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魔女と竜狩り  作者: 合併
第2節 王都
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第2節 16

 辺りも暗くなり、街灯が街を照らし始める頃。街中から少し離れた路地にある、看板に"夢の終着点"と書かれた会員制のクラブに案内された。

 店の外見は、普通のバー。街の風景に馴染んだ石造りの建物で、窓はあるものの、かなり高い位置にあるため、地上から店内を覗くのは難しい。ただ、ほんのりと見える灯りで、営業はしていることは分かった。

 ウルリッヒに連れられたヴァンは彼女と共に、重い鉄の扉を開いて入店する。そして、ベルの音と共に扉を開いたと同時にしわがれた男の声が投げかけられた。

「―いらっしゃい。ここは会員制なんだが…おや、早速来たのか」

 店の中は、薄暗いものの雰囲気のあるバーであり、入り口から手前側に並ぶカウンターでグラスを準備していた声の主―白髪まみれの髪を短くして、オールバックにしている、紺を基調としたチョッキにワイシャツ姿の、顔に年齢と共にシワが刻まれた老人。目つきは鋭いものの、顔に張り付いた表情は穏やかそのものであり、過去はともかく、今は落ち着いているのだろう。遠くから見た限り、身長はそれなりにあり、180cmはあり、その身のこなしに隙が感じ取れず、相当のやり手とヴァンは感じた。

 緊張しているヴァンを尻目に、ウルリッヒは笑顔で彼に向けて手を挙げる。

「ヴァンも忙しいだろうから、もう連れてきちゃった。私の知り合いだし、入店しても構わないよね?」

 そう言われ、老人は彼を値踏みするように頭から足まで観察する。しばらく、意気込みの悪い時間が過ぎたものの、彼はあっさり了承した。

「悪意はないようだからな。それに、君の紹介となれば腕も確かなのだろう。―例えば、国軍が取り押さえるために出張ってくるくらいにはな?」

 突然、若い時の過ちを指摘され、ヴァンは表情は変えないものの、呆れ気味に近づいていく。

「嫌味ったらしいな、ご老人。アナタもただ者ではないだろう、何者だ?」

 ヴァンの指摘に、彼は笑った。

「わははは、老人の戯れじゃないか。―私は、疾うに前線を退いた老人だよ。君が知ったところで、何の利益にもならない」

「そうか。では聞くが、"紺色の竜狩り"、その当人で間違いないかな?」

 ヴァンがカウンターに座りながら聞くと、老人は眉一つ動かさなかったものの、一緒について着て座ったウルリッヒが目を丸くした。

「え、何で分かったの…?」

 老人の言葉を代弁した彼女に対し、彼は荷物を下ろしながら答える。

「簡単な歴史の問題だ。ここはマダム―"碧の竜狩り"のいる拠点なんだろう。ならば、かつて"紺碧の竜狩り"とまで呼ばれた、マダムの相方が引退後も彼女と共にいる色付きの竜狩りがいても不思議じゃない」

 ヴァンの冷静な分析に、老人は楽しそうに笑って、名乗った。

「君のような若い竜狩りにも名前を知ってもらえてるとは光栄だ。…そう、君の言う通り私は"紺色の竜狩り"。竜を狩ることなく、色付きの名前を陛下から賜った兵士さ。

 会えて光栄だよ、"金の竜狩り"」

「よく言う。"紺碧の掃討戦"と言えば、傭兵組合だけじゃなく、魔女の騎士団(オルタレイト)でも有名な武勇伝だ。たった1人で竜に感化された翼竜の群れを撃退した色付きの中でも有名人だろ。それこそ、名誉よりも暴れた記録のほうが多い、俺なんかよりもよっぽど有名だ」

 お互いに紹介を済ませてから、金の竜狩り、ヴァンは注文した。

「何も頼まないのも悪いな。適当なジュースでも用意してくれないか」

「酒は飲まないのかね?」

 驚きながらも、彼の注文を取り下げることなく、適当な瓶に手を伸ばす。その問いに、ヴァンは心底嫌そうに鼻で笑った。

「アンタたちなら隠す必要もないか。

 俺の暴走―"呪い"を抑えるには、感情の制御が必須だ。そんな、自制を失わせる劇薬なんか飲めないんだよ。…まぁ、そうだな。この店を吹き飛ばすリスクを覚悟してくれるなら飲むんだが」

 ヴァンは真顔でそう言うと、彼は笑ってそうか、と答える。

「それは困るな。…君も、大層な十字架を背負っているのだね。大変だろうに」

 この話をして、同情されるとは思っていなかった。ヴァンは少し気まずくなりながらも、紺色の彼から渡された、ミックスジュースを口に運ぶ。

 その姿を見て、隣でカクテルを一口飲んでいたウルリッヒが聞く。 

「…噂には聞いてたけど、普段からそんな風には見えなかったけどさ。君のその噂って、」

「殺意とか怒りを引き金に、呪いが暴走した結果だ。

 普段通りなら俺は暴れたりなんかしねぇし、大の大人を素手で殺せるほどの怪力なんかねぇよ。確かに図体はでかいが、俺はシルみたいな筋肉ダルマじゃねぇのは、見りゃわかるだろ」

 呆れながらも真面目に答え、話を変える。

「まぁ俺の話はそんなに面白くもないだろう。

 で、紺色の。マダムと顔合わせをしてもらえると聞いてはいたんだが、あの人は今忙しいのか?」

 元々ここに入った本題に入ると、彼はそうか、と落ち着いた様子でグラスを磨く手を止めた。

「普段なら、この時間はいつも外回りをしている子たちの報告を聞いている頃だ。

 少なくとも外に出る姿は見ていないから、頃合いを見てこちらから声をかけようか。それとも、明日は予定があるから、早く帰りたいかね?」

 明日の用事―陛下との会食を前にしているので、可能であれば早く帰って寝たいのが本音だが、客人とは言えこちらから呼び出すというのは、彼なりの礼儀に反すると考え、首を横に振った。

「あることにはあるが、何とかする。この都市での用事だし、物騒な真似はしないからな」

 明日の要件について話はしないが、ヴァンの話を聞いて、彼はそうか、と通信機を取り出した。

「あの子たちの報告は、そんなに急ぎのものは少ないからね。私が話を通しておこう」

 逆に彼の言葉が気を遣わせてしまったようで、彼は小さく頭を下げた。

「…申し訳ない」

「気にしなくていい。これは、老人の勝手な気遣いだからね」

 彼はカラカラと笑い、反応した通信機に集中する。

「―私だ。…あぁ、それも承知している。

 昨日来た、可愛らしいお客が、男を連れて君に会いたいと話していたから、その連絡さ。君も、興味があるだろう?

 ―そうだね。下で待っているから、来る前に何か用意しておこうか? …そうか。分かった、じゃあ、待っているよ」

 短い会話の後に彼は通信機のスイッチを切り、改めてこちらを向いてから、グラスとアイストングを手に取る。

「今の報告を聞いたら、降りてきてくれるみたいだ。他にも、何か飲みたいものがあれば言ってくれ、彼女が奢ってくれるそうだよ」

「助かる。…また、違うジュースでも貰おうか」

「あ、私もおすすめのカクテルください」

 2人とも遠慮なく、空いたグラスを回しつつ注文し、紺色も笑顔でそれらを受け取る。

「えぇ、かしこまりました」

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