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魔女と竜狩り  作者: 合併
第2節 王都
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第2節 12

 美味しい食事を済ませ、ケイたちと軽い世間話をして食休みした後、本来午後に済ませる用事があったので、早々に店を後にした。


 目的地は、昨日最初に顔を出した酒場―傭兵組合の受付。今日も、前回と同じく、奥にある受付に向かったが、いつもの彼女、"王子さま"は不在だった。

「お疲れ様。今日は、ウルリッヒはいないのか」

 制服を着た、受付の若い女性に声をかけると、こちらの顔を見て誰か気が付いたようだ。

「そうですね、今日はオフみたいですよ。あの人に用件がありました?」

 すんなりと不在であることを答えてくれて、彼は首を横に振る。

「いや、そういう訳じゃない。昨日、俺が頼んでいた調査隊の報告が来ていると話していたから、直接話したほうが早いかな、と思ってな」

 彼も特に隠すことなく用件を伝えると、彼女は少し待ってくださいね、とカウンターの下を調べ始めると、すんなりと書類を見つけて取り出した。

「―っと、これですね。王国南西地方の調査報告…ですよね?」

 数ページ分の書類を受け取り、彼はペラペラと捲ってざっと内容を確認し、表紙に戻る。

「それだ。少し、席で確認しても大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。一応、先に報酬の受け渡しについて確認印を頂いても?」

「分かった」

 一緒に渡された契約書の記名欄に、彼の異名、金の竜狩りと記載し、支給されていた実印で証明印を押す。それを渡した後、彼は代金と一緒に追加の注文をお願いした。

「それと、飲み物も頼む。今日入った果物のジュースを1つ頼む」

「かしこまりましたー」

 その後、適当な誰もいない席に着き、報告書に目を通す。


 ―これは、ヴァンがずっと前から傭兵組合を通じて行っている依頼。その内容は、黒竜の捜索。彼一人で捜索できる範囲も限られており、必ずしも見たいところに遠征できる訳では無い。その為に、彼は外部の力を借りることにしていた。

 ここ数年、何の成果は得られていないものの、"金の竜狩り"からの依頼は、傭兵組合にも広く知れ渡っている。この依頼で発見できれば儲けものと考えており、1番の目的は、彼が金を使ってでも黒竜を探している、という情報を組合に広げることだ。そして情報に対して報酬を支払う姿勢を見せていれば、仮に依頼していない傭兵たちが黒竜を見つけた場合、非常に危険な黒竜に接触せずとも、金に繋がるため、彼に入ってくる情報も自ずと増えてくる。

 ただ、依頼であれば彼の怪しいと踏んだ場所も探索してくれるため、この依頼自体は完全な無駄足という訳では無い。

 そして報告書を読んでいるが―案の定、有益な情報はない。ただ、討伐の必要はないものの、真っ赤な鱗の竜、赤竜が見付かったという情報くらいだ。一応詳しく読み進めると、赤竜もしばらく観察をしていたようだが、特に周囲に危害も与えておらず、平穏に過ごしていたらしい。

 メモには、討伐の必要性についてはヴァン本人に委ねるとあったが、元々狙いの竜でもないし、温厚な個体であれば無理に討伐の必要はないだろう。彼は適当に読み進めていくも、それ以外に目立った報告はなかった。

 読み終えた報告書を机に置き、気が付いたら飲みきっていたジュースのコップも一緒に置いておいて、受付に向かう。

「もし。依頼の申請書とペンと地図を貰えるか?」

「今回も依頼を出すんですか?」

「あぁ。用意してくれ」

 ヴァンは淡々と話し、用意された申請書を手に席に戻る。慣れた手つきでペンをくるりと1回転させてから隣に地図を広げ、依頼書を書き始める。

 依頼の主題は、黒竜の捜索。指定地域は、先日の仕事で調教師が話していた、北方。とは言え、範囲はある程度指定しなければ意味はないため、この前訪れていた村を基準に、更に北へと進んだ場所にある、3つの集落を起点とした。ちょうど良く、転送石もあるため、移動費はかなり節約できるだろう。金の竜狩りの特権にて、指定した範囲内の転送石の使用制限を取り払う文言を備考欄に追記しておく。

 依頼内容は黒竜の捜索、および周辺の調査報告を行うこととし、準備金、報酬金は一般の調査報告の相場の1.5倍を目安とする。黒竜発見時は更に追加報酬として、金貨1枚を追加。

 ここまではいつものテンプレートであり、すらすらと書いていくが、そこまで書いてから、ペンを置いて自分で読み解いて間違いがないか、確認する。―過去に、報酬を銀貨と金貨を間違えて書いてしまい、大損した経験故の行動だ。

