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魔女と竜狩り  作者: 合併
第3節 魔女の騎士団
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第3節 7

 ヴァンと分断され、思考が停止していたルナと、時間と共に思考が回り出す。

 別に、自分があの戦いに参加できないからといって、ヴァンが負けるということはない。それはよく分かっているため、考えるべきは自分の行動。

 ここで彼を待っているのも一つの選択肢だが、扉が降りる前の言葉を思い出す。

『魔女がいるとしたら、洞窟の中』

 その言葉を信じるのなら、分断された彼の役割は決まっている。ヴァンと合流するにも、共鳴石があれば可能なことを理解して、彼は来た道を引き返し、魔女の捜索に移ることにした。

 早速道を戻りながら、奥まで進んできた、もう一つの目的―救出した、傭兵組合の魔女の装備を回収する事も思い出した。

 ただ、2人で通った分岐を除き、基本的には一本道であり、保管庫のようなものは見つかっていない。もしかすると、集落側にあるのかもしれないが、隠されているものがあるかもしれないため、まずは合流するまで、洞窟を探索することにした。

 歩き始めて数分、壁にも注意を払っていたが、違和感を感じる場所はなく、元来た分岐まで戻ってきてしまった。静寂に包まれた洞窟の中、ルナは再び魔女の囚われていた檻まで向かうことにした。

 ルナが殺した男の死体は転がったまま放置されており、流れ切った、生臭い血の匂いが漂っている。それには全く興味を示さず、壁に掛けられたカンテラに油を注ぎ、灯りを維持できるようにする。

 そして壁に注意して見ていると、違和感を感じた。

「……?」

 どこから、人工物のような違和感を感じて壁に触れると、表面は確かに土ではあるが、土を退かすと、偽装して作られた扉だった。

「…………」

 どうして、魔女の檻の隣に隠し扉があるのだろうか。偽装を剥ぎ取り、扉を露出させたルナは、とてつもなく嫌な予感を感じつつも、引き戸となっている扉を開こうとしたが、鍵がかかっている。

 簡素な閂のようなものだが、生憎そんな鍵は持ち合わせていない。結局、使わずじまいだった爆薬を取り出し、それを起爆させて無理矢理こじ開けることにした。

 ―ただ、開けようと作業している間もずっと、スラムで培ってきた、防衛本能が警鐘を鳴らし続けている。根拠はないが、開けてはいけない。見ては、いけない。

 だが、ヴァンの言葉が喉の奥につっかえる。

『心の意思に従ってみろ。そうすれば、幾らか後悔もなくなる』

 実際のところ、ここで開けるべきではない。ヴァンと合流して、何があっても対処できる戦力を用意してから先に進むのが賢明なのだろう。しかし、待たせたことで失われる命があれば、彼はきっと後悔する。そこで、扉を破壊してこじ開ける寸前に、彼は1つの違和感に気が付いた。


 ―何故、ここにいた魔女は、隣の部屋について何も話していなかった?


 隠し扉と言えど、あそこに囚われているのならば、誰かしら出入りする姿を見ているはず。確かに知らない、という選択肢もあるが、魔力がほぼ切れるほどの期間、拘束されているのであれば、何かしら情報も持っている可能性はゼロではない。だというのに、彼女は何も指摘していなかった。ルナの頭に鳴り響く警鐘も相まって、彼は自身の行動が正しいのか確信を持てなくなる。

