表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
larme ~短編集~  作者: いつき
単品(1~2話)
7/50

ちがう

 友人に著作権ごと貰った小説の半ば二次創作。

 友人がほとんど興味のなかった、脇役の二人を中心にして見ました。……いっつもだな。何故か主役カップルよりも、脇役カップルが好きだったりします。


 シスコン、ってどこまでいったらシスコンなのかなぁーとか思ってみたり。

 昔、私の髪はセミロングで、よく二つくくりにしていた。好きな男の子が、二つくくりが好きだったから。





奈央なお~~。あんたが好きなひいらぎクン。今日、やけに落ち込んでるわよ~~。慰めてあげたら??」

 舌ったらずなしゃべり方は男子には人気でも、女子にはかなり不評だ。少し長めの髪をくるくるときれいに巻き、目元から口元までバッチリメイク。

 胸元のシャツは大きく開き、私とは違う真っ白で豊かなふくらみが見えた。リボンがだらしなく結ばれ、まだ寒いというのにスカートは短かい。

「煩い。好きじゃないし」

 小さく頭を振ると首もとで二本のみつあみが揺れる。それをけだるげに見つめた。

 黒ぶち眼鏡に、おさげ髪、制服は第一ボタンまできれいに閉められ、リボンは美しい結び目をキープしている。スカートは膝下五センチ固定。

 何の面白げも感じられない、非凡なほど真面目なガリ勉タイプ。

 それがクラスでの私の評価だ。

「またまた。心配で仕方ないはずのくせに~~」

 頼むから、そんなに大きな声で語ってくれるな。

 教室が煩くて助かったからよかったものの、『あの』ひいらぎ ともが好きだなんて人に知れたら私は死を覚悟しなければならなくなるのだから。





「で、伴、どうしてあんたがここにいるのかしら?」

 トントン、と今時珍しくなりつつある図書カードを整理しつつ、十年来の友人の名を呼ぶ。図書委員の仕事中に何の用だ。

「いや、お前なら話聞いてくれるかと思って」

 また始まった。こいつの悪い癖は自分がどうしてもできない時には友人に頼むこと。

 それなら最初っから頼めばいいのに、変なプライドがあるのかもう手が付けられない、という状況まで自分でやり、あとは友人に任せるのだ。

 悪く言えばそうだが、見方を変えれば最後まで諦めない人だとも言えるかもしれない。とはいえ、友人から見ればそこまで抱え込まなくても……と思うような内容が混じってないとも言い切れない。

「で、今度は何? 柊くん?」

 わざとらしく聞いてやれば、友人は図書委員の席である受付に入り込んだ。

「昨日、かおる帰ってきただろ?」

「かおるくん? 同じクラスじゃない。知ってるよ、それくらい」

 昨日帰ってきたのはフランスからの転校生。


 咲野さくの かおる 


 幼稚園のときに一緒で、引っ越してからは連絡も取っていなかったが、昔馴染みと言って差支えがない程度には仲がよかった。

 そのかおるくんが昨日、日本に帰ってきて、かおるくんはこの友人の家に遊びに行ったはずだ。

「で、そこまではいい。そこまでは俺だって、喜べるんだ!!」

 じゃあ、今は喜んでないって言うの? あんなに仲がよかったのに?

