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魔女と竜狩り  作者: 合併
第3節 魔女の騎士団
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第3節 1

 ルナと買い物を終えた次の日。ヴァンは朝早くに準備を済ませ、普段の兜に加えて、左手にはいつもの爪。右手には角ではなく、カートリッジを装着したクロスボウ。服も普段の軽装ではなく、使い込まれた、分厚い革の鎧。腰には小道具を入れてあるポーチと、追加のボルトが詰まったカートリッジが下げられている。

 竜ではなく、人を想定した装備。空を飛ぶ必要がない故の、普段であれば採用をしない装備で整えている。

 忘れ物がないか確認し、最後に朝食代わりのソーセージでもつまもうとしたところで、ノックの音が聞こえた。

「ヴァン兄? 起きてる?」

「あぁ、今開ける」

 一足先に準備を終えたらしきルナの声が聞こえ、彼は先に扉の鍵を開ける。

 そのまま扉を開くと、昨日買っておいた鎧を着たルナが待っていた。身体に至る所に自然な形で武器を仕込んでおり、両腕には緊急用に魔石も仕込んである。ただ、初めての仕事ということもあり、顔には緊張が見える。

 その一方で、リラックスしきってるヴァンは、兜の蝶番を外しつつ聞いた。

「おはよう。折角だから食うか? 先月あたりに護衛のついでに狩ったイノシシのソーセージなんだが」

「あ、いただきます」

 少し前の獲物ではあるが、まだ十分に食べられるソーセージを見せて聞くと、ルナは素直に貰い、2人でそれを食べながら受付に向かうことにした。


 しっかり塩漬けしておいたため、水が足りなくなったので、先に水筒の飲み物と、日持ちするように防腐剤を添加したパンも先に食べている間に、ルナの緊張も大分ほぐれていた。

 そして、人の少ない受付に着くと、既に金属の鎧に身を包んだ男と、マスターが待っていた。

「―おはようございます」

「おはよう、マスター。早速だが、そこにいるのが依頼主かな?」

 水筒をしまい、挨拶とともに聞くと、ヴァンが紹介した相手と理解して、彼も一礼してから挨拶した。

 軽量化の魔法はかかっていないのだろう、鎧の厚さはとても薄く、最低限の防御力を確保しつつ、機動力を確保している。更に、胸部分には見慣れない熊の紋章が刻まれており、どこかの領主の直属なのだろう。

 視界の確保のため、前方が開いたままの兜からは、それなりに整った顔と、紫色の目、隙間からは金色の髪が見えている。顔立ちから、年齢は20前半。身長も170cm前後と、この国であれば一般的―良くも悪くも、印象に残らない男だった。

「これはどうも。貴公が、此度の協力者かな?

 私は…」

「まぁ、紹介はいいだろう。資料は既に確認している。北東にある領地の騎士と聞いている」

 ヴァンがどうでも良さそうに会話を切り、さっさと本題に入る。

「魔女を連れた遠征時に、賊に襲撃。そして魔女を誘拐され、ここに救助申請を出した、だな? 更にその賊には傭兵組合の兵士たちも巻き込まれている」

 要点をまとめて確認すると、彼は不満げにしていたが、間違ったことは何一つなかったため、素直に頷く。

「―うむ、貴公の言う通りだ。こちらは、領地の魔女を誘拐され、不本意ながらも命からがら逃げ延び、救助を頼んでいるというわけだ」

「じゃあ、行くとしようか。事前に連絡があったと思うが、今回の任務はこの2人で行う。異論はないな?」

 すぐに仕事を始めようとするヴァンに対し、騎士は半信半疑で聞いてきた。

「話には聞いていたが、本当にこれだけの人数で攻め入るというのか…!?」

 何も知らない相手ならば、正気を疑う人選であり、妥当な反応ではある。だが、ヴァンはヴァンで規格外の枠であり、何を今更、と一蹴しようとする前に、マスターがフォローする。

「大丈夫よ。この人は、単独でいくつも困難な依頼をこなしている。まぁ、今回はおまけもいるけど…まぁ、大丈夫よね?」

「大丈夫だ。お前の復活を待ってた間の時間が惜しい。行かないというなら、こちらが勝手に行ってくるぞ。―ルナ、着いてこい」

 唖然としている間にも、時間は過ぎていく。仕事を始められるのであれば、一刻も早く救助へと向かいたいヴァンは、既にルナを連れて先に進んでいくと、騎士が慌てて追いかけていった。

