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魔女と竜狩り  作者: 合併
第2節 王都
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第2節 19

 その後は、契約書の内容を確認した上でサインをし、魔女協会側へ提出する原本を受け取って一段落した所で、気になったことを聞いた。

「―ところで、マダムは師匠…黒の竜狩りとも、交流があると言っていたが」

 少なくとも、ヴァンが師匠の下で鍛えていた時に、彼女と顔を合わせたことはない。碧の竜狩りの名前も彼が生まれるより前に広まっていたことから、古い付き合いであると判断しての問いである。

 それを聞いて、彼女は再び両脇に護衛を置いたまま答えてくれた。

「あの人は、私にとっても、魔女としての戦い方と、生き方を教えてくれた、君が言う、師匠みたいな人だったんだよ。

 ただ、あの人みたいに、古いやり方は教わってない。私の権能を理解した上で、戦闘技術を教えてもらっただけさ」

「そうなのか。…それで、黒竜について、何か言っていたのか?」

 ヴァンも、施設を出る時に初めて聞いたのだが、昔は、彼女も黒竜を追っていた。自分と同じく、因縁を持っていることだけは知っていたが、それについては聞くことはなかった。知ったところで意味はないが、興味がある。少し狡いとは分かっているが、それを聞けないかと淡い期待を込めて聞いてみたが、彼女はふーん、と値踏みするように彼を見つつ答える。

「私は、そこまで聞いてないから、よく分からないね。そんなに気になるなら、今度本人に聞いてみたらどうかな?」

 当然と言えば当然の答えが返ってきて、初めて彼は苦い顔をする。

「師匠に会いに行くのはなぁ…少し、嫌なんだよ」

 幼少期の度重なるストレスを思い出してしまい、そんな顔になっているのをみて、彼女も何かを察した。

「あー……。あの人と一緒にいる人、皆同じ事言うからね。その気持ちは分かるよ」

 そこで彼女は壁にかけられている時計に視線をやり、夜も更け始めている事に気がついた。

「―もう、こんな時間なのね。そろそろ、お開きとしましょうか」

 それを聞いて、2人も時計を見ると、もう良い時間となっており、2人も立ち上がる。

「マダム、今日は、有益な時間だった。また、後ほど会える時を楽しみしている」

「お疲れ様でした。また、時間ある時に遊びに来ますね」

 各々が一礼してから礼を伝え、マダムもそうね、と立ち上がる。

「こっちもまた、会えることを楽しみにしてるわ。お互いに五体満足で会えるように、精進しましょう」

 世辞ではなく、本心から伝えた言葉。それを受け取ったところで、2人は部屋から出ていった。



 そのまま、紺色にも礼を伝えてから会計を済ませ、店から出る。

 少し薄暗い、大通り。酒場を回る人々はいるものの、人気は普段に比べれば全くない。アルコールが入って、紅潮した頬のまま、ウルリッヒは隣を歩いている。

「ウルリッヒ、今日は助かった」

 ヴァンは有益な時間を過ごせたことを一言にまとめて伝えると、彼女はにへら、と笑う。

「どーも。直接的な情報じゃないけど、こういうのも助かるでしょ?」

「そうだな。お陰で、心強い協力者が出来た」

 はっきりと言うと、彼女は自慢げにふふーん、と胸を張ってから彼の前に出て手を広げる。

「じゃあ、ご褒美ちょうだい」

 人気はないものの、公衆の面前だ。普段のヴァンであれば、路地裏にでも連れ込んでいるところだが、今日は彼もアルコールに当てられたのか、仕方ないと言いたげに一息吐いてから、一歩踏み込んで、彼女の体を抱きしめて口付けする。

 まさか、本当にこの場でやってくれるとは思っていなかったのか、一瞬目を丸くしたものの、彼の首に手を回してくる。

 少しの接吻のあと、口を離した所で、彼は耳元で囁くように聞いた。

「今日は、満足したか?」

「もうちょっと、足りないかな」

 素直にこのまま帰してくれるつもりはないようだ。ヴァンもここまで想定して考えていたので、仕方ないか、と思いながら彼女の手を取る―前に振り向いて、咄嗟に手元にあった、スーツの入った袋で"ソレ"を防いだ。