「じゃあ、どこまでいったから、喜べないの?」

「さすが、奈央! いい勘してるな」

 いやいや、かおるくんに対しての敵対心のようなものがあんたの後ろから見えただけだよ、とは言わずにおいた。

「聞いてくれ! 芳は、俺の、俺の大切な妹を!!!」

 またその話か。

 言い忘れていたが、こいつにはもう一つ、決定的な欠陥があった。

 それなりに顔がいいにもかかわらず、頭がいいにもかかわらず、運動神経がいいにもかかわらず彼女ができない理由。

 いや、できそうになっても必ず失敗に終わる訳があった。

 それは

「俺の大切なゆきを!!」

 重度のシスコン病。もう危篤状態。不治の病。つける薬なしの妹バカ。

 そこまでがラインだった。

「悪いわね。伴。私、今日もう帰るわ。図書委員なんでしょ? 一度くらい、大変なクラスメイトを助けてくれてもいいわよね?」

 だから嫌なのだ。こいつの……伴の話を聞くのは。

「奈央?」

「また明日。聞いてあげる。詳しいことまで。だから、今日は帰してちょうだい。あんたの話聞くの、結構体力いるんだから」

 そう、本当に体力いるんだ。伴の話を聞くときはいつだって絶好調の体調じゃないといけない。その絶好調の体調で聞いてさえ、聞き終わったときはぐったりしてるのに。

「聞いてくれるんじゃなかったのか?」

「どうしても聞いて欲しいんなら電話しなさい」

 メールでもいいから、と言いかけて止めた。こいつには携帯の番号もアドレスも教えてはいなかった。

「あんたの家に登録してある電話番号でまだ通じると思うから」

 椅子の横に置いてあった、無駄に大きくて重い革鞄を持つ。

 私の気持ちと一緒だと、その時になって気づいた。


 無駄に大きくて、重くて、持ち運ぶのには不便なくせに、置いていくには気が引ける。

 かといって簡単に捨てられるものじゃなく、買い換えるのも簡単じゃなくて、そして長い間使っているからか捨てるのももったいない気がする。

 何を、やってるんだろう。私は。十年もの間、何てものを持ち続けていたんだろう。

 どうして、恋人を早く作ってはくれないんだろう。

 そうすれば、少しでも早く見切りをつけれただろうに。


 彼の目はいつも同級生に向けられてはいなかった。どこまでも暖かく、柔らかい、唯一の愛情は、ありったけの分だけ『家族愛』として妹に注がれていた。

 その中に少しでも恋愛感情があれば諦めれたのに、その愛はどこまでいっても『妹』にむけられる純粋な家族愛だった。

 絶対に私には向けられないと知っていた。そしてその愛が彼女以外に向けられないことも、私は知っていた。

 彼の心は絶対に手に入らない。だけど、誰の手にも渡らない。

 それが私の心のよりどころだった。

 小さい頃は、それがよく分からなくて、ただ妹が、『倖ちゃん』が本当に好きなんだなぁ、と思ってた。同性から見ても可愛らしく、素直で、賢い子だったから。

 だから伴が彼女の話をしても、どうってことなかった。兄弟のいない私にとっては、その話は本当に面白かったから。


 だけどだんだん、大きくなるにつれて、分かることが多くなった。それからだろうか、彼が好きだった――――倖ちゃんの大好きな二つくくりをやめてしまったのは。

 セミロングの髪をずっと伸ばした。彼女も、セミロングだったから。

 眼鏡もかけた。親はコンタクトを奨めたけど、彼女は眼鏡をかけてなかったから。

 自分の周りから暖色をなくしていった。彼女がよく身につける色だから。

 絶対に、一緒になりたくなかった。全て、違うものしたかった。

 思い出した。二つくくりを止めた理由を。


『可愛いな。倖と一緒だ』


 この一言があったからだ。彼にとってはなんでもない一言でも、私には止めだった。致命傷だった。


 どうして、そんなこと、言うの? ともくん。


 そう、言って、帰ったんだ。そして、次の日から絶対に二つにくくることはなかった。

「奈央?」

「ごめんね。伴。今日、慰めてあげれないや。どうしてかなぁ。調子悪いのかな」

 作り笑いが通じる相手だ。少なくとも、こいつは。だって、あの日から、こいつの前で本当の笑顔なんて見せてない。

