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larme ~短編集~  作者: いつき
幼馴染愛好家シリーズ
31/50

優しい嘘

 幼馴染愛好家シリーズ。年の差幼馴染カップル。その一は普通に過去編を交えつつな感じです。書くたびにヒーローが怪しくなってくる。

「ねぇ、はじめお兄ちゃん。今日、沙夜のお家にサンタさん来る?」

 クルンとした、丸い瞳がこちらを向いた。

 今年小学校に上がったばかりの少女―上野 沙夜さよ―は彼女が生まれたときから一緒の幼馴染。お気に入りの真っ白なテディベアを抱いて、こちらへとトテトテ歩いてきた。

 風呂から上がったばかりで上気した顔と、少し濡れた髪をみて、やれやれと思いながら四歳年下の少女のほうへと行った。

 肩まで伸ばしている髪が淡いピンク色のパジャマをぬらしている。

 このパジャマは、そういえば彼女のお気に入りのものの一つだった。

「沙夜。髪が濡れたままで、こっちに来ちゃだめだって言ったろ? 風邪引いたら俺が美雪さんに怒られるんだけど」

 そう言いながら、首にかけていたタオルを引っ張り、沙夜の髪に当てる。こちらも風呂上りで、母さんに言われて慌てて着替えてきたのだ。

「だって、お母さんがいい子にしてないとサンタさんこないって……」

 テディベアを抱く手がぎゅっと強くなるのを見て、内心やれやれともう一度首を振った。

 美雪さんも意地が悪い。何も当日に言わなくてもいいだろう。もちろん俺はもう、信じる年齢でもなかったので、チラリと母親を見る。

 母親は難しい顔をして、こちらを見ていた。

「で、今日は何をしたから怒られたんだ?」

 沙夜の身長にあわせて屈み、髪を拭きつつ聞いてやる。

 最近自我が芽生えたらしく、反抗期なんだそうだ。美雪さんが嘆いていた。『私も徹平も反抗期らしい反抗期がなかったから、うちの両親たちもお手上げなのよ』と苦笑いで語っていた。

「あのね。はじめお兄ちゃんのとこで寝るって」

 しゅん、と萎むということは、自分がわがままを言っているということを分かっている証拠だ。自分にも少し見覚えがあり、少し苦い顔をした。

 でもそれで美雪さんが怒った理由が少し分かった。俺はあの家であまり歓迎されない。

 あそこの夫婦は代々幼馴染らしくて、美雪さんのご両親も確か幼馴染だった。美雪さんはその呪いとも運命とも取れるソレから沙夜を引き剥がしたいらしく、幼馴染は作らないようにしようと思っていたらしい。

