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魔女と竜狩り  作者: 合併
第2節 王都
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第2節 23

マスターへの報告を終え、兜や指輪を部屋に置いてから、ルナを探しに行くことにした。どうせ地下の訓練場だと思ったが、予想に反して見つからない。ちょうど、目が合った仲間がいたので聞いてみた所、"呼び出し"を受けて、どこかへ連れて行かれたらしい。それを聞いて、彼は今日中の合流は諦め、仮眠することにした。

 その帰り道、3人組の魔女たちと出会ったが、運の良いことに、足腰立たなくなったのか、死んだ顔をして眠ったまま、魔女の1人に背負われているルナを見つけた。

「―お、こんにちわ」

「ヴァンじゃない。帰ってきてたんだね」

 何事もなく挨拶を交わし、彼は早速背負われているルナの回収ができないか交渉する。

「まぁな。

 ―ところで、後ろでくたばってる若いのなんだが、こっちに寄越して貰うことはできないか? 仕事の件で話があったんだが」

 精根尽き果ててはいそうなので、これ以上搾っても今日は打ち止めだろう。大人しく譲ってもらえると思いきや、彼女たちは渋りだした。

「えぇー、これからまた回復魔法で復活させて、遊ぼうと思ってたんだけど」

 寝ていても、不穏な気配だけは感じていたのか、背負われていたルナがうめき出していたのを見て、ヴァンは仕方なく交渉を続ける。

「マスターからも、やりすぎるなって忠告されてなかったか? 休ませてやらないと、いくら若くても壊れるぞ」

 マスターの名前を出されてしまい、彼女たちも流石にやりすぎていたのか、と自覚したようで、渋々といいたそうにルナを解放する。

「悪いな。埋め合わせは後でこいつにさせる」

 辛うじて立てるくらいのルナを背負うために屈みつつ、しれっとルナに責任を押し付ける。当然、ほぼ寝ている彼の耳には届いておらず、ヴァンの大きな背中にしっかり抱きついて眠っている。

 ヴァンの背中で安心して眠る顔に何かに目覚めかけた1人が興奮しながら聞いてきた。

「ねぇ、埋め合わせなら、今してくれない? なんかルナくんのその顔見てたら興奮してきたんだけど。ヴァンも一緒でいいからさ?」

「勝手に母性刺激されて欲情するな」

 冷静に却下し、受け取るものは受け取ったので彼はルナを連れて部屋に戻ることにした。


 執拗に着いてくる3人組を通りがかりの同僚に連れ去ってもらい、彼は自室に戻り、しっかり鍵をかけて余計な来客を締め出しておく。

 疲れ切って眠っているルナを自分のベッドに寝かし、彼も仮眠をとろうとシャツのボタンを外しつつクローゼットに残っているはずの毛布を取り出そうとしたが、来客用に用意しておいた布団の類は全て空になっており、代わりに書き置きが置いてあった。

 そこには、短く『洗濯中です』との文字が。彼が不在の間、フリースペースと化していたこの部屋で何が起きていたのかは考えないようにして、ボタンをかけ直し、立てたまま放置していたソファーを戻して、そこに横になって寝ることにした。

 ―数時間後、日も落ちた頃にヴァンが目を覚ますと、まだルナは眠っていた。しばらく見ていない間、それなりに頑張っていたのだろうと彼は1人考え、まずは固まった筋肉をほぐすため、ソファーやテーブルを片付けてストレッチから始める。

 適度にほぐれた所で、シャワーを浴びて寝汗と汚れを落とすことにした。

 しっかり濡れた髪も乾かし、半裸の状態で脱衣所から出た所で、ちょうどルナも目を覚ましたようだ。

「目を覚ましたか」

 それに気が付いたヴァンが、部屋の明かりをつけてから聞く。急に明るくなったため、目を慣らすために薄目を開けて慣らしていたが、少しして、ようやく彼の姿を目に入れた。

「ヴァン、兄」

「あぁ、おはよう。よく寝ていたようだな? 何か食うか? 軽いものなら今作れるが」

 服を着つつ聞くと、答えるよりも腹の音が鳴った。

「…少し待ってろ」

 ヴァンはふ、と小さく笑って冷蔵庫を開き、材料を取り出したあと、戸棚から小さな鍋も取り出した。

 鍋に水を加え、火にかけつつ、慣れた様子でナイフを握り、テンポ良く野菜を刻んでいく。さっと、全ての野菜を一口大に刻み、ついでに取り出していた厚いベーコンも刻んでいく。粗方刻み切ったあと、戸棚から小さなフライパンを取り出し、さっと熱してから炒め始める。炒め終わったら別皿に分け、沸騰した鍋に刻んだ野菜を入れて煮込み始める。その間に使わなくなったナイフやフライパンを洗っておき、水切り台に並べるついでに2人分の大きなマグカップを用意していた。

