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larme ~短編集~  作者: いつき
単品(1~2話)
5/50

長い夏

 甲子園が大好きです。あの男の子たちのきらきらした視線を見ると、何だか堪らなくなります。

 一つのボールへ向ける視線はひどく熱く、私たちの心を掴んで放しません。……という話を書きたかったんですけど、野球をしたことがないので書けませんでした。

 と、いうことで、エセ野球小説。

 学校へ帰るバスの中は、ひどく騒がしかった。

「優勝候補の高校だったから」

 とか、

「一点差でよかった」

 とか皆言ってるけど、本当は悔しくて仕方がないということが分かった。私だって、悔しいから。

 私はその笑い話にのることなく、のることができず、一人窓の外を見るふりをした。今そんな話をしてしまったら、知らず泣いてしまうのが目に見えていたから。

 バシンという鋭い、グローブとボールがぶつかる音と、カキンという、バットがボールを飛ばす音が全てだった。その中に混じる選手たちの声が、全てだった。


「勝ちたかった――なぁ」


 情けない声が自分のものだと認識するのに時間がかかり、はっとした。しっかり者と評判のマネージャーがこんなんじゃダメじゃない! と自分に言い聞かせる。

 そして窓の外を見ると、学校まで後少しということが分かった。

 よしっと両手を握り締め、気合を入れる。ぐっと目に力を込めた。まだ泣けない。家に帰るまで泣くことなんて忘れよう。

 一番辛いのは、最後の試合が負け試合になった先輩たちなんだから。いや、どんな学校だって、優勝校以外はそうなんだから。

 先輩たちは、自分たちが泣くと私たちも泣いてしまうことを知っているから泣かないのだ。だから、わざと明るく振舞っている。

 それが分かりすぎるくらい分かっているから、私が泣くなんてことできない。

「ハイ。もうすぐ学校ですからね。忘れ物、しないでくださいよ!!」

 パンパンと手をたたきながら言えば、涙の気配なんて遠のいていくのが分かった。それでいい。『おー』という威勢のいい声にさらに押され、バスを降りる。

 監督の『解散』の一言で皆は校門へと歩き出し、『疲れた』と言い合っていた。あ、負けたんだな。明日からもう、先輩たちは受験生なんだな、と実感した。瞬間、胸の奥が熱くなった。

