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魔女と竜狩り  作者: 合併
第3節 魔女の騎士団
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第3節 12

 ようやく、目当ての話が聞ける、とヴァンも覚悟をした上で、ケイが喋りだすのを待つ。

 彼女はグラスを傾け、喉を潤してから話し出す。

「彼女の名前はクリム。歳は25で、傭兵登録をしたのは15の時。魔女ではあるけど、隠し続けてたみたいで、彼女自身が魔女と認められたのはここ1年のことだ。

 本人自身、かなり慎ましく生きていたみたいで、仕事として受けるのも、基本的に単独行動か、パーティーの補充として雇われた仕事くらい。選り好みこそしないけど、派手な仕事はほとんどしていない。だからこそ、ほとんど話題にならなかったのもあるんだろうけどね。

 ただ、魔女と知られるようになってからは、それなりにパーティーのお誘いが来てるみたいだよ?」

「それで、今回の件であの娘を助けに行くと言ったのは?」

 引く手数多の魔女であれば、恩を売るためにそれなりに手を挙げる傭兵がいてもおかしくない。そういった輩を見た覚えがないので、ヴァンが興味本位で聞くも、ケイは渋い顔をした。

「…いや、誰も、いなかったよ」

「だろうな。まあ、金で動く傭兵たちには最初から期待していなかったが」

 魔女の騎士団(オルタレイト)からして見たらあり得ないことだが、個人の都合が尊重される風潮にある傭兵組合では当然の結果に、ヴァンは呆れた風に鼻を鳴らす。

 ヴァンもそこまで話してから関係ない話だったので、咳払いをしてから続きを促す。

「こほん、関係のない話だったな。続けてくれ」

「まぁ、そこについてはボクも知ったことじゃないからね。

 続きになるけど、ヴァン達が来る少し前にあの子は攫われてたみたいだけど、まだ生きてたってことは何かしら情報か、交渉材料になるものを持ってたんだろうね。何か、心当たりはある?」

「…確かに、不自然なほど魔法道具はあったな。ただ、あいつも協力的なように扱われていなかったあたり、魔法道具を作らされていただけなのだろう」

 そう言われると、今回の野盗は規模に比べて魔法道具が充実していたことを思い出し、彼女が協力して作らされていたのであれば、合点がいく。それを聞いた上で、ケイはそう、と続けた。

「まぁ、詳細については本人に聞いてくれ。ボクのも、あくまで憶測だからね」

「そうする。他に、情報はあるか?」

 名前と、傭兵組合での働き、魔女としてのざっとした経歴を確認し、最低限欲しい情報は手に入った。その上で、追加の情報を確認するも、彼女はにやりと笑った。…嫌な予感がする。

「君が欲しい大まかな情報は渡したよ。一旦、君の番じゃないのかな?」

「……最低限しか話していないだろう?」

 苦し紛れの交渉をしてみるが、彼女が折れることはない。

「そうだね。それなら、納得する情報を対価に続きを話そうじゃないか」

 当然と言えば当然の返しをされ、ヴァンもしばらく彼女の目を見ていたが、赤と黄色の目はブレることはない。ヴァンもこれ以上の交渉は無駄と判断し、諦めたように話し出す。

「分かったよ。俺もちゃんと話してやる。

 これからの話は、俺だけじゃない。それまで積み重ねてきた情報も含まれてるから、不用意に外には流さないでくれよ。

 転々としている黒竜だが、長期間の休眠を繰り返している可能性がある。何度か、黒竜の発見された跡地の調査をしているが、その近辺、山の山腹や、人里離れた禁域に指定されている場所―滅多に人に入りこまない場所で、長期間、巨大な生き物が暮らしていた形跡がいくつも見つかっている。そして、目撃情報も黒竜の痕跡が見つかった時点で増えているが、1年程度経過した時点で、パタリと止む」

