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魔女と竜狩り  作者: 合併
第1節 竜狩り
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第1節 6

 その後、時間通りに目を覚まし、火の番を代わって様子を見ていたが、特に何事もなく時間は過ぎて行く。暇な時間は得物や兜の手入れをしたり、余った水で体を清めたり、やることがないわけではない。

 そんな事をしている間に時間は過ぎ、夜が明ける。明るくなり始めた空に気付き、朝食と追加の水の準備を始めた。


 準備が終わる頃、慣れない荷車であまりきちんと眠れなかったのか、少し疲れた様子のベルが出てきて、次にそれほど疲れた様子もなく、鎧もしっかり着たドットが荷車から降りてきた。それに気付いたヴァンは、事前に用意しておいた洗顔用の水桶を手渡す。

「おはよう。少しは眠れたか?」

「まぁまぁね。思ってたよりかはマシだったわ」

 ヴァンの問いかけに、彼女は顔を洗いつつ当たり障りのない返事をして、桶を手渡してタオルを受け取る。

「そうか。ある程度支度を終えたらすぐに出るぞ。ドットも飯や片付けも済ませておいてくれ」

「はい」

 予定について伝えると、呆けていたドットも我に返ったようにこちらを向き、準備を始めた。

 そして2人が動き出したのを見て、誰よりもよく眠っていたラセルタの体を少し揺らすが、起きる気配はない。仕方ないと言いたげにため息を吐いてから、彼は鼻元に朝食の焼いたソーセージを突きつける。すると、匂いに反応してヒクヒクと鼻を動かした後、一息に食いつこうとしたが、その寸前で手を挙げて、ラセルタは空を噛む。その衝撃で目が覚めたようで、体を起こして大きなあくびをした。

「起きたか」

 まだ眠そうなラセルタの前にソーセージを見せてやると、ヴァンの腕ごと飲み込むことはなく、器用にソーセージだけ奪い取っていく。

 その6本の足と尻尾を器用に使い、朝食を摂り始めたラセルタをヴァンは横目に見つつ、取り外していた鞍を付け直し、余った蒸留水を使って木製の食器と軽い金属製の鍋をざっと洗い、汚れを落とす。

 適当に水を切ってからタオルに包んで荷車に投げ込んでおく。ついでに丁度よく消えつつある残り火を足蹴にして消す。

 火の始末も終えて、片付けも一段落したところで周囲を見渡すと、既に出発準備は整っていた。

 余計なことを話す必要はないだろう。そう思い、ヴァンは御者席に座りつつ皆に告げた。

「さぁ、行くぞ」

 本日も晴天なり――



 ラセルタを走らせてから、一度の小休止を挟んだが、何者かによる妨害もなく、安定している。あいも変わらず、緩やかな山道を進んでいたところ、不自然な隆起によって、荷車がカタン、と揺れる。

「……?」

 小石に引っかかったにしては、揺れ方が不自然だった。普段は小石程度、特段気にしていないが、ヴァンは嫌な予感がしてラセルタを止め、一人道を引き返す。

「……?」

 荷車の後方の扉を開け、監視をしていたヴァンは不思議そうに首を傾げる。ヴァンは戻った先で調べていたが、何かに気が付いたようで慌てて駆け戻ってきた。そして御者席に座り直し、ラセルタを進ませると同時に前方の扉を開けて報告する。

「……不味いことになった。道に"鳴子"が仕掛けられてる」

「鳴子…?」

 聞き慣れない言葉にベルが首を傾げるが、彼はすぐに説明する。

「簡単に言えば、呼び鈴。さっき仕掛けられていたのは、重さによって作動し、遠くの場所にこちらの居場所を知らせるものだろう」

 そこまで説明を受けて、2人も何を意味するのか理解したのか、途端に顔が青くなる。

「それって…! 待ってよ、うちのラセルタは戦闘用じゃないのよ!」

 咄嗟のベルの言葉に、ヴァンは丸々と太ったラセルタの腹を見てそうだな、と答える。

「お前ら3人を守りながら、真正面からの襲撃者の殲滅は非効率だ」

 きっぱりと言い、ドットを見た。

「だからこそ、協力してくれ」


 ヴァンの指示通り御者席を交代し、道を進んでいると、突然、静止しろと言わんばかりに前方の地面に数本の矢が突き刺さり、ドットがラセルタを止まらせる。

 しばしの間沈黙が流れ、ドットにも周囲を囲まれている事を理解した。少なくとも、彼一人が抵抗しても多勢に無勢。余計な真似はせずに静かに待っていると、抵抗の意思はないと判断されたのか、目の前に身長180cmほどの大男が現れる。

 少なくとも汚くはない、長い髪は後ろに纏め、その反面伸び切った無精髭。ゴツく、四角い顔つきに、小さくも鋭い目。数多の獣の皮をつなぎ合わせて作ったレザーアーマーと、左手にはクロスボウを装着している。右手は空いているものの、腰に下げられたホルダーに3本のナイフが仕込まれており、有事の際はすぐに抜けるようにしている。