 バタバタと過ぎていった一行を見送ってから、マスターはふぅ、とため息をついた。

「空白は2日…間に合ってるといいけど」



 事前に申請していた転送石を利用して、3人は中継地として指定されていた、依頼主である騎士の故郷に辿り着く。

「―よし、着いたな」

 転送による酔いを感じることなく、ヴァンはすぐに殺風景な転送室の外へと歩き出したが、後ろの2人の呻き声を聞いて、仕方なく足を止めた。

「……仕方ない。外で待ってるから、落ち着いたら出発するぞ」

 彼はそれだけ言って外に出て、周囲の観察をする。

 予想通り、転送先は役場のような大きな建物の中であり、開けた途端目の前に広がった木造の大広間では、多くの人々が取引をしていた。

 ヴァンは壁際に用意されていたベンチに腰掛け、ポーチの中身を念のため確認していた。当然、来訪者である彼に興味の視線は感じるものの、誰も話しかけてこない。ヴァンも特に気にしないようにして確認を進めていくと、血色の戻った顔で、ルナと騎士が出てきた。

「大丈夫か?」

 言葉だけでも心配する素振りを見せるが、彼は出発する気満々で立ち上がっている。2人はまだ全快していないが、途中で体調を戻せると判断し、静かに頷いた。


「―で、馬車は使わずに徒歩か」

 役場の外を出て、新鮮な空気を吸い込みつつ、ヴァンは興味なさそうに呟いた。

「そうなるな。流石に、この人数は想定していなかったのもあるが」

 騎士が申し訳なさそうに言うが、彼は無感情に答える。きっと、その兜の下も一切の感情がないのだろう。

「構わん。それよりも、そちらの体力は大丈夫なのか? 見たところ、森林か山間部を通るのだろう?」

 ヴァンとルナの装備、革と金属で比べると、装備している重量は文字通り桁が違う。その問いかけに、彼は自慢気に答える。

「それなら心配無用。この鎧には、軽量化の魔法が掛けられている。貴公らの装備よりも軽いはずだ」

「そうか。それなら、先に進もう。時間が惜しい。…道案内は頼むぞ」

 確認することは確認したので、道案内を頼むと、彼は素直に先導していく。その後ろを2人は無言で着いていくことにした。



「―そうか。隨分と幼いと思ったが、君は新人なのか」

 街道を歩いている道中、暇になれば口も開く。特に、外での経験がないルナであれば、好奇心は尽きないだろう。いつの間にか、騎士と並んで話をしているルナを特に咎めることなく、ヴァンは後方で静かに待機している。

「―それにしても、貴公は何も話さないな。元々無口なのか?」

 突然、後方にいるヴァンに向けて聞くが、彼は周囲への警戒を怠ることなく答える。

「別に、話そうと思う話題がないだけだ。それに、お前たちの代わりに周囲に警戒をしているんだ。

 いちいち話してるだけの余裕がない」

 素直に理由を話すと、2人も少し悪いと思ったのか、申し訳なさそうな雰囲気を出すが、ヴァンは面倒そうに答えた。

「今更気にしたところで遅い。それに、こうも見渡しが良ければそう簡単に奇襲もされんだろう。それに、こちらは装備を固めた男3人だ。余程のことが無ければ襲われんだろう」

