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魔女と竜狩り  作者: 合併
第2節 王都
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第2節 17

 マダムとの面会まで、3人は他愛のない会話をして待っていた。

「―なるほど。仮初の関係、と」

 本来魔女協会の竜狩りと、傭兵組合の受付、巡り合うことはなかなかない2人の関係について話していると、紺色は興味深そうに自分で入れた炭酸水を一口飲んだ。

「そうだな。俺が外で狩ってきた賞金首の取引、他にも個人的に傭兵組合に出している依頼があったから、面識自体はあったんだ。

 ただ、いつ行っても知らん男に口説かれているのを見てな。こちらの仕事も捗らんし、いっそのこと、とその場の勢いで提案してみた」

「そうそう。ヴァンの噂は聞いてたけど、話してみた限り、噂通りの人じゃないなって、こっちも知ってたからね」

 既に何杯か飲んでおり、アルコールが回って紅潮した頬で、ウルリッヒが続く。

「それで、俺は傭兵組合の情報を交換条件に、お互いの都合のいい時にこうやって顔を合わせてる訳だ」

 しれっと言ったその言葉に、紺色が反応する。

「傭兵組合の情報を…? 金銭のやりとりではなくて?」

「情報は、場合によっては金だけではなく、俺個人の利に繋がる。…それに、金は仕事関係でしか使わないから、俺にとってはどうでもいい」

「なるほど。時折噂になる、君の依頼の報酬が破格という話に合点がいったよ」

 普段拠点では最低限の生活しかしていないため、使っていない金はそれなりに持っているからこその発言。それに誰もツッコミはせず、彼らは話を続けた。

「そこまでやるのも、君が黒竜を探しているからか」

「そうだ。俺の依頼の話を知っていれば、耳に入っているだろう?」

 破格の調査依頼、それの内容は決まって黒竜の捜索となっていてれば、依頼主であるヴァンがその情報を求めているのは言うまでもない。そこまで話してから、紺色はそうか、と呟いた。

「君は、あの人と―」

 最後まで言い切る前に、階上から物音が聞こえてくる。そして、店の奥にある階段から、話し声が聞こえてきた。

「おや、そろそろ話し合いが終わったみたいだね」

 彼は落ち着いたまま言って、自分の飲んでいた炭酸水を捨ててグラスを洗う。

「準備が終えたら、マダムから連絡が来るだろう。それまで、もう少し待っていてくれ」

「把握した」

 ヴァンは自然な素振りでグラスを回しているが、隣にいるウルリッヒの様子がおかしい。明らかに何か気にしている風であり、その目が泳いでいる。

「…どうした?」

「いやぁ、ちょっと会いたくないのが、ね?」

 ヴァンの問いかけに素直に答え―彼は彼女と久々に会った時の事を思い出した。

「そういうことか。面倒だったら任せておけ」

 ヴァンはグラスの中身を飲み干してからそれを紺色に返し、いつも通り無表情で、隣にいるウルリッヒの体をさりげなくこちらに寄せておく。

「…面倒事は勘弁だ。マダムと会いに行く時も、一緒に来てくれ。どうせ、聞かれたところで問題になる話はならんだろう」

「……なるほど。悪い噂が立つわけだ」

 あまりにも自然な素振りに、紺色も何かを察したように呟き、ヴァンは不思議そうに首を傾げた。

 そして、そのまま何事もなく時間が過ぎていくと思いきや、遠くからやかましい声が聞こえてきた。

「おぉー! 誰かと思ったらウルリッヒじゃん! 早速来てくれたのか!!」

 その声に、ウルリッヒは心底嫌そうな顔をして、ため息を吐く。

 ずかずかと近寄って来るのは、いつぞや傭兵組合のカウンターで彼女をナンパしていた若者。隣にいるヴァンには気付いていないフリをしていたが、こちらを無視してウルリッヒに近付いてきたのを感じ、仕方ないと言いたげに立ちはだかった。

「おい。昨日は知らんが、今日は俺のツレだ」

「あぁ? なんだよお前」

 最近、この街に来たばかりならば、ヴァンの名前と顔が一致することがないのは仕方ない。前回は兜を被ったままだったので、尚更だろう。だが、彼らの取り巻きは知らない訳ではない。ハラハラした状態で、いつ取り押さえるか考えている所でも、会話は続く。