 いつもいつも、眉を下げて笑ってた気がする。


『あんたといるとね、周りの視線が怖いのよ~』


『一緒のクラスだったっけ?』


『あー、ハイハイ。倖ちゃんね。代わってあげるから、一緒に回ってきたら?』


『倖ちゃんに恋人ができたら? 何? あんたそれで昨日寝てないの? できるでしょ? あんなに可愛いんだから』


 自分が、一番嫌いだった。絶対に振り向かないこいつよりも。

 あんないい子を、少しでも嫌だと、会話も避けたくなるくらい嫌だと思う自分が一番……。


『奈央さん。うちの兄、変な人ですけど、優しい人ですから!!』


『知ってるよ。安心して、倖ちゃん。責任もって、常人になるように指導するから』


『ホントですか?』


『もちろんよ。ちゃんと分かってるよ。倖ちゃんのことが大切なだけだって』


 知ってるよ。優しい、人だって。私にだって、優しくしてくれる。

 彼は、優しくて、残酷な人です。

 だけど、どうしても嫌いになれないのは、私が好きになってしまったから。誰が悪いわけでもない。私が、そんなことを思ったからいけないのだ。

「奈央。お前本当に、大丈夫か? 送る。家近いし」

「いいよ。近いっていっても、結構な遠回りになっちゃうし。早く帰んないと、かおるくんが倖ちゃん迎えにいってるかもよ?」

 これで、伴は帰る。

 そう知っている、そう確信しているのが嫌だけど、紛れもない事実なのだから仕方ない。こんな感傷に浸っている場合じゃない。

 早く、伴から離れないと、私はとんでもない過ちをしてしまういそうだ。

「送る」

「いいってば」

「奈央」

「伴、煩い!!」

 はっと気づいても、もう遅く。ざっくりと傷ついた顔をする伴がいた。

「ごめん。気分悪くて、気が立ってた」

 言い訳のように呟いて、扉を開ける。ひゅっと冷たい風が入ってきて、温かかった室内の温度が一気に下がる。

「ほんと、ごめん。ちょっと疲れてるだけだから。明日、ちゃんと話し聞いて、今日のことも、絶対謝るから」

 だからもう、私に惨めな思いはさせないでよ。声かけられるたびに、叶わないということを実感してしまうから。

「奈央。お前……」

「ごめん。伴。名前、呼ばないで」

 はっきりと、倖ちゃんの名前を呼ぶときと違うと分かってしまうから。そこにこめられたモノの差を、私は分かってしまうから。

 同じ声で、同じトーンで、でも明らかに違うと分かってしまう呼び声。


 私は、ついに過ちを犯してしまった。


「あんたは、絶対に、こっちを見ない奴よね?」

 確認するようなその口調を、止めようと思ったのに。あふれる涙も、止めようと思ったのに。

「奈……」

 そこで伴は止めた。名前を呼ぶなといったことを、思い出したらしかった。また、傷ついた顔をする。

 ごめんね。私が傷ついた分だけ、伴も傷ついて。誰にも責任がなくて、私だけが悪いんだとしても、どうしても、一人で傷つくのは嫌なの。

 意地悪で、どうしようもなく性格の悪い私を許して。

 ちゃんと、謝るから。何年かして、もうこの気持ちさえ思い出せなくなったら、ちゃんと訳を話すから。

 笑いながら、『馬鹿な恋をしたのよ』って言えるように、するから。

 それまで、それまでの何年かだけ、私が十年勝手に傷ついただけ、伴を傷つけるのを許して。

「知ってるの。伴が倖ちゃんを……倖ちゃんしか大切にしないこと」

「それは……」

「知ってるって、言ってるでしょ。家族間の愛情だって分かってる。分かってる分、痛いんだよ。『私が』辛いの」

 私の、勝手なの。


 傷つくのも、


 傷つけるのも、


 好きになるのも、


 諦めるのも。


「比べられたくなくて、おさげにしたの。眼鏡もして、大好きな色もなくした。彼女が続けてるピアノも止めた。

フランスも……嫌いになるかもしんない」

 彼女がこれから好きになるであろう、フランスを。かおるくんが育ったところを。

「前に、倖ちゃんに『優しいですね』って言われたとき、正直驚いたわ。だって、私優しくないもん」

 傷つけてるだけだもん。

「私が優しいのは、もしかしたら……いつかは伴がこっちを見てくれるかもしれない、って思ったからだよ。そのときの、伏線だよ」

