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魔女と竜狩り  作者: 合併
第3節 魔女の騎士団
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第3節 8

 領主への報告と忠告を済ませ、本部へと帰ってきたヴァンは、ルナを連れて改めてマスターに報告へ向かう。

 既に魔女が死んでいた、という報告を受けたマスターは大きな机に肘をつきながら一言、

「そう」

 それだけ言って、話を続けた。

「…過ぎたことはしょうがないわ。ルナトリアも、初めての任務がこんな結果になってしまって申し訳なかったわね」

 初任務で辛い目にあった事をいたわるも、彼は首を横に振る。

「それでも、学べるものがあったので。俺は構いません」

 その答えを聞いて、彼女は笑った。

「それは、有り難いわね。外回りで酷い目にあって、内勤に移る子は結構多いの。あなたが強い子で良かったわ」

 確かに、今回のような任務に比べたら、本部でやる任務は生ぬるい。楽な道へと進むのが人間の性であるならば、それも致し方ないことなのだろう。その一方で理由はあれど、折れることなく戦場へと進み続けるヴァンのような者も居るのが現実。

 子どもながらの中二病、というものだろうか。 ―この短い間でも、自我を強く持ち、何者にも引かずに自身の道を突き進むヴァンの姿は、少年の心には強く刻み込まれ、憧れになっていた。

 その憧れを感じているのか、強くなれ、と言った手前だろうか、ヴァンは静かに話し出す。

「―それは、こちらとしても有り難い。ただ、先輩としての指示だが、お前はまだしばらく単独行動はするな。

 まだ、1人で全部やるには早い」

 強くなる。そのはやる気持ちを抑えるように、彼がはっきり伝えると、マスターも同調した。

「それは、協会の長からも賛成ね。若いことはいいことだけど、無闇に突っ走られても困る。

 君も、ヴァンを見習って、協会の指示にきちんと従うこと。それを徹底できなきゃ、外には出せない」

 若さゆえの未熟で、現場をかき回されるわけにはいかない。それをしっかり伝えた後、でも、と続けた。

「君がおかしいと思ったことは、はっきりと伝えてほしい。我々も必ずしも正しい選択をするわけではないからね。―それこそ、先刻の魔女を裏切った者を、使者として迎え入れたこと。これは、我々の大きなミスだ。その為、魔女を失うという大きな損失となってしまった」

 とても分かりやすい例を出して、ルナを納得させたところで、一変、固い空気を和らげるようにマスターは軽いノリで話す。

「それで、君たちは当然だけど、報告書を書いてもらいます。今回、リーダーはヴァンだからそっちに任せるけど、君も後で書けるように、一緒に見ておくように。気がついたら、もう夕方だし、それの提出も明日でいいから、今日はゆっくり書くといい」

「分かってる」

 ヴァンもいつものことと言いたそうに答えたところで、彼女は思い出したように小袋を取り出した。

「あ、そういえば忘れてたよ。これ、元々支払う予定だった前金。君たち、すぐ行っちゃうからさ」

「そんなのあったのか」

 今更ながら、契約書すらちゃんと読んでなかったような発言をしつつ、ヴァンは小袋を受け取り、そのままルナに渡した。

「えっ、これは?」

「お前の金だ。好きにしろ」

「いや、ヴァン兄は?」

 当然の質問をするも、彼はどうでも良さそうに答えた。

「報酬金があれば俺の金にしていた。それだけだ」

 それが本当か嘘かは、今は分からない。ただ、そう言われてはこの金を返そうとしても、無駄だろう。ルナはしばらく考えた後、小袋をしっかり握ってこちらを見た。

「じゃあ、遠慮なくいただきます。その代わり、晩飯は奢らせてください」

 金を受け取らないなら、別の形で返せば良い。当然ではあるが、少しひねった言葉に、彼はほんの小さく笑って、ルナの頭に手を添えた。

「生意気な事言うな。ただ、そうであるなら有り難く頂くとしよう。―うまい店を知っているんだ」

 ヴァンは笑ってそう言って、ルナと一緒に背中を向ける。

「そういうわけだ、マスター。報告書とかはまた明日提出する」

「えぇ、いってらっしゃい」

 小さく手を振って、部屋出ていく2人を見送り、消えた後に彼女は真面目な顔で呟いた。

「間に合わなかった、のは想定内だけど、まさか殺されてたとはね。―それであれば、魔女の力は誰に…?」

 少し考えるも、答えは出ないと分かりきっている。すぐに思考を放棄し、彼女は立ち上がる。

「まぁ、報告書を貰ってから考えましょう。まずは、仕事をしないとね」

 部屋の明かりを消して、彼女は下へ通りていき、夕刻から開店する娼館の準備を始めることにした。


 一旦、堅苦しい装備を外して城下町に出てきた2人。ヴァンに案内されたのは、メインストリートから少し離れたところに構えた、小さな食堂。まだ日も落ちる前なので、客も入っている様子はないが、構わずに引き戸を開いて中に入る。