 悩みに悩んだ結果―ヴァンを待つことにした。

 この選択が絶対に正解だとは思わない。ただ、ルナ1人では決定を下せないからこそ、頼りになる大人に頼ることにした。

 そうやって、静かに待機していると―それほど待たずに、共鳴石を伝ってヴァンがこの部屋に入ったきた。

「見当たらないと思ったら、こんな所にいたのか」

 その声には疲れも滲んでいるが、態度は普段通りで変わらず、ルナは立ち上がって、状況を説明した。


 ―説明を一通り聞いたヴァンは、そうか、と呟いた後、肩を叩いた。

「いい判断だ」

 一言、そう褒めたあと、彼は迷わずに扉に取り付けていた爆薬を起爆した。

 小さな爆音と共に、閉ざされていた扉が開かれる。その衝撃で立ち上った土煙が消えるまで待っている間に、腐敗臭が鼻につく。

「……これは、」

 その時点で何かを察したヴァンは、ルナのほうを向く。

「この先、同行するなら覚悟をしろ。来ないというのも、選択の1つだ」

 その忠告に、嫌な予感は正しかったと理解するが、彼は首を横に振る。

「俺も、待った結果を知りたい。着いていくよ」

 その言葉に、少し間を置いてから答えた。

「……そうか。それなら、目を逸らすなよ。どんな結末であれ、それが現実だ」

 この会話の間に、土煙も晴れていた。

 ヴァンは迷わず前を向き、ポーチから取り出した電灯を照らすと、その腐敗臭の原因がいた。

 ―それは腐敗し、液状化した死体。どうやって入れられたかは不明だが、死体に群がるような、蠅と言った虫は湧いておらず、この地下という空間を考え、ダストシュートのようなもので落とされたのだろうか。

 ただ、地中の微生物によって分解はされているため、このような液状化した状態になったと考えられる。

 真っ先に見えた死体を見て、ルナは引いてしまうが!ヴァンは迷わず進んでいく。ただ、ここの空気を長時間吸い込むのは衛生観念からも危険である。そのため、ヴァンは入る前に声をかけた。

「ルナ、ちょっとこっちに来い。最低限の予防をしてやる」

 親指の指輪の力を使い、顔の周囲に真空の膜を作って、空気を遮断した。利用できる空気自体はかなり少なくなるが、帰ってから体を壊すよりも遥かに良い。ただし、真空状態なのでこれからの会話は届かなくなる。そのため、彼は右手を差し出し、手を繋いだところで、小指の余っている魔力で思考を繋げる。

『今、真空の膜を作った。これで匂いも多少マジになるが、その分空気も少なくなっている。説明する時間も惜しいし、そもそと声も届かないから、こうやって頭のなかで会話するぞ』

『―はい』

 行動の意味を伝えてから、2人は地獄のような部屋へと進んでいく。

『―元より、この環境であれば、死体が液状化するほど腐敗するのには、時間がかかるはずだ。

 そして、魔女が捕らえられたのは遅くとも3日前。その間にここにぶち込まれたとしても、まだ形は残っているはずだ。その辺の死体は泥かなんかだと思っておけ。

 まずは、形に残った死体を探すぞ』

 この状況について説明しながら、彼は探索を始め、ルナもこの状況を深く考えないようにして、彼と手を繋いだまま、同じく電灯を取り出して照らしていく。


 そして、探すこと数分。2人は、死体の中から、まともな形の死体を見つけた。服は一切纏っていないが、比較的整えられた髪や、丸みのある体型を見て、呟いた。

『……女の、死体か』

 限りなく嫌な予感。こんな場所にいて、生きている可能性はゼロであり、更に女の死体となれば、可能性は非常に高い。残っている酸素も少なくなってきているので、ヴァンは迷わずにその死体を"泥"の中から引っ張り出し、外へと向かう。

 そして外へと出てきた2人は檻の部屋の入り口まで離れたあと、真空の膜を解除して新鮮な空気を取り込む。

 それから何も言わずに死体を地面に置き、ヴァンはポーチから、爪先ほどの小石を取り出して反応させると、彼女の肩あたりが淡く光る。

「これは、刻印(トゥーリ)っていう魔法だ。特に外で働く奴らが着けてることが多い、魔女協会の人間であることを証明するため、魔法で刻まれた刻印。緊急時にはこれで確認することもあるが…まさか、こうやって使う時が来るとはな」

 彼は、普段通りの口調で話す。つまり、それは任務の失敗を意味することであり、2人はこれ以上、ここに残る理由がなくなったということだ。

 やるせなさは感じるものの、ヴァンはすぐに切り替え、すぐにルナの手を掴んで外へと連れ出す。

「俺らがやることは終えた。あとは、生きて帰るだけだ」

「……そう、だね」

 兜に隠した彼の顔は見えない。きっと、見えたところで普段通りで変わりはないのだろう。それでも、彼の心中は穏やかではないはず。それを察した上で、ルナは静かに彼の後を着いていった。  