 そして野菜に火が通った所で火を止めて味を軽く整えた後に、分けておいたベーコンを入れ、軽くかき混ぜる。他の洗い物も済ませつつ軽く放置して、少し冷めたのを見計らって、マグカップに注ぎ、スプーンを差す。さっと作った、簡単なスープを2人分、持ってきた。

「ほらよ」

「ありがとうございます」

 ベッドから体を起こした状態でヴァンからスープを受け取り、一口啜る。薄めの味付けではあるが、寝起きの頭を覚ますにはちょうど良い刺激。ゆっくりと目が覚めてきたルナは、今さら自分の部屋ではないことに気が付いた。

 ソファーは片付けてしまったので、行儀は悪いものの、ベッドに腰掛けてスープを啜るヴァンは、思い出したように伝えた。

「あぁ、そういえばくたばってたから回収してきた。来たばっかなのに、難儀だな、お前も」

 ヴァンの同情するような言葉に、彼は昼あたりから記憶がないことを思い出した。

「…ありがとう、ございます」

「礼には及ばん。俺も、用事があって回収してきたんだからな」

 部屋の壁を見ながら、彼はスープを啜りつつ答える。

「用事?」

 オウム返しで聞くと、彼はそうだ、と答える。

「明後日には、ここを発つ。外での仕事だ」

「本当か? 内容は?」

 初めての仕事であり、ようやく魔女の相手から解放されると思ったのか、嬉しそうに彼が反応する。それを冷めた目で見つつ、聞かれた通り、聞かれた内容に付いて答える。

「捕縛された魔女の救出。おそらく相手は盗賊団だろう。戦闘は避けられない」

「……!」

 初仕事であるが、彼が伝えたのは命の危険が伴う、危険な仕事。初めての仕事とは思えない内容に、彼も表情が固まるが、ヴァンは付け加える。

「ただ、いきなりお前1人で行かせるつもりはない。俺も同伴する。ただ、状況次第では単独行動になる可能性は高い。

 それで確認だが、師匠のもとで人を殺した経験は?」

「―2、3人くらいなら」

「なら大丈夫か。外に出す子たちに生ぬるい指導をしていなくて安心したよ」

 最も重要なことを確認し、ヴァンは安心したように言うと、ルナが聞いてくる。

「…そっちは、そうなのか?」

 違和感のある聞き方に、ヴァンはふむ、と彼のほうを向く。ただ、その表情は今まで通り、何の感情もない、

「その言い方は、俺とは違うみたいだな。

 実際の戦場で、生ぬるいことを言ってトドメを刺せないのは俺らだけじゃなく、魔女の命にも関わる。

 任務に差し支えが出るようなことなら、今のうちに話せ」

 外回りの仕事とは、一時の躊躇が命を奪いかねない場面もある。彼と共に行動するならば、懸念を払拭したいのは当然だろう。その問いかけに、ルナは少し躊躇うも、諦めて話してくれた。

「俺はさ、掃き溜めみたいなところの出身なんだよ。どうしようもない、クソみたいな場所。

 そこで、俺は親の顔も知らずに、物心がついた頃には、同じようなガキどもを集めた親代わりみたいな奴に使われて、盗みとか脅しをやってなんとか食いつないでいた」

 突然の告白にも、ヴァンは何も言わず、聞いている。泊めないということは続けてよいと解釈し、彼は続ける。

「そこで、悪いことは大体知った。必要であれば、殺しも当然やった。とは言っても、俺が直接殺したのは2、3人だったってことだ。

 ―ま、結論、そんな生活は当然続かなくてな。俺はヘマをして、仲間たちに捨て駒として捨てられて、奴隷商に捕まった。

 あとは売却されるだけだった所で、あの人―師匠が、奴隷商にカチコミに入った」

「それで、あの人に今度は捕まったってことか」

 ヴァンが結論を先に話すと、ルナはそういうこと、と頷く。

「ま、結果的にはおかげさまで真っ当かどうかは分かんないけどさ、こうやってちゃんと働けるようになったし、結果的に救ってもらったことに感謝はしてるよ。戻ろうとは思わないけど」

