勇者ですが、魔王討伐の前に町内会に加入させられました
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「勇者よ、よくぞ参った! 魔王を倒し、この世界に光を取り戻してくれ!」
眩い光が収まると同時に、玉座の上の国王が両手を広げた。
兵士たちが一斉に槍を鳴らす。テンプレ通りの異世界召喚。
俺の役目は、聖剣を手に魔王城へ向かうこと――のはずだった。
「…分かりました。お引き受けしましょう」
頷いた瞬間、隣に立っていた宰相が「おっと」と手を差し出した。
「勇者様。出発の前に、こちらの手続きを」
「聖剣の登録ですか?」
「いえ。城下町第三支部町内会への加入届です」
差し出されたのは、羊皮紙ではなく、見覚えのあるわら半紙だった。
「…町内会?」
「我が国では全住民加入が義務でして。今月はドブさらい強化月間ですので、出発は来週以降で」
「……魔王討伐は?」
「清掃終了後に」
俺の手には、聖剣ではなく回覧板が握らされていた。
召喚から一週間。
俺はまだ城下町にいた。
やっていることは、ドブさらい、防災訓練、祭り準備。
純白だったマントは灰色になり、磯の香りがする。
「よし…これで出発できる」
そう思った矢先。
「勇者様、来週の予定です」
宰相が差し出した紙には『全国一斉・防災訓練(異世界版)』と書かれていた。
「魔王軍の飛竜対策で、バケツリレーを。勇者様は先頭で」
「俺、魔王を倒す役目なんですが」
「皆、勇者様のお手本を楽しみにしていますよ」
穏やかな善意に、逆らえなかった。
さらに数日後。
「勇者様! 出発ですか!」
「ああ、ようやくな」
「その前に、こちらにサインを」
渡されたのは『秋祭り屋台設営名簿』。
「……祭り?」
「全種族休戦期間ですから大丈夫です!」
俺は聖剣を抜いた。
その初陣は、祭り用の薪割りだった。
パコーン、という乾いた音に、子どもたちが拍手する。
「勇者様すごーい!」
魔王城は、相変わらず遠かった。
その頃、魔王城。
「報告しろ。勇者はどうしている」
「はっ……城下町で、住民と共に行動しております」
「共に?」
「ドブをさらい、訓練を行い、祭りを主導しています」
軍師が回覧板の写しを机に置いた。
「これは……住民を直接結束させる通信手段。
勇者は武力ではなく、生活に入り込んでいます」
「……厄介だな」
さらに伝令。
「ゴブリン部隊が、資源ゴミ分別を手伝わされました」
「なに?」
「饅頭を貰って帰還しています」
魔王は沈黙した。
「……我らも、やるしかあるまい」
数ヶ月後。
魔王城は、やけに綺麗だった。
「勇者様、こちらに氏名と現住所を」
受付のガーゴイルが名簿を差し出す。
「土足厳禁です。スリッパどうぞ」
玉座の間では、魔王が名札を付けて待っていた。
『魔王城自治会・会長』
「勇者よ……組織運営とは、かくも難しいものだな」
「……何をしてるんだ」
「ゴミ出し問題と、若手の不参加率に悩んでいる」
魔王は深刻そうだった。
「頼む。特別顧問になってくれ」
「俺は魔王討伐に――」
「それは来期でいい」
俺は、折れた。
それから。
世界から戦争は消えた。
代わりに増えたのは、清掃日程と回覧板だ。
「勇者様ー! 回覧板お願い!」
「はいはい!」
俺は今日も走る。
魔王城への最短ルート。
それは今や、世界一忙しい回覧板ルートだった。
今日も勇者は、回覧板を回すために走っている。
(完)
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