 分かりやすいほどに山賊らしい格好をした男は、ビビり散らかしているラセルタに対し、一切動じないドットを観察してから、感心したように髭を撫でる。

「ガキのくせに随分肝が据わってるじゃねぇか」

「要件は何だ」

 無駄話に付き合う必要もないため、目的について聞くと、山賊は黄色い歯が全部見えるほど大きく笑った。

「積荷の中身を見させろ。モノ次第では命は助けてやる。

 俺等も王国の憲兵に追われたくはねぇからな。―何せ、この辺の領主の積荷だ。下手に手を出せば俺らの身が危うくなる」

 確かに荷車に、領主の所有物である、二対の剣に絡みつく蛇の紋章があるにしても、こちらの身元もバレているようだ。

 山賊と言うものをよく知らないからこそ、学もない集団ではないのか、とドットの表情に出ていたのか、山賊は鼻で笑った。

「はんっ、そのへんの馬鹿どもと一緒にするな。

 少なくとも、俺は知識が武器になるってのはよく知ってる。それに、この道を使ってあそこの領主が動くってことは、荷の中身も大体予想はつく」

 そこまで話してから、彼は腕を広げて聞いた。

「"転送石"を出してもらえば、命までは取らねぇ。まぁ、他にも食い物くらいはもらうがな」

「……出さないといえば?」

 しばらく考えた後に、1つ聞いてみると、彼は肩をすくめた。

「そん時はそん時だ。お前をぶっ殺して無理やり奪い取れば、大事に運んでる魔女も貰えて一石二鳥だからな。だけどそこまでやっちまうと、あの年増のリストに入っちまうのが難点だが…魔女を売り飛ばした金で他国に高飛びすればそこまで追ってこれないだろ。ただ、他国でも原因不明の死因で死んだ売人の噂は絶えない。

 だからこそ、お互いのためにその無駄にでかい石を譲って欲しいんだが」

 紳士的に振る舞っているものの、この場では転送石を渡す以外の選択肢はない。ただ、それはこの任務の失敗を意味しており、領主直々に与えられた大役の失敗は、ドットの昇進にも関わる。―それは、愛するベルのためにも、絶対に避けなければならない道。

 己たちの命か、未来のどちらかを捨てなければならない2択であれば―

 結論を決めあぐねているところで、少し苛ついた様子で片手を上げると、丁度ヴァンの鼻先を矢がかすめた。

「悪いが、待つのは嫌いでね。お前が決めないならこちらから決めさせてもらおうか」

 決断を急がせるように、周囲の気配が濃くなり、ラセルタも恐怖のあまり腰を抜かしている。

 絶体絶命の時、"予定通り"に背後から山賊よりも更に大きい巨漢が羽交い締めにし、その首に左手の鉤爪を突き付けた。

「ようやく警戒を解いたか」

 冷たい声で言い放ち、司令官の無音の奇襲に、周囲にも動揺が広がる。

 その状況でも山賊は余裕を崩さず、声をかけた。

「久しぶりだな、金ピカ野郎」

「あぁ、1年ぶりだなクソ野郎。こんな所にいたのか」

 お互い見知った関係のようだが、仲が良いという訳では無いようだ。山賊を拘束したまま、ヴァンは話した。

「では、交渉としよう」

「即座に殺さねぇってことはそういうことだよな」

 ヴァンの意図は初めから伝わっていたようで、山賊も問答無用で殺されるはずがないと理解していたからこそ、余裕を持っていた。素直に応じてくれたことを理解し、ヴァンは提案する。

「こちらはこの場でのお前らの命を保証する。その代わり、お前らはこの場から消えろ」

「それだけか?」

「逆に聞くが、これ以上の条件で呑んでくれるのか?」

 山賊の問いかけに聞き返すと、彼はニヤリと笑う。

「いや、ありえねぇな。

 ―あい分かった。今回は俺らの負けだ」

 お互い、それで交渉成立と判断した途端、ヴァンは山賊を解放した途端、腰のナイフを引き抜いて奇襲するが、それと同時に振り回せた鉤爪が防ぐ。

 お互いに奇襲が失敗したことを理解し、舌打ちをして構えを解く。

「ちっ、考えてることは同じかよ」

「こっちの台詞だ」

 これで終わりと言うように、流石にお互い背中を向け、ヴァンが荷車の元に向かい、山賊も手を挙げて合図をすると、周囲を包囲していた気配が消えていく。

 そしてその去り際、山賊は大声で宣言した。

「おい金ピカ!! 次はねぇぞ!」

「こちらの台詞だ。その首を刎ねる時までよく洗って待っていろ」

 そんな捨て台詞を吐いて、再び道路は静寂に包まれた。

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