 一定の住処を持たないと言うことでも他の竜と比べても異常として言われているが、長時間の休眠ということも、他の竜にはない特徴でもある。あらゆる面で他の竜の生態から逸脱しているからこそ、研究はされているものの、その足取りを追えないというのもある。

「―そして、直近でも、一年ほど前に北に飛んでいく姿が見られている。奴の行動パターンから、今も北方方面に潜伏している可能性が高い」

 ヴァンはそこまで話し、口を閉ざす。

「…俺から話せるのは、このくらいだ」

 竜を探し続けて早十年以上が経過した。それでも、特定の竜、しかも定期的に移動する個体であれば、見つけるのは困難。情報も滅多に集まらない中、持っている少ない情報を隠さずに話した。

 それを聞いて、彼女はしばらく溜めたあと、そう、と短く答えた。

「割と手詰まりなんだね、君」

 はっきりと感想を述べると、彼は珍しく渋い顔をした。

「…まぁ、否定はしない。俺も魔女協会に所属する身だからな。はっきり言って、竜に関わろうとするなら、傭兵組合のほうが情報が集まってきそうなものだが」

「それはどうだろうね。傭兵連中って、血の気も多いしさ」

 愚痴を漏らすも、ケイに正論を叩きつけられ、彼女は大きく伸びをする。

「それなら、お姉さんも少し手伝ってあげようかな。情報料をダシに君から色々話も聞けそうだし」

「…それは助かるが、程々で頼むよ?」

 ヴァンも冗談を交えつつ答えると、彼女はそうだねぇ、と適当に流す。

「でも、情報で利益を出さないとさ。いくら、国の許可をとって今の仕事をしていてもさ、竜が相手となれば話は別だ。

 君も知ってる通り、市場へ竜の素材を流すのは基本的に違法だし、討伐したとしても、遺体の回収とか、その辺の全ては国に移譲される」

 彼女が言う通り、竜というのは特別な生き物として扱われている。それがもたらす被害もそうだが、それを討伐できた時の恩恵も桁違い。それ故に、竜狩り、色付きの竜狩りという存在を国が重用して囲う理由でもある。そして、この国は個人が竜のもたらす利益を独占できないように、法的にその権利を制限しているのだ。

 これには竜狩りだけに竜の狩猟を出来るようにすることと、不用意に竜を刺激しないようにする、という理由があるが、この法律が個人における竜の研究や調査を阻んでいるのも事実。

 これにはヴァンのような竜狩りだけではなく、多くの学者も苦言を呈しているが、竜をよく知るからこそ、竜のもたらす被害も知っているため、大きな運動にまでは至っていない。この法律に、彼らもまた守られているのだから。

「―ま、ボクのできることは限られてるけどさ。有益な情報があれば、また教えるよ」

 不満はあるものの、ここで愚痴ったところで何も変わらない。それを理解している故か、彼女は余計なことは言わずに話を締めた。

「それに、君の情報量なら、こっちの情報も十分に釣り合っているだろう?」

 お互いに知りたい情報は知ることができた。それだけでも十分な収穫であり、ヴァンも渋ることなく頷いた。

「―そうだな。これで終わりなら、遅くなる前に帰りたいんだが、どうやって出るんだ、ここ」

 情報交換もこれでお開きとして、帰ろうと改めて周囲を見たが、扉のようなものは何処にもない。その姿を見て、彼女は悪戯っぽく笑った。

「あぁ、それなら任せてよ」

 それだけ言って、彼女が指を鳴らすと―再び世界が闇に包まれる。

 再び闇に包まれた後、しばらく待っていると、すぐに魔女協会の前に移動したところで、彼は解放された。

「お待たせ。忘れ物はないかな?」

「多分な。 

 ―それと折角の機会だから、答えない前提で聞いてもいいか?」

 彼の隣に立ったまま、首飾りを服の下に閉まっていたケイに向け、ヴァンは彼女の方を向かずに、返事をする前に聞いた。

「お前のその魔法、本当に魔法か?」

 ヴァンも魔女協会にはそれなりに長くいる。多くの魔女を見てきたが、彼女のような魔法を扱える魔女を見たことがない。それに、常に首飾りを経由して起動しているところを見るに、彼女本人の力であるとは限らない。それについても、魔女の指輪を扱うからこそ、そこまで都合のいいものではないというのはよく知っている。