 なのに子供を生んでみると、四歳差とはいえ、幼馴染ができた。……怒り狂っていた美雪さんは小さかった俺から見ても大迫力だったのを今も覚えている。

「あ~、ほら、今日はクリスマスイブだろう? そんなときぐらい一緒に寝たいんだよ」

 フォローのつもりで言ってみるも、最近わがままばかりの沙夜は怒られる度に俺のところへ来て俺のベッドで泣きつかれて眠るのだ。

 当然、今日もそうなりそうな気がする。ちなみに徹平おじさんは沙夜が俺のところに来るのは少しだけ反対らしい。

 『この年で、娘を嫁に出した父親の心境なんてごめんだよ』と笑っていた。

 まぁ、それはそれとして、夜に二人っきりで過ごせることについては『嬉しいけどね。甘えられるから』と笑っている。

 俺が年齢の割りにませていると言われるのは、この所為だと思うんだが、誰もそれに同意してくれない。

「美雪さんや徹平おじさんが寂しいだろう?」

 諭すような言葉にも、沙夜はかたくなに首を横に振った。

「沙夜ははじめお兄ちゃんと結婚するからいいの」

 この子には俺を喜ばせる素質があると思う。

 たかだか四歳年下の女の子に落とされるのは、男としてどうかと思うけど、そんなことが関係なくなるくらいには嬉しかった。

 たとえ、何年か経ってそのことを忘れてしまったとしても。

「あらあら、沙夜ちゃんは一を誘惑するのが上手ねぇ。サンタさんも一にはいらないかしら?」

 母がこちらをみてにやりと笑う。

 まるで、『これでうちの子は独身のまま一生を過ごすことはないわね』と確信しているかのようだった。

「母さん!!」 

 言葉の意味が分からない沙夜だからよかったものの……と思う反面、もう少し大人になってくれたらなぁ、と思う。まぁ、俺だってまだ小学生だけど。

「サンタさん、こない?」

 泣きそうになったので、慌てて抱き上げた。小さい彼女は本当に軽い。こつん、と額同士をつけ、沙夜に視線を合わせる。

「沙夜。サンタさんは来るよ」




「一さん? はーじーめーさん?」

 トントントン、と階段を上っていく。

 今日はクリスマスなんだから、好きな人に会いたくなるのは必須だと思うんだけど、どうも四歳年上のお兄さんはそうではないらしい。

 まぁ、完全な片思いなんだけど……。もうずっと、この生まれてこの方、十六年間ずっと、片思い中なんだけど。

「一さん? 入るよ?」

 もう何年も繰り返されてきた動作だ。

 始めのうちはノックさえしなかったんだけど、何年か前に着替え中に入ってしまったことがあって以来、きちんとノックするようになった。

 返事がないので入ろうか入るまいか迷ったけれど、いることは確かなので部屋へと滑り込む。音楽でも聴いてるんだろう。

 それでそのまま論文でも書いてる。それが最近のパターンなんだから。

「あ、やっぱ……アレ、ヘッドフォンしてない」

 机に向かっている一さんの耳には、ヘッドフォンがされていない。かといって、イヤフォンというわけでもないし……。

「寝てる……?」

 細心の注意を払い、足元に乱雑に積んである本をよけ、机へと到達する。

 わけの分からない本に囲まれて、一さんは組んだ腕の上へ顔をおき、寝ていた。顔のいい人は寝顔見られても気にしないはず。私なんて、寝顔なんか見られた日には憤死する。

「一さんが相手してくれないから、私は帰りますよ?」

 一瞬、本当に一瞬だけ、唇でも奪ってやろうかと考えたけれど、『実は起きてました』なんて少女漫画的な展開はイヤなので止めておいた。

 プレゼントだけおいて帰ろうと思い、もっていた箱を邪魔にならないように机の上に配置した。

 そしてまたそっと本に気をつけて足を踏み出そうとした。

「沙夜」

 びくりと心臓がはねた。

 寝た振りしていたの?! そう聞き返そうと振り向いても、一さんは寝たままだった。そのまま一さんはまた言葉を紡ぐ。

「サンタさん……ちゃんとくるから」

 いつだったか、何年か前に言われた言葉だ。

 わがままばかり言っていた私に、母がサンタさんは来ない、と言った。それを聞いて、哀しくなって、すぐに一さんのところへ来たときに言われたのだ。

 それで、安心した。きっと、一さんが言うなら絶対なんだろうって、無条件に信じきっていた。

「サンタさん、いるの?」

 そして、その後、聞いたのだ。

 意地悪な男の子が、私に『サンタさんはいないんだ』と言ったから。それを話すと一さんはほんの少しだけ眉をひそめて。

「いるんだよ」

 沙夜は、どっちの言葉を信じるんだ。俺と、同級生と。

「また、嘘ついてる」

 そして、月日が経ち、私もサンタクロースを信じる年ではなくなったとき、一さんを嘘つきと呼んだ。

『一さんの嘘つき! もう信じないんだから』

 一さんの優しさを理解するほど大人ではなかったけれど、こども扱いされたのがひどく気に障ったのだ。


 でも、確かに私は。


「一さんのたくさんの嘘に元気付けられているんだよね」 

 それがほんの少し、分かり始めたとき、謝るには遅すぎる。

「ありがとう……一さん」

 優しい嘘を、また私にくれますか? 嘘でも、私はきっと。

「嘘でも、私、多分喜ぶんですよ?」

 本当の言葉が欲しいとは、さすがに言えないから。




 バタン、と扉が閉まったと同時に顔を上げた。

「俺、今絶対人に会えない」

 独り言のように呟くと、赤くなっているであろう顔に手を当てる。

「自分の言葉の力を知らないって……タチ悪いな」

 クリスマスの力を借りて、告げてしまおうかとも思っていた言葉を呑み込んだ。

「空気に流されるのは、イヤだろ」

 にやり、と笑う。欲しいのなら、いつだって、手に入れるまでだ。

「美雪さんに、殺されるかも。俺」



 正直じゃない男の子が、素直じゃない女の子を手に入れるまであと何ヶ月?

 ヒロイン→←←←←←←ヒーローですので、甘々好きな人はよいかも……しれないです。はい。珍しく、甘い感じを目指してますよ。

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