「さっきも言ったが、今日は俺がこの子の付き添いってことさ。知り合いに絡むにしても、空気は読めってことだ」

 ヴァンもかなり大きいが、この若者もそれに匹敵するくらいには大きい。身長差は顔一つ分もないため、威圧するには少し足りない。それに、相手は色付きの竜狩りに加入できたという自信にあふれた、世間知らずの若輩。相手が単独活動する色付きだなんて思うはずも無く、挑発する。

「俺のことを知らねぇのかよ? デカいだけで名前もねぇような奴が、この碧色の竜狩りにちょっかい出すのか?」

 何度も言うが、目の前にいるのも、同じ色付きの竜狩り、しかも何人も半殺し、もしくは意識不明の重体で病院送りにしたという、桁違いに危険な相手。

 とはいえ、ヴァンも子どもではない。自信たっぷりに挑発してきたが、少し意地悪をしてやることにした。

「ほぅ、それは失礼した。それで、君の実績は? 当然、単独での翼竜の討伐くらいはあるのだろう?」

 ヴァンは不敵な笑みを見せつつ聞くと、豆鉄砲を食らったような顔になってどもり出す。

「い、いや…そう、そうだ! 色付きの竜狩りが竜を狩ってない訳ないだろ!!」

「そうか。碧色の竜狩りとは、1つのチームというのに、君は単独で竜を狩れたのか。それは素晴らしいことだ。後ろにいる仲間たちにもさぞかし自慢しているのだろう?」

 最初から、ヴァンは彼自身の実績を聞いている。ヴァンのような異常な例であればまだしも、真っ当な人間に、竜の狩猟なんて不可能。それを分かった上で、わざとらしく言ってやると、後ろに待機していた仲間たちがその意味を理解してクスクスと笑い出す。

 馬鹿にされていると理解した若者が顔を赤くして彼の胸ぐらを掴んだ。

「てっっっめぇ!! バカにしてんじゃねぇぞ!!」

「怒るな若いの。ミルクでも奢ろうか?」

 余裕を崩さないヴァンに更に馬鹿にされ、後ろで笑いをこらえていた仲間たちが吹き出す。更に逆上した若者が今にもヴァンをぶん殴ろうとした所で、彼はがら空きの足を払い、バランスを崩した所で肩を押すように掴み、床に押し倒す。当然、頭を直撃しないように引き手で安全を確保も忘れない。そのまま立ち上がる前に体重を乗せて、肩の動きを制限した状態でマウントを取った所で、彼は作り笑いを浮かべて拳を握った。

「お前から手を出したってことは、正当防衛だよな?」

「ま――!!」

 轟音と共に、若者の頭に拳が―ではなく、その横にある石の床に拳が突き刺さり、石に亀裂が入るも、ヴァンの右手は全く傷付いていない。

 もし、今のが頭に直撃していたら、スイカのように叩き割られていた―その事を想像し、一気に青ざめた顔を見て、ヴァンは拘束を解いて立ち上がった。

「……さて、授業はこのくらいで良いだろう」

 それでも痛みはあるのか、手を振りつつ、彼は若者の手を取って起こしてやる。ふらつきながらも立ち上がった彼は、まだ呆然としているが、彼はそれを見て呆れ気味に忠告した。

「若いの。その年で碧色の竜狩りに入れたのは、間違いなくお前の実力だが、覚えておけ。お前より上の人間なんかいくらでもいる。手を出していい相手の判別はきちんとしないと、次は"命がないと思え"」

 決定的な実力差で叩き潰したこともあり、彼は茫然自失としていながらも、頷いて返事をした。それを見て、後ろで待機していた仲間たちの下に返してやる前に、名乗っておいた。

「―俺は、金の竜狩り。次会うときは、もっと穏便にしてくれよ」

 名前と一緒にもう、こんな事をするなと忠告した所で、紺色から通信機片手に話しかけられた。

「ちょうどいい所みたいだな、金色の。マダムの準備が出来たから、2階に上がってくれ、とのことだ」

「あぁ、ありがとう。ウルリッヒ、行くぞ」

「あ、はいー」

 この後、あと若者に絡まれても彼女が可哀想なので、名前を呼び、2人は一緒に2階の階段へと消えていった。

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