 全部自分のための、優しさなんだよ。

「それに気が付かないなんて、伴はバカ。すっごいバカ」

 ゆっくりと髪を止めていたゴムを外す。きつく結んでいた髪は少し緩んだだけで、簡単には解けなかった。

 眼鏡を外すと、少し視界が開けた気がする。これで少しは、本当のことが見えるようになるのだろうか。

「もう、このみつあみも、眼鏡も、必要ないね」

 本当は、もっとかっこよく、言いたかったよ。泣いてる姿なんて、見せたくなかった。ボロボロになった姿なんて、晒したくなかった。

「本当に……バカなんだから」

 伴も――――私も。

 くるりと扉から出て行こうとするのを、阻もうとする手を逃れる。ただそれだけなのに、どうしてか、治まり始めていた涙があふれ返った。

「もう、泣かせないでね」

 これが、あんたの前で見せる、最初で最後の涙になればいい。そうしたら、強くなれる気がするから。

 視界がぼやけて、伴がどんな顔をしてるのか分からなかった。だけど、きっと寂しそうにしてるんだろう。

「ごめん」

 右手の手首を掴まれた。

 とっさに振り払おうとして、そして……振り払えなかった。振る手に力が入らずに、だらりと垂れ下がった。

 ここまで来て、私はまだ伴のことが好きなの?

 どうしても、私は伴から逃げられないの?

「いいよ……、もう。私が、全部悪いんだし」

「奈央!!」

 大きな声で、呼ばれた。その反動で、最後の涙が零れ落ちたのを見て、伴があわててごめんと謝る。

「お前の、悪いところを教えてやろうか?」

 少し膝をかがめて、伴が私と視線を合わせる。握られたままの手は、何も感じなかった。

「お前はなんか悪いことがあると、自分のせいにしたがりすぎだ。そんで、それを全部溜め込みすぎ、我慢しすぎ、無理しすぎ」

 見てて……ちょっと自分が情けなくなる。

 何にもできない自分が、情けない。

「そんなの、私の勝手でしょ? 悪かったわね! 無理しすぎで。

しょうがないでしょ。今回は明らかに私の一人相撲にあんたを巻き込んで、勝手に怒って泣いて、あんた傷つけて」

 最低だ。私は。

「私が悪くなきゃ、誰が悪いっていうのよ! 誰のせいにすればいいのよ!! 

私が、私があんたなんて好きにならなければよかったの!! 普通の、私を大事にしてくれる人を好きになればよかった。なのに」

 なのに、よりにもよって、好きになったのは絶対に望みのない奴。

「離してよ。伴。お願いだから、もう、はな、して」

 ふるふると体が震えだす。怒りと悲しさと、心の中にある、感じたことのある全ての感情が混ざり合う。

「もう、惨めすぎるから……、ちゃんと諦めるから。だから、はなして」

 もう、好きとか言わない。傷つけない。迷惑かけない。だから、はなして。もうこれ以上、私にかまわないで。


 痛い。


 い、たい。


 いたいいたいいたい。


 体のどこかが血を流す。だけど私はそこがどこだか知らないから、手当ての仕様がない。

 そして出血はひどくなる。私の手を、染めて、流れ出す。止めようと必死に体中を探すのに、痛みだけがひどくなって、血に涙が混ざる。

 助けてと呼ぶ声も、喉で潰える。助けてくれる人なんていないことに気が付いたから。

「奈央。ごめん。俺、バカだから、何にも考えなかった。

いつも笑って、優しくしてくれて、倖を大事にしてくれるから。そんなふうに考えてるとか、思わなかった」

 するりと、伴の手から私の手首が外れた。握られていたところが酷く寒く感じて、そっと左手で握る。

 『痛い』という言葉を口元を押さえた手で封じる。そうしないと、嗚咽とともにたくさんの言葉が出てしまいそうだったから。

「俺、なんかしでかしたあとで気づくんだよ。昨日も、倖を傷つ……ごめん」

 そのごめんは、多分、倖ちゃんの話題を出したからだろう。いいよ、とは言えなかった。逆に、もう言わないで、とも言う資格はなかった。

「でも、奈央。諦めるとか、言わないで欲しいんだけど」

「は?」

 大丈夫、奈央。

 変に心を動かしちゃ駄目。こいつはいつだって、期待はさせる奴だから。いつだって、あとで落ち込んだでしょ?