「スコアブック片付けてきます」

 と宣言し、部室へと走る。

 部室の裏に回りこむと、涙が溢れた。その涙がとても熱くて、自分を包む空気より熱くて、泣いているという感覚が伝わった。自覚するとまた涙が出た。


 これに勝てば、ベストエイトだった。甲子園には遠かった。マネージャーでしかない私が、どうこうできる問題ではないにしろ、どうにかしたかった。

 一点差だった。本当に一点差。ツーアウト一塁だった。そして……ツーストライクツーボール。あと一球だったのに。あのボールさえ、ミットに入っていれば勝てたのに。


 私はあの時、勝ちを確信していたのに。下駄を履くまで分からない、そんな野球の醍醐味ともいえる『サヨナラ逆転勝ち』なんて考えもしていなかった。

 考えられるわけがなかった。

 カキーンという清々しい音とともに、白い点のようなボールは空へと飛んだ。


 高く、高く。


 遠く、遠く。


 一瞬ファールに見えたそれは、見事に観客席へと入った――ホームラン。

 湧き上がる歓声と、落胆の声。私は声も出ず、それを見ていた。

「……っ……」

 声が出ないように口を閉じる。それなのに、もれ出る嗚咽を止めることができなかった。涙が出ないようにふと目を閉じる。

 それなのに溢れる雫を止めることができなかった。

 幾度も幾度も涙を拭う。目が腫れると思うのに、腫れてしまったら明日の打ち上げに行けなくなるのに、そう思うのに……。思うのに……。

「止っ……まらない、よ」

 その声に答える声はないはずだった。

「泣き止んだか? マネージャー」

 ヒョコリと顔を出したのは未来の……いや明日からのエースだ。

 今日が先輩たちの引退試合になったから。私は涙を見られたという恥ずかしさと、いきなり顔を出した彼への驚きで固まった。涙腺も、固まった。

「な、何でいるの?」

 苦し紛れにそう問うと、彼は少し固そうな髪を掻き揚げた。うちの野球部は、髪型にこだわらないので自由だ。

「あー、先輩たちになぐさめろって命令された」

 気まずそうに視線をずらす。そして左肩に下げていたバックからスポーツタオルを取り出すと、それを私に投げた。

 青と白のラインが入ったそれは、フワンと私の手に落ちてくる。

「とりあえず涙拭けよ。みっともねぇぞ」

 遠慮なく言われたその言葉にうっと詰まり、大人しく従う。

 年頃の乙女が涙も拭かず、なんてさすがに嫌だ。あ、でもこのタオル、今日まだ使ってないよね? そんな視線を送るが、彼は『早く拭けよ』と言うだけだった。

 みっともない、ってなんだ。

 女の子に向かってみっともないって。そう言いたかったのに。

 でも心外だ。絶対にばれないと思ってたのに。先輩たちに、泣きそうなのがばれていたなんて。

 そう小さくこぼすと、『あの人たちと俺たちじゃ、少しでも確実に、生きてる年数が違うんだよ』と諭された。

「に、してもお前さぁ。明らかに泣きそうだったぞ、あれは。俺にも分かるくらい。

そんで、そんな泣きそうな顔して元気に振舞うもんだから、こっちが困る。正直」

 そんなこと言われても……。

「先輩たちが泣いていないのに、私が泣くって」

 ――なんかおこがましいって言うか、図々しいって言うか。

 モゴモゴとそう言い訳しているうちに、また涙が出そうになって下を向いた。今日の私はおかしい。いつもならこんなことで、涙なんて出るはずないのに。

 そんなことを考えると、上から声が降ってきた。

「お前、自分で思ってるほど強くねぇよ。多分」

 それと同時に後頭部に温かな重みがのった。気遣わしげに、そっとそっと彼の手が動く。

 暑いから、と長かったのに短く切り、今では肩にもかからない髪。そんな髪を慈しむように撫でられる。ぽろっと、涙が一筋だけ流れた。

 何が悲しくて、二回もこいつに泣き顔をさらさなきゃいけないのよ。

「私は、しっかり者なのよ。強いんじゃなくて、世話焼きで……、皆を落ち込ませないようにしなくちゃならなくて……」

 だから、私が泣くなんて、ありえないじゃん。泣いてなんかないわよ、そう言いたかった。こいつにも、先輩たちにも。自分にだって。

「先輩たちからの伝言……。

『俺たちの分まで泣いてこその、マネージャーだ』

だってさ。だからさっきのも、今のも全部先輩の分だからな」

 そう言われたら、しゃべれるまでには回復していた私の涙腺なんてあっけなくて。たちまちのうちに崩壊してしまった。

 そして、頭の上にある手がすごく優しいことに気が付いた。

「それだけ流せば、先輩たち泣かなくて済むよな?」

「……ん」

「それだけ泣けば、俺も……泣かないでいいよな?」

「うん」

 その問いかけに、一つずつ頷いた。

 泣き止んだか? その問いにも頷いて答えた。それを見ると彼は『よし』と言って、私の頭から手を離す。そして、自分のバッグを出して、それを差し出した。

 思わず、わけも分からず、それを受け取った。

「お前にミットで取れって、無茶だよなぁ」

 その発言は『ハァ』という、溜め息つきだ。何だ、その溜め息は。何なんだ。そしてボールを一個取り出して、私から20m程離れる。

「マネージャー。お前、絶対グローブ動かすなよ」

 何を言い出すんだこいつは。

 ――動かしてケガしても知んねぇーぞ。彼はそういった後振りかぶった。

「えっ……ちょっ「新エースの初、投球!!」

 思いっきりと言うわけでもないだろうボールは、それでもすごい速さで私のところに飛んできた。そして軽く両手で構えていたグローブの中に納まる。

 バシン、といい音が響いた。でも、私の耳にはそんなもの届いていなかった。両手に痺れが走った。ビリビリと両手が振るえ、腕さえも震える。

 しばらくこの腕の痺れは取れそうにない。

「怖……」

 口から出た感想に、彼は『やっぱりキャッチャーじゃなきゃ本気で投げれないな』と一人ごちた。

「まさか。本気で、投げようとしたの?」

 いくら強がりの私でも、さすがに、それは怖いぞ。いつの間にか悔し涙は消えていて、悔しさが消えたわけではないにしろ少しだけ緩和された気がした。

「ん~。それはない、さすがに。先輩たちに殺される。女の子に何するんだっ!! て」

 先輩たちは、中々過保護だった。

 野球部ただ一人の、マネージャーだから。だって、今時休み返上してまで部活に出ようなんて女の子中々いないから。

「あー、ケガしなくてよかった。顔に傷とか、お嫁さんにいけない」

「あ、その顔でいける自信あるんだ」

 頬を押さえてわざとらしく言うと、すぐさま言い返してきて頭にくる。冗談で言っただけじゃないか、しかもお前にそんなこと言われる筋合いはない。

「本当にケガしたらどうするつもりよ!!」

 きっ、と彼に向かって言うと彼は頬を二回、三回かいた後、はにかむように笑った。うわ、こんな顔するんだ。なんて言えないけれど。

 そして彼は、信じられない言葉を吐く。

「そん時は、責任とってやるよ。あー。でも俺、野球選手になるつもりはないんだよなぁ。残念ながら」

 いや、だって万が一慣れたとしても、いつクビにされるかわかんないんだぜ? いやだろ、そんなの。それに何だかんだで、遠征とか、キャンプとか大変だしなぁ。

 そんなこと、今、関係あるのか……。

「な……」

 思わず返す言葉を捜した。

 探してしまう、自分に恥ずかしさを感じ、さらに顔に血が集まる。こんな顔を、奴に晒す日がこようとは思わなかった。

「堅実な公務員の奥さんって、駄目? マネージャーさん。それとも、野球選手の奥さんじゃなきゃ駄目か?」



 しばらくこの腕の痺れは取れそうにない。

 そう、多分……。来年は長いであろう夏が終わるまでは絶対に取れないだろう。あと、この頬の赤みも。

 私がどう思ってるかなんて、実は嬉しかったなんてこと、言うつもりもない。


 で、続きがあるんですよ。また載せますが。

 こういう、スポーツマンの男の子が書きたかったんです。髪が短めで、固めな感じ。少し目は鋭くて、でも笑うと子供みたいな人。

 日に焼けてて、健康そうで少年らしい少し細身な体。


 ……変態そうですか。まぁ、好きだからしょうがないよ!!


 細身なのに、運動とかさらっとこなし、ついでに自分が持ち上げれないものをさらっと持ち上げてくれるような男の子にきゅんとします。

 きゅんとするんですが、友人曰く『それ、恋じゃないから』らしいです。

 私のキュン、は猫とかに対するキュンに近いらしい。『かわいーー』とか言ってたら、そうかもしれない。

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