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魔女と竜狩り  作者: 合併
第3節 魔女の騎士団
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第3節 4

 ヴァンが集落で暴れ回り始めた直後。ヴァンが切り開いた門から侵入したルナは、ずっと気になっていた崖の方へと向かっていた。

 それなりに広い拠点だが、ヴァンに戦力が偏っているため、思ったより簡単に崖周辺の小屋までたどり着いた。当然、その途中で身を隠した小屋も逐次確認し、人の気配がないのは確認している。

 何かある、と予想していた通り、崖の下には人3人は並んでも余裕のありそうな広い洞窟があり、立ち登る煙幕の方向を、不安そうに見ている兵士がいた。

 ヴァンの襲撃のおかげで、番兵の注意が削がれている。その隙を逃すわけはなく、ルナはポーチから取り出した魔石の欠片を指で弾くと、それは転移して、番兵の背後に音もなく落ちる。

 背後で小石が音もなく落ちたところで、反応できる奴はいない。それを見越したうえで、ルナはナイフを1本抜き、その小石を起点に自身の身体を転移させる。

 音もなく背後に潜り込んだルナは、そのがら空きの首を一息に掻っ切り、こちらを振り向くよりも先にその背中を蹴り飛ばして、抵抗する間もなく倒す。そして、がら空きの後頚部に血濡れたナイフを当てて、ナイフを折るくらいの力を入れて首をへし折った。

「……、」

 久々の人を殺す感覚に浸っている暇はない。

 転移の起点に使った小石を拾い直し、ルナは洞窟の中へと進んでいく。

 洞窟は人為的に掘られたもののようで、同じ広さの道が続く。灯りも、完全な闇ができない程度には灯されており、ルナは壁沿で、僅かな闇に体を隠しながら進んでいく。

 そうして進んでいくも、特に誰かと会うわけではない。ヴァンも集落を片付け終え、巨猿と出会っていた頃だが、ルナの耳には既に外の騒ぎも、とうに聞こえていない。恐らく、仮ににいるかもしれない人間たちも同じなのだろう。そう思っていた矢先、慌ただしい足音が聞こえ、ルナは即座に壁に張り付いて息を殺す。更に、腕に仕込んでいた魔石を使って、背景に溶けるように擬態する。

 待機していると、次第に足音も近付いてきて、金属で補強した鎧を纏った厳つい男たちが真っ直ぐ並んで駆けていく。恐らく、何らかの方法でヴァンの襲撃に気が付いたのだろう。急いで向かっていたことと、洞窟のなかで転ばないよう、出来るだけ広がらずにいたこともあり、ルナの存在がバレることはなかった。

 そして足音が消えるまで待って、ようやく擬態を解いて奥へと視線を向ける。人が出てきたということは、誰かしらいる証拠だろう。そして、魔女という捕虜を脱走させないためなら、とっておきの場所でもある。

 ルナはそう判断し、まだ誰かがいるという可能性を考えた上で、慎重に先へと進んでいった。


 しばらく進んでいくと、2つの分岐に分かれる。

 照明の数は特に変わらず、どちらかが正解だろう。どちらが正解か判断するためにも、出来るだけ聴力に意識を集中させ、手がかりとなる音を判別しようとしたところで、ヴァンから渡された共鳴石ガ反応する。

「!!」

 反響しやすい洞窟で、鳴ってはいけない音を感知してすぐにそれを取り出すが、その反応は背後からではなく、洞窟の先から届いている。

「魔女が、呼んでいる?」

 魔力に反応して作動する仕組みとは元より聞いていた。それが、魔女の発する魔力に反応して共鳴する可能性があるとまでは聞いていない。

 これが罠かもしれないが、既に共鳴石の音でこちらの侵入に気付かれた可能性もある。ならば、迷っている暇はない。ルナは覚悟を決めて、更に慎重に分岐を進んでいく。

 ―警戒していたものの、拍子抜けするくらいに誰とも会うことなく、奥へと辿り着いた。

 元から湿度の高い洞窟ではあったが、通気口も用意されているためか、幾らか湿気も低い一室。広さとしては5人ほどは快適に入れるほどの広さ。しかし、それを二分するように木製の檻が用意されており、その中には1人の女性が捕らえられていた。