 きっと彼女は適当にはぐらかすのだろう。そう思ってダメ元で聞いてみたが、予想に反して彼女は口を開いた。

「魔法かどうかって聞かれたら、これはちゃんとした魔法だよ。ただ、君には知らない魔法ってのが、この世界にはある。

 ボクは、君の知らない使い方を知ってるだけさ」

「それは…?」

 予想外の返答に、ケイの方向を向くも、彼女は背中を向けていた。

「それは、話せない。少し前にも言ったでしょ? ボクは、秘密主義なのさ。

 じゃあね、ヴァン。今日は楽しいおしゃべりだったよ」

 少しだけ楽しそうに笑いつつ、彼女はそのまま闇夜に消えていった。

「…下手に口を滑らせてはくれないか」

 ヴァンはケイが消えるまで見送ってから、魔女協会へと戻っていった。



 魔女協会の本部も、日付が変わるくらいになると流石に人の出入りも減ってくる。人気の少ないエントランスから入り、警護をしているオルタに軽く会釈をしつつ、部屋に戻ろうとしたところで、呆けた表情でエントランス脇のベンチに座っているルナを見つけた。

「ルナ?」

 ヴァンが声をかけると、彼は緩慢な動作でこちらを見て、数秒考えてから口を開いた。

「……ん? ヴァン兄か。どうしたの、こんな夜に」

「それはこっちの台詞だ。こんな夜更けまでどうした」

 もう日も変わる。そんな時間まで起きていたことを指摘すると、ルナは薄い反応を返した。

「……そうなんだ」

「……はぁ、」

 それを見て、ヴァンも少し考えたが、ため息混じりにルナの隣に座った。

「眠れないのか」

「そんなとこ」

 今日1日で、それなりの出来事はあった。思春期の少年がそれに影響を受けるのも、当然と言えば当然だろう。

「明日に響く。早めに寝たほうがいいぞ」

 正論をぶつけるも、彼はそうなんだけどね、と疲れた顔で答える。

「なんか、1人だと落ち着かなくてさ」

「そうか。気晴らしに外でも歩くか?」

「そんな気分でもないんだよね」

 差し障りのない提案もするも、拒否されてしまう。正直なところ、ヴァンもそろそろ寝たい時間ではあるので、少し面倒になったのも含め、ルナの体を抱き上げてやる。

「ヴァン兄、何すんだよ」

 抵抗はあるものの、それをするだけの体力はないのか、彼は口だけの反抗をする。ただ、面倒になっているヴァンの耳には、右から左へと突き抜けていくだけだが。

「寝かせてやるから大人しくしてろ」

 それだけ言って、ヴァンはずんずんと進んでいき―知り合いの魔女、ルナの魔道具の指導を行った教官―"睡眠"の魔法の知識もある彼女の部屋に突っ込んで、すぐに帰ることにした。

 何か、部屋から出ていく際に恨み言のようなものが聞こえた気がするが、当然のように無視をして、寝に帰ることにした。

 ―しかし、ここは魔女協会。多くの魔女が在籍しており―ヴァンの部屋の前にも、1人の魔女が既に待機していた。

「あの、ヴァンさん…添い寝をしても、いいですか…?」

 不安そうな目で彼女はこちらを見てきて、それを断る理由は魔女の騎士団(オルタレイト)でもある彼にはない。

 ため息を吐きたい彼の本心は飲み込んで、扉の鍵を空けた。

「今晩くらいなら構わないぞ。上がってくれ」

 嫌にはなるが、いつものことだ。疲れた身体にムチを打ちつつ、彼は魔女の"理想の王子様"の仮面を着けることにした。

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