「ん? いらっしゃ―お、ヴァンじゃねぇか」

 中に居たのは、暇そうに椅子に腰掛けて、新聞を読んでいた30前後の男。白いエプロンに、頭には白の三角形をした調理帽子を被っている。ヒゲは綺麗にしており、短い金髪が帽子の隙間から見えている。少し長めの顔をしているが、朗らかな人柄が染み付いた口元と、整った顔から、良い人のオーラが滲み出ていた。

 そんな彼はヴァンとは顔見知りのようで、笑って出迎える。

「一月ぶりだな、レルベア」

 2人は握手の後に肩をたたき合って軽くハグをし、レルベアと呼ばれた男がルナに気付く。

「お、今日は随分若い友人を連れてきたじゃないか」

 それについて口に出したところで、ヴァンが付け加える。

「同郷だ。仲良くしてやってくれ」

 同郷、その単語を聞いたレルベアは、ルナに近寄っていき、手を差し出した。

「同郷とは珍しい。俺はレルベア、ここの店主をしてる者だ。よろしく頼むよ」

 ルナが困惑している隙に、レルベアが痺れを切らしてその手を掴み、笑う。

「少年! 何を見てきたのかは知らないが、そんな顔をしていたら幸せも逃げてしまうぞ。そんな時こそ、笑って忘れるんだ」

 何処まで、彼は見透かしているのだろうか。それは分からないが、久しく、真っ当な人間の体温に触れたせいか、気が付くと涙が溢れていた。

「――え? なんで…?」

 本人も分からない、決壊したように流れる涙。それを見てレルベアは困惑してしまうが、ヴァンは勝手にコップに水を汲みつつ笑った。

「……レルベア、しばらくそうしてやってくれ」

「…? まぁ、分からんがお安い御用だ。客もいないし、今のうちに好きなだけ泣いていいからな」

 レルベアも気さくに応じて、ルナが泣き止むまでの間、優しくハグしたまま、背中を叩いてくれていた。


「―落ち着いたか?」

 ルナの涙で服が汚れてしまったので、着替えに戻ったレルベアが居ない内に、ヴァンはまだ鼻をすすっているルナに聞く。

「……それなりにはな」

「それだけ言えれば大丈夫そうだな」

 生意気な答えにも深くツッコまず、冷静に続ける。

「初めての任務で、色々飛ばしすぎたな。お前には無理にでも帰らせるべきだった」

 魔女の救出。その過程で見た、腐乱死体や失敗という現実は、いくらスラムの経験があったとしても、子供の精神に良い影響があるわけない。先ほどの出来事は、無意識の内にキャパシティを越えた反動のようなものだろう。その事をようやく理解して、後悔の言葉を口にするが、ルナは真っ直ぐヴァンを見る。

