ルームシェア、チョコレートを渡します
去年のバレンタインデーにあげた短いお話。
直接関係ないのですが、今年のお話を読むにあたってあった方が分かりやすいかな、と思ってあげました。
「で? 市販?」
「……市販」
「市販ねぇ」
くるくると手の中にある可愛らしいラッピングの施された箱を見つめながら、隆介は少しだけ不機嫌そうな顔をする。
「だめ、だった?」
不安そうに隆介を見つめて、手の中でもてあそばれているチョコレートに視線をやった。
高いものではないけれど、それでも一応悩んだ挙句に買ってきたものだ。
「いや、ダメっていう資格はおれにはないだろ。もらったんだし」
「でも隆介、嬉しそうじゃない」
都がそう言って上目遣いで隆介を見つめる。一方の隆介はもてあそんでいたチョコレートをテーブルに置き、それからじっと都を見つめた。
「いや、手作りすると思ってたから」
「うっ」
「失敗したのか?」
何でもないように言ってから、隆介はちらりと台所を見る。一見きれいに片付いているように見えるが、その実甘い匂いがその辺に立ち込めている。
一体どうしてこれで隠しきれると思ったのか、と目の前で視線をそらしている従妹を見つめた。
「都?」
「……だって。隆介の方が絶対おいしいの作るし、わざわざ下手な人間から手作りチョコもらおうとか思わないでしょ」
言い訳がましく言うと、隆介はくすりと笑ってもらったチョコレートを都に投げ返した。
「それ、いらない」
「なっ」
「いいから、その代りお前の言う『下手』なチョコレートよこせ」
いらない、と言われたチョコレートを握りしめて怒ろうと口を開いた矢先に言われたセリフに、都は目を見開いた。
それから首を振ってそれを拒絶する。
「い、いやっ」
「頑固者」
「い、嫌なものは嫌だもんっ! 隆介絶対バカにするし!」
「しねえよ」
少し苛立った声が聞こえて、都はほんの少しだけ肩をそびやかした。
「何でっ、そんなに手作りほしがるの? 隆介色んな人からもらえるでしょ」
……いつものお礼が言いたくて、買ったのに。
「それ、お前からのチョコと関係ないじゃん?」
「え?」
「お前からのチョコは、お前からのチョコだろ。誰にもらってもそれが変わるわけないじゃん」
まぁ、お前の隠す場所なんて見当ついてるけどなぁー。
そう言って隆介が立ち上がり、台所へ向かう。それを食い止めようと腕を引っ張るが、そんなもので止まるはずもない。
「隆介ぇーー」
「無駄な抵抗」
隆介がそう言いながら、台所の扉を開いた。腕を掴むだけでは止められないと分かった都はついに背中に抱きついて引き留めようとしていた。
「あ、なんだ、まとも」
ひょいっと袋を取り出して開けてみた隆介が無断で口に運べば、後ろの方から『あーーー』と声がする。
「何が不満なわけ? 美味しいけど」
「……私より上手い人に言われても嬉しくない」
ふと拗ねたように顔をそむけた都を見つめて、そっと隆介は笑った。
「お前から貰わなきゃ意味ないのになぁ」
その言葉はいつも通り、都には届かなかったけれど。