 間違いがないことを確認し、彼は受付に提出しに向かったところで、見覚えのある背中が受付と話していたのを見えた。

「シル、珍しいな、こんな所で」

 ヴァンが声をかけると、酒場のなかでもとりわけ目立つ筋肉ダルマ―シルが振り返る。

「ヴァン、君もここにいたのか」

 その声で受付もヴァンに気付いたようで、困ったように聞いてきた。

「ヴァンさん、知り合いですか?」

「仲間だ。"車椅子の押し人"と言えばわかるんじゃないか?」

 簡単に説明すると、彼女は驚いたようにシルを見る。その一方で、シルは困ったように苦笑した。

「その名前、あんまり好きじゃないんだけどね…」

「それ言ったら、この辺でお前のあだ名なんて、筋肉ダルマとか例のデカブツ以外ないぞ」

 ここは傭兵組合。魔女協会のような、魔女に仕えるゆえにそれなりに品性を求められる組織とは違う。かなり目立つ見た目をしているものの、魔女協会でのみ活動する故に、彼の人柄を知らない人たちに付けられるあだ名なんて、そんなものだろう。ヴァンもその被害者の1人であるが、現実を教えてやると、彼は固まった笑顔でそうか、と答える。

「じゃあそっちのほうが良いかな…」

 大人しく折れた所で、ヴァンは話を戻す。

「まぁそんなことはどうでもいい」

 そんなこと…? と物凄く言いたそうなシルはスルーし、本題を聞く。

「お前の用件はなんだ。こんな所に来るなんて、お前らしくないだろう」

 そう言われ、ようやく目的を思い出し、ヴァンに話す。

「少し、調べ物があってね。ここで情報を集められないか聞きに来たんだ」

「故郷絡みの件か?」

「……よく分かったね」

 面倒なので、余計なやり取りを全部飛ばして核心を突くと、彼は固い笑顔で答えた。

「魔女協会絡みの件でしか動いたことないお前の考えなんか、読みやすくて仕方ない。俺と真っ当に交渉したいなら、少し外に出て揉まれてこい。

 ―で、傭兵組合に調査依頼か、直接所属してないのか調べにでも来た感じか? いや、揉め方的には後者か」

 奥で話を聞いている受付がわかりやすいほどに頷いているので、その件で揉めていると理解し、ヴァンはシルの肩を組んで、隣に移動する。

「焦る気持ちは分かるが、物事には順序がある。さぁ、順番に用件をすり合わせていこう。

 まずは、お前の目的はなんだ」

 話の流れを整理するついでに聞くと、シルはすんなりと答えた。

「昨日、魔女協会を襲撃しようとしていた連中に、傭兵組合所属の者がいた。もしかして、組合からそういう類いの依頼が回ってきていないか、それを知りたい。ただ…」

「えぇ、申し訳ありませんが、組合にも守秘義務があります。貴方の身元が分かっていて、事情があったとしても、簡単に情報を渡すわけにはいかないんですよ」

 受付がしっかりと説明し、先ほど揉めていた理由がなんとなく見えてきた。

「つまりは、お前が無茶言ってたのか」

 うっすらとそんな気はしていたが、シルの無茶な要望が原因で、一悶着起きていたようだ。それを理解した上で、ヴァンが確認する。

「じゃあ、俺が確認する分には構わないのか?

 一応、依頼者としてここに登録もされているし、自分が出す依頼が重複しないか、確認をしたい、という大義名分はある」

 彼の質問に、受付は少しだけ困ったようにマニュアルを取り出した。

「…確かに、依頼の重複による未履行を回避するために、あまりにも重複する依頼は確認したりすることもありますが…それを依頼者本人がやる、というのはあまりないですね。

 貴方が普段やっているように、相場の確認とかで、ある程度の情報を見比べることならば出来ますが」

「それで構わない。シル、リストをもらうにしても、どんな内容の依頼を見れば良い?」

 最低限の情報でもあれば、それが手がかりになる。あまり無茶を言っても相手が困るだけなので、こちらが使えるものを最大限に利用して話を進めていると、彼は思い出しながら答えた。

「助かる。―確か、依頼内容は"荷物の運搬"系統だ」

「なるほど…。そういう類いの依頼はそれなりに数がありますし、今、リストを用意しますね。発行されてそうな期間もわかります?」

 受付も、きちんと希望には沿ってくれるようで、すぐに書類を探し始め、対応してくれる。

「ここ3日以内の内容だと思う」

「……分かりました。まとめてそちらに回しますので、席で何か飲んで待ってます?」

 受付は特に深い意味はなく聞いたが、大人2人は思うところもあったようで、そうだな、と答えた。

「無茶を言ってる分、少し金を落としていくか」

「そうだね」

「あ、そういうつもりで言ったわけじゃなかったんですけど…」

 意図しない方向で2人が話をしてしまい、受付は少し困惑したものの、2人は特に気にせず追加の飲み物を注文して席へと戻っていった。

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