 結果はどうであれ、これにて任務は無事に終わり、ここにあった野党の拠点は壊滅した。それだけでも収穫はあったのだが、明るく凱旋、というわけにはいかない。

 それだけではなく、依頼元の集落の魔女が死んだのだ。当然、それに代わる魔女をどうするかについても確認が必要となる。この時点でルナを1人帰し、事後処理はこちらでやっても良かったのだが、折角の機会なので同席させることにした。


 ―道中、雨に降られて多少洗い流せたものの、先ほどの調査で服や鎧にも腐敗臭が染み付いてしまっている。この状態で真っ当な人間たちと会うのに、これでは礼儀を疑われる。1度、本部へと帰還し、体を洗って服を洗濯してもらい、装備を軽装に切り替えて向かっていく。

 途中で会ったマスターに結果だけは伝え、依頼元への報告結果などについては、後ほどまとめて提出すると伝えておいた。

 そして、体を綺麗にした2人は、依頼元の領主との面会を許可され、事の顛末を伝えた。

「……ふむ、そうだったか」

 魔女は死んでしまった、少なくとも死後から時間が経過しており、恐らく到着した時点で亡くなっていたことについても報告すると、ほどほどにぜい肉がついた、小柄な男性は伸びた無精ひげを撫でた。

「何にせよ、仕事はきちんとした、ということだな」

「結果はどうあれ、魔女の救出のために尽力はしました。

 ―それで、1つ確認なのですが、この村の騎士団の身元調査をしていますか?」

 相変わらず、それなりの立場の相手であれば礼儀正しく受け答え、ヴァンが殺した騎士―裏切り者の存在について進言をしておく。

「…そういえば、依頼を出したものが見えないが、もしや…」

 今更といえば今更の反応を見て、彼ははっきりと答える。

「彼は、私を罠にかけ、殺そうとしました。そのため、こちらも正当な防衛をしたまでです。

 それだけであれば、まだ良いですが、少なくとも彼らは野盗たちと協力していました。此の度の誘拐事件についても、一枚噛んでいておかしくないと思いましたので」

 そこまで話して、彼は兜の下で目を光らせる。

「それとも―貴方がた、全員グルだった、という訳では無いでしょう?」

 疑わしきは―魔女の敵は殲滅する。それは如何なる敵であろうと変わらない。魔女協会を代表する戦士からの問いかけに、領主は断った。

「その話はこちらも知らない。その物騒なものは下げてもらってよろしいか?

 ただ、当の本人が死んでいるなら、裏切り者を炙り出すのも難しいな」

「それは、申し訳ありません。こちらも、生死をかけていましたので」

 情報源を皆殺しにしてしまったのは、流石にヴァンも軽率だと思っていたのか、申し訳なさそうに頭を下げ、領主はふむ、と考え込む。

「それについては、こちらで調べておこう。粛清については、魔女協会の協力も出来るのかな?」

「証拠があれば。我々は殺戮集団ではないので」

 魔女協会の判断として力を振るうのは問題ないが、個人的な依頼での暗殺や粛清ははっきりと断る姿勢を見せ、彼は頷いた。

「承知した。―ところで、魔女がいなくなったとは言え、要である転送石はすぐに使えなくなるものかね?」

 領主としては1番大事な直通の連絡手段について聞くと、彼は説明を始める。

「えぇ。基本的には2週間程度なら魔力の補充なしでも動かせるはず。少なくとも、決定が降りるまでは1週間おきのメンテナンスの申請はこちらから出しておきます」

 その言葉を聞いて、彼は安堵する。それもそうだろう。この国への従属の見返りとして、送られる転送魔法という輸送手段は交易の要となっている。それが維持できるのであれば、魔女の有無は最優先ではなくなるのだろう。

「―話のまとめとなりますが、まずは魔女の定期的な派遣で暫定処理、ということでよろしいでしょうか?」

「解決した直後の話だからな。そこまで進むなら御の字だろう。こちらからも、今後の契約については使者を送らせてもらおう」

「それは助かります」

 お互い最低限の約束は済んだということで、この話も一段落した。後々の計画は次回以降、ということで2人はそのまま退出していった。

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