「…へぇ、知らない魔石の反応があったと思ったら、隨分と可愛いお客さんだね」

 茶化すように、檻の中の彼女は話す。薄暗い部屋、その姿をきちんと見ようとするも、炎に照らされているのは、ボロ布だけ。それに気が付いたのか、彼女は小さく笑って体を起こす。

「あぁ、ごめんね。こんな格好だからさ、あんまり見てほしくはないんだよね」

 彼女―全身をボロ布で隠したまま立ち上がり、裸足のまま檻の前まで歩いてくると、ルナもようやく気が付いて檻に近寄ると、すえた匂いが鼻につく。

「捕らえられてから、まともにお風呂も入れてないからさ。あんまり近くには来ないでくれる?」

「あ、すみません」

 魔女である以上に、1人の女性であることを思い出し、ルナも謝りつつ檻から離れると、彼女は面白そうに笑って檻から離れた。

「気にしないで、からかっただけだからさ。

 ―で、君は何者? あたしを他所につれていこうって人かな?」

 改めてルナの所属を確認すると、彼は躊躇わずに答えた。

「魔女協会所属の、魔女の騎士団(オルタレイト)所属の1人です。あなたは、ここに捕らえられた魔女で合ってます?」

 魔女協会、その単語を聞いて、彼女は一瞬息を呑んだ気がしたが、すぐに平静に戻って続けた。

「―そうなんだ。じゃあ、あたしを助けに来たってことかな? 1人で?」

 この場にはルナしかいない。流石にこの幼さで単独行動をしているのは半信半疑であり、協力者について聞く。

 会話の流れから、彼女が魔女であるとまんまと誘導され、最終確認をしないまま、ルナは話を続ける。

「いや、俺1人ではなく、陽動に買って出てる人が居ます」

「まぁ、そうだよね。それで、助けに来てくれたのは有り難いんだけど、この檻、壊せそう?」

 情報を整理したところで彼女が聞くと、ルナはポーチの中を漁り始める。

「少し、強引な方法になりますが…扉は、わかります?」

 そう言って取り出したのは、小型の爆薬。錠前にセットして、起爆して破壊するという、強引なものの確実なやり方。脱走がすぐに伝わってしまうというリスクはあるものの、その対策も用意してある。彼女もそれを見て、何をするか理解したようだが、それよりも早く忠告した。

「少年、少し注意したほうがいい。―足音が近づいてきている」

 彼女の指摘に、ルナも我に返ると、確かにこちらへと近付いてくる足音が聞こえてくる。

 ルナは魔石の力を使って天井に張り付き、擬態。彼女も再び横になって黙り込む。

 そうしてしばらくして、足音が間近に迫り、先ほど外へと向かっていった男たちの1人が戻ってきた。

「おいお前! 侵入者が入ってきたのに気付いたか!?」

 洞窟に響く声に、彼女は面倒そうにこちらを寝たまま向く。

「うるさいなぁ…。君らに散々マワされた後なんだから、放っておいてよ。それに、仮に会ってたとして、千載一遇のチャンスなのに、君らに教える義理があるのかい?」

 尤もな正論を吐かれ、焦りからも余裕がない男は檻を殴りつけるが、彼女は一切動じない。

「どうしたんだい? そんなに焦って。それに、余裕を失うと寝首をかかれるかもしれないよ? ―ほら、君の後ろだ」

 彼女の言葉に、男は咄嗟に後ろを振り返るが、何もいない。面白いほど簡単に釣られたことに、彼女は馬鹿にするようにケタケタ笑い出す。口の減らない捕虜に我を忘れ、檻を開けて直接暴力を振るおうと鍵を取り出したその瞬間を、ルナは見逃さなかった。

 相手が鎧を纏っていようと、接合部は無防備となる。鎧の隙間を差し込むために用意された、極限まで薄く作られたナイフを片手に彼は音もなく着地し、背後からその首を切り落とさんと飛びかかる。

 不意を突かれた男は無防備なまま、その首を裂かれて絶命するはずが―鎧の下に着込んでいた薄い革の服が、それを阻んだ。

「――てっっっっめぇぇぇ!!」

 必殺の一撃は失敗し、頸動脈にまでは届かない。仕留め損なったルナは力任せに振り回されて地面に叩きつけられる。

 即座にがら空きの腹を蹴られ、肺に詰まっていた空気を全部口から吐き出す。

 手に取り付けたクロスボウを破壊され、ルナの首を両手で掴まれ、軽々と持ち上げて絞め上げられる。

「――!!」

 気道を塞がれ、足もつかない状態でバタつかせても、大したダメージは与えられない。首から血を流しながらも、男は怒りに満ちた声で聞く。

「やっぱいたじゃねぇかよ、えぇおい!