「…だからって、辞めるつもりはない」

「……ふふ、」

 わがままにも見える、決意の固さ。それを見て、ヴァンは珍しく嬉しそうに笑みをこぼした。

 それにルナは気付いていたのか分からないが、次の瞬間には普段通りの無表情でメニューを開いている。

「さっき話にあった通り、ここは俺らと同郷の奴が開いてる店だ。なんなら、俺と一緒に上京してきた奴の店だ。見習い時代から世話になってるし、味も悪くないぞ」

 彼は見やすいよう、メニューを開いた状態でテーブルに置きつつ聞いた。

「約束通り、お前の奢りらしいからな。好きなものを頼むが、構わないな?」

「いや、そんくらい構わないけど…ヴァン兄のオススメは?」

「そうだ「おすすめは全部だよっっ!!」

 ヴァンが答えに重ねるように大きな声を張り上げ、レルベアが同じ白エプロンに着替えて戻ってきた。

「……」

「何だい、ヴァン? 喉に小骨が刺さったような顔をして」

 答えを遮られたことに無言の圧力をかけるも、彼には届かない。その飄々とした態度もレルベアなので、ヴァンはそれ以上は何も言わず、メニューも見ずに告げた。

「俺はシェフのおすすめを1つ。飲み物はフルーツジュースで」

「メニューなら何か聞かないのかい?」

「お前のおすすめなら、何が出ても安心だろう?」

 ヴァンの台詞にレルベアはにやりと笑い、厨房へと向かっていく。その前に顔だけ出したレルベアは、大きな声で付け加えた。

「少年はゆっくり決めていいからね!!」

「うるせぇ」

 ヴァンの小さな小言も、既に厨房に入ったレルベアには届かない。仕事に取りかかったのを確認して、ヴァンは落ち着いた様子でレルベアと同じ事を言った。

「まぁ、好きに選べ。どんなものでも、味は保証する」

「…でも、どれも目移りしない?」

 どれも美味しそうなので、決めあぐねているルナに向けて、ヴァンはそうだな、とアドバイスする。

「俺のやり方だが…1番最初に良いなと思ったのに決めて、それ以上は何も見ないようにしている。どうせ、目移りするから、最初に決めたものにしておけば迷いもないからな。

 それに、これが最後じゃないだろう? 次はその時の気分に任せればいい」

 その言葉のおかげが、彼も決まったのか、大きな声で注文した。

「デカ盛りセット1つお願いします!!」

 ルナの声はちゃんと聞こえていたようで、厨房の奥から明るい声が帰ってきた。

「おっけぇ〜〜い!!」

 余りにもノリの良さにルナは小さく笑い、ヴァンも小さく微笑んだ。

「面白いやつだろう。あの馬鹿みたいに明るいテンションだから、初見で来た奴は困惑するか悪ノリしてシンクロするかのどっちかだ」

 彼の纏う雰囲気にも引っ張られているのだろう。普段よりも表情が綻んでいるヴァンを見て、ルナは少し意外そうに見ていた。

「どうした、人の顔を見て」

「いや、ヴァン兄も普通の人なんだなってさ」

 ルナの感想に、ヴァンはいつもの無表情に戻りつつ、不満そうに鼻を鳴らす。

「……別に、俺だって感情を抑えたくて抑えてるわけじゃない。下手に出せば、制御できなくなる呪いがあるから、仕方なくいつでも無感情を決め込んでいるだけだ。

 仲間や友人といる時くらい、少し気を緩めてもバチが当たりはしないだろう」

 珍しく素直に本音を話し、ルナは小さく笑った。

「ヴァン兄って、何も感じてない鋼の男みたいに思ってたけど、そうでもないんだね」

「失礼な奴だな。何も感じないように普段から気を張ってるだけだよ」

「そうそう、昔のヴァンはこんなに落ち着いてなかったからね。正しく、抜き身のナイフって感じ」

 話しているところに、本日のオススメ、3種の魚のムニエルとサラダのセットを持ってきたレルベアが会話に入ってくる。

「はい、今日のおすすめ、魚のムニエルね。飲み物はいつも通り食後で、パンもトーストしたのを後で持ってくるから」

「あぁ、悪いな。余計なこと言う前に仕事に戻ってくれ」

 当たり前のように過去の話をしようとしているため、ヴァンが邪険に扱うも、彼はヘラヘラと笑って流している。

「勿論、少年の注文を済ませたらまた入ってくるから今のうちにしっかり食べておいてくれたまえ!」

「やかましい、戻ってくんな」

「俺に黙れだなんて、息をするなと言ってるのと同じことだよ!?」

「それがめんどくせえって言ってんだよ」

 仰々しくリアクションを取るレルベアに、早速ナイフとフォークを手に、ムニエルをきり分けつつ、心底面倒くさそうにツッコみを入れるヴァン。

「ふふっ」

 何だか、普段のギャップを感じ、つい笑ってしまったルナを見て、レルベアが騒ぐ。

「今、少年も笑ってたじゃないか! 君が変なことを言ってるってことだろう!!」

「適当なこと言ってないで、仕事に戻れ。

 注文待たせて話し込んでて良いのかよ」

 尤もな正論でレルベアを退散させようとするも、彼は自信たっぷりに話す。

「しばらくタイマーの待機時間だからね! それまでたっぷりじっくり、話をしようじゃないか!」

 とてもうるさいレルベアは、帰る気配がない。ただ、その瞬間、厨房の方からけたたましくアラームが鳴ったのが聞こえ、彼は即座に真顔になって厨房の方へと駆けていった。

「まずい焦げる!!!」

「……本当にうるさいなあいつ。普段の2割増でうるさいんだが」

 騒がしすぎる友人の姿を見つつ、ヴァンが呆れながら呟くが、ルナは困惑する。

「あれで2割なんだ…」

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