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魔女と竜狩り  作者: 合併
第3節 魔女の騎士団
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第3節 9

 その後、料理が焦げることはなく、綺麗な状態で、山盛りの揚げ物とサラダのセットが運ばれてきた。

「…いつ見ても、これを頼む奴はすごいと思うよ。俺は絶対食いきれん」

「まぁ、君は昔からそんな食べなかったしね」

 他に客もいないので、当たり前のように相席してしているレルベアへのツッコミはもう誰もせず、そのまま話は続く。

「食べなかったと言うより、食べる量は減らしていた。師匠からも、竜狩りの装備を使うなら、体重はできるだけ減らすように言われてたんだよ」

 身体が重ければ、瞬発力は上がるものの、当然空を移動するために必要な魔力量も増える。それを見越して、彼は昔から食事量を抑えて、体重の増加を抑えていた。その反面、身長は誰よりも高くなってしまい、そのツッコミは聞き飽きたと言いたそうに不満そうに鼻を鳴らす。

「筋肉もある程度維持する必要があったから、これ以上は絞る気はないがな。その代わり、俺は装備を軽くしてるんだよ。

 そのせいで、巷では、金の竜狩りは戦場を舐めてるとかよく言われるがな」

 普段、兜以外の装備を着けないくせに、今回しっかりと装備していた事について遠回しに説明してから、レルベアを見る。

「というか、俺等のガキの頃の話とか、今更話すようなものか? 昔は昔だろ」

 先ほど途中で止めた話について蒸し返すのかどうか、一応確認してみるも、彼は楽しそうに笑った。

「憧れの先輩の失敗談とか聞いたほうが、彼にも励みになるんじゃないかな? ほら、君も割と失敗とかしてきたじゃないか」

「俺の失敗と、他所の失敗は別モンだろうが。

 俺の話なんか、ガキの頃の俺を怒らせて半殺しにされたバカどもの話以外あったか?」

「あぁ、そんなこともあったねぇ。君がこっち来て、一週間で都市に名前が知れ渡ったって聞いて、笑ったなぁ。悪名に勝る評判はないんだなってさ」

 何があったのか、ルナは少し興味が出ていたが、ヴァンの態度から触れ方を間違えると少し怒られそうなので黙って食事に集中していた。

「…そんな興味のありそうな顔されても、大したことじゃないぞ。ただ、舐めた態度とってきたバカどもを、文字通り半殺しにして故郷に送り返してやっただけだ」

「噂でしか聞いてなかったんだけど、5人相手に1人で圧勝したって本当? 相手だってそれなりに名前の知れた相手じゃなかったの?」

 ヴァンの要約に、レルベアが首を突っ込んできて、それで終わりにしようとしていた話の腰を折ってくる。不満そうにしているものの、今更な話でもあるので、素直に話してやった。

「"呪い"をつかった状態だったからな。高々人間を5人相手にしたところで負けるわけない」

「君の呪いも相変わらずだったんだねぇ。最近はどうなのさ?」

 同郷ということで、ヴァンの呪いについては、彼も何度も目の前で見ていたのだろう。特に驚くこともなく話を続けつつ現状を確認すると、ヴァンは少し暗い顔で答えた。

「恐らく徐々にだが、進行はしている。今は感情を抑えるためにいろいろ手段を取っているからな。簡単には発動することはなくなったはずなんだが、まだ何かのきっかけで起こしそうになる」

「…そっか。君も、まだ苦労してるんだね」

 お互い、長く知っているためか、先ほどまで明るかったレルベアも流石にテンションが下がるが、すぐに普段通りに戻る。

「ま! しんみりした話はなしとしようか!