 だから期待しちゃ駄目。

「だから、今は別に、恋愛感情とか持ったことないからわかんないけど、今奈央が泣いてるのを見たら、何か倖が泣いてるのととはまた違う感じがしたから」

 それは私より倖ちゃんが大切なんでしょ。

「俺も、そろそろ倖から卒業しなきゃいけないと思うから」

 ちらりと横目でこちらを見てから、伴はこちらへと向き直った。

「よく、分かんないけど、奈央は他の奴とは違うって言うのは分かるから」




 彼は、優しくて、残酷で、やっぱり残酷なんです。どこまでも、私をおぼれさせて、逃げ出そうと思うと罠にはまるんです。


 一番、愚かなのは、泣いても、怒っても、諦めが付かない――――私なのかも、しれないけど。


「送ってくよ」

「いいよ」

「送って行きたいの」

「……お願いします」







「「「「あっ」」」」

 目の前から、見慣れない組み合わせが歩いてくる。

「かおるくん。倖ちゃん」

「あ、奈央さんだ」

 名前を呼べば、パタパタとこちらへ走ってくる。手をつないでいるかおるくんも強制的に早歩き。

「芳さん、加藤 奈央さん。お兄ちゃんの変人ぶりに付き合ってる人で、すっごく優しいの」

 この兄妹は本当に、どこまでも優しくて残酷だ。

「知ってる」

「昨日、今日会ってるもんね。幼稚園一緒だし」

 倖ちゃんに向けられるかおるくんの視線は優しげで、好きなんだぁ、って思うほどで。

「芳さんと奈央さんもお友達なんですか!」

 何で私覚えてないのーー!! と、倖ちゃんが叫ぶ。

 まぁ、私も倖ちゃんに会ったの小学生になってからだし。

 かおるくんは会ってないだろ。





「で、お前は奈央ちゃんに気持ちに気づいたんだ? そうやって帰ってるってことは」

「お前。幼稚園での癖抜けないのか? 高校にもなって『奈央ちゃん』とか」

「妬いてるわけ? 妹取られたし?」

「お前、わざとだろ」

 むっとして返せば、芳は笑う。

「ともかく、よかったよ。俺があっちフランスに行ってる間に進展してんのかと思ったのに」

「何で」

 聞き返すと芳はにやりと笑った。人のよさそうな、穏やかな顔が腹黒く思えてくるのは長年友人をやっている所以か。

「だって、お前。俺が『奈央ちゃん』と仲良く話してると機嫌悪くなってたし。知らなかったのか?」

 わざとらしく『奈央ちゃん』と呼んでいるのが非常に憎たらしい。

「まぁ、ゆっくり自分の気持ち確かめてみたら? 俺の『一目ぼれ』みたいに恋らしい恋に目覚めるかもよ」

「お前、人から妹を取っておいてよくも」

 返す言葉を捜していると、後ろから声が聞こえてくる。

「伴。かおるくん。

もう日が暮れるから帰ろう。私ここでもういいから」

「奈央、それじゃ約束が」

「いいよ。あんまり遅くなると、お母さんたちも心配するでしょ?」

 どこまでも、大人な彼女の台詞は聞きなれたものだった。

「お前のもう一つの悪い癖」

「へ?」

「遠慮しすぎ」

 昔から。彼女は遠慮するのが上手だった。遠慮してないように見せかけて、遠慮している。

 もうずっと、そうやって生きてきたのだろうか。

「俺と一緒にいるからには、遠慮してると振り回されるぞ」

「いいよ。ずっと振り回されてるから」

 それでも嫌いにならない私って、かなりしつこくない? 重いでしょ?

 そうやって笑う彼女の顔が可愛く見えたのは、夕日と言葉の所為にして。

「倖。先帰って母さんに彼女送ってるって伝えてくれる?」

「え? えぇ!!」

「分かったから、送ってあげたら?」

 驚いている倖に芳は平然と帰るように促している。

「送るよ」

「あんた、今取戻しが付かないこと言ったって気づいてる?」

 重いって言っても、離してやんないんだから。


 ふわりと笑って彼女は言った。みつあみにされていた髪に軽く癖がかかり、肩のところで浮いている。




 多分これが、恋の始まり。

 ヘタレな変態おにいちゃん、が好きです。そういう方が好きです。他のお話でもそういう雰囲気を持つ方がいらっしゃいますが、彼より重症な伴くん。


 実はモテモテなのは秘密です。その片鱗さえ見えませんが、結構なイケメンさん設定。

 勉強も運動も出来るんですが、なにぶん変態、なので……。


 友人から『変態』のレッテル貼られまくりの彼を実は愛してるなんて、言えないいつきです。

 奈央ちゃんが可愛ければいいかな。もう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