 冷静に分析しているが、彼の集中は常に周囲に向いている。

「そこまで言うなら、少し警戒を解いてはどうだろうか?」

「悪いが、それは出来ない。確かに確率は低いだろうが、確率で考えるな。

 その余程のことがあった場合、対処できる奴が1人いるだけでも戦況は変えられる。その1人を俺が勝手に買って出てるだけだからな」

 ヴァンはそれだけ言って、再び周囲の警戒に戻る。そこまで言われてしまい、ルナはため息混じりにそうだね、と呟く。

「―ヴァン兄がそういうなら、こっちも気にしないよ。騎士さんも、道案内を間違えないくらいには集中してれば何にも言わないでしょ」

「…そうだろうか?」

「そんなもんだよ」

 少し不安そうな騎士に、ルナが肯定してやると、彼は少し安心したように前を向いた。

「では、先を急ぐとしよう。もうじき、目的の森に到着する」

「そうか」

 その言葉を信じ、3人は見晴らしのいい街道を歩いていく。


 しばらく歩いていくと、彼の言っていた通り、森の入り口が見えてきた。

「あれか」

 水筒の水を一口含み、ヴァンが短く聞くと、騎士は静かに頷く。ここからは敵地が近いこともあるのだろう。騎士の無駄話も気が付くとなくなっていた。

 そして3人は森の入り口へと到着し、騎士が足を止めて鎧のエンブレムを軽く撫でると、銀色の鎧が変色し、真っ黒な暗色へと切替わる。

「隠密用の迷彩切り替えが出来る鎧か。隨分良いものを持ってるな」

 相変わらず、何の感情もなくヴァンが呟く。彼はすぐにネタバラシをされたことに不満そうにしているが、そうだ、と答える。

「これからは、敵も潜んでいる可能性が高い。貴公らも、十分に警戒をしてくれ」

「分かった」

「言われるまでもない」

 ルナも頷き、ヴァンは当然のように答える。

 2人の準備を確認したところで、3人は森へと入っていった。


 森の中でも、街道は続いている。歩きやすい、整った道を歩きながら、ヴァンは周囲を観察している。

「ヴァン兄、気付いた?」

 同じく、周囲を見渡していたルナが聞くと、彼も頷く。

「何となくな。めんどくせぇ」

「…何かあったのか?」

 騎士が歩きながらも聞くと、ルナが答える。

「街道だから、当然なんだけど、人の手がそこらかしこに加えられてるって思ってね。…いや、ヴァン兄、言い方が悪いのは分かってるって。

 ちゃんと言うと、そこら中に罠の痕跡が見えるってこと」

 半端な回答をしたところ、ヴァンから冷たい視線を感じ、素直に答えたルナに続いて解説する。

「ルナの言っていた通りだ。入った時点で、獣用の罠だの色々痕跡が見つかってんだよ。

 これは、この森を手広く動いている連中がいるってことだ」

 そう話しながら歩いていたところで、ヴァンが騎士の肩を掴んで足を止めた。

「そこ、よく見てみろ」

「…なんだ?」

 ヴァンが指差す先、ほんの少しだけ膨らんだ地面を見るも、自然な隆起ではないかと思ったが、彼はため息混じりにその土を掘り返してやる。そこにあったのは、大きめの石―が目当てではなく、その下に仕込まれていた、押して起動する仕掛け。どこまで繋がっているかは分からないが、ヴァンは説明する。

「街道の轍に合わせて仕込んである。まぁ、十中八九、鳴子だろうな」

「なんで、そんなモノを…?」

 不思議そうに聞く騎士に対し、当然のように答える。

「そりゃあ、拠点に通行人を伝えるためだろ。馬車ならまずこの轍を通るし、この鳴子を短く2カ所設置して、音を分けておけば、その音の繋がりから動いてる方向も分かる。

 そこまで分かれば、後は待ち伏せして奪うもん奪えばいい。お前も、馬車とかで移動して待ち伏せされたクチじゃねぇのか?」

 そこまで言われて、彼ははっとしたようにこちらを見る。それを見て、そういうことだ、とヴァンは話す。

「俺とルナなら、見慣れた罠だが、知らなきゃそんなもんだよな。ただ、この罠は見た目の割に結構メンテナンスが必要なものでな。週に1回は動きを見たほうが良いもんだから、必然的に設置場所は分かりやすくなる。まぁ、それでもあると分かって見ないと分からんがな。次に活かすと良い」

 ヴァンはそれだけ言って、地面を戻して森の脇に入る。

「鳴子だとしたら、仕掛けそのものが近くにあるはずだ。隠蔽のために必要とは言え、そんなに長く地中に埋め込むような真似はまずないだろう」

 彼はそう言って森の中へと入り込み、2人もそれに着いていく。

「―貴公たちは、知っているも話していたな。使っていたのか?」

「ルナ、代わりに頼む」

 森を進みながら、拠点へと繋がる痕跡を探しているヴァンに、騎士が聞くも、ヴァンは答えるのが面倒になったのでルナに任せることにした。

「…まぁいいけどさ。俺も、ヴァン兄も同じ処の出身なんだ。それで、さっき見せたような仕掛けを使ってた。俺も手入れをしたことは何度もあるし、よく知ってるんだよ。

 でも、こんなのと一緒にするなよ? 俺らは防衛準備のために使ってただけだからな」

 確かに同じ機構は使っていたが、盗賊上がりではないことを念押しする。それを聞いて、彼は静かに頷いた。

「それは心配してないよ。君の態度を見てればよく分かる。よく、教育されてるんだな」

「……あー、ソウデスカ。ありがとうございます」

 そう言われ、施設にいる時、黒の竜狩りの"教育"を思い出してしまい、ルナは嫌そうに目を逸らすが、騎士は首を傾げるだけだった。

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