 てめぇ、無事に帰れると思ってねぇよなぁ!?」

 絞め上げられ、どんどん血の気が引いていくが、ルナの目には敵意の光は消えない。その目が気に入らないと言いたそうに膝が腹に叩き込まれ、声にならない声を上げる。

 間もなく、意識が落ちそうになるところを必死に堪え―右手を突きつける。


 突如、爆音。


 その袖下から飛び出てきた、火薬によって射出された弾丸。

 不意を突いた弾丸の威力が足りず、鋼鉄の兜を貫通することはなくとも、兜を凹ませ、それは丁度目に直撃。変形した鋭利な切っ先は、男の目を傷つけた。

 突然訪れた、理解不能な痛みに絶叫し、手を離す。酸欠で飛びかけている意識の中でも、ルナのやることは決まっていた。

 自由になった途端、すぐに仕込んでいる長めのナイフを抜き、両手で握る。正面から見える、首の隙間に向けて思い切り突き刺し―今度は、喉深くまで突き刺さる。抵抗するよりも早く、彼はナイフをひねって、頚椎をねじ切る。文字通り必殺の一撃が決まり、男は一呼吸おいて、糸の切れた人形のように倒れ込む。

「――やっ、た」

 肩で大きく息をしながら、敵を仕留めたことを認識するが、その達成感に浸っている暇はない。

 鎧と服を剥ぎ、先ほど男が取り出した檻の鍵を見つけ出す。すぐに檻の錠前に差し込み、回してやると、簡単に鍵は外れた。

「―やるね、少年」

 それを待ちわびていたように彼女は檻から出てくる。

 ボロ布を纏っているものの、宝石のように赤い瞳が炎に反射して照らされている。やはりというか、布切れの下には何も纏っておらず、ルナは気まずそうに目を逸らした。それに気付いた彼女は、少し楽しそうに聞いてくる。

「魔女協会の者となれば、女体なんか見慣れてると思ったけど、そうでもないみたいだね?」

「…人によるでしょう」

 苦し紛れの誤魔化しに、彼女はケラケラ笑いところで、と聞いてくる。

「出てきて早々、1つ、頼まれ事をできるかな?」

「どうしました?」

 とてつもなく嫌な予感がするも、聞いてみると、彼女はふふふ、と笑いながらにじり寄ってくる。その嫌な予感が的中した気がして、じりじりと逃げるも、背後は壁。すぐに追い詰められてしまった。

「君1人であたしを連れて逃げるのも大変だろう? 君さえよければ、今後の道を楽にするのに突き…じゃなくて、付き合ってほしいんだけど」

 敵地でのとんでもない提案に、ルナも流石に拒否をする。

「いやでもアンタ、さっきまで"補給"出来てたんじゃ…!」

「残念ながらね、反抗心のある魔女相手に素直にヤるような奴らじゃないんだよ。少しでも魔力があれば、手助けは出来るし、連中からあたしの装備も返して欲しいからね。悪い話じゃないんじゃない?」

「さっきの声で、集まってくるかもしれないだろ、すぐに退散するべきだ」

 ここに留まることは危険だと伝えつつも、彼女はそうだけどさ、と言い返す。

「この一方通行の道なら、鉢合わせになる可能性の方が高いよ。それなら、少しでも戦力は欲しいんじゃないの? それに―すぐに済ませるからさ、その辺の松明の光でも眺めてなよ」

「―ぐぅっ!?」

 彼女の赤い瞳と目が合った途端、体が熱くなる。

「緊急時の魅了魔法だよ。―ほら、鎮めてあげるから大人しくしな」

 誰のせいで、と言い返す時間も惜しい。ルナは力を抜いて、大人しく魔女に身を委ねることにする。聞き分けの良さに上機嫌になりつつも、行為に至る直前で、彼女は小さく謝った。

「ごめんね、少年」

「…生き残るためなら、仕方ないだろ」

「……そっか」

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