 鋭利なナイフを受け止め、彼はウルリッヒの前に立ち塞がるように構え、敵を見る。

 そこにいたのは、少し前叩き潰した若造。右手にナイフと装着式のクロスボウ、左手に小型の盾、いわゆるバックラーを装備し、その顔は冷めきっていた。

「……ウルリッヒ、ここからなら魔女協会の方が近い。応援を呼んできてくれ。"俺が街中で暴れてる"、それだけ伝えれば大丈夫だ」

 丸腰ではあるものの、逃げる気はない彼は引き裂かれた荷物―中に入っている契約書を渡し、突然の襲撃に硬直していたウルリッヒに伝える。それでも、思考がうまく働かず、立ちすくんでいる彼女を叱責する。

「行け!」

 普段聞かない怒声に驚きつつも、我に返ったウルリッヒが夜の街へと消えていく。呑気に野次馬をしている通行人はいるものの、彼の懸念がなくなったこともあり、ようやく構える。

「坊主、逆ギレはよくないぞ?」

 それでも余裕は崩さない。丸腰のくせに余裕しゃくしゃくの姿を見て、若造は顔を歪ませて右手を上げたと同時に急接近し、クロスボウの射出口を殴りつけ、破壊はできないものの、大きく曲げる。

 一手遅れて退却するも、クロスボウを不能にされたことに気が付き、動くのに邪魔なそれを外して地面に投げ捨てた。

「若いの、道具はもっと大事に扱えよ!」

 レクチャーを交えつつ、彼は迫りくるナイフの連撃をひらりとかわす。端から見ても、対人経験の圧倒的な差が見えており、集まってきた通行人からも、次々とヤジが飛んでくる。

 逃げる時も後ろではなく、やや円形に後退しているため、壁に追い込まれることなく、周りへの配慮は欠かさない。

「があああああぁぁぁぁ!!!」

 苛立ちのあまりに吠えるが、誰一人として恐れることはなく、酒の肴にしかなっていない。

 まるで道化のように暴れまわるも、ヴァンの身体にはカスリさえしない。そして、空振りというのは思ったより体力を使う。10分休まずに攻め立て続ければ、元々酒を飲んでいた体もあり、すぐに体力はなくなっていく。

 体力さえなくなれば、あとは簡単。余裕がなくなってきたところで一転攻勢に転じ、がら空きの顎を拳で掠め、脳を揺らす。平衡感覚が乱れ、簡単に地面にへたり込んだところで、ちょうど良く下がった顔面に蹴りを入れる。

 弧を描いて後方へ飛んでいったのを見て、他人事の観客たちは沸き立つ。観衆たちの観る中、暴力に"高揚した"ヴァンは、倒れたままの若者に馬乗りになって拳を握る。そして、意識を失って抵抗しない相手を殴りつけ、鈍い音がする。

 アルコールと夜という時間に酔った観衆たちの空気に呑まれるように、彼は"満面の笑み"で暴力を振るう。

 しかし、やりすぎた暴力に、観客たちは引いていく。いつの間にか歓声が止んでいたことに気付くも、彼の興奮は収まらない。

 もう、動かない木偶には興味を失い、ヴァンは、目をランランと輝かせて、観客たちに向ける。

 ―明らかに異常な雰囲気を感じ取り、観客たちが逃げようとしたのと同時に、岩のような巨体が隙間から飛び出してきた。

「――!!」

 避ける隙もなく、彼はそれに直撃して吹っ飛ぶが、着地の際には受け身をとってすぐに立ち上がる。

「…随分と、楽しそうだね、ヴァン」

 リラックスした状態で構えるのは、巨大な筋肉ダルマこと、シル。その姿を見て、彼は尚更歓んだ。

「シル…ヴァルディ!!」

 興奮するヴァンに反して、彼は冷めきった目で挑発する。

「御託はいいからさ、かかってきなよ」

 歓喜という感情に支配されたヴァンは、吠えながら襲いかかる。

 至極冷静なシルは、最小限の動きで彼の突きを避け、がら空きの脇腹に体重を乗せたフックを撃ち込むが、空いた片手を内側に仕込んでクッションにし、威力を外へと逃がす。

 ただ、着地は失敗して地面に転がるも、彼はすぐに立ち上がる。片手で頭を抱えながらも目を見開き、彼の戦意は削がれない。

「…まぁ、いいか。こんな状態で君に勝っても自慢にすらならないからね」

 それを見て、シルが失望したように呟き、接近し、拳を振りかぶる。ヴァンも動こうとしたが、それよりも早く―足を魔法で拘束され、避けることは許されない。それならば、と彼がシルを迎撃しようとした背後から、加勢に来た他の魔女の騎士団(オルタレイト)が彼を殴りつけ、注意を逸らす。

 その隙間を狙って、シルの渾身の拳が彼の頭に突き刺さり―そのまま、ヴァンは昏倒させられた。

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