饅頭(まんじゅう)を貰って帰還(きかん)しています」


 魔王は沈黙した。


「……我らも、やるしかあるまい」





 数ヶ月後。


 魔王城は、やけに綺麗だった。


「勇者様、こちらに氏名と現住所を」


 受付のガーゴイルが名簿を差し出す。


「土足厳禁です。スリッパどうぞ」


 玉座の間では、魔王が名札を付けて待っていた。


『魔王城自治会・会長』


「勇者よ……組織運営とは、かくも難しいものだな」


「……何をしてるんだ」


「ゴミ出し問題と、若手の不参加率に悩んでいる」


 魔王は深刻(しんこく)そうだった。


「頼む。特別顧問(こもん)になってくれ」


「俺は魔王討伐に――」


「それは来期でいい」


 俺は、折れた。




 それから。


 世界から戦争は消えた。

 代わりに増えたのは、清掃日程と回覧板だ。


「勇者様ー! 回覧板お願い!」


「はいはい!」


 俺は今日も走る。


 魔王城への最短ルート。

 それは今や、世界一忙しい回覧板ルートだった。


 今日も勇者は、回覧板を回すために走っている。


(完)


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