 一言余計ではあるが、彼の簡単な過去を聞いて、ヴァンは納得して頷いた。

「それなら、わざわざそっちの教育は要らないか。それであれば良い。

 出発まで時間あるし、ちゃんと飯を食って、必要なものを買い出しに行ったり、装備を整えるぞ」

 ヴァンはそう言って立ち上がり、こちらを向いた。

「その前に、少し汗を流して着替えるか? 何をしてたのか聞かないが、随分汚いぞ」

「……あー、」

 今朝からぐちゃぐちゃにされたまま、シャワーすら浴びていないことを思い出し、ルナはその言葉に甘えることにした。



 体と服を清潔にして、食堂ではヴァンから勧められたメニュー…やたらと精力のつく献立だったが、それで腹を満たしておく。

 その他、今夜の予定を確認したり、一通り用事を済ませたあと、2人は再びヴァンの自室に戻り、彼は部屋の隅に片付けてあった大きなテーブルとソファーを出し直して、カバンの中身を見せていた。

「外回り用で、俺がよく使ってる道具の一式だな。好みは人それぞれだが、俺はどこでも対応できるように道具を用意しているから、基本のセットとして覚えておけ」

 普段使っている大きなリュックの中身―調理用の鍋や皿の食器、獣避けや虫除けの香、乾燥させた携帯食料を保存する容器、簡易の着火剤、火打ち石―必要な小道具を一つ一つ手に取って説明していく。

 そして、一通り説明し終えたところで、付け加える。

「ただ、今回のは短期的な遠征だ。基本的に寝泊まりすることはないと思うから、荷物自体は必要最低限に留めておくべきだ」

 そう言って、彼は中から小さなポーチを取り出し、空になった中身を見せる。

「これに見えるように、邪魔にならない最低ラインのポーチだと、入るものは限りがある。これは状況次第で必要なものだけ入れておいた方が良い。今回の依頼の場所は分からないが、山や洞窟であれば、虫除けの香、照明、携帯食料くらいだな。なんなら、香も使用しないこともある」

「臭いが気になるから?」

 ルナの指摘に、ヴァンは頷く。

「そういうことだ。野営をするなら、必要になる可能性が高いが、それすら必要としない場合は念のため入れるくらいだ」

 それだけ話し、次は基本的な装備について説明する。

「今回のようなパターンは、野戦になる可能性が高い。本来、必要に応じて使うナイフとかの暗器、仕込み武器については最初からホルダーに刺して身につけておけ。当然、有事の際はすぐ抜けるようにな」

「分かった」

「ところで、お前は基本的に得物は何を使う?」

 今更といえば今更な質問に、ルナは当たり前のように答える。

「基本的にはナイフかな。昔から、死角に潜り込んでそのままってやり方の方が性に合ってる」

「……市街じゃなくて、今回やるのは野戦なんだが?」

「あ」

 市街で待ち伏せをしやすい状況であれば、確かに有効な戦法ではあるが、今回やるのは逆の立場。こちらから攻め込むのであれば、その戦法は役に立たない。

 それに今更気が付いたルナの顔を見て、彼は呆れつつ、頭を掻きながらクローゼットに向かっていった。

「確か…補助用の魔道具があったはずだ。それを渡しておくから、明日…いや、今日中に使い方をマスターしておけ。ここに作成者もいるから、一緒に紹介してやる。そいつの所で聞いてこい」

「はーい…」

 ヴァンの指示に大人しく返事をして、更に彼は聞いた。

「それと、一番重要な事なんだが、お前、軽装でもいいから鎧とかの防具や武器は持ってるのか? ナイフも、少なくとも3本はあったほうが良いぞ」

「…えーと」

 クローゼットを漁りながら聞くも、歯切れの悪い答えが返ってくる。

 それで全てを察したヴァンは、深いため息のあと、伝えた。

「…………あー。明日、俺も装備を回収に、行きつけの鍛冶師に会いに行くから、お前も来い。防具とナイフくらいなら、即日用意できるはずだ」

「はーい…」

 急な指示ではあったものの、余裕のある内に色々世話を焼いて良かったと、今更ながら彼は思っていた。

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