 改めて、少年! まだ名前を聞いてなかったから、名前を教えてもらえるかな?」

「…あ、俺はルナ。ルナトリアって言います」

「ルナ君だね! 覚えるよ! 何度も言ってるからもう覚えてそうだけど、俺はレルベア。覚えて帰ってくれ!」

「隣でうるせぇんだよ聞こえてるだろ」

 流石に隣で延々大音量で騒がれることにヴァンの忍耐が折れたのか、とても迷惑そうに食事を進めている。

「まぁ、このくらい明るくやってかないと、君はすーぐ暗くなるだろう? 折角、君が同郷の後輩を連れてきてくれたんだよ? それじゃあつまらないじゃないか」

 感情を普段から抑えているため、どちらかというとダウナー気質になってしまうヴァンに向け、レルベアは容赦なく指摘すると、流石に彼も困った顔をする。

「悪いけどな、最近、プラス方向の感情でも呪いが起動したからな。嫌でもこうしてた方が安全なんだよ」

 先日、周囲の熱気と歓声に反応して呪いが暴走した事を告げる。そのパターンはレルベアも知らなかったため、かなり驚いた様子でヴァンを見た。

「……呪いが進行しているって、そういう方向で、かい? 本当に厄介だね」

「厄介なのは、今更だ」

 パンを千切りながら諦めたように言い、レルベアは少し考えて、思い立ったように立ち上がる。

「よし、じゃあお兄さんが少しサービスしてやるか!」

「お兄さんとか、そんな歳でもないだろ」

 冷ややかなツッコミをするも、レルベアは聞いていない。また厨房に戻っていったのを見て、ヴァンは話を変える。

「まぁ、俺の昔話はほどほどでいいだろう。

 こんな所まで仕事の話なのは申し訳ないが、お前は魔女のどこまで聞いている?」

「…飯の場でする話?」

 場違いにも程のある話に、ルナも少し困惑しながら聞くも、彼は真面目に続ける。

「報告書を書く前の情報のすり合わせだ。

 まぁ、質問を変えようか。魔女の力の継承方法、2つともお前は知ってるか?」

「継承…?」

 聞き慣れない単語を聞いて、ルナは首を傾げると、ヴァンはそうか、とだけ言って説明を始めた。

「魔女というのは、かなり特殊な人種でな。ある年齢―魔女の力が目覚めるまでは、普通に成長する。それ以降は、魔女の力を失うまで、肉体の成長が停止していると錯覚するほど遅くなる。この辺は、割と知っているやつが多い雑学だ。

 そして、その先の話は知ってるやつも少ないんだが、魔女が"魔女の力"を失うことがある。その条件は、大まかに2つあると言われている」

 彼の言う通り、魔女というのはほとんど年を取らない。そのため、魔女協会に属する魔女というのは、皆が皆、少女の姿―魔女の力に目覚めた時とほとんど変わらない姿をしている。実際に魔女になって間もない少女もいるが、所属する魔女のほとんどが、20歳以上と言われている。

 そして、真っ当に時が進み始めるのは、魔女でなくなってから。食堂にいる、"おかん"と呼ばれる元魔女の女性もそうだが、彼女も魔女でなくなった故に普通の人間に戻った1人だ。

「よく知られている、有名な継承方法は、その魔女が、"次世代の魔女"を産み落とすことだ。魔女協会は、基本的にそちらの継承方法を勧めているし、男女間の恋愛については特に禁止もしないし、積極的な関与をしない方針だ。―ただし、俺を除いてな。

 俺への恋愛については、協会側から禁止している。あくまで、共有物として俺は協会に保有されてるってわけだ」

 ヴァン自身、女を侍らしていることは多いとよく言われているが、特定個人と付き合っている噂はあまりされない。強いて言うなら、ウルリッヒだろうが、あれはあれで仕事の付き合いであるし、本人は常に偽装彼氏と公言しているので関係はない。

 一応そこまで言ったものの、それ以上自分のことについては話すつもりがないのか、そのまま続ける。

「まぁ、俺のことは気になったらあとで教えてやる。―それはともかく、だ。一応、魔女協会的には機密事項になるし、協会内でも不用意に話してはいけないとされている。

 もう1つの魔女の継承方法―単純ではあるが、魔女を殺すことだ」

 彼は静かに、そう告げた。

「ただ、殺すだけでは意味がない。

 魔女の力は、死んだ魔女から"最も近い、妊娠可能な女"に強制的に継承される。これは、魔女協会でも、外回りする連中にしか知られていない事実だ。

 これが不用意に知れ渡れば、無関係な魔女の血が流れることになる。だからこそ、世間では魔女は、次世代に繋げることでのみ継承されていく、と公的に宣言している」

 仮に、魔女を殺害することでも継承されるという事実が知れ渡れば、思い通りにならない魔女を殺して、都合のいい女に移し替えることで、悪用されるという事態が起きる可能性がある。―事実、魔女の歴史の中では実在していたのだ。

 初めて聞いたような反応のルナを見て、ヴァンは察したふうに続ける。

「…そうか。師匠からは聞いていなかったか。

 まぁ、大半の魔女を管理している魔女協会が台頭している今の時代であれば、必要ない情報だったのかも知れないな」

「それでも、それを話さなくなったのは師匠の気まぐれなのかねぇ」

 バニラとフルーツのジェラートを持ってきたレルベアがヴァンに続けて聞くと、そうかもしれんな、と返す。

「ただ、前も話した通り、魔女の歴史というのはそのほとんどが迫害の歴史であり、彼女たちが安寧を得たのはつい最近の話だ。そして今でも、魔女協会の目が届かない場所では道具として使われ続ける魔女たちがいる。その事は常々忘れるな」

 少し前に話していた、魔女協会とは魔女の為にあり、自分達はそれを維持する為の消耗品でいろ、という言葉。その言葉の意味を少し考えていたところで、レルベアがやかましく話す。

「まぁ、しんみりした話もいいけど、折角デザートを作ってきたんだ! サービスだから、是非食べてくれ!」

 レルベアの言葉に、2人はようやく従い、小さく笑い合う。

「……まぁ、そうだな。そろそろ堅苦しい話はやめにしておこう」

「そうですね。折角のうまい飯が勿体ない」

 ルナからもうまいと言われ、レルベアが目を輝かせながら聞く。

「美味いって!? どこが気に入ったら具体的に教えてもらえるかな!?? いや、参考! 参考にするだけだから!!」

 即座に食いついてきた上に、あまりの圧にルナも気圧されてしまう。流石のそれには、ヴァンも助け舟を出してくれた。

「レルベア、流石に少し自重しろ。ルナも困っているだろう」

「そうかい? それは悪かったね! でも教えてほしいのは本心だよ!??」

「あはは…」

 ヴァンに窘められるも、圧そのものはそこまで変わっておらず、ルナも苦笑するしかなかった。


 しかし、時間もいい感じになってきたため、客も入ってくるようになり、一足先に食事を終えた2人は、先に出ていくことにした。

「じゃ、ごちそうさま。また来るよ」

 兜をしていない事もあり、周囲の視線を少し感じつつもヴァンはレルベアに挨拶して、ルナも一緒に一礼する。

「おうっ! また来てくれ!」

 厨房で忙しそうにしつつも、彼は元気よく返答し、2人は店から出ていった。

 暗くなり始めた空。既に空には赤い月だ青い月が輝いており、月齢も大分進んでいたことに気がついた。

「…気がつけば、それなりに日も進んでいるな」

 前回の護衛任務を始めてから、10日近く経過していることを思い出す。

 この10日間だけでも相当な出来事があったはずだが、仕事の割に実入りは少なく、未だにヴォルガの懸賞金だけで生活を賄っていることを思い出した。それでも、懸賞金自体それなりに残っているのだが、やはり調査費用や装備のメンテナンスなど、生活費以外の出費も多い。

「―ルナ、ちゃんと生活するための働き方というのも教えてやろう。荒事ばかりで飯を食うのも一つの手段だが、それだけでは命がいくつあっても足りないからな」

 思い出したように、ヴァンが言い、ルナが何か言いたそうにしているのを先読みしておく。

「……最初に教えておくべきだというのは、過ぎたことだ。それに、俺がお前に構った直後の仕事がこれしかなかったのだから、仕方ないだろう」

 苦し紛れの言い訳をして、2人はのんびりと帰り道を歩いていく。

「まぁ、1人前になるまではちゃんと面倒見てやる。しっかり着いてこいよ?」

 相変わらず、何だかんだ言う割には面倒見のいいヴァンに向け、ルナは元気に返事をした。

「―はい!!」

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